教務主任になったら最初に考えること

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教務主任になったとき、最初に感じるのは「仕事の範囲が広い」ということではないでしょうか。
時間割。
年間行事予定。
授業時数。
教育課程。
定期考査。
各種提出物。
職員会議資料。
学校によっては、日課表や校務分掌に関する調整まで担当します。
一つ一つを見ると別々の仕事に見えますが、教務主任の仕事には一本の軸があります。
学校の教育活動が、一年間を通して無理なく、矛盾なく、継続して機能するように整えることです。
教務主任は、単に時間割をつくる人ではありません。
学校全体を見渡しながら、人、時間、場所、教育内容、行事をつなぎ、教育課程を実際の学校生活として成立させていく役割を担っています。
そして、これから教務主任を担うのであれば、もう一つ大切な視点があります。
現行の教育課程を正確に運用しながら、次の教育課程を見据えることです。
2026年現在、次期学習指導要領に向けた検討が進んでいます。
教育課程の柔軟化、カリキュラム・マネジメント、情報活用能力、教師と生徒の「余白」など、これからの学校の在り方そのものに関わる議論が行われています。
初めて教務主任になったときに、すべてを完璧にできる必要はありません。
しかし、最初に何を見て、何を大切にするかによって、その後の一年は大きく変わります。

1.次期学習指導要領を見据えた教務主任の役割

2026年現在、次期学習指導要領に向けた検討が具体的に進んでいます。
教育課程企画特別部会の「論点整理」では、次期学習指導要領に向けて、「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」という方向が示されています。
そこで重要な論点となっているのが、教育課程の柔軟化、カリキュラム・マネジメント、デジタル学習基盤、情報活用能力、教師と生徒の「余白」などです。
教務主任として注目したいのは、次期学習指導要領が、単に各教科の学習内容を入れ替えるだけの改訂として検討されているわけではないことです。
学校や生徒の実態に応じて、教育課程そのものをどのように編成し、学校教育目標を実現していくのか。
このことが、これまで以上に問われるようになります。
これからは、
「なぜ、この時間割なのか」
「なぜ、この行事を行うのか」
「なぜ、この授業時数なのか」
「この教育活動によって、どのような資質・能力を育てたいのか」
を学校自身が説明する必要があります。
教務主任の仕事も、
「決められた時数を時間割にはめ込む仕事」から、「学校教育目標を実現するために教育課程を構想する仕事」へ
一層重心が移っていくと考えます。
ただし、重要なことがあります。
2026年8月現在、次期学習指導要領はまだ確定していません。
検討中の内容を、決定事項として学校で運用してはいけません。
今は現行の学習指導要領を正確に運用します。
その一方で、文部科学省の一次資料を継続して確認し、次の教育課程について学び続けます。
「今を正確に運用すること」と「次を見据えて準備すること」。
これからの教務主任には、その両方が必要です。

2.教務主任の役割

学校教育法施行規則では、教務主任は、校長の監督を受け、教育計画の立案その他の教務に関する事項について、「連絡調整及び指導、助言」に当たる職として位置付けられています。
ここで大切なのは、「連絡調整」という言葉です。
教務主任が何でも一人で決めるわけではありません。
校長が示す学校経営の方向を理解します。
教頭と実務上の役割を確認します。
学年や教科の事情を聞きます。
年間行事との関係を見ます。
教育課程上の条件を確認します。
教室や施設、人員配置などの条件も確認します。
それらをつなぎ、学校全体として成立する形に整えていきます。
一方で、単なる連絡係でもありません。
「この計画で本当に一年間進められるでしょうか」
「この時期に教育活動が集中しすぎていないでしょうか」
「必要な授業は確保できるでしょうか」
「生徒にも教職員にも無理が生じないでしょうか」
「学校教育目標の実現につながっているでしょうか」
と考え、必要があれば管理職や担当者に提案します。
調整することと、すべての要望を受け入れることは違います。
学校全体を見て、教育活動を成立させるための判断を支えることが、教務主任の重要な役割です。

