中1ギャップを学習面から考える|中学校入学時の「学びにくさ」を学校側から減らす

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中学校へ入学すると、学習についていくことが難しくなる生徒がいます。
授業内容が難しくなったから。
家庭学習が足りないから。
本人のやる気がないから。
そのように説明したくなることがあります。
しかし、もう少し広く考える必要があります。
小学校から中学校への移行では、学習内容だけでなく、教師、教室、時間割、教材、提出方法、評価、授業の進め方、人間関係など、学校生活を構成する多くの条件が同時に変わります。
研究でも、小学校から中学校への移行は学習指導・生徒指導上の課題の一つとして扱われており、移行後の変化はすべての生徒に同じ形で現れるわけではないことが指摘されています。(J-STAGE)
大切なのは、
「中学生になったのだから慣れなければならない」と生徒だけに適応を求めるのではなく、学校側にも減らせる負荷がないかを考えること
です。

1.「中1ギャップ」を一つの原因で説明しない

「中1ギャップ」という言葉は広く使われていますが、これを一つの現象、一つの原因として考えない方がよいでしょう。
中学校入学時には、
・教科担任制になる(関わる先生が多くなる)
・学習内容が難しくなる(時間割においても苦手な教科が並ぶ日(学級)もある)
・授業の進め方が変わる(先生が教科により変わるので、それぞれの先生のカラーがでる)
・定期テストが始まる
・提出物の種類が増える
・校舎や教室を移動する
・部活動が始まる
・友人関係が変化する
・生活時間が変わる
など、複数の変化が重なります。
さらに、それぞれの変化をどの程度負担に感じるかも生徒によって違います。
ある生徒には教科担任制が新鮮で楽しい。
別の生徒には、教師ごとにルールを切り替えることが大きな負担になる。
同じ環境でも反応は異なります。
したがって、
「中1ギャップの原因は○○だ」と単純化しないこと
が出発点になります。

2.教科担任制そのものを問題にしない

以前のこの記事では、「指導する教師の数が増えること」を学習面の中1ギャップの最も大きな原因としていました。
この部分は修正します。
教師が複数になること自体が悪いわけではありません。
むしろ教科担任制には、
・専門性の高い授業を受けられる
・複数の教師と関係を築ける
・一人の教師だけでは気付けないよさを見てもらえる
・多面的に生徒を理解できる
という利点があります。
現在では、小学校高学年でも教科担任制の導入が進められています。文部科学省も、その効果として授業の質の向上、多面的な児童理解、教師の負担軽減とともに「小・中学校間の円滑な接続」を挙げています。(文部科学省)
問題になる可能性があるのは、
教師が替わることではなく、教師が替わるたびに学習とは直接関係のないルールまで大きく変わること
です。

3.生徒は教科だけでなく「教師ごとのシステム」に適応している

中学校では、例えば次のような違いが生まれます。
・授業開始時の流れ
・教材の置き場所
・ノートの使い方
・プリントの保管方法
・宿題の出し方
・提出期限
・提出場所
・ICT端末の使い方
・欠席したときの学習方法
・再提出の方法
・小テストの方法
・質問の仕方
一つ一つは小さな違いです。
しかし、生徒側から見ると、これを複数教科について覚え、毎時間切り替えなければなりません。
これは学習内容そのものとは別の認知的な負荷です。
特に、
「次に何をするのか」を整理することが苦手な生徒、
複数の指示を保持することが難しい生徒、
見通しが立たない状況に強い不安を感じる生徒、
読むことや書くことに困難のある生徒などにとっては、小さな違いの積み重ねが大きな負担になる場合があります。
「何度言っても準備できない」
だけで終わらせず、
「準備できるような環境になっているだろうか」
と考える視点が必要です。

4.学習内容そのものも確実に変化する

一方で、何でも学校のシステムの問題にするのも適切ではありません。
中学校では学習内容そのものも高度になります。
興味深い研究があります。
新井庭子らは、小学校と中学校の理科教科書を計量的に分析し、中学校の教科書では特に文章の係り受け関係の複雑さに差が見られることを報告しています。つまり、学習内容だけでなく、教科書を「読む」という行為そのものの難度も変化する可能性があるということです。
例えば、
「授業は聞いているのに理解できない」
「教科書を読んでも意味が分からない」
「問題文の意味を取り違える」
という生徒に対して、
「もっと集中しなさい」
だけでは解決しません。
語彙なのか。
文章構造なのか。
前提となる知識なのか。
課題の意味理解なのか。
どこでつまずいているのかを見る必要があります。

5.「小学校ではできていた」を重要な情報として扱う

中学校へ入って急に学習が難しくなった生徒がいたとします。
そのとき、
「中学校の勉強についてこられない生徒」
と見るだけでは情報が足りません。
小学校ではどうだったのかを確認します。
小学校では一人で準備できていたのか。
どのような支援があったのか。
プリントはどう管理していたのか。
宿題はどう確認していたのか。
板書を写すことはできていたのか。
口頭指示は理解できていたのか。
どの教科に得意・不得意があったのか。
困ったときに質問できていたのか。
環境が変わった後に表面化した困難であれば、
「能力が落ちた」のではなく、「以前は環境によって支えられていた部分が見えた」
可能性もあります。
移行期だからこそ、小学校から引き継いだ情報を「配慮が必要な生徒だけの情報」にせず、学習を支える情報として活用する必要があります。

