中学校の生徒指導という言葉から、問題行動を起こした生徒を注意することや、校則を守らせることを思い浮かべる人もいるかもしれません。
確かに、暴力行為、いじめ、授業妨害、器物損壊などが起きたときには、必要な指導を行わなければなりません。
しかし、生徒指導は、問題が起きたときだけに行うものではありません。
文部科学省の『生徒指導提要』では、生徒指導を、全ての児童生徒の個性やよさ、可能性を伸ばし、社会的資質・能力の発達を支える教育活動として捉えています。
日常の挨拶や声かけ。
安心して参加できる授業。
相談しやすい関係づくり。
いじめや自殺、情報モラルなどの未然防止教育。
小さな変化への早期対応。
深刻な課題を抱えた生徒への組織的な支援。
これらは、全て生徒指導です。
私はこれまで、中学校教員、生徒指導に関わる立場、管理職、教育行政など、さまざまな立場から生徒指導を見てきました。
その中で強く感じるのは、生徒指導は、一部の経験豊富な教師だけが担う仕事ではないということです。
担任一人の熱意や力量だけに頼る生徒指導は、長く続きません。
問題が起きたときに誰が動くのか。
どの情報を誰に伝えるのか。
誰が生徒の話を聴くのか。
保護者へ誰が連絡するのか。
記録をどこに残すのか。
指導後に誰が見守るのか。
これらを学校全体で共有しておく必要があります。
この記事では、中学校の生徒指導で大切にしたい25の視点を、安全確保、事実確認、組織対応、保護者との連携、継続支援という流れに沿って整理します。
- 中学校の生徒指導における基本的な対応の流れ
- 1.生徒指導の目的を「従わせること」にしない
- 2.生徒指導を四つの層で捉える
- 3.最初に安全を確保する
- 4.行動を止めることと、人格を否定することを分ける
- 5.事実と解釈を分ける
- 6.関係する生徒から原則として別々に話を聴く
- 7.被害を受けた生徒の安全と安心を優先する
- 8.いじめの疑いを個人で判断して終わらせない
- 9.記録を残す
- 10.問題が小さい段階で共有する
- 11.担任一人で抱え込まない
- 12.誰が何をするのかを決める
- 13.生徒指導会議では目的を明確にする
- 14.保護者への連絡は、事実と今後の対応を伝える
- 15.威圧、暴言、体罰に頼らない
- 16.行動の背景を理解する
- 17.ルールの理由を説明し、生徒の意見も聴く
- 18.別室指導を「排除」にしない
- 19.学校だけで抱え込まない
- 20.暴力、器物損壊、事故は安全対応と事実確認を分ける
- 21.SNS上の問題も学校生活と切り離さない
- 22.指導後も継続して見守る
- 23.個別指導だけでなく、授業と学級も見直す
- 24.事例を使って学校全体で学ぶ
- 25.生徒指導の成果を「問題件数がゼロ」で測らない
- 中学校の生徒指導で最も大切なこと
- 参考資料
中学校の生徒指導における基本的な対応の流れ
問題が起きたときの基本的な流れは、次のように整理できます。
1.安全を確保し、必要な行動を止める
2.一人で抱えず、応援を求める
3.確認できた事実を整理する
4.関係する生徒から、原則として別々に話を聴く
5.担任、学年主任、生徒指導主事、管理職へ共有する
6.学校として指導と支援の方針を決める
7.必要に応じて保護者や関係機関へ連絡する
8.事実、対応、連絡内容を記録する
9.指導後の生徒の様子を継続して確認する
緊急性や事案の性質によって順番は変わります。
けが人がいる場合は、事実確認より先に応急手当を行います。
暴力や危険行為が続いている場合は、安全確保を優先します。
いじめの疑いがある場合は、個人で判断せず、学校いじめ対策組織へつなぎます。
生徒指導では、何でも同じ手順で処理するのではなく、目の前の状況を見ながら、必要な対応を選ぶことが大切です。
1.生徒指導の目的を「従わせること」にしない
生徒指導の目的は、教師の指示に従わせることではありません。
教師の前で静かにさせることでも、問題行動をした生徒を言い負かすことでもありません。
問題となる行動を止める。
被害を受けた生徒を守る。
生徒が自分の行動と、その行動が他者へ与えた影響を理解する。
次に同じ状況が起きたときに、別の行動を選べるようにする。
安心して学び、生活できる環境を回復する。
そこまでが生徒指導です。
教師が強い言葉で叱れば、その場は静かになることがあります。
