教師の認知バイアスを知る|生徒を決めつけず、公平に判断するための12の視点

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「この生徒は、やる気がない」
「この子なら大丈夫だろう」
「あの先生の言うことだから間違いない」
「やっぱり、こうなると思っていた」
学校では、毎日たくさんの判断をします。
授業。
生徒指導。
成績評価。
保護者対応。
学級編成。
校務分掌。
会議。
人間関係。
しかも、多くの場合、十分な時間も情報もない中で判断しなければなりません。
そのときに知っておきたいのが「認知バイアス」です。
認知バイアスとは、私たちが判断するとき、経験、先入観、直観などの影響によって判断に一定の偏りが生じる心理的傾向です。
認知バイアスそのものを完全になくすことは難しいと考えた方がよいでしょう。
問題なのは、
「自分の判断は客観的だから大丈夫」と思い込むことです。
2024年の認知バイアスに関する総説でも、認知バイアスは誰にでも起こり、自分自身の判断も歪み得ると理解する「メタ認知」が、その影響を小さくする第一歩だと論じられています。
教師にも当然、認知バイアスがあります。
経験年数が長いからなくなるわけでもありません。
だからこそ、
「私は正しく見ているか」
ではなく、
「私は今、どのように見ているのだろう」
と自分自身の判断を点検する習慣を持ちたいと思います。

1.公平であることと、全員を同じように見ることは違う

教師に求められる公平さとは、すべての生徒を機械的に同じように扱うことではありません。
必要な支援は一人一人違います。
学習上の困難。
家庭状況。
人間関係。
障害や特性。
これまでの経験。
本人の思い。
さまざまな背景があります。
大切なのは、最初から決めつけず、必要な情報を集め、複数の視点から考え、必要に応じて自分の判断を修正できることです。
文部科学省『生徒指導提要』でも、児童生徒理解を生徒指導の基盤と位置付け、一人一人の状況を踏まえながら組織的に支援していくことが示されています。
公平な教師とは、
一度も判断を間違えない教師ではありません。
新しい事実が出てきたときに、
「自分の見方が違っていたかもしれない」
と考え直せる教師だと思います。

2.後知恵バイアス――「やっぱりそうなると思っていた」

何か問題が起きた後に、
「そうなると思っていた」
と感じることがあります。
これが後知恵バイアスです。
結果を知った後では、その結果が実際より予測可能だったように感じやすくなります。
例えば、生徒指導上の問題が起きた後に、
「前から危ないと思っていた」
「この組み合わせでは無理だと思っていた」
と言いたくなることがあります。
しかし、本当に事前にその可能性を具体的に指摘していたのでしょうか。
後知恵バイアスが強くなると、
結果を知らなかった時点の難しさを過小評価してしまいます。
すると、
「担当した先生なら分かったはずだ」
「なぜ防げなかったのか」
と、後から結果を知った立場で他者を評価する危険があります。
対策は単純です。
重要な判断では、
「その時点で何が分かっていたのか」
を確認します。
結果ではなく、当時利用できた情報を基準に考えます。

3.確証バイアス――一度持った見方を証明する情報ばかり集める

確証バイアスは、自分の仮説や信念を支持する情報に注目し、それに反する情報を軽視しやすくなる傾向です。
例えば、
「この生徒は授業にやる気がない」
と思ったとします。
すると、
寝ている。
忘れ物をする。
課題を出さない。
という行動が目につきやすくなります。
一方で、
別の教科では熱心に取り組んでいる。
好きなテーマでは集中している。
分からないときに質問している。
という事実を見落とすかもしれません。
そして、
「やっぱり、やる気がない」
という最初の判断が強化されます。
確証バイアスについての心理学研究では、自分の考えを支持する情報を集めるだけでなく、反証情報を十分に検討しなくなることが問題になります。
そこで、一度判断したら、意識的に逆を探します。
「私の見方が間違っているとしたら、どんな事実があるだろう」
と考えます。
生徒を見るときにも、
「この子のよさを示す事実はないか」
「別の場面ではどうか」
「別の先生はどう見ているか」
を確認します。

