教師として働いていると、毎日たくさんのことが起こります。
授業がうまくいった。
思っていたほど生徒が反応しなかった。
生徒への言葉掛けがうまくいかなかった。
保護者との話で考えさせられた。
会議で自分の意見を十分に伝えられなかった。
同僚の一言から、新しい考え方に気付いた。
しかし、次から次へと仕事が続く学校では、一つの出来事について立ち止まって考える時間を持たないまま、一日が終わることがあります。
経験するだけでも、教師はある程度成長します。
しかし、
経験したことを振り返り、そこから何を学び、次にどうするかを考えることで、経験はより大きな学びになります。
現在、文部科学省も教師の学びについて、研修を受講することだけでなく、「自らの経験や他者から学ぶ」といった現場での学び、適切な現状把握、主体的・自律的な目標設定を重視しています。(文部科学省)
教師にとっての振り返りとは、自分の失敗を探して反省する時間ではありません。
自分の実践を少し離れたところから見直し、次の行動を考える時間
です。
- 1.振り返りを「反省会」にしない
- 2.最初に「事実」を書く
- 3.「子どもの姿」から振り返る
- 4.「なぜ」を一回で終わらせない
- 5.教師自身の「意図」も振り返る
- 6.「もっと頑張る」を改善策にしない
- 7.一日のすべてを振り返らない
- 8.毎日振り返らなくてもよい
- 9.3分でできる振り返りを持つ
- 10.週・月・学期で振り返る内容を変える
- 11.一人で考えるだけが振り返りではない
- 12.振り返りには心理的安全性が必要
- 13.振り返りと「反すう」を分ける
- 14.「自分だけが悪かった」と考えすぎない
- 15.振り返りを勤務時間外の自己犠牲にしない
- 16.経験年数によって振り返る問いを変える
- 17.最後は「明日、一つ何を変えるか」で終える
- 教師のための5分振り返りシート
- 参考資料
1.振り返りを「反省会」にしない
振り返りというと、
「あそこがダメだった」
「もっとこうすればよかった」
「自分はまだ力がない」
と考えることがあります。
もちろん、改善点を見ることは必要です。
しかし、それだけでは振り返りが苦しい時間になります。
確認したいのは、
・何が起きたのか
・何がうまくいったのか
・何が想定と違ったのか
・なぜそうなったと考えるのか
・次に何を試すのか
です。
特に、
「うまくいったこと」を振り返る
ことは重要です。
授業で生徒がよく考えていた。
普段発言しない生徒が話した。
学級で自然に助け合う場面があった。
そのとき、
「今日はよかった」
で終わらせず、
「なぜ今日はうまくいったのだろう」
と考えます。
成功した実践にも、次に生かせる情報があります。
2.最初に「事実」を書く
振り返るときには、最初から評価しないことを勧めます。
例えば、
「今日の授業は失敗だった」
ではなく、
「発問後、発言した生徒は3人だった」
とします。
「Aさんはやる気がなかった」
ではなく、
「Aさんはワークシートには書いていたが、全体交流では発言しなかった」
とします。
事実と解釈を分けることで、
「本当にそうだったのか」
と考え直せます。
事実→解釈→次の行動
の順に考えるだけでも、振り返りはかなり変わります。
3.「子どもの姿」から振り返る
授業の振り返りでは、
「自分がうまく説明できたか」
だけを見ないようにします。
教師がよく話せたことと、生徒がよく学んだことは同じではありません。
見るのは、
生徒は何を考えていたか。
どこで迷っていたか。
どの発問で反応が変わったか。
誰と誰が関わっていたか。
どこで手が止まったか。
授業の最後に何を理解していたか。
です。
教師の行動ではなく、
教師の行動によって子どもに何が起こったのか
を見るようにします。
教師の省察に関する研究でも、観察可能な「授業」「子どもの姿」「教師の行為」を手掛かりに、その背景にある教師の意図や願いまで考えることが、実践を捉え直す契機になることが報告されています。(J-STAGE)
4.「なぜ」を一回で終わらせない
例えば、
「授業で生徒があまり発言しなかった」
とします。
「なぜだろう」
↓
「発問が難しかったから」
これで終わらせると、本当にそうだったか分かりません。
別の可能性もあります。
考える時間が短かった。