6.最初の数か月は「慣れさせる」より「見通せる」ことを重視する

中学校では、
「そのうち慣れる」
という言葉を使うことがあります。
確かに、時間とともに慣れることもあります。
しかし、
慣れるまで困らせる必要はありません。
中学1年生の初期には、例えば、
・今日使う教材を明示する
・授業の流れを見えるようにする
・提出先を固定する
・締切を一か所でも確認できるようにする
・欠席した場合の確認方法を決める
・学習用ICTの入口を整理する
・必要以上に複雑な独自ルールをつくらない
といった工夫ができます。
これは生徒を甘やかすことではありません。
不要な負荷を減らして、
本来学ぶべき教科内容に力を使える環境をつくること
です。

7.揃えるべきものと、揃えなくてよいものを分ける

ここで、「すべての教師が同じ授業をすればよい」と考えるのも違います。
教師にはそれぞれの専門性があります。
教科によって学び方も異なります。
国語と体育の授業を同じ形式にする必要はありません。
数学と美術で同じノートを使わせる必要もありません。
統一そのものを目的にしないことです。
学校や学年で話し合いたいのは、
違うことに教育的な意味があるのか
という点です。
例えば、提出場所が教師によって違うことに教育的な意味があるでしょうか。
欠席時の連絡方法が教科ごとに全く違う必要があるでしょうか。
ICTで課題を出す場所が複数に分散している必要があるでしょうか。
反対に、教科特有のノートの使い方や思考方法には、違いがあること自体に意味があります。
揃えるために揃えるのではなく、生徒の学びにとって合理的かどうかで判断する。
これが重要です。

8.教材・提出物の管理も「学習支援」の一部

中学生は多くの教材を扱います。
教科書。
ワーク。
資料集。
ノート。
プリント。
ファイル。
ICT端末。
実技教科の教材。
そして、それぞれに提出期限があります。
これを管理できることと、数学を理解できることは別の能力です。
ところが、学校では時に、
「提出物を忘れる=学習意欲がない」
と短絡してしまいます。
そこは慎重に考える必要があります。
忘れ物が続く場合には、
・持ち物が分かっているか
・一覧で確認できるか
・保管場所が決まっているか
・提出期限を記録できているか
・複数の提出方法が混在していないか
・本人に合った管理方法があるか
などを確認します。
生徒指導提要も、学習上のつまずきについて、単に内容理解だけでなく、発達上の理由や友人関係など様々な背景を考え、一人ひとりの学習状況をきめ細かく把握することを求めています。(文部科学省)

9.「忘れ物」をそのまま教科の評価にしない

旧記事では、
「忘れ物を『関心・意欲・態度』として評価する教師がいる」
という問題提起をしていました。
現在は評価の観点自体が変わっており、「関心・意欲・態度」ではなく、「主体的に学習に取り組む態度」を含む三観点による評価となっています。
ここで大切なのは、
忘れ物や提出回数といった行動を、そのまま教科の学習評価に置き換えないこと
です。
教材を忘れた事実があるなら、その事実について指導や支援は必要です。
しかし、
「教科書を3回忘れたから主体的に学習に取り組む態度を下げる」
という単純な評価にはしません。
学習評価は、各教科で育成を目指す資質・能力について、学習の過程や成果を捉えるものです。
生活上・管理上の課題と、教科で何を身に付けたかを混同しないことが重要です。

10.「できない生徒」ではなく「どこで止まっているか」を見る

「勉強についていけない」という言葉も、大きすぎます。
実際には、
授業内容が理解できない。
教科書が読めない。
黒板を書き写すのに時間がかかる。
課題の意味が分からない。
提出物を管理できない。
宿題を始められない。
質問の仕方が分からない。
定期テストの勉強方法が分からない。
学校に来るだけで疲れている。
など、全く異なる状態が含まれています。
文部科学省の『生徒指導提要』では、教科の授業そのものをすべての児童生徒を対象とする発達支持的生徒指導の場と位置付け、「自己存在感の感受」「共感的な人間関係の育成」「自己決定の場の提供」「安全・安心な風土の醸成」という視点を示しています。(文部科学省)
つまり、
授業で困っている生徒を授業の外だけで支援するのではなく、授業そのものを学びやすくする
という発想が重要になります。

