3.11東日本大震災を中学校でどう授業するか2026年度版

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2011年3月11日に発生した東日本大震災から、15年以上が経過しました。
2026年度の標準的な学齢で考えると、現在の中学生は東日本大震災の後に生まれた世代です。
教師にとって「忘れられない出来事」であっても、生徒にとっては、自分が生まれる前の歴史上の出来事になりつつあります。
だからこそ、3月11日前後に東日本大震災を扱う授業には意味があります。
ただし、震災の悲惨さを強く見せ、
「怖かったでしょう」
「命を大切にしましょう」
という感想だけで終わらせたくありません。
大切なのは、
何が起きたのかを事実に基づいて知り、その事実から、自分が災害に遭ったときにどう行動するかを考えること
です。
文部科学省は、実践的な防災教育について「知る、備える、行動する」という三つの視点を示しています。中学校・高等学校編の手引きでは、地域との連携・協働を含めた防災教育も重視されています。
東日本大震災を「過去の災害」として学ぶだけではなく、
自分と周囲の人の命を守るための学び
につなげることが重要です。
※文末に参考資料として、パワーポイントスライド、PDFイメージを添付しています。

1.まず東日本大震災で何が起きたのかを正確に知る

東日本大震災について授業をするとき、最初に確認したいのは事実です。
2011年3月11日14時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生しました。
大きな揺れだけでなく、各地を巨大な津波が襲いました。
さらに、東京電力福島第一原子力発電所の事故も発生しました。
地震、津波、原子力災害が重なる複合災害となりました。
復興庁が2026年4月に公表した資料では、死者は19,787人(震災関連死を含む)、行方不明者は2,549人とされています。いずれも2026年3月時点の政府資料に基づく数字です。
ここで大切なのは、大きな数字を見せて生徒を驚かせることではありません。
一人一人に生活があり、家族があり、学校があり、日常があったことを考えます。
そして、
「なぜこれほど大きな被害になったのか」
「自分たちはそこから何を学べるのか」
へ授業を進めます。

2.映像を見せること自体を授業の目的にしない

東日本大震災には膨大な映像資料があります。
津波が町へ押し寄せる映像。
建物が流される映像。
避難する人々の映像。
確かに強い印象を与えます。
しかし、衝撃の大きい映像を見せれば防災意識が高まるとは限りません。
恐怖だけが残る可能性もあります。
家庭や親族が震災の影響を受けた生徒、災害に強い不安を感じる生徒がいることも考えます。
使用するなら、授業の目的に必要な映像を選びます。
文部科学省は「東日本大震災の教訓を語り継ぐ動画教材」を公開しています。震災当時に小学生・中学生・高校生だった人が、当時の経験だけでなく、防災教育や次世代へ伝えたいことを語る教材です。
被害映像を連続して見せるより、
実際に経験した人が、そこから何を考えたのか
を教材にする方法もあります。

3.「感動する授業」にしない

震災を扱う授業では、
「日本人の素晴らしさ」
「助け合いの大切さ」
「絆」
などを伝えたくなることがあります。
もちろん、支援や助け合いについて学ぶことには意味があります。
しかし、
「日本では混乱が起きなかった」
「日本人だから助け合えた」
というように単純化して教える必要はありません。
災害時には、避難、医療、物資、情報、福祉、治安、行政、地域コミュニティーなど、多くの課題が同時に発生します。
一つの美談へまとめるより、
「何が人を助けたのか」
「どのような備えが必要だったのか」
「自分たちなら何ができるのか」
と考えます。
震災を道徳的な感動教材だけにせず、具体的な防災行動を考える教材にします。

4.津波は「警報を待ってから逃げる」と教えない

東日本大震災から学ぶ重要な内容の一つが、津波からの避難です。
気象庁は、津波警報・注意報を見聞きした場合だけでなく、海辺で強い揺れや、弱くても長くゆっくりした揺れを感じた場合には、海辺から離れ、より高い安全な場所へ避難するよう呼びかけています。津波は繰り返し襲うため、警報・注意報が解除されるまで避難を続けることも重要です。
授業では、
「津波警報が出たらどうする?」
だけではなく、
「海の近くで強い揺れを感じた。しかし、まだスマートフォンには何も表示されていない。どうする?」
と問いかけることができます。
情報を待つことより、状況によっては自分で安全行動を開始する必要があります。
防災教育で育てたいのは、用語を覚える力だけではありません。
状況を見て、自分の命を守るために判断する力です。

