中学校の授業力を高めようとするとき、教師の話し方、視線、板書、発問、机間巡視など、個別の技術に目が向きます。
これらは、いずれも授業を支える大切な要素です。
しかし、声に抑揚をつけることや、全員へ均等に視線を送ることだけで、分かりやすい授業になるわけではありません。
授業の基本は、教師が上手に見せるための技術ではありません。
生徒の安全を確保する。
学習する時間を保障する。
何を学ぶのかを分かりやすくする。
説明や指示を受け取りやすくする。
一人一人の理解や困り感を把握する。
必要に応じて、教材や環境を調整する。
授業後に結果を振り返り、次の指導を改善する。
こうした条件を一体的に整えることが、授業の基本です。
この記事では、中学校の授業を見直すためのチェックポイントを、時間、目的、安全、声、視線、板書、理解確認、合理的配慮、教師の健康という観点から整理します。
- 授業の基本は「教師の統制」ではなく「学習の保障」
- 1.授業の目的と学習課題が分かるか
- 2.授業時間が学習のために使われているか
- 3.授業前に安全を確認しているか
- 4.教師の声は、生徒へ届いているか
- 5.指示は短く、具体的で、確認できるか
- 6.板書・スライド・プリントは学習を助けているか
- 7.視線は「監視」ではなく、学習状況の把握に使えているか
- 8.理解しているかを授業中に確認しているか
- 9.間違い、質問、分からなさを表明できるか
- 10.多様な生徒が参加できる環境になっているか
- 11.教師が常に「ベストな状態」であることを前提にしない
- 12.授業を複数の方法で振り返っているか
- 中学校の授業の基本チェックリスト
- よくある質問
- 授業の基本は、学びやすい条件を整えること
- 参考資料
授業の基本は「教師の統制」ではなく「学習の保障」
以前は、授業の基本について、
「教師が教室を完全に統制する」
「全員を教師の方へ向かせる」
「一秒も遅れず、延長もしない」
「教師が大きな声ではっきり話す」
といった形で説明されることがありました。
授業規律や時間管理は重要です。
しかし、それらは教師の権威を示すために行うものではありません。
生徒が安心して学べること。
説明を理解できること。
活動へ参加できること。
必要な学習時間が確保されること。
困ったときに支援を受けられること。
これらを保障するために整えます。
静かに座っているように見えても、説明を理解できていない生徒はいます。
教師を見ていても、何をすればよいか分かっていない生徒はいます。
ノートを書いていても、板書を写すことだけで精いっぱいになっている生徒もいます。
授業の基本を確認するときは、教師の行動だけでなく、生徒が実際に何を受け取り、何を考え、何ができるようになっているかを見ます。
1.授業の目的と学習課題が分かるか
授業の最初に、教師が内容を分かっているだけでは不十分です。
生徒自身が、
「今日は何を考えるのか」
「何ができるようになればよいのか」
「何を使って学ぶのか」
を理解できるようにします。
学習課題は、黒板に書けば伝わるとは限りません。
難しい言葉を並べた目標を写させても、生徒が具体的な学習活動をイメージできない場合があります。
例えば、
「一次関数について理解する」
だけでなく、
「二つの数量の関係を、表・式・グラフを使って説明する」
と示せば、何を行う授業なのかが明確になります。
授業の終わりには、最初に示した課題へ戻り、
「何が分かるようになったか」
「どの方法を使えるようになったか」
を確認します。
学習目標、評価規準、本時の展開のつながりについては、中学校学習指導案の書き方――目標・評価規準・本時の展開とテンプレートで詳しく整理しています。
2.授業時間が学習のために使われているか
授業は、原則として定められた時刻に始め、定められた時刻に終えます。
これは、「一秒でも遅れれば教師失格」という意味ではありません。
生徒に保障された学習時間を、教師の準備不足や説明の長さによって失わせないということです。
授業前には、次のことを確認します。
・教材や教具を準備している
・ICT機器を使用する場合は、接続や投影を確認している
・配布物をすぐに配れる状態にしている
・生徒が最初に行う活動を明確にしている
・教室移動に必要な時間を見込んでいる
一方で、生徒のけが、体調不良、緊急の生徒対応、災害など、安全に関わる事情があれば、授業開始が遅れることはあります。
その場合は、理由を簡潔に説明し、活動やまとめ方を調整します。
授業終了時刻についても、教師が説明を終えられなかったという理由だけで、休み時間まで使い続けないようにします。
終わらなかった内容は、次時へ回す、資料で補う、学習内容を精選するなどして調整します。
毎回時間が足りない場合は、生徒の動きが遅いと考える前に、