3.最初に一年間を見渡す

教務主任になったら、目の前の4月だけを見ないことが大切です。
まず、前年度の資料を一年分確認します。
年間行事予定。
月別行事予定。
教育課程。
時間割。
定期考査。
授業時数。
職員会議資料。
各種提出期限。
教育委員会からの通知。
学校評価。
次年度に向けた検討資料。
目的は、前年と同じことをするためではありません。
学校が一年間、どのような周期で動いているのかを把握するためです。
6月の行事であっても、準備は4月や5月から始まっているかもしれません。
2学期の時間割変更を、夏季休業中に準備する場合もあります。
次年度の教育課程について、秋から検討を始める学校もあります。
教務の仕事には、「その日までにやればよい」では間に合わないものが少なくありません。
締切から逆算して、
いつ情報を集めるのか。
いつ原案をつくるのか。
いつ管理職と相談するのか。
いつ関係者に示すのか。
いつ確定するのか。
まで考えます。
教務主任は、学校の少し先を見ながら仕事をする必要があります。

4.前年度の資料を「正解」にしない

前年度の資料は重要です。
特に初めて教務主任を担当するときには、大きな助けになります。
しかし、
「去年もこうしていたから」
だけで今年度の判断をしないことも大切です。
教職員構成は変わります。
学級数も変わります。
生徒の状況も変わります。
非常勤講師等の勤務条件も変わります。
支援体制も変わります。
法令、通知、教育委員会の方針が変わることもあります。
昨年度の資料は、
「今年も踏襲するもの」ではなく、「今年度を考えるための資料」
として扱います。
特に教育課程、授業時数、評価などについては、前年度資料だけを根拠にせず、その年度に有効な学習指導要領、法令、文部科学省や教育委員会の通知等を確認することが必要です。

5.管理職との認識を最初に合わせる

教務主任になると、自分で何とかしなければならないと思いがちです。
しかし、教務主任は一人で学校を動かす立場ではありません。
年度当初に校長、教頭と、
「今年度、学校として特に重視することは何か」
「教育課程で見直したいことはあるか」
「年間行事で変更を検討していることはあるか」
「時間割作成で優先すべき条件は何か」
「教務主任がどこまで原案を作成し、どの段階で管理職と協議するか」
を確認しておきます。
ここが曖昧なまま進めると、時間をかけて作成した案を最後の段階で大きく変更することになりかねません。
早い段階で方向性を共有することは、学校運営のためだけでなく、
教務主任自身の仕事を減らすことにもつながります。

6.仕事を年間・学期・月・週で整理する

教務主任の仕事は、一つ一つ覚えようとすると膨大に見えます。
そこで、
年間で行う仕事。
学期ごとに行う仕事。
毎月行う仕事。
毎週確認する仕事。
必要に応じて発生する仕事。
に分けて整理します。
さらに、それぞれについて、
「いつまでに」
「誰と」
「何を」
「どこまで決めるのか」
を明確にします。
教務主任の仕事で避けたいのは、難しい仕事そのものより、
「気付いたときには期限が迫っていた」という状態です。
記憶に頼らず、年間一覧、カレンダー、共有ファイル、タスク管理などを使って見える化します。

7.情報を教務主任一人に集めない

仕事のできる教務主任ほど、多くの情報が集まってきます。
しかし、
「教務主任しか分からない」
という状態になると、学校は弱くなります。
時間割変更の経緯。
年間行事の変更理由。
授業時数の状況。
教育課程に関する確認事項。
教育委員会への提出資料。
それらを可能な範囲で共有します。
少なくとも管理職とは共有します。
必要に応じて各主任や担当者とも共有します。
ファイルの保存場所、名称、年度ごとの整理方法も統一しておきます。
教務主任が休んでも学校が止まらない。
担当者が変わっても判断の経緯が分かる。
そこまで含めて仕事を設計します。
個人の力量で支える教務から、仕組みで支える教務へ。
これは学校組織として非常に重要な視点です。

8.時間割を学校の教育設計として捉える

教務主任の仕事の中でも、時間割作成は大きな仕事です。
しかし、時間割は単なる「空いているマスを埋める作業」ではありません。
現行の学習指導要領では、地域や学校、生徒の実態、各教科等や学習活動の特質などを踏まえ、時間割を適切に編成することが求められています。
時間割には、その学校の教育に対する考え方が表れます。
生徒が学びやすいでしょうか。
教科の特性に合っていますか。
特別教室は適切に利用できますか。
複数教員による指導は成立しますか。
特別支援学級等との交流及び共同学習は実施できますか。
非常勤講師等の勤務条件を満たしていますか。
教職員の授業負担に極端な偏りはありませんか。
一つ一つの条件を満たすだけではなく、
学校全体としてよりよい教育活動になる組合せを考えること
が時間割作成です。

