修学旅行や宿泊学習の準備では、行程表、持ち物、班編成、部屋割り、健康調査、保護者への説明など、多くの仕事が同時に進みます。
その中心にあるのが「しおり」です。
しおりは、生徒に予定を知らせるためだけの冊子ではありません。
「何のために行くのか」
「次に何をするのか」
「困ったときにどうするのか」
を、生徒・保護者・教職員が共有するためのものです。
そして、修学旅行で最も優先しなければならないのは安全です。
文部科学省は2026年4月、校外活動について、事前の計画、安全確認、緊急連絡体制、現地固有のリスクの把握などを改めて求めています。
この記事では、中学校の修学旅行・宿泊学習のしおりを作るときに必要な項目を、文章例やチェック項目とともにまとめます。
- 1.修学旅行の目的を最初に共有する
- 2.しおりに入れる基本項目
- 3.基本情報の文章例
- 4.行程表は「次に何をするか」が分かる形にする
- 5.持ち物はチェックできる形にする
- 6.健康・服薬・アレルギーは個別に確認する
- 7.修学旅行での医療保険資格を確認する
- 8.ルールは「禁止事項集」にしない
- 9.「連帯責任」に頼らない
- 10.スマートフォン・写真・SNSのルールを明確にする
- 11.航空機を利用する場合は最新情報を確認する
- 12.2026年からは移動そのものの安全確認も重要になる
- 13.現地下見では「行程」だけでなく危険を確認する
- 14.班別活動では「はぐれたとき」を決めておく
- 15.班編成・部屋割りでは多様な事情を考える
- 16.引率教員の役割分担を明確にする
- 17.教員用の出発前チェックリスト
- 18.事前学習・現地での体験・事後学習をつなぐ
- 19.しおりの最後に振り返りを入れる
- 20.しおりは「管理するため」ではなく「自分で動けるようにするため」に作る
- 参考資料
- 参考研究
1.修学旅行の目的を最初に共有する
修学旅行は、単なる旅行ではありません。
学校教育の一環として行う教育活動です。
しおりを作るときも、最初に「何を学ぶのか」を明確にします。
例えば、次のように書けます。
目的の文章例
・訪問する地域の歴史、文化、自然、産業などを、実際に見たり聞いたり体験したりしながら学びます。
・班や学級の仲間と話し合い、自分たちで考えて行動する経験を積みます。
・公共の場で、周囲の人への配慮を考えて行動します。
・普段とは異なる生活環境の中で、自分や仲間の新しい一面に気付きます。
・修学旅行で得た学びや経験を、その後の学校生活につなげます。
「自主」「自立」「協力」といった言葉だけを並べるより、「どのような行動を期待しているのか」まで具体化した方が、生徒には伝わります。
2.しおりに入れる基本項目
しおりには、少なくとも次の内容を入れておくと使いやすくなります。
①修学旅行・宿泊学習の目的
②実施日
③行き先
④宿泊先
⑤集合・解散
⑥全体行程表
⑦班別活動
⑧持ち物
⑨服装
⑩健康・服薬・アレルギー等
⑪生活上の約束
⑫スマートフォン・カメラ等の扱い
⑬交通機関利用時の注意
⑭緊急時の対応
⑮緊急連絡先
⑯班編成
⑰バス・鉄道・航空機等の座席
⑱部屋割り
⑲振り返り
重要なのは、情報量を増やすことではありません。
生徒が必要な情報をすぐに探せることです。
3.基本情報の文章例
実施日
○年○月○日(○)~○月○日(○)
○泊○日
行き先
1日目
学校→○○→○○体験→○○見学→宿泊施設
2日目
宿泊施設→班別活動→○○体験→宿泊施設
3日目
宿泊施設→○○見学→○○→学校
宿泊先
施設名:○○ホテル
所在地:○○県○○市○○
電話:○○-○○○○-○○○○
集合
○月○日(○)午前○時○分
場所:○○
解散予定
○月○日(○)午後○時○分
場所:○○
※交通状況や天候等によって変更する場合があります。
4.行程表は「次に何をするか」が分かる形にする
行程表では、時刻だけではなく、その時間に何をするのかを書きます。
行程表例
7:30 学校集合
出欠確認・健康観察
7:45 出発式
8:00 学校出発
クラスごとに指定されたバスへ乗車
10:00 ○○到着
人数確認・トイレ
10:15 体験活動
班ごとに活動
12:00 昼食
13:00 班別活動開始
班員・連絡手段を確認して出発