・教師の説明が長すぎないか
・板書を写す量が多すぎないか
・活動の切替えが複雑ではないか
・一時間に扱う内容が多すぎないか
を見直します。
3.授業前に安全を確認しているか
授業では、学習内容より前に安全を確保します。
特に、理科、保健体育、技術、家庭、美術など、器具、薬品、火気、刃物、運動器具を使用する授業では、事前の点検が欠かせません。
普通教室でも、次のような危険があります。
・通路にかばんや教材が置かれている
・机や椅子が破損している
・掲示物や備品が落下しそうになっている
・電源コードが通路を横切っている
・床がぬれている
・窓やカーテンが活動の妨げになっている
・換気や室温が適切でない
学校の安全管理では、危険を早期に発見して除去するとともに、事故が起きた場合に適切な応急手当や安全措置を行える体制を整えることが基本とされています。
授業者だけで解決できない設備上の問題は、管理職や安全担当者へ報告します。
危険を見つけた教師が、個人で応急処置をしたまま終わらせないことが重要です。
また、授業中に安易に教室を離れません。
緊急に教室を離れる必要がある場合は、近くの教職員へ連絡し、生徒だけの状態をできる限り避けます。
4.教師の声は、生徒へ届いているか
教師の声は、大きければ聞き取りやすいとは限りません。
教室の広さ、反響、周囲の雑音、教師が話す方向、マスク、機器の音、生徒の座席などによって、聞こえ方は変わります。
また、聞こえにくさのある生徒に対しては、大きすぎる声がかえって聞き取りにくくなる場合があります。文部科学省の聴覚障害教育の手引でも、前から口元を見せて話すことや、大きすぎる声を避ける配慮が示されています。
聞き取りやすくするためには、次の点を確認します。
・生徒の方を向いて話す
・板書をしながら重要な説明を続けない
・一文を必要以上に長くしない
・重要な部分の前後に間を取る
・指示を一度に多く出さない
・活動の順序を板書や画面にも示す
・教室後方でも聞こえるか確認する
・必要に応じてマイクや音響機器を使う
声の高さや生まれつきの声質を、理想的な教師像へ無理に近づける必要はありません。
音量、速さ、間、話す方向、視覚情報、教室環境を組み合わせて、情報が届くようにします。
5.指示は短く、具体的で、確認できるか
授業中に生徒が動かないとき、
「話を聞いていない」
「やる気がない」
と判断する前に、指示が伝わっていたかを確認します。
例えば、
「グループで話し合ってください」
だけでは、何を、何分間、どのように話し、最後に何を提出するのか分かりません。
次のように分けます。
1.自分の考えを一つ書く
2.4人で順番に説明する
3.共通点と違いを一つずつ整理する
4.5分後に代表者が発表する
重要な指示は、口頭だけでなく、黒板、スライド、プリントなどでも確認できるようにします。
指示を出した後に、
「分かりましたか」
と尋ね、返事があっただけで理解できたと判断しません。
生徒に最初の行動を言ってもらう。
隣同士で確認する。
一人が実際にやって見せる。
このような方法で確認します。
6.板書・スライド・プリントは学習を助けているか
板書やスライドは、教師が話した内容を全て記録するためのものではありません。
学習の流れ、重要な概念、考え方の関係、生徒の意見などを整理するために使います。
確認したい点は次のとおりです。
・どこから書けばよいか分かる
・重要な情報と補足情報が区別されている
・文字の大きさと量が適切である
・色だけで意味を区別していない
・図、表、写真、実物などを必要に応じて使っている
・スライドを速く切り替えすぎていない
・説明を聞く時間と、書く時間を分けている
文部科学省の支援事例でも、聞いて理解する活動と書き写す活動を区別すること、板書量やレイアウトを工夫すること、写真・映像・音源などを活用することが示されています。
ノートへ全てを書き写すことが学習の中心になると、生徒は考える時間を失います。
何を残す必要があるのか、プリントやデジタル資料で補える部分はないかを検討します。
7.視線は「監視」ではなく、学習状況の把握に使えているか
教師が教室全体を見ることは重要です。
ただし、全ての生徒と一定時間ずつ目を合わせること自体が目的ではありません。
視線は、生徒を監視したり、圧力をかけたりするためではなく、学習状況や安全を把握するために使います。
例えば、次の様子を見ます。
・教材を開けているか
・最初の課題に着手できているか
・鉛筆が長時間止まっていないか
・説明と異なる操作をしていないか
・周囲とのやり取りで困っていないか
・体調の変化が見られないか
・器具を安全に使っているか
ただし、視線をそらす、下を向く、手を挙げないという一つの行動だけで、理解していない、意欲がないと決めつけてはいけません。