しかし、静かになったことと、生徒が行動の意味を理解したことは同じではありません。
教師が見ていない場所で同じ行動を続けるのであれば、指導の目的は達成されていません。
短期的に行動を止めることと、長期的に生徒の成長を支えることの両方を考える必要があります。
2.生徒指導を四つの層で捉える
現在の『生徒指導提要』では、生徒指導を次の四つの層で整理しています。
第1層は、全ての生徒を対象とする「発達支持的生徒指導」です。
第2層は、全ての生徒を対象とする「課題未然防止教育」です。
第3層は、一部の生徒を対象とする「課題早期発見対応」です。
第4層は、深刻な課題を抱える特定の生徒への「困難課題対応的生徒指導」です。
問題が起きたときの対応だけを強化しても、学校全体の生徒指導はよくなりません。
日常の授業が分かりにくい。
相談しても話を聴いてもらえない。
間違えると笑われる。
特定の生徒だけが教師から認められる。
学校のルールの理由が説明されない。
そのような状態が続けば、問題が起こりやすくなります。
困難な事案への対応から得た教訓を、授業、学級経営、校則、教育相談、未然防止教育へ戻すことが必要です。
3.最初に安全を確保する
暴力、危険行為、事故、自傷のおそれなどがある場面では、最初に安全を確保します。
生徒を説得することや、原因を聞き出すことより先です。
危険な行動を止める。
周囲の生徒を離す。
危険物を遠ざける。
けがの状態を確認する。
養護教諭や管理職へ連絡する。
必要に応じて救急車や警察を要請する。
緊急時には、一人で全てを行おうとせず、その場にいる教職員で役割を分担します。
文部科学省の「学校事故対応に関する指針」は、事故直後には被害を受けた児童生徒への応急手当を最優先とし、複数の教職員で組織的に対応できるよう、平時から連絡体制や訓練を整えておくことを求めています。
問題が起きた直後に、
「誰が悪いのか」
「なぜ指示を守らなかったのか」
と問い詰めることは避けます。
まず、安全と治療です。
原因の確認は、その後に行います。
4.行動を止めることと、人格を否定することを分ける
人を傷つける言葉。
暴力。
他人の物を壊す行為。
授業を妨げる行為。
危険なふざけ方。
これらを曖昧にしてはいけません。
「その行動は止めます」
「その言葉は続けさせません」
「今は、相手から離れてください」
と、必要なことを明確に伝えます。
一方で、
「あなたは最低です」
「だから、あなたは駄目なのです」
「いつも問題ばかり起こしますね」
と、生徒の人格全体を否定してはいけません。
指導するのは、その場で起きた行動です。
生徒の存在そのものではありません。
行動のどこに問題があったのか。
誰にどのような影響があったのか。
次にどのような行動を取る必要があるのか。
具体的に伝えます。
5.事実と解釈を分ける
生徒指導では、教師が見た事実と、教師の解釈が混ざりやすくなります。
「反抗的だった」
「わざと授業を妨害した」
「相手を傷つけるつもりだった」
これらは、事実のように見えますが、教師の解釈を含んでいます。
事実は、次のように具体的にします。
「教師が着席するよう伝えた後も、約二分間、教室後方に立っていた」
「説明中に、隣の生徒へ三回話しかけた」
「相手の筆箱を取り、教室後方の机へ置いた」
「教師に対して『うるさい』と発言した」
事実を具体的にすると、複数の教師が同じ情報をもとに考えることができます。
確認できたこと。
本人が話したこと。
周囲の生徒が話したこと。
まだ確認できていないこと。
教師の見立て。
これらを分けます。
いじめ重大事態のガイドラインでも、「いつ」「どこで」「誰が」「誰に」「何を」「どうした」などを明記し、確認できた事項と確認できなかった事項を分けて記録することが求められています。
6.関係する生徒から原則として別々に話を聴く
生徒同士のトラブルが起きたとき、すぐに二人を向き合わせ、
「二人とも、ここで説明しなさい」
とすることがあります。
しかし、力関係がある場合や、一方が相手を怖がっている場合には、同席させることで話せなくなることがあります。
最初は、落ち着いた場所で一人ずつ話を聴きます。
「なぜ、そんなことをしたのですか」
と責任を追及する質問から始めるのではなく、
「最初に何がありましたか」
「そのとき、どこにいましたか」