9.時間割作成の優先順位を決める

時間割を作成すると、さまざまな希望が出てきます。
大切なのは、すべての希望を同じ重さで扱わないことです。
まず、変更が難しい条件を確認します。
非常勤講師等の勤務日。
複数校勤務者の勤務条件。
複数教員で行う授業。
特別教室の使用。
支援体制上の条件。
施設上の制約。
校内研修や定例会議との関係。
こうした条件を先に押さえます。
次に、生徒の学習環境や教科の特性を考えます。
その上で、可能な範囲で教職員の希望を調整します。
もちろん、育児、介護、健康上の事情など、学校として配慮すべき事情があります。
一方で、個人的な希望を、声の大きさや立場の強さによって優先することは避けます。
重要なのは、
希望を聞くことと、希望どおりにすることを区別することです。
最終的には、学校全体として説明できる基準で調整します。

10.希望を集める前に基準を共有する

時間割希望を集めるときには、最初に基本的な考え方を共有しておくと調整しやすくなります。
例えば、
「すべての希望を反映できるものではありません」
「教育課程、生徒の学習環境、施設、人員配置、勤務条件等を総合して調整します」
「特別な配慮が必要な事情については、管理職または教務主任に相談してください」
と伝えます。
さらに、
「外すことのできない条件」と「可能であればという希望」を分けてもらう
と整理しやすくなります。
時間割が完成してから、
「実は、これは絶対に無理でした」
ということが判明する事態も減らせます。

11.教科の事情を担当者に確認する

教務主任が、すべての教科の事情を完全に理解することはできません。
だからこそ、担当者に確認します。
体育であれば体育館や運動場。
理科であれば理科室や実験準備。
技術・家庭、美術であれば実習や特別教室。
音楽であれば音楽室や授業内容。
少人数指導であれば教員と教室の組合せ。
さまざまな条件があります。
ただし、
「この教科は必ずこの曜日」
「この教科は必ず午前」
といった経験則を絶対的なルールにする必要はありません。
学校によって条件は違います。
年度によって人も生徒も違います。
教科の特性を理解し、その学校で本当に必要な条件を確認すること
が大切です。

12.若手教員への配慮も学校全体で考える

公平な時間割とは、全員を完全に同じ条件にすることではありません。
経験年数の少ない教師には、必要に応じて一定の配慮を考えます。
相談できる時間を確保する。
研修に参加しやすくする。
教材研究の時間を確保しやすくする。
校務分掌とのバランスを見る。
といったことです。
ただし、
「若手だから楽な時間割にする」
という単純な話ではありません。
ベテラン教員についても同じです。
担任、学年業務、校務分掌、家庭事情、健康面なども含めて考えます。
一人ひとりの事情を見ながら、学校全体として持続可能な配置にすること
が大切です。

13.仮時間割を複数の目で確認する

時間割を一人で完成させ、そのまま確定することは避けます。
作成者には、自分では気付きにくい見落としがあります。
仮時間割を作成したら、
教科の授業時数。
教員の重複。
学級の重複。
特別教室。
複数教員による指導。
非常勤講師等。
支援体制。
会議や研修。
曜日ごとの偏り。
教師ごとの授業負担。
などを確認します。
可能であれば、教務主任だけでなく、管理職や複数の教員にも確認してもらいます。
ミスを防ぐ最も確かな方法は、「自分がもっと注意すること」ではなく、「複数の目で確認する仕組みをつくること」です。

14.授業時数を「最低時数」ではなく「標準授業時数」と捉える

授業時数については、言葉を正確に理解しておく必要があります。
現行制度では、中学校の各教科等の授業時数は学校教育法施行規則で標準授業時数として定められており、第1学年から第3学年まで、各学年の総授業時数は年間1015単位時間が標準です。
したがって、
「1015時間は絶対的な最低時数で、一時間でも下回れば直ちに法令違反になる」
という説明は正確ではありません。
文部科学省は、標準授業時数について、各教科等の内容を指導するために必要な時数を基礎として設定されたものであり、各学校には標準を踏まえて教育課程を適切に編成することを求めています。
一方で、災害や感染症による学級閉鎖など、不測の事態によって結果として標準を下回った場合には、下回ったことだけをもって直ちに法令違反となるものではないという考え方も示されています。
これは、
「授業時数は少なくても構わない」
という意味ではありません。
教務主任には、
必要な教育内容が適切に指導できるよう、年間を通して授業時数を把握し、教育課程を管理すること
が求められます。

