中学校の教室が荒れやすい時期・時間とは?―大切なのは生徒の状態を観察すること

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「このクラス、今日は何となく落ち着かないな」
中学校で授業をしていると、教室に入った瞬間にそう感じることがあります。
いつもより話し声が大きい。
授業が始まっても座れない生徒がいる。
普段は話している生徒が妙に静か。
何人かが同じ場所を気にしている。
準備がなかなか進まない。
教師の説明がいつもより入りにくい。
こうした日は確かにあります。
以前の私は、「教室が荒れやすい時期」「荒れやすい曜日」「荒れやすい時間」を経験則として考えていました。
金曜日の午後。
体育の後。
行事の前。
長期休業の前。
梅雨の時期。
そのような条件を挙げて、「この時間は注意した方がいい」と考えていたのです。
今でも、教師として経験を積む中で感じてきたこと自体を否定するつもりはありません。
しかし、現在はもっと大切なことがあると考えています。
「荒れやすい時間」を覚えることより、授業が始まる前の生徒の状態を観察できる教師になることです。
「今日は金曜日だから」
「体育の後だから」
「行事前だから」
と原因を決めるのではありません。
今、この生徒たちはどのような状態なのか。
そこを見ることから始めます。

「荒れている」と決める前に「いつもと違う」を見る

教室へ入ったとき、
「うるさい」
「落ち着きがない」
「今日は荒れている」
とすぐ評価してしまうことがあります。
しかし、最初に見るべきなのは評価ではなく変化です。
いつもより声が大きい。
普段より準備が遅い。
いつも話している二人が話していない。
普段なら席にいる生徒が教室の後ろにいる。
いつもより机の周辺が乱れている。
何人かの表情が硬い。
このように、
「普段と何が違うのか」
を見るようにします。
「荒れている」は教師の解釈です。
「普段より授業準備に時間がかかっている」は観察できる事実です。
この二つを分けて考えることが大切です。

中学校では直前の生徒の状態が見えにくい

中学校で特に意識したいことがあります。
それは、教科担任制では、自分の授業が始まる直前まで生徒が何をしていたのかが見えにくいということです。
担任であっても、すべての時間をその学級と過ごしているわけではありません。
例えば、自分が5時間目に教室へ入ったとします。
その直前に、
体育で激しく活動していた。
教室移動があった。
実験の片付けに時間がかかった。
前の授業で叱られる出来事があった。
休み時間に友人同士のトラブルがあった。
委員会や行事の相談をしていた。
誰かが体調を崩した。
クラス全体が盛り上がる出来事があった。
このようなことが起きていても、教科担当には何も伝わっていないことがあります。
教師から見れば、
「授業が始まったのだから切り替えなさい」
となります。
しかし、生徒の中では前の出来事がまだ続いていることがあります。
だからこそ、中学校の教師は、教室へ入った瞬間に少しだけ生徒を見る必要があります。

文部科学省も「授業観察」を児童生徒理解の一つに位置付けている

『生徒指導提要』では、児童生徒理解を基盤とした教科指導について、授業観察から情報を集めることが示されています。
学級・ホームルームの学習の雰囲気や、気になる児童生徒の言動などを観察し、児童生徒理解に生かすという考え方です。
また、学習内容の習熟だけではなく、
興味・関心。
学習意欲。
授業への参加状況。
学習上のつまずき。
その背景。
などをきめ細かく把握することが求められています。
つまり、授業を見ることは、単に
「静かに授業を受けているか」
を確認することではありません。
授業そのものが、児童生徒を理解する重要な場なのです。

「荒れやすい曜日・時間」を一般化しない

「金曜日の5時間目は荒れやすい」
「月曜日の朝は落ち着かない」
「体育の後は授業になりにくい」
このような言葉を聞くことがあります。
私自身も、長い教師経験の中で「今日は授業に入りにくいな」と感じる曜日や時間帯はありました。
しかし、それを一般的な法則として扱うことには慎重であるべきです。
金曜日の午後でも落ち着いて学習している学級はあります。
体育後でもすぐに学習へ切り替えられる学級もあります。
行事前でも集中して授業を受ける生徒はいます。
反対に、普段は落ち着いている時間に突然学級の状態が変わることもあります。
曜日や時間は、教師が状況を考えるための情報の一つにはなります。
しかし、
「金曜日だから荒れている」
と原因にしてしまうと、本当に見るべきことを見落とします。