「誰が、どのような言葉を言いましたか」
「その後、どうしましたか」
と、出来事の経過を確認します。
一人の話だけで結論を出さず、ほかの生徒、教職員、記録、映像など、確認できる情報と照合します。
ただし、必要以上に何度も同じ説明を求めることは、生徒への負担になります。
誰が話を聴き、どこまで確認したかを共有する必要があります。
7.被害を受けた生徒の安全と安心を優先する
生徒指導では、問題となる行動をした生徒への指導に注目が集まりがちです。
しかし、最初に確認すべきなのは、被害を受けた生徒の状態です。
けがはないか。
相手と離れた場所で過ごせるか。
教室へ戻ることに不安はないか。
保護者へ連絡する必要はないか。
同じ行為が繰り返されるおそれはないか。
周囲から責められたり、うわさを広げられたりしていないか。
相手へ謝罪させたから解決したとは限りません。
教師が指導した後も、不安が続く場合があります。
安心して授業を受けられる状態が回復しているかを、継続して確認します。
8.いじめの疑いを個人で判断して終わらせない
からかい。
仲間外れ。
持ち物を隠す行為。
SNS上の書き込み。
ふざけ合いに見える身体接触。
本人が笑っている。
このような場面で、
「いじめではなく、けんかです」
「本人も楽しんでいます」
「よくあることです」
と、教師一人の判断で終わらせてはいけません。
いじめの疑いがある情報は、学校いじめ対策組織へつなぎます。
情報を共有することは、いじめだと決めつけることではありません。
法令と学校の基本方針に基づき、組織で確認し、必要な支援を始めるための手続です。
令和6年8月改訂のガイドラインは、重大な被害などの「疑い」がある段階から対応を開始すること、学校いじめ対策組織を中核として、校長のリーダーシップの下で役割分担して対応することを求めています。
9.記録を残す
生徒指導の記録は、責任逃れのためだけに残すものではありません。
次の支援を適切につなぎ、組織として同じ情報を共有するために必要です。
いつ起きたのか。
どこで起きたのか。
誰が確認したのか。
何が起きたのか。
誰から話を聴いたのか。
どのような対応をしたのか。
生徒の状態はどうだったか。
保護者へ、誰が、いつ、何を伝えたのか。
次に誰が何を確認するのか。
これらを、学校が定めた方法で記録します。
机上の付箋や個人の手帳だけに残さないことです。
私的なスマートフォン、個人のクラウド、私的なメッセージアプリへ生徒の情報を保存してはいけません。
令和8年3月の文部科学省通知でも、日常的に作成したメモをそのままにせず、学校や設置者の文書管理規則に基づいて管理すること、統一した記録様式などの仕組みを整えることが改めて求められています。
10.問題が小さい段階で共有する
小さな問題だから、自分だけで対応しよう。
大げさにしたくない。
忙しい人へ迷惑をかけたくない。
経験がないと思われたくない。
そのように考え、報告が遅れることがあります。
しかし、小さな問題だからこそ、短く共有できます。
「今のところ大きな問題ではありませんが、念のため共有します」
「私の授業で、同じ行動が今週二回ありました」
「その場では対応しましたが、ほかの場面でも起きていないか確認したいです」
と伝えます。
一人の教師から見ると小さな出来事でも、複数の情報を合わせると、重要な変化が見えることがあります。
担任の授業だけではない。
休み時間にも起きている。
別の生徒からも相談がある。
家庭からも変化が伝えられている。
早い共有は、問題を大きくすることではありません。
問題が深刻になる前に、支援の選択肢を増やすことです。
問題が小さい段階での具体的な対応については、「問題が小さい段階でどう対応するか――威圧に頼らない生徒指導の初期対応」で詳しく整理しています。
11.担任一人で抱え込まない
担任は、生徒のことを最もよく知る立場の一人です。
しかし、担任が全てを引き受ける必要はありません。
いじめ。
暴力行為。
不登校。
児童虐待。
自傷のおそれ。
家庭の経済的困難。
発達上の課題。
精神的な不調。
これらは、担任一人の専門性だけで対応できるとは限りません。
学年主任。
生徒指導主事。
養護教諭。
特別支援教育コーディネーター。
スクールカウンセラー。
スクールソーシャルワーカー。
管理職。
教育委員会。
医療、福祉、警察、児童相談所などの関係機関。