生徒の様子を観察した後、必要に応じて、
「どこまで進みましたか」
「困っているところはありますか」
「最初の一問を一緒に確認しましょうか」
と確かめます。
教室の前だけで授業を続けると、後方や端の席の様子を把握しにくくなります。
活動中は、安全と学習を妨げない範囲で位置を変え、教室全体を複数の方向から確認します。
教室全体を見渡す方法の一つに、「Z視線」があります。教室の前方の端から反対側へ視線を動かし、そこから斜め後方へ移し、さらに後方の端から反対側へ視線を動かすなど、Zの字を描くように教室全体を確認する方法です。視線が特定の生徒や中央付近だけに偏ることを防ぎ、教室の端や後方にいる生徒の様子にも気付きやすくなります。ただし、決められた順番で機械的に生徒を見ることや、全員と目を合わせることが目的ではありません。説明中、個人学習、話合い、実験・実習など、活動の状況に応じて視線の動かし方を変えながら、着手できていない生徒、困っている生徒、安全上の不安がある場所を把握するために活用します。

8.理解しているかを授業中に確認しているか
教師が分かりやすく説明したことと、生徒が理解したことは同じではありません。
授業中には、次のような方法で理解を確認します。
・一問だけ自力で解く
・自分の言葉で説明する
・ミニホワイトボードへ書く
・選択肢を選び、理由を示す
・隣の人へ説明する
・短い振り返りを書く
・授業終了前に一問提出する
正解した生徒だけを見て、全体が理解したと判断しないことが重要です。
発表する生徒が固定されている場合は、ほかの生徒がどのように考えているか分かりません。
全員分の反応を短時間で確認できる方法を組み合わせます。
文部科学省は、正式な評価記録を毎回残すことより、日々の授業で生徒の学習状況を適宜把握し、指導改善に生かすことを重視しています。
確認の結果、理解できていない生徒が多ければ、生徒の努力不足と考える前に、説明、教材、課題の難しさ、活動時間を見直します。
9.間違い、質問、分からなさを表明できるか
授業中に生徒が発言しない理由は、考えがないからとは限りません。
間違えたときに笑われる。
教師からすぐに否定される。
答えを言うのが遅いと急かされる。
いつも同じ生徒だけが発表する。
このような状態では、生徒は考えを出しにくくなります。
教師は、正解だけでなく、
「どこまで考えたか」
「どの方法を使ったか」
「どこで迷ったか」
を取り上げます。
誤答を扱うときも、
「違います」
だけで終わらせず、
「どの条件までは使えていますか」
「どこから考え直すとよいでしょうか」
と、次の学習へつなげます。
生徒が、
「もう一度説明してください」
「ここが分かりません」
と言えることは、授業が止まる原因ではありません。
学習を進めるために必要な情報です。
10.多様な生徒が参加できる環境になっているか
同じ説明、同じ教材、同じ時間で学ぶことが、全ての生徒にとって公平とは限りません。
聞こえにくさ。
見えにくさ。
読み書きの困難。
注意を持続することの難しさ。
日本語の理解。
体調や心理状態。
生徒によって、情報を受け取る方法や参加しやすい条件は異なります。
必要に応じて、次のような調整を行います。
・座席を調整する
・指示を文字でも示す
・課題を小さく分ける
・読み上げや音声教材を使う
・タブレット端末を使う
・書く量を調整する
・活動の見通しを先に示す
・個別に確認する時間を設ける
・休息や退出方法を確認する
座席配置は、本人の聞きやすさや板書の見やすさを助けるとともに、教師が取組状況を確認しやすくする配慮にもなります。
配慮の方法は、教師だけで決めつけず、本人や保護者、校内の特別支援教育担当者などと確認します。
一つの方法を全員へ当てはめるのではなく、実際に学習しやすくなったかを見ながら調整します。
11.教師が常に「ベストな状態」であることを前提にしない
教師が落ち着いて授業を行えることは、生徒の安心につながります。
しかし、教師も体調を崩すことがあります。
家庭の事情を抱えることもあります。
疲労が蓄積し、集中しにくい日もあります。
「生徒の前では、何があっても完璧な状態で立たなければならない」
と考え続けると、無理を抱え込むことになります。
体調が悪いときは、管理職や同僚へ相談する。
授業内容を調整する。
使用する教材を簡素化する。
必要に応じて代替や支援を依頼する。
事故につながる可能性があれば、実験や実習を延期する。
このような判断も、専門職として必要です。
教師の気力や長時間勤務によって成立する授業は、持続しません。
教材、指導案、授業記録を共有し、誰かが休んでも学習を継続できる条件を整えます。
12.授業を複数の方法で振り返っているか
授業改善では、教師自身の感覚だけに頼らないことが重要です。
「今日はよく話を聞いていた」