授業前に確認したい10のこと

私は、「荒れやすい時間」を覚えるより、授業前に次のようなことを見る方が有効だと考えています。

1 直前の授業は何だったか

自分の授業の前に何があったのかを確認します。
体育。
実験。
調理実習。
教室移動。
テスト。
発表。
グループ活動。
どの教科だったかだけでなく、どのような活動をしていたのかが重要です。
例えば教室移動から戻った直後であれば、生徒がまだ教材を準備できていないことがあります。
その状態でチャイムと同時に、
「なぜ準備できていない」
から始める必要があるのかは考えたいところです。

2 休み時間に何か起きていないか

中学校では、休み時間の出来事がそのまま次の授業へ持ち込まれることがあります。
友人同士の言い合い。
遊びの続き。
係活動。
忘れ物探し。
先生との話。
SNSなど学校外から続いている人間関係の問題。
もちろん教師がすべてを把握することはできません。
しかし、
「今日は何かあったのかな」
という視点を持っているだけで、生徒の見え方は変わります。

3 移動や着替えに時間が必要だったのではないか

体育後などに授業開始が乱れやすい場合、原因を
「体育の後だから落ち着かない」
と決めつけないことです。
着替えの時間が足りなかったのかもしれません。
移動距離が長かったのかもしれません。
前の授業が少し延びていたのかもしれません。
水分補給やトイレに時間が必要だったのかもしれません。
生徒の態度だけを見るのではなく、学校の時間設定や動線にも原因がないかを考えます。

4 行事の前後ではないか

体育大会。
文化祭。
修学旅行。
校外学習。
合唱。
卒業式。
学校行事の前後は、通常の授業日とは生徒の状態が違う場合があります。
楽しみにしている生徒もいます。
不安を感じている生徒もいます。
係活動が気になっている生徒もいます。
人間関係で悩んでいる生徒もいます。
「行事前だから浮ついている」と一括りにせず、一人一人に異なる状態があると考えます。

5 定期テストの前後ではないか

定期テスト前には、
不安。
焦り。
睡眠不足。
提出物への負担。
成績への心配。
などが重なることがあります。
テスト返却後には、点数や結果をめぐって生徒同士の会話が増える場合もあります。
だからといって、テスト前後は「荒れる」と決めるのではありません。
いつもの時期と条件が違う可能性がある
と考える材料にします。

6 座席や人間関係などに変化はなかったか

席替え。
班替え。
係変更。
転入生。
部活動内の出来事。
友人関係の変化。
生徒の様子が変わったときには、直前に何か環境の変化がなかったかを見ます。
教師からすると小さな変化でも、生徒にとっては大きな出来事であることがあります。

7 教室環境はどうか

暑い。
寒い。
まぶしい。
換気が必要。
机や椅子の配置が乱れている。
掲示物や教材が作業を邪魔している。
教室そのものに学習しにくい条件がないかも確認します。
以前の記事では、「低気圧のときは荒れやすい」という趣旨のことを書いていました。
現在は、このような一般化はしません。
気象条件や室内環境によって体調や過ごしやすさが異なることは考えられますが、「低気圧だから教室が荒れる」と結論付ける根拠にはなりません。
見るべきなのは、今日の教室で実際に何が起きているかです。

8 欠席者や一人一人の様子に変化はないか

学級の雰囲気は、人数だけでなくメンバーの変化によっても変わります。
いつも中心になっている生徒が休んでいる。
普段一緒にいる友人が欠席している。
体調不良者が複数いる。
いつも明るい生徒が今日は話さない。
こうした変化にも目を向けます。
特に大切なのは、教室全体のざわつきだけではなく、静かな生徒の変化にも気付くことです。

9 教師自身の授業準備は整っているか

教室が落ち着かないと、生徒側の問題ばかり探したくなります。
しかし、教師側にも確認することがあります。
教材の準備はできているか。
最初に何をするのか明確か。
プリント配布に時間がかかっていないか。
ICT機器の準備を授業開始後にしていないか。
指示が何度も変わっていないか。
授業開始直後から長い説明をしていないか。
教師が教室へ入ってから準備を始めると、生徒には待ち時間が生まれます。
その待ち時間をつくっておきながら、
「静かに待ちなさい」
と注意していることもあります。
生徒の状態を見るのと同時に、教師自身の準備も見直します。