必要な人へつなぎます。
『生徒指導提要』も、生徒指導と教育相談を一体化し、未然防止から早期発見、支援、回復、再発防止までをチームで支えることを重視しています。
教職員が安心して相談し、情報を共有できる組織づくりについては、「温かい職員室が温かい教室を生む――心理的安全性、守秘、対話から考える」でも詳しく扱っています。
12.誰が何をするのかを決める
「学年で対応しましょう」
「みんなで見守りましょう」
だけでは、誰も具体的に動けないことがあります。
組織対応では、役割を明確にします。
安全を確保する人。
生徒から話を聴く人。
周囲の生徒から情報を集める人。
管理職へ報告する人。
保護者へ連絡する人。
記録をまとめる人。
授業や学級を支える人。
翌日以降の様子を確認する人。
役割を分けることで、担任は生徒への支援に集中しやすくなります。
また、同じことを複数の教師が重複して行ったり、重要な対応が抜けたりすることを防げます。
組織対応とは、全員が同じことをすることではありません。
必要な仕事を分担し、情報を一か所へ集めることです。
13.生徒指導会議では目的を明確にする
緊急の生徒指導会議を開いても、長い状況説明だけで終わることがあります。
誰が悪かったかという議論に時間を使い、次の行動が決まらないこともあります。
会議の冒頭で、目的を確認します。
事実を共有するための会議なのか。
安全確保の方法を決めるのか。
生徒への指導と支援を決めるのか。
保護者対応を決めるのか。
関係機関への相談を判断するのか。
会議の最後には、次のことを確認します。
何が確認できているか。
何がまだ確認できていないか。
今日、誰が何をするか。
保護者へ誰が連絡するか。
明日以降、誰が見守るか。
いつ再度集まるか。
会議の目的は、経験のある教師が自分の指導力を示すことではありません。
学校として、より適切な対応を選ぶことです。
14.保護者への連絡は、事実と今後の対応を伝える
保護者への連絡では、学校の正しさを主張することより、子どもの安全と支援を共有することが大切です。
現時点で確認できている事実。
学校が行った対応。
子どもの現在の状態。
今後確認すること。
次に連絡する時期。
これらを伝えます。
事実確認の途中であれば、
「現在、ここまで確認できています」
「引き続き関係する生徒から話を聴きます」
と説明します。
確認できていないことを、確定した事実のように伝えないことです。
連絡が遅れたことによって不信を招く場合もあります。
全てを確認してから一度だけ連絡するのではなく、必要に応じて途中経過を伝えます。
家庭訪問が必要な事案もありますが、全ての生徒指導で家庭訪問を行う必要があるとは限りません。
事案の緊急性、家庭の状況、学校の方針を踏まえて判断します。
15.威圧、暴言、体罰に頼らない
大きな声で叱れば、その場は静かになることがあります。
しかし、恐怖によって行動を止めることと、生徒が自分の行動を理解することは別です。
体罰は、学校教育法第11条で禁止されています。
また、体罰だけでなく、暴言、執拗な叱責、生徒を精神的に追い詰める指導もあってはなりません。
毅然とした対応とは、大声を出すことではありません。
危険な行動を止める。
人を傷つける行為を曖昧にしない。
確認できた事実を伝える。
守るべき基準を変えない。
感情に任せて必要以上の言葉を重ねない。
指導後も関係を切らない。
落ち着いて必要な対応を続けることです。
16.行動の背景を理解する
授業中に話し続ける。
席を離れる。
課題を提出しない。
教師へ強く反発する。
その行動だけを見て、
「やる気がない」
「わがままだ」
「家庭のしつけの問題だ」
と決めつけてはいけません。
授業内容が分からない。
読み書きに困難がある。
周囲の刺激が強い。
友人関係の問題を抱えている。
睡眠不足や体調不良がある。
家庭で大きな変化が起きている。
教師の指示を別の意味に受け取っている。
さまざまな可能性があります。
背景があれば、どのような行動も許されるという意味ではありません。
人を傷つける行動は止めます。
その上で、同じ問題を繰り返さないために、背景へも働きかけます。
17.ルールの理由を説明し、生徒の意見も聴く
学校生活にはルールが必要です。
安全を守る。
学習環境を整える。
他者の権利を守る。
学校生活を円滑にする。
そのためのルールです。