15.数字の帳尻だけを合わせない

授業時数管理をしていると、
「あと何時間あるか」
「標準を超えているか」
という数字に意識が向きやすくなります。
しかし、本来確認すべきなのは、
必要な教育内容を適切に指導できる教育課程になっているか
ということです。
授業時数を数字として確保するだけではなく、指導方法や教材、行事との関係なども含めて考えます。
学校行事にも大切な教育的価値があります。
しかし、
「教育的価値がある活動」
であることと、
「どの教科等の授業時数として扱ってもよい」
ことは同じではありません。
教育課程上どこに位置付く活動なのかを確認します。
判断に迷う場合は、教務主任一人で判断せず、管理職と協議し、必要に応じて教育委員会等に確認します。

16.学校行事と授業時数を対立させない

学校では、
「行事があるから授業が減る」
「授業時数を確保しなければならないから、行事を減らす」
という話になることがあります。
しかし、私は、
「授業か、行事か」
という二者択一で考えないことが大切だと思います。
学校行事も教育課程の一部です。
現行の中学校学習指導要領では、学校行事は特別活動に位置付けられ、学校生活に秩序と変化を与え、学校生活の充実と発展に資する体験的な活動として位置付けられています。また、学校や地域、生徒の実態に応じて、行事の内容を重点化し、行事間の関連や統合を図るなど、精選して実施することも求められています。
つまり、
行事には行事としての教育的価値があります。
一方で、
「行事だから授業を削ってよい」
ということにもなりません。
教育課程とは、教育内容と授業時数を関連付け、学校教育全体として総合的に組織するものです。文部科学省の中学校学習指導要領解説総則編でも、教育内容を授業時数との関連において総合的に組織することが、教育課程編成の基本として示されています。
教務主任として大切なのは、
授業と行事を別々に管理するのではなく、一年間の教育課程として一緒に設計すること
です。
例えば、体育大会を実施するとします。
体育大会当日だけを見るのではありません。
事前指導。
係活動。
学年練習。
全体練習。
予行。
振り返り。
そこまで含めて、どれくらいの時間を使うのかを見ます。
文化行事も同じです。
合唱練習。
展示準備。
舞台練習。
係活動。
リハーサル。
こうした活動が、直前になって少しずつ追加されると、
「気付けば授業がかなり減っていた」
ということが起こります。
だからこそ、年度当初にできるだけ見通します。
行事本番だけでなく、準備に必要な時間も年間計画に入れて考えます。

特定の曜日・教科だけが繰り返し欠けていないかを見る

授業時数は、年間総数だけ見ていても十分ではありません。
行事が金曜日に集中すれば、金曜日の授業が何度も欠けます。
月曜日に祝日や振替休日が続けば、月曜日の教科が影響を受けます。
さらに、
体育大会。
校外学習。
定期考査。
三者面談。
学校行事。
が重なれば、特定曜日の授業が続けて実施できないことがあります。
教務主任は、
「年間で何時間あるか」だけでなく、「どの曜日・どの教科が欠けているか」
も確認します。
必要なら時間割変更を行います。
ただし、数字だけをそろえるために機械的に入れ替えるのではありません。
単元の進み方や、授業の連続性も見ます。

単元を細切れにしすぎない

ある教科が、
今週1時間。
翌週なし。
その次の週に1時間。
という状態になると、学習の連続性が失われる場合があります。
特に、
実験。
実習。
連続した思考が必要な単元。
長い文章を扱う学習。
プロジェクト型の学習。
などでは影響が大きくなることがあります。
だから教務主任は、
「標準授業時数を確保できているか」
だけでなく、
「生徒が学びやすい配置になっているか」
も見ます。
時間割と年間行事予定は別々の表ですが、実際の学校生活では一つにつながっています。

行事練習を際限なく追加しない

行事が近付くと、
「もう少し練習時間がほしい」
という声が出ることがあります。
その気持ちは理解できます。
しかし、
1時間追加。
さらに1時間追加。
放課後にも追加。
となれば、他の教育活動へ影響します。
そこで、
「もう1時間増やせば、何がどれだけよくなるのか」
を考えます。
本当に必要なのか。
練習方法を変えられないか。
全員集合しなくてもできないか。
学年単位でできないか。
生徒自身に任せられないか。
行事そのものを簡素化できないか。
時間を増やす前に、方法を見直します。
学校行事について現行学習指導要領は、学校や生徒の実態に応じて内容を重点化し、関連や統合を図るなどして精選することを示しています。
行事を大切にすることと、行事を大きくすることは同じではありません。