10 今日の状態に合わせて授業を少し変えられるか

授業計画は大切です。
しかし、計画どおり進めることそのものが目的ではありません。
教室へ入って、
「今日はいつもと違う」
と感じたときには、小さな調整を考えます。
最初に短い個人課題を入れる。
活動手順をいつも以上に明確にする。
説明を短くする。
一度書かせてから話し合わせる。
予定していた活動の順番を変える。
体調不良者が多ければ無理をさせない。
すべてを大きく変える必要はありません。
今の生徒が学習へ入りやすくなるために、一つ変える。
それだけでも違います。

教室が落ち着かないときほど、授業の最初を叱責だけにしない

教室へ入る。
ざわざわしている。
そこで教師が、
「うるさい!」
「いつまでしゃべっている!」
「もう授業始まってるぞ!」
と始める。
必要な注意をする場面はあります。
しかし、毎回授業の入口が叱責になると、
「授業開始=教師に叱られる時間」
になってしまいます。
まず、
「教科書○ページを開いてください」
「黒板の問題を一つ考えてください」
「ノートに今日の日付を書きましょう」
など、何をすれば授業に入れるのかを明確にする方法もあります。
注意することと、学習へ入れる状態をつくることは同じではありません。
目標は、教師が教室を静かにさせることではなく、生徒が学習へ参加できる状態をつくることです。

「静かな教室=よい教室」とは限らない

ここも注意したいところです。
教室が静かだから、授業がうまくいっているとは限りません。
全員が黙っていても、
何をしているのか分かっていない。
質問できない。
間違いを恐れている。
教師に叱られないために黙っている。
ただ時間が過ぎるのを待っている。
ということもあり得ます。
反対に、話合いや実験などで一定の声が出ていても、学習に集中している授業があります。
「静かか、うるさいか」だけで授業を評価しません。
見るのは、
何について話しているか。
どれくらいの生徒が参加しているか。
課題を理解しているか。
困っている生徒はいないか。
安心して質問できているか。
です。

「盛り上がっている=よい授業」とも限らない

逆も同じです。
生徒が笑っている。
たくさん発言している。
教室が盛り上がっている。
だからよい授業とも限りません。
一部の生徒だけが話していることもあります。
楽しそうでも学習内容が残っていないこともあります。
静かな生徒が活動から外れていることもあります。
教師が見るべきなのは、教室全体の音量や盛り上がりだけではなく、一人一人が学習にどう参加しているかです。

「荒れている」という言葉を生徒の人格評価にしない

「このクラスは荒れている」
「あの学年は荒れている」
という言葉には注意が必要です。
一度そう評価すると、その後に起こることをすべて
「やっぱり荒れているから」
と解釈してしまうことがあります。
数人が話している。
提出物が出ない。
授業開始が遅れる。
教師への反応が薄い。
これらは、それぞれ別の出来事です。
まとめて「荒れ」と呼ぶ前に、
具体的に何が起きているのか
を確認します。
そして、
いつ。
どこで。
誰が。
どのような場面で。
どの程度。
何が起きているのか。
を見ます。
具体的に見れば、対応も具体的になります。

教室が落ち着かない原因を生徒だけに求めない

教室の状態には、多くの要因が関係しています。
生徒の状態。
人間関係。
授業内容。
課題の難しさ。
教師の説明。
活動時間。
教室環境。
学校行事。
時間割。
学年全体の状況。
教師との関係。
「生徒が落ち着かない」
という事実があったとしても、
「生徒に問題がある」
と同じ意味ではありません。
教師側・授業側・環境側に変えられることがないかを考えます。
これは生徒を甘やかすことではありません。
問題を正確に捉え、改善可能なところから変えるということです。