しかし、
「昔から決まっています」
「校則だから守りなさい」
だけでは、生徒はルールの意味を理解できません。
何のためのルールなのか。
誰の安全や権利を守るのか。
現在も必要なのか。
ほかの方法はないのか。
説明し、生徒と考える機会をつくります。
『生徒指導提要』も、校則の見直しなどについて、生徒が意見を表明し、議論へ参加する機会を設けることを示しています。
生徒の意見を全て採用するという意味ではありません。
生徒の意見を聴いた上で、学校が責任をもって判断し、その理由を説明します。
18.別室指導を「排除」にしない
授業中に危険な行動や著しい妨害が続き、教室での安全や学習を確保できない場合には、一定時間、別の場所で対応することがあります。
ただし、別室へ移したまま放置してはいけません。
誰が見守るのか。
どのような学習を保障するのか。
何を確認するのか。
教室へ戻る条件は何か。
戻った後にどのように支援するのか。
を決めます。
単に遅刻した、課題をしなかったという理由だけで、指導を行わず教室外へ放置することは認められません。
教室外で対応する場合も、必要な指導や学習の機会を確保する必要があります。
別室指導は、罰として孤立させることではありません。
安全と学習を確保し、落ち着いて次の行動を考えるための一時的な支援として設計します。
19.学校だけで抱え込まない
犯罪行為の可能性がある。
生命や身体に重大な危険がある。
児童虐待が疑われる。
精神的な不調が深刻である。
家庭生活の維持が難しい。
このような場合は、学校だけで解決しようとしてはいけません。
警察。
児童相談所。
医療機関。
福祉部局。
教育委員会。
専門相談機関。
事案に応じて連携します。
令和8年3月の文部科学省通知でも、犯罪行為に相当し得るいじめについて、学校が警察への相談・通報を行う方針を、平時から保護者等へ周知しておくことが示されています。
関係機関へ相談することは、学校が責任を放棄することではありません。
学校の役割を果たしながら、学校だけでは提供できない専門的支援を得ることです。
20.暴力、器物損壊、事故は安全対応と事実確認を分ける
暴力行為や器物損壊が起きたとき、教師はすぐに理由を聞きたくなります。
しかし、興奮状態が続いている場合は、落ち着かせることを優先します。
暴力が続かないよう距離を取る。
負傷者を確認する。
危険物を確保する。
周囲の生徒を安全な場所へ移す。
応援を呼ぶ。
その後に、事実を確認します。
器物損壊の場合も、
何が壊れたのか。
誰が見たのか。
故意か事故か。
安全上の危険はないか。
修繕や使用停止が必要か。
を確認します。
弁償や謝罪の話だけを先に進めず、学校として事実を整理します。
重大な事故では、応急手当、設置者への報告、保護者支援、調査、再発防止までを組織的に行う必要があります。
21.SNS上の問題も学校生活と切り離さない
SNS上の悪口。
無断撮影。
画像や動画の拡散。
グループからの排除。
なりすまし。
個人情報の投稿。
これらは、校外や家庭で起きる場合があります。
しかし、学校の人間関係と深く結びつき、生徒が学校生活で苦痛を感じているのであれば、学校が無関係とはいえません。
投稿や動画が確認できる場合は、慌てて削除を求める前に、必要な範囲で記録を確保します。
被害を受けた生徒の安全と心のケアを優先します。
拡散を防ぐため、情報を必要以上に職員間で共有しないことも大切です。
犯罪行為や重大な権利侵害の可能性がある場合は、教育委員会や警察などへ相談します。
生徒への指導では、
「SNSは禁止です」
だけで終わらせず、デジタル上でも他者の権利と尊厳を守ること、困ったときの相談方法を教えます。
22.指導後も継続して見守る
指導をした。
謝罪をした。
保護者へ連絡した。
それで生徒指導が終わるとは限りません。
被害を受けた生徒は安心して過ごせているか。
問題となる行動をした生徒は、同じ状況で別の行動を選べているか。
周囲の生徒がうわさを広げていないか。
教室や部活動で新たな排除が起きていないか。
家庭で大きな変化が起きていないか。
指導後の変化を確認します。
いつ確認するのか。
誰が確認するのか。
どの状態になれば支援を縮小できるのか。
あらかじめ決めておきます。
継続支援は、いつまでも問題を起こした生徒として監視することではありません。