「反応がよかった」
と感じても、実際には一部の生徒しか活動できていない場合があります。
授業を振り返る方法には、次のようなものがあります。
・生徒のノートや成果物を見る
・小テストや振り返りを確認する
・同僚に授業を見てもらう
・自分の音声を録音する
・学校の規程に従って授業映像を確認する
・生徒アンケートを行う
音声認識アプリの認識率だけで、教師の声が聞き取りやすいかを判断することはできません。
端末、マイク、距離、周囲の雑音、アプリの性能によって結果が変わるからです。
録音を使う場合は、
・話す速さ
・一文の長さ
・指示の回数
・教師が話し続けている時間
・重要な部分で間を取っているか
などを確認します。
映像を使用する場合は、生徒の個人情報や肖像を扱うため、学校や教育委員会の規程に従います。
授業アンケートの作り方については、最後の授業はアンケートをとって次年度につなげるも参考になります。
中学校の授業の基本チェックリスト
授業前
・本時の目的と学習課題を明確にした
・教材、教具、ICT機器を確認した
・教室内の危険箇所を確認した
・最初に生徒が行う活動を決めた
・配慮が必要な生徒の学習方法を確認した
授業開始
・予定時刻に学習を始めた
・何を学ぶのかを生徒が理解できる言葉で示した
・活動の流れと終了条件を伝えた
・口頭指示だけでなく、必要な情報を文字でも示した
授業中
・教師が話し続ける時間が長くなっていない
・教室全体の安全と学習状況を確認している
・発表する生徒以外の理解も確認している
・説明を聞く時間と書く時間を分けている
・分からないと表明できる雰囲気をつくっている
・必要に応じて教材、時間、座席、支援方法を調整している
授業終了
・本時の学習課題へ戻った
・何が分かったか、何が残ったかを確認した
・次の学習へつながる情報を示した
・原則として終了時刻を守った
・授業後に確認すべき生徒や安全上の問題を記録した
よくある質問
授業は必ずチャイムと同時に始めなければなりませんか
原則として、定められた時刻に始めます。
ただし、生徒の安全や緊急対応を優先すべき場面では、開始が遅れることがあります。
重要なのは、一秒単位の形式ではなく、教師の準備不足によって学習時間を繰り返し失わせないことです。
全員と目を合わせる必要がありますか
全員を確認することは重要ですが、全員と一定時間ずつ目を合わせる必要はありません。
視線が負担になる生徒もいます。
目を合わせたかではなく、学習状況、安全、困り感を把握できているかを確認します。
声が小さい教師は授業に向いていないのでしょうか
声質だけで授業の適性は決まりません。
話す方向、速度、間、視覚情報、マイク、座席、教室の雑音などを調整できます。
無理に大声を出し続け、喉を傷めないことも重要です。
授業中に歩き回った方がよいのでしょうか
歩くこと自体を目的にしません。
安全、学習状況、支援の必要性を確認するために位置を変えます。
活動を妨げたり、生徒を落ち着かなくさせたりする歩き方は避けます。
生徒の反応が少ないときは、話し方を派手にすべきでしょうか
抑揚やテンポを工夫することはできますが、娯楽動画の話し方をそのまままねる必要はありません。
課題の難しさ、発問、待つ時間、教材、参加方法、生徒が安心して発言できる状態を先に確認します。
授業が予定どおり進まなかったら失敗でしょうか
予定を変更した理由によります。
生徒の理解に時間が必要だった場合や、安全上の対応を行った場合は、計画を変更することが適切です。
一方、毎回説明が長くなり終わらない場合は、内容量や授業構成を見直します。
授業の基本は、学びやすい条件を整えること
授業の基本は、教師が完璧に話し、全ての生徒を統制することではありません。
安全が確保されている。
学習時間が保障されている。
目的と活動が分かる。
情報を受け取りやすい。
理解や困り感を確認してもらえる。
間違いや質問を表明できる。
必要な支援を受けられる。
このような条件を整えることです。
教師の声、視線、板書、立ち位置は、その条件をつくるための手段です。
技術だけを切り離して訓練するのではなく、生徒が実際に学べているかという基準で振り返ります。
授業は、一度完成すれば終わるものではありません。
生徒の反応、成果物、同僚からの助言、アンケートなどをもとに、少しずつ改善していくことが大切です。
参考資料
・文部科学省「新学習指導要領の全面実施と学習評価の改善について」
・文部科学省「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」第3章 学校における安全管理
・文部科学省「聴覚障害教育の手引」
・文部科学省「高等学校における特別な教育的支援を必要とする生徒への指導・支援の充実に向けて」
・文部科学省「学校における安全点検要領」