16:30 集合
班ごとに人数確認
17:00 宿泊施設へ移動
18:00 宿泊施設到着
荷物整理・健康確認
生徒用の行程表に、旅行会社との細かな打合せ事項まで載せる必要はありません。
「いつ」「どこで」「何をする」「次に何を準備する」が分かれば十分です。
5.持ち物はチェックできる形にする
持ち物は、「全員が必要なもの」と「必要に応じて持参するもの」に分けると分かりやすくなります。
全員が必要なもの
□しおり
□筆記用具
□水筒
□着替え
□下着・靴下
□洗面用具
□タオル
□ハンカチ・ティッシュ
□雨具
□活動に必要な服・靴
□学校から指定されたもの
必要に応じて持参するもの
□常用薬
□酔い止め
□生理用品
□眼鏡・コンタクト用品
□防寒着
□帽子
□健康や生活上必要なもの
持ち物は毎年同じものを流用するのではなく、行き先、季節、活動内容、宿泊施設の設備に合わせて確認します。
6.健康・服薬・アレルギーは個別に確認する
修学旅行は、学校を離れて長時間、場合によっては数日間生活する行事です。
事前に、
・持病
・食物アレルギー
・その他のアレルギー
・常用薬
・乗り物酔い
・睡眠上の配慮
・食事上の配慮
・身体活動上の配慮
・緊急時の対応
などを確認します。
薬についても、一律に同じ方法で管理するのではなく、本人が普段どのように服用しているか、保護者からどのような依頼があるか、学校としてどのように支援するかを事前に整理します。
必要な情報は、養護教諭だけが知っていればよいわけではありません。
緊急時に対応する可能性のある教職員が、必要な範囲で共通理解しておくことが重要です。
7.修学旅行での医療保険資格を確認する
2026年現在、持ち物欄に「健康保険証のコピー」と書くことはできません。
従来の健康保険証は2025年12月1日で有効期限が終了しています。
厚生労働省は、修学旅行等で本人がマイナ保険証を持参することが容易でない場合について、
・マイナポータルに表示される被保険者資格情報PDFまたはその印刷物
・資格情報のお知らせまたはその写し
を提示する方法を示しています。
マイナ保険証を保有していない場合には、資格確認書またはその写しを利用する方法も示されています。
具体的に何を学校で預かるかについては、設置者や教育委員会の取扱いも確認し、保護者へ明確に知らせます。
8.ルールは「禁止事項集」にしない
修学旅行には一定の約束が必要です。
ただし、
「○○禁止」
「○○厳禁」
を大量に並べても、生徒が自分で考えて行動することにはつながりません。
例えば、
集合時刻を守る
学年全体が安全に次の活動へ移動するためです。
公共交通機関では周囲へ配慮する
自分たちだけで使用している空間ではないためです。
就寝時刻以降は静かに過ごす
仲間や他の宿泊客の休息を守るためです。
というように、理由まで共有します。
教師が全てのルールを決めるのではなく、事前学習の中で、
「どんな約束があれば全員が安心して活動できるだろう」
と生徒に考えさせることもできます。
2026年8月時点の次期学習指導要領に向けた特別活動の検討でも、修学旅行について、活動目標、活動計画、役割分担を話し合い、合意形成や意思決定を行い、実践後に振り返る流れが示されています。これは現行学習指導要領そのものではありませんが、今後の方向を見る資料として参考になります。
9.「連帯責任」に頼らない
一人の生徒が約束を守れなかったときに、班員全員や部屋全員を一律に罰する方法は避けます。
まず事実を確認します。
なぜその行動が起きたのかを確認します。
必要な指導や支援を本人に行います。
周囲の生徒に課題がある場合は、それぞれの事実に応じて対応します。
「一人が違反したから全員の自由時間をなくす」といった対応ではなく、行動と指導の関係が分かる対応にします。
修学旅行は、規則に従わせることだけを目的とした行事ではありません。
自分で考え、周囲と調整しながら行動する経験をつくることも大切です。
10.スマートフォン・写真・SNSのルールを明確にする
スマートフォンについては、「持込禁止」か「自由使用」かの二択で考える必要はありません。
学校の方針や修学旅行の目的に合わせて、使用できる場面を具体化します。
例えば、
・班別活動中の地図や交通検索
・写真撮影