11.担任一人で抱えない

中学校の強みは、多くの教師が一人の生徒を見ることです。
数学ではよく質問する。
英語ではほとんど話さない。
体育では友達を助けている。
朝は元気だが午後になると集中が落ちる。
一人の教師だけでは見えない姿が見えてきます。
だからこそ、
「数学ではどうですか」
「他教科でも提出が難しいですか」
「ICTで出す課題なら取り組めていますか」
「小学校ではどのような支援をしていましたか」
と情報をつなぎます。
『生徒指導提要』でも、学年会、教科部会、生徒指導部会、教育相談部会、ケース会議などを通じ、複数の教職員が情報を共有し、個人でできること、連携して行うこと、全教職員で共通して行うことを整理することが示されています。(文部科学省)
「担任が何とかする」でも、「教科担当が何とかする」でもなく、チームで学習環境をつくる。
中学校だからこそできる支援です。

12.小学校との接続を「引継ぎ」で終わらせない

小中連携というと、3月に小学校から情報を受け取り、4月に中学校へ引き継ぐことを想像しがちです。
しかし、本来の接続はそれだけではありません。
どのような授業を受けてきたのか。
どのようにICTを使ってきたのか。
どのような課題提出方法だったのか。
どのように自主学習をしていたのか。
どのような支援が有効だったのか。
こうした「学び方」を小中で理解しておくことが重要です。
現在、小学校高学年に教科担任制が導入されている背景の一つにも、小・中学校間の円滑な接続があります。(文部科学省)
小学校を中学校化する必要はありません。
中学校を小学校化する必要もありません。
互いの教育のよさと違いを理解した上で、子どもにとって急激すぎる段差を小さくすること
が接続だと考えます。

13.個別最適な学びの視点から「同じ支援」にこだわらない

全員に同じ説明をする。
全員に同じ教材を持たせる。
全員に同じ方法で提出させる。
全員に同じ時間で取り組ませる。
一見すると公平です。
しかし、同じ条件を与えることと、学習機会を保障することは同じではありません。
文部科学省は「個に応じた指導」について、学習者の側から整理した概念を「個別最適な学び」とし、ICTも活用しながら、児童生徒自身が自分にふさわしい学習方法を模索できるようにすることを重視しています。(文部科学省)
例えば、
紙で予定を管理する方がよい生徒もいます。
ICTで一覧を見る方がよい生徒もいます。
一度に全部説明されるより、手順を分けてもらう方がよい生徒もいます。
自分で進められる生徒には、過剰な管理をしない方がよいこともあります。
全員を同じ方法に合わせるのではなく、学習目標へ到達するための方法には幅を持たせる。
この考え方は、これからさらに重要になります。
次期学習指導要領に向けた2026年の検討でも、「多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程」「デジタル学習基盤」「個別最適な学びと協働的な学び」などが主要な論点として整理されています。(文部科学省)

14.中学校側ができる具体的なチェック

中学1年生の学習環境について、年度当初に次の点を学年・学校で確認してみるとよいでしょう。
・教科ごとの提出方法が必要以上に複雑になっていないか
・宿題や提出期限を生徒自身が一覧で確認できるか
・学校に置いてよい教材が分かるか
・教材の保管場所が分かるか
・欠席した場合に学習内容を確認する方法があるか
・ICT上の課題提出場所が整理されているか
・授業の見通しを持てるようになっているか
・困ったときに質問する方法が分かるか
・小学校で有効だった支援を把握しているか
・学習上の困難を「やる気」の一言で処理していないか
・教師間で共通化した方がよいことを話し合っているか
・個人差に応じて方法を選択できる部分があるか
全項目を統一する必要はありません。
一つずつ、
「これは教師にとって便利だから行っているのか、生徒の学びに必要だから行っているのか」
と問い直します。

15.中1ギャップを生徒だけの「適応問題」にしない

中学校へ進学すれば、環境が変わります。
ある程度の変化に対応する経験そのものには意味があります。
何もかも小学校と同じにする必要はありません。
しかし、
「中学生になったのだから、自分でできて当然」
という一言で終わらせるのも違います。
生徒がつまずいたとき、
本人の努力。
学習内容。
教材。
授業。
学校の仕組み。
教師間の違い。
人間関係。
生活。
心身の状態。
いくつもの可能性から考えます。
小学校から中学校への移行期は、生徒にだけ変化を求める時期ではありません。
学校側も、「この仕組みは本当に学びやすいか」を見直す時期
です。
中学校の専門性を大切にしながら、不要な段差は小さくする。
困っている生徒を見つけたら、その生徒だけを変えようとする前に、環境に変えられるところがないか考える。
その視点が、学習面から「中1ギャップ」を考えるときの出発点だと思います。

参考資料

文部科学省「生徒指導提要(改訂版)」 (文部科学省)
文部科学省「小学校高学年における教科担任制に関する事例集~小学校教育の活性化に繋げるために~」 (文部科学省)
文部科学省「育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び」 (文部科学省)
中央教育審議会教育課程企画特別部会「論点整理」 (文部科学省)
新井庭子ほか「テキストの読みを困難にする特徴の計量分析―小・中理科教科書を対象として―」『計量国語学』31巻2号
日本教育心理学会「縦断的な視点に基づく教授・学習研究」『教育心理学年報』59巻 (J-STAGE)

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