5.南海トラフ地震を「予言」のように扱わない

東日本大震災を学習した後、自分たちの未来に関係する地震へ話をつなげることができます。
その一つが南海トラフ地震です。
内閣府は2025年3月、南海トラフ巨大地震について新しい被害想定を公表しました。特定の厳しい条件を置いたケースでは、死者数約29.8万人、全壊・焼失建物約235万棟が想定されています。これは将来必ずこの人数・棟数の被害が出るという予測ではなく、対策を検討するための被害想定です。
また、「南海トラフ地震臨時情報」も地震を予知する情報ではありません。
気象庁は、臨時情報について、大規模地震の発生可能性が平常時より相対的に高まっていることを知らせるものであり、発生場所や時刻を高い精度で予測する情報ではないと明確に説明しています。臨時情報がないまま大規模地震が発生することもあります。
したがって、
「南海トラフ地震は○年以内に必ず来る」
「臨時情報が出れば地震が来る」
という教え方はしません。
伝えたいのは、
地震の日時を当てることはできないからこそ、普段から備える必要がある
ということです。

6.全国共通の防災から「自分の地域」へ戻す

3.11の授業で最も大切にしたいのは、東北地方の出来事を学んで終わらないことです。
「では、この学校の周辺では何が起こる可能性がありますか」
と問いを戻します。
津波の可能性はあるのか。
河川の氾濫はどうか。
土砂災害の危険はあるか。
大地震のとき、通学路では何が倒れてくる可能性があるか。
学校から自宅まで歩いて帰れるのか。
家族と離れているとき、どこで合流するのか。
国土交通省・国土地理院のハザードマップポータルサイトでは、津波、洪水、土砂災害、高潮などの災害リスクを調べることができます。市町村が作成したハザードマップにもアクセスできます。
「東日本大震災について調べる授業」から、
「自分が生活している場所の危険を調べる授業」
へつなげます。

7.「学校にいるとき」だけを考えない

地震は授業中に起きるとは限りません。
登校中かもしれません。
下校中かもしれません。
部活動の帰りかもしれません。
家で一人のときかもしれません。
旅行中かもしれません。
だから、
「先生の指示を聞いて避難しましょう」
だけでは十分ではありません。
教師がいないときにも、自分で判断する必要があります。
例えば、
「登校中に大きな地震が起きたらどうする?」
「電車の中だったら?」
「海岸近くへ遊びに行っていたら?」
「家族全員が別々の場所にいたら?」
と場面を変えて考えます。
文部科学省の安全教育資料も、児童生徒が自ら危険を予測し、安全な行動をとるための資質・能力を育てることを重視しています。

8.スマートフォンだけを連絡手段にしない

災害が発生すると、通信が集中して電話がつながりにくくなることがあります。
普段使っているSNSやメッセージアプリが使える場合もありますが、
「LINEがあるから大丈夫」
「携帯電話があれば連絡できる」
とは考えません。
停電。
通信障害。
端末の破損。
バッテリー切れ。
さまざまな状況が考えられます。
災害用伝言ダイヤル「171」や災害用伝言板「web171」も、安否確認のための選択肢です。171は、災害発生によって被災地への通信が増え、電話がつながりにくくなった場合などに提供されるサービスです。
171とweb171は、毎月1日・15日などに体験利用できる期間も設けられています。
授業の後、
「家族と連絡がつかなかった場合、どうするか」
「集合場所は決まっているか」
を家庭で話してもらうのもよいでしょう。

9.備蓄を「防災グッズを買うこと」で終わらせない

防災というと、非常持出袋を準備することだけを考えがちです。
しかし、大規模災害ではライフラインが長期間止まる可能性があります。
内閣府は、家庭で食料や飲料水などを最低3日間、できれば1週間分備蓄することを勧めています。飲料水は一人1日3リットルが一つの目安です。また、普段使う食品を少し多めに購入し、使った分を補充するローリングストックも紹介しています。
授業なら、
「4人家族が1週間生活するとしたら、飲料水だけで何リットル必要?」
と考えさせてもよいでしょう。
防災を、
「特別な防災用品をそろえること」
から、
「普段の生活の中に備えを組み込むこと」
へ変えていきます。