必要な支援を行いながら、通常の学校生活へ戻ることを支えるものです。
23.個別指導だけでなく、授業と学級も見直す
問題を起こした生徒を指導しただけでは、同じ問題が繰り返されることがあります。
授業が難しすぎなかったか。
活動の指示は分かりやすかったか。
間違いを笑う雰囲気はなかったか。
特定の生徒だけが発言していなかったか。
座席や集団構成に問題はなかったか。
教師の声かけが、注意と命令だけになっていなかったか。
個人の問題だけでなく、授業や学級の環境も見直します。
一つの事案から得た教訓を、全ての生徒への発達支持的生徒指導や未然防止教育へ戻すことが、再発防止につながります。
問題が起きにくい教室や校内の環境をどのように整えるかについては、「教室と校内の環境を整える意味――教師の観察、予防的支援、働きすぎの境界」で整理しています。
24.事例を使って学校全体で学ぶ
生徒指導の力は、経験年数だけで自動的に身につくものではありません。
自分が経験した事案だけで判断すると、対応の幅が狭くなります。
実際に起きた事案を個人が特定されない形に整理し、
最初に何をするか。
誰へ報告するか。
どの事実を確認するか。
保護者へ何を伝えるか。
どの段階で関係機関へ相談するか。
指導後に何を確認するか。
を、教職員で検討します。
危機管理マニュアルや学校いじめ防止基本方針も、保管しているだけでは機能しません。
年度初めの研修や短いケース会議で、実際に使う手順を確認します。
文部科学省も、いじめ重大事態や事故への対応について、平時から全教職員が制度と手順を理解し、役割分担や訓練を行うことを求めています。
25.生徒指導の成果を「問題件数がゼロ」で測らない
問題の報告件数が少ない学校が、生徒指導の優れた学校とは限りません。
相談しにくいため、問題が表に出ていない可能性があります。
教師が小さな変化を見過ごしている場合もあります。
反対に、相談や報告が増えたことは、生徒や教職員が早い段階で助けを求められるようになった結果かもしれません。
生徒指導の成果を見るときは、
生徒が困ったときに相談できているか。
小さな情報が早く共有されているか。
被害を受けた生徒が守られているか。
同じ問題が繰り返されていないか。
生徒が自分の行動を振り返り、別の行動を選べるようになったか。
教職員が一人で抱え込まずに対応できているか。
授業や学級の環境改善につながっているか。
という点を見ます。
問題を隠して「問題のない学校」に見せることではありません。
問題が起きたときに、早く、適切に、組織で対応できる学校をつくることが大切です。
中学校の生徒指導で最も大切なこと
中学校の生徒指導では、必要なときに明確な指導を行わなければなりません。
暴力やいじめ、人権を侵害する行為を、
「生徒にも事情があるから」
と曖昧にすることはできません。
一方で、強く叱ればよいわけでもありません。
生徒を怖がらせ、教師の前だけで従わせることが、生徒指導の目的ではないからです。
安全を守る。
事実を確かめる。
生徒の話を聴く。
一人で抱え込まない。
記録を残す。
保護者や関係機関と連携する。
指導後も支援を続ける。
個別の問題だけでなく、授業や学級、学校の仕組みも見直す。
この積み重ねが、中学校の生徒指導を支えます。
生徒指導ができる教師とは、どのような生徒も一人で説得できる教師ではありません。
必要なときに助けを求め、複数の情報を整理し、子どもの安全と尊厳を中心に、組織として対応できる教師です。
そして、生徒指導の優れた学校とは、問題が一つも起きない学校ではありません。
問題を隠さず、小さい段階で共有し、子どもと教職員が一人で抱え込まなくてよい学校です。
参考資料
・文部科学省『生徒指導提要』令和4年12月
・文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」令和6年8月改訂
・文部科学省「『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』のチェックリストを活用した平時からの備えに関する点検の調査結果及びこれを踏まえた対応について」令和8年3月
・文部科学省「学校事故対応に関する指針」令和6年3月改訂
・文部科学省「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について」