4.ハロー効果――一つの特徴から、その人全体を判断する

ハロー効果は、目立つ一つの特徴によって、その人の他の特徴まで影響を受けて評価してしまう現象です。
例えば、
成績がよい。
スポーツができる。
生徒会活動に熱心。
話し方が上手。
教師に礼儀正しい。
こうした一つの特徴から、
「責任感もある」
「人間関係もうまくいっている」
「この生徒なら任せて大丈夫」
と判断してしまう可能性があります。
逆方向もあります。
遅刻が多い。
授業中に話す。
提出物が遅い。
その一面から、
「何事にもだらしない」
「努力できない」
と評価してしまうことがあります。
一つの事実から、人全体を説明しないことです。
「○○な生徒」ではなく、「○○という場面では、このような行動がある生徒」
と捉えます。
これだけでも、生徒を見る言葉はかなり変わります。

5.教師期待効果――教師が持つ期待が、生徒への関わりを変える

教育では特に注意したい現象です。
教師は、生徒に対してさまざまな期待を持っています。
「この子は伸びそうだ」
「この生徒には難しいだろう」
その期待自体が悪いわけではありません。
しかし、教師の期待によって、
声をかける回数。
回答を待つ時間。
与える課題。
質問の難しさ。
失敗したときの支援。
などが変われば、生徒の学習経験そのものが変わります。
教師期待効果については長年研究されており、教師の期待と教師行動、生徒の学習との関係が検討されてきました。
ただし、
「教師が期待すれば必ず成績が上がる」
という単純な法則として理解するのは適切ではありません。
重要なのは、
自分の期待によって、生徒への機会提供に差をつけていないか
を見ることです。
「この子には難しいから」
と、挑戦する機会そのものを減らしていないか。
時々確認したいところです。

6.生存者バイアス――うまくいった人だけを見て方法を評価する

教育では、非常に起こりやすいと感じます。
「自分は厳しく指導されて成長した」
「この練習で全国大会に行けた」
「この勉強法で難関校に合格した」
「若い頃は毎日遅くまで働いたから今がある」
確かに、その経験は事実でしょう。
しかし、その方法の評価をするには、
その方法でうまくいかなかった人
にも目を向ける必要があります。
厳しい部活動で成長した人の後ろに、途中で辞めた生徒はいなかったでしょうか。
長時間働いて成長した人の後ろに、心身を崩した人はいなかったでしょうか。
選抜や生き残りの過程を通過した人だけから結論を出すことで、途中で離れた人の情報が見えなくなる現象は「生存者バイアス」と呼ばれます。
成功例は参考になります。
しかし、
成功したから、その方法が正しかったとは限りません。
誰に有効だったのか。
誰には合わなかったのか。
別の方法でも結果は出たのではないか。
そこまで考えます。

7.サンクコスト効果――「ここまでやったから」で続けてしまう

すでに費やした時間、お金、労力は戻ってきません。
それにもかかわらず、
「ここまでやったのだから」
という理由で、合理的にはやめた方がよいものを続けてしまうことがあります。
これがサンクコスト効果です。
学校にもあります。
何時間もかけて作った資料。
何年も続けてきた行事。
高額で導入した教材。
長く続いている校内研究。
「ここまで準備したから」
「去年までやってきたから」
という理由だけで続けていないでしょうか。
判断するときに見るべきなのは、
これまでにかけた時間ではなく、
これから投入する時間や労力に、それだけの価値があるか
です。
過去への敬意と、未来の判断は分けます。

8.バンドワゴン効果――「みんなが言っている」を根拠にしない

多くの人が支持しているものほど魅力的に感じたり、多数派に同調したりする現象は、社会心理学・マーケティングなどでバンドワゴン効果として扱われています。
学校でも、
「他校もやっている」
「みんなこの方法を使っている」
「有名な先生が勧めている」
「SNSで話題になっている」
という理由で、新しい実践を取り入れたくなることがあります。
もちろん、多くの人が選んでいることは一つの情報です。
しかし、
人気は、有効性の証明ではありません。
この学校の子どもに合うか。
目的は何か。
根拠は何か。
負担はどれくらいか。
検証できるか。
そこを確認します。
反対に、
「みんなが反対しているから言わない」
という形の同調にも注意します。
会議では、少数意見の中に重要な情報が含まれていることがあります。