10.「命を大切に」で終わらせない

防災授業の最後に、
「命を大切にしましょう」
という言葉でまとめることがあります。
もちろん間違いではありません。
しかし、生徒が実際に災害に遭遇したとき、
「命は大切だ」
と知っているだけでは行動できません。
必要なのは、
「揺れたら、まず何をするか」
「津波の可能性があれば、どこへ逃げるか」
「家族と連絡できなければ、どうするか」
「自宅には何が備蓄されているか」
「自分の地域にはどのような災害リスクがあるか」
まで具体化することです。
防災教育は、気持ちを高める教育だけではなく、行動できるようにする教育です。

11.50分でできる3.11授業案

ここからは、中学校で50分程度で実施する場合の一例です。

0~5分 3月11日を知っているか

黒板やスクリーンに、
「2011年3月11日14時46分」
とだけ提示します。
「この日時に何が起きたか知っていますか」
と問いかけます。
現在の中学生は震災を直接記憶していない世代です。
知っている・知らないで評価せず、ここから知るための授業だと伝えます。

5~15分 東日本大震災で何が起きたか

地震の規模。
大きな津波。
被害を受けた地域。
福島第一原子力発電所事故。
死者・行方不明者。
基本的な事実を、公式資料を用いて簡潔に確認します。
数字をたくさん覚えさせる必要はありません。
「巨大な地震だけでなく、津波や原子力災害を伴う複合的な災害だった」
ことを押さえます。

15~25分 震災を経験した人の声を知る

文部科学省の「東日本大震災の教訓を語り継ぐ動画教材」などから、授業の目的に合う部分を選んで視聴します。
映像を全部見せる必要はありません。
例えば、震災当時中学3年生だった方が避難や防災教育について語る部分を使えます。
視聴後、
「この人が、次の世代に一番伝えようとしていたことは何だろう」
と考えさせます。

25~35分 自分の地域に置き換える

学校周辺のハザードマップを提示します。
「この地域で大きな地震が起きたら、どのような危険がありますか」
「学校にいるときと、登下校中では何が違いますか」
と考えます。
海から遠い地域であれば、津波だけに限定しません。
建物倒壊。
家具転倒。
火災。
停電。
断水。
交通途絶。
河川やため池。
土砂災害。
地域によって考える内容は変わります。

35~45分 自分ならどう行動するか

一つの場面を設定します。
例えば、
「休日。家族とは別行動をしています。大きな地震が起き、電話がつながりません。あなたはどうしますか」
と問いかけます。
一人で考える。
近くの人と話す。
全体で共有する。
という流れでも構いません。
正解を一つに決めることより、
「自分に足りない備えは何か」
に気付かせます。

45~50分 今日から一つ行動する

最後に、
「今日、家に帰って確認することを一つ決めてください」
とします。
避難場所を確認する。
ハザードマップを見る。
家族との集合場所を決める。
171について調べる。
備蓄の水を確認する。
家具の置き方を見る。
何でも構いません。
「命を大切にしよう」という感想ではなく、
具体的な一つの行動
で授業を終えます。

12.授業後に家庭へつなぐ

防災は学校だけでは完結しません。
むしろ、家族と一緒に確認して初めて意味を持つことがあります。
例えば授業後に、
「家族が別々の場所にいるときの集合場所」
「避難場所」
「安否確認方法」
「自宅の備蓄」
「寝室付近の家具」
の中から一つだけ確認する宿題を出すこともできます。
ただし、家庭状況は生徒によって異なります。
「必ず両親と話す」
「家族全員で取り組む」
など、特定の家庭像を前提にしないようにします。
一緒に暮らす人、頼れる大人、自分自身で確認できる範囲など、柔軟に扱います。

13.被災経験や不安への配慮

東日本大震災やその後の災害によって、家族・親族が被災した生徒がいるかもしれません。
地震や津波の映像に強い不安を感じる生徒もいます。
授業前に、
「今日は地震や津波について扱います」
と伝えておくことも一つです。
刺激の強い映像を必要以上に使用しない。
被災体験を本人に発表させない。
「被災したことがある人?」
と安易に尋ねない。
つらくなった場合には無理に視聴を続けなくてよいことを伝える。
こうした配慮が必要です。
文部科学省の学校安全資料でも、安全教育・安全管理に加えて、事故等発生時の心のケアが学校安全の重要な内容として位置付けられています。
防災教育のために、生徒の安全・安心を損なってしまっては本末転倒です。