・学校との緊急連絡
・決められた自由時間
などです。
一方で、
・他人の写真や動画を本人の了承なくSNS等へ投稿しない
・宿泊施設で睡眠を妨げる時間まで使用しない
・歩きながら操作しない
など、安全、プライバシー、生活面から必要な約束を整理します。
教員が端末を一時的に預かる運用を行う場合は、預かる条件、保管方法、返却方法、紛失・破損時の対応まで事前に決めておきます。
11.航空機を利用する場合は最新情報を確認する
航空機の持込制限について、「金属だから禁止」という判断はしません。
危険物や手荷物のルールは品目によって異なるため、国土交通省と利用する航空会社の最新情報を確認します。
特に注意したいのがモバイルバッテリーです。
2026年4月24日から、機内持込みのモバイルバッテリーについて、
・2個まで
・160Wh以下
・預け入れ荷物には入れない
・機内でモバイルバッテリー自体を充電しない
・機内でモバイルバッテリーから電子機器を充電しない
というルールが適用されています。さらに、頭上の収納棚ではなく手元で保管することも示されています。
航空会社がさらに厳しいルールを設定している場合もあるため、出発年度ごとに確認します。
12.2026年からは移動そのものの安全確認も重要になる
2026年6月30日、文部科学省と国土交通省は「学校教育等に関する移動の安全確保のための対策」をまとめました。
貸切バスやタクシーを利用する場合には、
・国による許可や登録を受けた事業者であるか
・契約内容を書面で確認しているか
・貸切バスでは運送引受書を受領しているか
・乗車前に緑ナンバー等を確認しているか
などを学校側でも確認することが示されています。
旅行会社へ依頼しているから、学校は確認しなくてよいということではありません。
校外活動の安全確保は学校の責任の下で行います。
13.現地下見では「行程」だけでなく危険を確認する
2026年4月の文部科学省通知では、校外活動について事前に確認すべき内容が具体的に示されています。
例えば、
・津波、土砂災害等の地域固有のリスク
・活動場所周辺のAED
・医療機関
・警察署等
・避難経路
・避難場所
・緊急時の情報収集方法
・訪問先や宿泊先との安全面の調整
・引率者間の連絡方法
などです。
「旅行会社が下見をしているから大丈夫」ではなく、学校として確認します。
そして、必要な情報は教員用資料だけに置くのではなく、生徒が知っておく必要のある内容はしおりにも反映します。
14.班別活動では「はぐれたとき」を決めておく
班別活動を行う場合、予定どおりに進むことだけを想定してはいけません。
・班員とはぐれた
・電車やバスに乗り遅れた
・予定していた交通機関が止まった
・スマートフォンが使えなくなった
・体調不良者が出た
・災害が発生した
という場合にどうするかを事前に決めます。
「困ったら先生に連絡する」だけではなく、
「どこへ」
「何を使って」
「誰に」
連絡するのかまで明確にします。
文部科学省も、児童生徒が教職員から離れて活動する場合には、報告体制や学校・保護者・関係機関との緊急連絡体制を整えることを求めています。
15.班編成・部屋割りでは多様な事情を考える
班編成や部屋割りは、教師側の管理のしやすさだけで決めません。
人間関係、健康状態、障害や特性、生活上の配慮、本人から相談されている事情などを確認します。
必要な場合には、本人や保護者と相談して方法を考えます。
また、災害時の伝達方法や避難方法についても、障害や特性に応じた準備が必要です。
文部科学省の2026年通知でも、障害のある児童生徒等が在籍する場合には、特性に応じた伝達方法や避難経路・避難体制を整えるよう示されています。
「全員同じ」が公平なのではなく、全員が安心して参加できるよう必要な配慮を行うことが重要です。
16.引率教員の役割分担を明確にする
修学旅行は、担当者一人で運営する仕事ではありません。
事前に、
・総括
・健康管理
・会計
・交通
・宿泊
・班別活動
・緊急連絡
・保護者対応
などの担当を確認します。
さらに、「通常時の担当」だけでなく、事故や災害が起きたときに誰が何をするかまで決めておきます。
学年主任が行事全体を見渡すときの考え方については、中学校の学年主任の役割と仕事でも詳しくまとめています。