9.根本的な帰属の誤り――行動を「その人の性格」で説明しすぎない

人の行動を見るとき、
周囲の状況よりも、その人自身の性格や能力を原因として考えすぎる傾向が社会心理学で指摘されています。
学校で考えると分かりやすいものです。
宿題を出さない。
「だらしないから」
授業で寝る。
「やる気がないから」
友達に強く当たる。
「性格がきついから」
もちろん、本人の行動について本人が考えることは必要です。
しかし、
睡眠は取れているか。
課題が本人にとって難しすぎないか。
家庭で何か起きていないか。
人間関係で困っていないか。
授業に参加しにくい理由はないか。
と、状況も見ます。
学校教育を社会心理学の観点から論じた研究でも、教師が児童生徒を見る際の帰属の問題が指摘されています。
「この子は○○だから」で説明が終わったときほど、一度立ち止まる。
それが大切です。

10.現状維持バイアス――「今までこうだった」を安全だと思う

人には、変えることによる損失を避け、現在の状態を維持しようとする傾向があります。
現状維持バイアスです。
学校は伝統を大切にする組織でもあります。
それ自体は悪いことではありません。
しかし、
「昔からこうしている」
「これまで問題がなかった」
「変えると混乱する」
だけで続けると、目的を失った仕事が残ります。
校則。
行事。
会議。
校務分掌。
紙の文書。
宿題。
部活動。
さまざまなところで、
「今も必要か」
を考える必要があります。
続ける場合も、
「昔から」
ではなく、
「現在もこの目的のために必要だから」
と説明できる状態にしたいものです。

11.認知的不協和――自分に都合よく説明を変えていないか

認知的不協和は、厳密には認知バイアスそのものというより、自分の考えや行動と、それに矛盾する事実が同時に存在したときに生じる心理的な緊張を説明する概念です。
例えば、
「自分は生徒を公平に見ている」
と思っていた教師が、
「特定の生徒にだけ強く注意しているのではないか」
と指摘されたとします。
二つの認知がぶつかります。
そのとき、
「確かにそうかもしれない」
と自分の行動を変えることもできます。
一方、
「あの生徒は特別だから」
「あの先生は事情を知らないから」
と説明を変え、自分の見方を維持することもできます。
どちらが正しいかは、事実を確認しなければ分かりません。
重要なのは、
不快に感じたからといって、相手の指摘が間違っているとは限らない
ということです。
耳の痛い話ほど、
「内容は正しいだろうか」
と一度切り離して考えます。

12.最後に最も警戒したい「自分だけは大丈夫」

認知バイアスを学ぶと、
「ああ、○○先生は確証バイアスだ」
「あの管理職は現状維持バイアスだ」
と、他人のバイアスが見えるようになります。
しかし、一番大切なのはそこではありません。
認知バイアスの研究では、
「他人はバイアスの影響を受けているが、自分はそれほど影響されていない」
と考えやすい「バイアスの盲点」も知られています。
認知バイアスを学ぶ目的は、同僚を分類することではありません。
自分自身の判断を点検することです。
私は大丈夫。
経験があるから大丈夫。
管理職だから大丈夫。
専門家だから大丈夫。
データを見ているから大丈夫。
そう思ったところから、判断の偏りが見えにくくなります。

13.教師ができる対策①「事実」と「解釈」を分ける

認知バイアスをなくすことは難しくても、判断の仕方を工夫することはできます。
まず、
事実と解釈を分けます。
「やる気がない」
は解釈です。
「今週5回の授業のうち、3回課題を提出していない」
は事実です。
「反抗的」
は解釈です。
「教師からの指示に対して『やりたくない』と答えた」
は事実です。
事実を言葉にすると、
「なぜだろう」
という問いが生まれます。
解釈だけで話すと、
「そういう子だから」
で終わりやすくなります。
生徒指導の会議でも、
まず事実を共有することを意識します。