「昨年やったから今年もやる」を問い直す

学校行事は、長い歴史を持つものが多くあります。
それ自体に価値があります。
一方で、
「昨年度もやった」
「昔からこの時間数だった」
という理由だけで続けているものもあるかもしれません。
教務主任として、
この行事の目的は何か。
どのような資質・能力を育てたいのか。
現在の生徒に合っているか。
準備にどれくらい時間を使っているか。
教職員の負担はどうか。
他の教育活動へどのような影響があるか。
を確認します。
続けるのであれば、意味を確認して続けます。
変える必要があれば変えます。
減らしてもよいものは減らします。
行事をなくすことが目的ではありません。
限られた時間を、本当に価値のある教育活動に使うこと
が目的です。

行事も授業も「学校教育目標」から考える

教務主任が行事と授業を調整するとき、最後に戻りたいのは学校教育目標です。
この学校では、どのような生徒を育てたいのか。
そのために授業で何を学ぶのか。
行事でどのような経験をさせたいのか。
両方を考えます。
体育大会で育てたい力があるのであれば、それを明確にします。
文化行事にも教育的な目的があります。
一方、各教科にもそれぞれ育成すべき資質・能力があります。
どちらかを「邪魔なもの」として扱うのではありません。
授業も行事も、学校教育目標を実現するための教育活動として位置付けます。
2026年の次期教育課程に向けた「論点整理」では、現行の中学校の年間総授業時数1015単位時間を前提としながら、将来的には学校や児童生徒の実態に応じた、より柔軟な教育課程編成を可能にする方向が検討されています。ただし、2026年8月現在、これは検討中の制度であり、一般の中学校が自由に標準授業時数を変更できる状態ではありません。
だから今、教務主任がするべきことは、
「時数をどこまで削れるか」
を考えることではありません。
現行制度を正確に運用しながら、授業・行事・生徒の負担・教職員の負担を教育課程全体として見直すこと
です。
授業時数を守るために行事を敵にしない。
行事を充実させるために授業を軽く扱わない。
その両方をつなぐことが、教務主任の重要な仕事だと思います。

17.「不足が怖いから多くする」という発想を見直す

授業時数には一定の余裕を持たせる必要があります。
台風。
感染症。
学級閉鎖。
行事変更。
さまざまな事情によって予定どおり授業を実施できないことがあります。
しかし、
「不足すると困るから」
という理由だけで、標準授業時数を大幅に上回る教育課程を毎年組むことも見直す必要があります。
必要な授業を確保します。
同時に、生徒にも教師にも過度な負担を生じさせないようにします。
多ければよいのではなく、必要な時間を適切に確保する。
この感覚が重要です。

18.行事予定を「入るか」ではなく「一年間持つか」で考える

年間行事予定を作成するときには、一つ一つの行事を見るだけでは足りません。
ある行事だけを見れば実施可能でも、
前の週に定期考査。
次の週に校外学習。
その直後に保護者懇談。
さらに校内研修。
という状態であれば、生徒にも教職員にも負担が集中します。
教務主任は、
「この日に入れられるか」ではなく、「この年間計画で学校が一年間持続的に動けるか」
を考えます。
授業と行事。
行事と行事。
会議と研修。
学年業務。
定期考査。
生徒の負担。
教職員の負担。
それぞれを別々に見るのではなく、つながりとして見ます。

19.カリキュラム・マネジメントを教務の中心に置く

現行学習指導要領では、カリキュラム・マネジメントについて、教育内容を教科等横断的な視点で組み立てること、教育課程の実施状況を評価して改善すること、必要な人的・物的体制を確保・改善することなどが重視されています。
これは、教務主任の仕事と深く関係します。
年間行事予定をつくる。
時間割をつくる。
授業時数を確認する。
日課を考える。
教科間を調整する。
校内の人員配置を見る。
これらを別々の事務作業として処理するのではありません。
「この学校でどのような生徒を育てたいのか」から逆算して、時間、人、内容、環境を組み合わせること
が重要です。
単元配列表を作成すること自体がカリキュラム・マネジメントなのではありません。
表や計画をつくることは手段です。
その学校の教育目標を、実際の教育活動として実現することが目的です。