17.教員用の出発前チェックリスト
□修学旅行の教育的な目的を共有した
□生徒・保護者に行程や活動内容を説明した
□現地下見・最新情報を確認した
□地域固有の災害リスクを確認した
□荒天・災害・交通障害時の代替案を準備した
□緊急連絡体制を確認した
□現地の医療機関・AED等を確認した
□健康上の配慮が必要な生徒を確認した
□食物アレルギーへの対応を確認した
□服薬への対応を確認した
□合理的配慮が必要な生徒への対応を確認した
□宿泊施設と安全面の打合せを行った
□班別活動中のトラブル対応を確認した
□引率教員の役割分担を確認した
□交通事業者の許可・登録等を確認した
□契約内容を書面で確認した
□貸切バスの場合は必要な書類を確認した
□航空機利用時の手荷物ルールを最新情報で確認した
□生徒用しおりと教員用資料の内容に矛盾がないか確認した
新年度から行事を含めて確認したい項目については、中学校教師の新年度準備チェックリストも参考になります。
18.事前学習・現地での体験・事後学習をつなぐ
修学旅行は、出発した日から始まるわけではありません。
事前に地域について調べる。
自分たちで課題を設定する。
行程や役割について話し合う。
現地で人や文化、自然、産業と出会う。
疑問に思ったことを調べる。
帰校して、情報を整理する。
自分の考えをまとめる。
そして、学校生活やその後の学習につなげる。
この一連の流れを設計しておくことで、修学旅行は「思い出をつくる行事」だけではなく、実際の学びになります。
2025年の教育旅行に関する研究でも、中学生の地域密着型教育旅行について、実体験からの気付きや、自ら問題や解決方法を発見する姿などが報告されています。事例研究であるため一般化には注意が必要ですが、体験そのものだけでなく、体験から何を見いだすかを設計する重要性を考える材料になります。
19.しおりの最後に振り返りを入れる
しおりの最後には、振り返りを書くページを用意します。
例えば、
「現地に行って初めて分かったこと」
「最も心に残った人・場所・出来事」
「班でうまくいったこと」
「うまくいかなかったことと、次に変えたいこと」
「仲間について新しく気付いたこと」
「自分自身について気付いたこと」
「これからの学校生活に生かしたいこと」
などです。
活動直後に書くだけでなく、事後学習で改めて考えると、経験を学びへつなげることができます。
20.しおりは「管理するため」ではなく「自分で動けるようにするため」に作る
分厚いしおりを作ることが目的ではありません。
教師から指示されなければ動けない生徒をつくることも目的ではありません。
生徒自身が、
「次は何をするのか」
「どこへ行けばよいのか」
「困ったときはどうするのか」
を自分で確認できる。
教師は安全を確保しながら、生徒が考え、判断し、仲間と協力できる場をつくる。
そのための道具が、しおりです。
修学旅行の準備を始めると、どうしても行程、交通、部屋割り、持ち物などの事務作業に追われます。
しかし、その中心には、
この修学旅行で、生徒にどのような経験をしてほしいのか
という問いがあります。
そこから逆算して、学び、安全、情報、役割を一つのしおりに整理していくことが大切です。
参考資料
・文部科学省「学校における校外活動の安全確保の徹底等について(令和8年4月7日)」
・文部科学省「学校教育等に関する移動の安全確保のための対策」のとりまとめについて(令和8年6月30日)
・厚生労働省「健康保険証の廃止に伴う修学旅行等の学校行事や部活動の合宿・遠征等における児童生徒本人の被保険者資格の確認方法について」
・厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)について」
・国土交通省「機内持込・お預け手荷物における危険物について」
・国土交通省「モバイルバッテリーの機内持込みの新たなルールについて」
・文部科学省「特別活動ワーキンググループ取りまとめ(案)」
参考研究
・山川拓也・中尾公一「地域密着型教育旅行の価値共創」『観光マネジメント・レビュー』Vol.5、2025
※「特別活動ワーキンググループ取りまとめ(案)」は2026年8月時点の次期学習指導要領に向けた検討資料であり、現行学習指導要領そのものではありません。