14.教師ができる対策②「反対の証拠」を探す

「○○だ」
と思ったら、
意識的に、
「○○ではない証拠はないか」
を探します。
「この子は友人関係が苦手」
と思ったら、
うまく関われている場面を探す。
「この先生は仕事が遅い」
と思ったら、
確実に進められている仕事を見る。
「この取組は効果がある」
と思ったら、
効果が出ていないデータを確認する。
これは自分の判断を否定するためではありません。
判断の精度を上げるためです。
科学研究でも、自分の仮説を支持する情報だけでなく、それに反する情報を検討することが重要です。
教師の判断も同じです。

15.教師ができる対策③「もう一人の目」を入れる

自分一人の見方には限界があります。
だから、
担任。
教科担任。
学年職員。
養護教諭。
特別支援教育コーディネーター。
教育相談担当。
管理職。
必要に応じてSCやSSW。
複数の目から生徒を見ます。
これは「多数決で判断する」という意味ではありません。
一人の見方では捉えられなかった事実を集めるためです。
確証バイアスについての研究でも、第三者の視点を入れることには意味があります。ただし、自分と同じ意見を持つ人ばかりに相談すれば、第三者を入れても判断は偏ったままになり得ます。
だから、
「自分と違う見方をする人」
の話にも耳を傾けます。

16.教師ができる対策④「生徒本人」を情報源から外さない

教師同士で、
「あの子はこう思っている」
「きっとこれが嫌なのだろう」
と話しているうちに、生徒本人に聞いていないことがあります。
教師が何人集まっても、
本人の気持ちを完全に推測することはできません。
可能な場合には、
「どう感じている?」
「何に困っている?」
「どうなったら少し楽になる?」
と本人に聞きます。
もちろん、本人自身もすべてを言葉にできるとは限りません。
それでも、
本人を抜きにして本人のことを決めすぎない
という姿勢は大切です。
生徒指導は、教師が子どもを動かすことだけではありません。
子ども自身が自分のよさや可能性を伸ばし、主体的に成長していくことを支える営みです。

17.「公平な教師」ではなく「公平であろうとし続ける教師」を目指す

認知バイアスをすべて覚える必要はありません。
名前を知らなくても構いません。
一番大切なのは、
自分の判断は間違う可能性がある
という前提を持つことです。
経験は大切です。
直観が役に立つこともあります。
長年子どもを見てきたからこそ気づけることもあります。
しかし、
経験があることと、常に正しく判断できることは同じではありません。
だから、
事実を見る。
別の可能性を考える。
反対の証拠を探す。
別の人の意見を聞く。
本人の話を聞く。
新しい事実が出れば判断を変える。
こうしたことを繰り返します。
教師は、子どもの人生の大切な時期に関わります。
教師の何気ない一言や評価が、その子の自己理解に影響することもあります。
だからこそ、
「あの子はこういう子だ」
と簡単には決めつけない。
その日の姿と、昨日の姿が違っていてもよい。
昨年うまくいかなかった生徒が、今年大きく変わってもよい。
教師自身も、
「自分の見方が違っていた」
と変わってよい。
公平な教師とは、偏りを一切持たない教師ではありません。
自分にも偏りがあることを認め、必要なときに立ち止まり、もう一度子どもを見ることのできる教師です。
職員室でも同じだと思います。
一人の先生が、
「私はこう見えます」
と言う。
別の先生が、
「私の授業では少し違います」
と言う。
そして、
「では、もう少し見てみよう」
と話し合える。
誰か一人の見方を絶対にしない。
そんな職員室で、多くの目から一人の子どもを見る。
温かい職員室が、子どもを決めつけない温かい教室をつくる。
認知バイアスを知る意味は、そこにあるのだと思います。

参考資料

文部科学省「生徒指導提要(令和4年12月)」
川合伸幸「認知バイアス―判断し行動するときの心のクセ―」『作業療法』43巻2号、2024年
米満文哉ほか「消費者被害事例を読むときの後知恵バイアスの生起可能性」『心理学研究』
古城和敬ほか「教師期待が学業成績の原因帰属に及ぼす影響」『教育心理学研究』
山中一英「学校教育の社会心理学的論点とその展開可能性」『教育心理学年報』
安達智子「若者のキャリア形成とジェンダー」『キャリア教育研究』
松井彩子「SNSにおける他者の存在の影響」『マーケティングジャーナル』

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