気になる変化を一人で抱えない

授業中に気になる変化に気付いたとき、教科担当一人で抱え込まないことも重要です。
「今日、○○さんの様子がいつもと違った」
「このクラス、最近5時間目になると授業準備に時間がかかる」
「この二人の関係が少し気になる」
このような情報を、必要に応じて担任や学年の教師と共有します。
すると、
「朝から少し体調が悪そうだった」
「前の授業でも同じだった」
「休み時間にトラブルがあった」
など、自分だけでは見えなかった情報がつながることがあります。
『生徒指導提要』でも、児童生徒理解を担当教師一人だけで行うのではなく、授業観察や各種の情報を組み合わせることが示されています。
一人の教師の印象だけで生徒を判断しないことが大切です。

若手教師ほど「授業前の30秒」を大切にする

若い頃は、
「授業内容を間違えずに教えなければ」
「板書を予定どおり進めなければ」
「時間内にここまで終わらせなければ」
ということで頭がいっぱいになりがちです。
それは当然です。
授業準備は大切です。
しかし、教材を見ることと同じくらい、生徒を見ることも大切です。
教室に入ったら、すぐ説明を始める前に30秒だけ見てみます。
表情。
席の様子。
授業準備。
教室の空気。
いつもと違う生徒。
この30秒で授業のすべてが分かるわけではありません。
それでも、
「今日は少しゆっくり始めよう」
「この生徒には後で声をかけよう」
「最初の活動を変更しよう」
と判断する材料になります。
教師が教える内容を見る。
同時に、目の前の生徒を見る。
この二つを合わせることが授業だと思います。

「予防的な生徒指導」は授業が始まる前から始まっている

問題が起こってから指導する。
授業妨害が起こってから叱る。
トラブルが大きくなってから対応する。
もちろん、必要な対応はしなければなりません。
しかし、生徒指導は問題が起きた後だけに行うものではありません。
文部科学省『生徒指導提要』では、問題への対応だけでなく、日常の教育活動を通して児童生徒の発達を支える「発達支持的生徒指導」が重視されています。
授業もその重要な場です。
今日の生徒の状態を見る。
学習に入りやすい環境をつくる。
困っている生徒に気付く。
参加できる課題を用意する。
安心して質問できる雰囲気をつくる。
教師自身が授業を調整する。
これらも生徒指導です。
授業で生徒指導をする。
その第一歩は、授業開始後ではなく、教室へ入った瞬間から始まっています。

授業前のチェックリスト

教室へ入ったとき、次のことを短時間で確認します。
□ 普段と違う生徒はいないか
□ 表情や体調に気になる様子はないか
□ 授業準備はどの程度進んでいるか
□ 教室全体の雰囲気はいつもと違わないか
□ 直前の授業や活動は何だったか
□ 休み時間に何か起きていないか
□ 移動や着替えに十分な時間があったか
□ 行事やテストなど通常と違う条件はないか
□ 教室環境に学習しにくい要因はないか
□ 教師自身の教材・ICT・配布物の準備は終わっているか
□ 授業開始直後に生徒が何をすればよいか明確か
□ 今日の状態に応じて活動を少し調整する必要はないか
□ 「荒れている」という言葉だけで原因を決めつけていないか
□ 静かな生徒の変化にも目を向けているか
□ 気になることを必要に応じて担任や学年と共有しているか
すべてを毎時間チェック表に書く必要はありません。
教師自身の習慣として身に付けばよいと思います。

「荒れやすい時間」を探すより、目の前の生徒を見る

以前の私は、「荒れやすい時期」「荒れやすい時間」「荒れやすい状況」を知っておくことが教師にとって大切だと考えていました。
今は少し考え方が変わっています。
経験から得た感覚は大切です。
しかし、それを法則にしてはいけません。
金曜日だから。
午後だから。
体育の後だから。
行事前だから。
低気圧だから。
そのように決めつけた瞬間、目の前にいる生徒を見る必要がなくなってしまいます。
大切なのは、
「今日は、いつもと何が違うのだろう」
と考えることです。
そして、生徒側だけに原因を探すのではなく、
授業。
教師。
環境。
人間関係。
学校生活全体。
を含めて考えます。
「荒れ」を予測する教師ではなく、小さな変化に気付き、問題が大きくなる前に授業や関わり方を調整できる教師でありたいものです。

参考資料

文部科学省「生徒指導提要(改訂版)」

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