14.教師が「怖さ」を伝えるより、生徒が「行動」を選べる授業へ

大災害を学ぶと、
「こんなに恐ろしいことが起こります」
と伝える授業になりがちです。
しかし、恐怖だけでは、
「怖いから考えたくない」
という反応になることもあります。
教師が伝えたいのは、
災害を完全に防ぐことはできなくても、被害を減らすためにできることがあるということです。
地震を止めることはできません。
津波を止めることもできません。
しかし、
家具を固定できます。
避難場所を調べられます。
地域の危険を知ることができます。
備蓄できます。
家族や身近な人と連絡方法を決められます。
避難訓練に本気で取り組めます。
そして、危険を感じたときに自分で行動できます。
防災教育のゴールは、災害を怖がらせることではありません。自分にはできることがあると知り、実際に行動できるようにすることです。

15.3.11を「過去の出来事」にしない

東日本大震災を経験していない世代が中学生になっています。
これからは、
「覚えている人が伝える」
だけでは、震災の記憶は継承できません。
記録。
証言。
映像。
公的資料。
地域の経験。
そうしたものから学び、次の世代へつないでいく必要があります。
3月11日の授業で、生徒全員が同じ感想を持つ必要はありません。
泣く必要もありません。
「命の大切さ」という言葉を書かせる必要もありません。
大切なのは、
事実を知り、自分の地域に置き換え、災害が起きたときに自分はどうするのかを考えることです。
「今日、家に帰ったら避難場所を確認してみよう」
「水の備蓄があるか見てみよう」
「家族と集合場所を話してみよう」
一人の生徒がそんな行動を一つ始める。
3.11を学ぶ授業には、そのような力があると思います。

16.授業前の教師用チェックリスト

□ 被害者数などの数字を最新の公的資料で確認している
□ 古い南海トラフ地震の被害想定を使っていない
□ 南海トラフ地震臨時情報を「地震予知」と説明していない
□ 津波は警報を待ってから逃げればよいという説明になっていない
□ 災害を過度に恐怖化する映像を使用していない
□ 被災地や被災者を「感動教材」として扱っていない
□ 「日本人はすばらしかった」などの単純な一般化をしていない
□ 生徒の家庭背景や被災経験に配慮している
□ 東日本大震災だけでなく自分の地域の災害リスクへつないでいる
□ ハザードマップを確認している
□ 学校以外で被災した場合も考えさせている
□ スマートフォンだけを安否確認手段として教えていない
□ 171など複数の連絡手段を紹介している
□ 備蓄について具体的に扱っている
□ 「命を大切に」という感想だけで授業を終えていない
□ 生徒が授業後にできる具体的な行動を一つ設定している

17.参考資料(授業パワーポイントファイル、PDFファイルダウンロード)

18.参考資料

文部科学省「実践的な防災教育の手引き(中学校・高等学校編)」―「知る、備える、行動する」の視点から中高の防災教育を整理した資料。文部科学省「学校安全参考資料」
文部科学省「東日本大震災の教訓を語り継ぐ動画教材」―震災当時の小学生・中学生・高校生による証言を、防災教育に活用できる公式教材。文部科学省「東日本大震災の教訓を語り継ぐ動画教材」
復興庁「復興の現状と今後の取組」―東日本大震災の被害状況や復興の現状をまとめた2026年4月公表資料。復興庁「復興の現状と今後の取組」
気象庁「津波から身を守るために」―津波警報、強い揺れ・長い揺れを感じた場合の避難行動等を解説。気象庁「津波から身を守るために」
気象庁「南海トラフ地震臨時情報について」―臨時情報の意味と、地震予知ではないことを解説。気象庁「南海トラフ地震臨時情報について」
内閣府「南海トラフ地震防災対策」―2025年公表の最新被害想定や防災対策関連資料。内閣府「南海トラフ地震防災対策」
内閣府「自然災害への備えは万全ですか?」―家庭備蓄、非常持出品、安否確認などを整理した公式資料。内閣府「自然災害への備え」
国土交通省・国土地理院「ハザードマップポータルサイト」―全国の洪水・土砂災害・高潮・津波等のリスクや自治体ハザードマップを確認できる。ハザードマップポータルサイト
NTT東日本「災害用伝言ダイヤル(171)」―171の仕組み、利用方法、体験利用等を確認できる。災害用伝言ダイヤル(171)

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