20.調整授業時数制度を理解しておく

次期学習指導要領に向けた大きな検討事項の一つが、調整授業時数制度です。
現在検討されている仕組みでは、一定の条件の下で各教科等の標準授業時数を調整し、生み出した時数を他の教科等に上乗せしたり、学校独自の教育活動や裁量的な時間などに活用したりする方向が示されています。
2026年度には、制度導入を見据えた研究も進められています。
しかし、ここは正確に理解しておく必要があります。
2026年8月現在、一般の中学校が自由に標準授業時数を減らしてよい制度が始まったわけではありません。
現在は、現行の学習指導要領と学校教育法施行規則に基づいて教育課程を編成します。
教務主任として考えたいのは、
「何時間減らせるか」
ではありません。
仮に教育課程の自由度が高まったとき、
「生み出した時間を何のために使うのか」
を説明できる学校にしておくことです。
制度だけを先に使おうとするのではなく、まず自校の教育課題と育てたい生徒像を明確にする必要があります。

21.「余白」をつくる

次期学習指導要領に向けた議論で注目したい考え方の一つが、**「余白」**です。
ここでいう余白は、単に授業を減らして楽にするという意味ではありません。
生徒が考える時間。
試行錯誤する時間。
振り返る時間。
教師が教材研究をする時間。
授業について同僚と話す時間。
こうした時間を確保するという視点です。
学校行事を詰め込みすぎていないでしょうか。
会議を入れすぎていないでしょうか。
標準授業時数を大きく超える教育課程を、明確な理由もなく毎年組んでいないでしょうか。
新しい取組を始めるたびに、既存の取組へ上乗せしていないでしょうか。
これからの教務主任には、
「何を入れるか」だけではなく、「何を減らすか」「何をやめるか」を考える力
も必要です。
教育活動は、多ければ多いほどよいわけではありません。
限られた時間を何に使うかを決めることも、教育課程編成です。

22.「時数を管理する教務」から「学びの質を設計する教務」へ

授業時数が数字上確保されていれば、それだけで教育課程が適切とは言えません。
授業時間はあります。
しかし、行事が多く単元が細切れになっています。
予定どおり授業は進んでいます。
しかし、生徒がじっくり考える時間がありません。
標準授業時数を大きく上回っています。
しかし、生徒も教師も余裕がありません。
そのような状態であれば、教育課程全体を見直す必要があります。
次期学習指導要領に向けた議論でも、学習内容の構造化や精選、柔軟な教育課程、余白の創出などを通して「深い学び」を実現する方向が検討されています。
教務主任が見るべきなのは、
「何時間やったか」だけではなく、「その時間によってどのような学びが実現したか」です。
もちろん、必要な授業時数を確保することは大前提です。
その上で、時間の量と学びの質を両方見ることが、これからさらに重要になります。

23.情報活用能力の強化を学校全体で考える

次期学習指導要領に向けた検討では、情報活用能力の抜本的な強化も大きなテーマになっています。
2026年現在、中学校段階における情報・技術教育の在り方についても具体的な検討が進められています。
AI。
メディアリテラシー。
プログラミング。
情報の信頼性。
データの活用。
情報モラル。
これらは、一つの教科だけに任せればよいものではありません。
国語で情報を吟味します。
社会で統計や資料を読みます。
数学でデータを分析します。
理科で結果を整理します。
総合的な学習の時間では、情報を収集し、整理し、発信します。
生成AIも含め、デジタルをどのように学びに生かすのかを学校全体で考える必要があります。
また、新しい教育内容が導入されれば、
時間割。
授業時数。
担当教員。
免許。
研修。
ICT環境。
他教科との関連。
など、教務にも直接影響します。
教科を超えて学校全体の学びを見る視点
が、教務主任には一層必要になります。

24.次期学習指導要領を確定事項として扱わない

次期学習指導要領について情報を集めるときに、最も大切なのは、
現在の制度と、検討中の制度を混同しないことです。
2026年8月現在、次期学習指導要領はまだ確定していません。
今後、中央教育審議会での答申、学習指導要領の改訂、移行期間等を経て実施されることになります。
現在検討されている制度や教科構成についても、今後変更される可能性があります。
したがって教務主任としては、
現行制度は正確に運用する。
次期制度は文部科学省の一次資料で確認する。
報道や二次情報だけで判断しない。
検討中の案を確定事項として扱わない。
正式決定後、自校の教育課程へどう反映するかを考える。
という姿勢が必要です。
制度が変わるから慌てるのではなく、制度が変わっても判断できる力を身に付けておくこと。
これが重要です。

25.教務主任がすべてを背負わない

教務主任になると、さまざまな相談が来ます。
「時間割を変えられませんか」
「この日は授業できますか」
「この活動は何時間扱いですか」
「来月の日程はどうなっていますか」
そのすべてに、その場で答える必要はありません。
分からなければ、
「確認します」
で構いません。
法令を確認します。
通知を確認します。
前年度の経緯を確認します。
担当者に聞きます。
管理職と相談します。
その上で回答します。
早く答えることより、正確に判断することの方が重要です。
また、教務主任が何でも抱え込むと、そのこと自体が学校のリスクになります。
任せられる仕事は任せます。
確認してもらえるものは確認してもらいます。
校長、教頭、各主任、学年、教科、事務職員などと連携します。
教務主任の力量は、
「一人で何でもできること」ではなく、「人と情報をつなぎ、組織として仕事を進められること」
に表れます。

26.初めての教務主任が確認したい12項目

□1 教務主任の役割と、自校で担当する具体的な業務を確認していますか。
□2 校長・教頭と、今年度の重点や役割分担を確認していますか。
□3 前年度一年分の教務資料に目を通していますか。
□4 年間、学期、月、週の仕事を一覧にしていますか。
□5 教育課程や授業時数について、前年度資料だけでなく現在の正式な資料を確認していますか。
□6 時間割作成の「必須条件」と「希望条件」を分けていますか。
□7 声の大きさではなく、学校全体として説明できる基準で調整していますか。
□8 時間割や重要資料を複数の目で確認する仕組みがありますか。
□9 重要な情報や判断の経緯を、自分一人だけが持っていませんか。
□10 判断に迷ったとき、一人で抱えず管理職や関係者と確認していますか。
□11 次期学習指導要領の検討状況を、文部科学省などの一次資料で継続して確認していますか。
□12 「前年どおり」を前提にせず、生徒の学びと教職員の持続可能性の両面から教育課程を見直していますか。
初めからすべてできる必要はありません。
しかし、この12項目を意識しておくだけでも、教務主任として学校を見る視点は変わります。

27.教務主任は「次の学校」を準備する

教務主任の仕事には、目立たない仕事がたくさんあります。
時間割が問題なく動く。
予定どおり授業が始まる。
行事の日程が重ならない。
必要な資料が必要な時期に出る。
授業時数に大きな問題がない。
教育課程が適切に実施される。
何事もなく一日が終われば、誰にも気付かれない仕事もあります。
しかし、その「何事もなく学校が動く」状態を支えているのが教務の仕事です。
そして、これからの教務主任には、もう一つの役割があります。
今年度を動かしながら、次年度を考えます。
現行の学習指導要領を正確に運用しながら、次期学習指導要領の動きを見ます。
学校の課題を把握します。
生徒の学び方の変化を見ます。
教職員の働き方も見ます。
そして、
「今までこうしてきたから」ではなく、「これからの学校にも、この仕組みは必要か」
と問い続けます。
教育課程の柔軟性が高まれば、自動的によい教育になるわけではありません。
自由度が高まるほど、
何のために。
どの時間を。
何に使い。
どのような学びを実現するのか。
学校自身が考え、説明する必要があります。
その中心的な役割を担う一人が教務主任です。
これからの教務主任には、
「制度を正確に運用する力」と「教育課程を構想する力」の両方が必要です。
時間割をつくる。
授業時数を確認する。
年間計画を整える。
一見すると事務的な仕事に見える一つ一つの先には、生徒の毎日の学びがあります。
教務主任の仕事の中心には、いつも生徒の学びがあります。
この原点を忘れず、学校の現在を支えながら、少し先の学校を準備していきたいものです。

参考資料

文部科学省「学校に置かれる担当者・組織関係法令」
文部科学省「中学校学習指導要領」
文部科学省「教育課程を適切に実施するために必要な指導時間の確保」
文部科学省「教育課程企画特別部会における論点整理について」
文部科学省「教育課程企画特別部会 論点整理」
文部科学省「調整授業時数制度等の具体化について」
文部科学省「情報・技術ワーキンググループ関係資料」

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