質問の意味が分かりにくかった。
全体の前では話しにくかった。
題材への知識が足りなかった。
教師がすぐ答えを求めすぎた。
ペアなら話していた。
発言しなくても頭の中では考えていた。
一つの出来事に対して、
複数の可能性を考える
ことが重要です。
「原因はこれだ」と早く決めないことで、生徒理解も授業理解も深まります。
5.教師自身の「意図」も振り返る
「何をしたか」だけではなく、
「なぜそれをしたのか」
も考えます。
なぜ、この発問をしたのか。
なぜ、その生徒に声を掛けたのか。
なぜ、そこで授業を止めたのか。
なぜ、その場では注意しなかったのか。
行動には、その教師なりの意図があります。
そこを言葉にすると、
「私は、生徒に自分で考えてほしかったのだ」
「全員を同じところまで進めることを優先していた」
「間違いを恐れて、説明しすぎていた」
という自分の教育観まで見えてくることがあります。
振り返りは、方法だけを修正するためのものではありません。
自分が教育で何を大切にしているのかを知る機会
にもなります。
6.「もっと頑張る」を改善策にしない
振り返りの最後が、
「もっと丁寧にする」
「もっと生徒を見る」
「もっと教材研究する」
だけになってしまうことがあります。
これでは次の日の行動が変わりません。
改善策は、できるだけ具体的にします。
「もっと生徒を見る」
ではなく、
「次の授業では、発問後すぐ指名せず30秒待つ」
とします。
「もっと分かりやすく説明する」
ではなく、
「説明を3分以内にして、その後に生徒が例をつくる時間を入れる」
とします。
振り返りは、次に試せる一つの行動まで落とす
ことが大切です。
7.一日のすべてを振り返らない
教師の一日は情報量が多いため、全部を振り返ろうとすると続きません。
授業5時間。
生徒対応。
会議。
校務。
保護者との連絡。
全部について考えていたら、それだけで大仕事になります。
一日一つで十分です。
「今日は3時間目の授業だけ」
「今日はAさんへの言葉掛けだけ」
「今日は会議での自分の発言だけ」
とします。
むしろ、
一つの出来事を少し深く考える
方が、次につながることがあります。
8.毎日振り返らなくてもよい
「毎日必ず振り返る」
と決める必要もありません。
忙しい日があります。
疲れている日もあります。
すぐに帰る必要がある日もあります。
毎日続けること自体を目標にすると、
「今日も振り返れなかった」
という新しい負担が生まれます。
文部科学省も、教師の研修履歴について、記録すること自体を目的化してはならないと明確にしています。(文部科学省)
振り返りも同じです。
記録を残すことが目的ではありません。
次の教育活動を少しよくすること
が目的です。
9.3分でできる振り返りを持つ
毎回長い文章を書く必要はありません。
例えば、帰る前に3分だけ、
①今日、印象に残った事実
②そこから考えたこと
③明日、一つ変えること
を書きます。
例です。
①3時間目、普段発言しないBさんがペアではよく話していた。
②全体発言だけを見て「参加していない」と考えるのは違うかもしれない。
③次回はペアで考えをつくった後、発言方法を複数用意する。
これだけでも振り返りになります。
長さより、
次の行動につながるか
を大切にします。
10.週・月・学期で振り返る内容を変える
振り返りには、時間の単位があります。
毎日
一つの出来事を見る。
毎週
繰り返している傾向を見る。
毎月
授業、学級、生徒対応、働き方などを少し広く見る。
学期末
何が変わったか、次の学期に何を大切にするかを考える。
年度末
一年間の経験から、自分の強み・課題・次に学びたいことを考える。
日々の振り返りだけでは見えないものがあります。
反対に、年度末だけ思い出そうとしても忘れていることがあります。
短い振り返りと長い時間軸の振り返りを組み合わせる
と、自分の変化が見えやすくなります。
11.一人で考えるだけが振り返りではない
振り返りというと、一人でノートを書く姿を想像しがちです。
もちろん、一人で考える時間には価値があります。
一方で、
他者と話すことで初めて気付くこと
もあります。
「今日の授業、どう見えましたか」
「この生徒への対応、どう思いますか」
「私はこう考えたのですが、別の見方がありますか」
と同僚に聞いてみます。
自分では当然だと思っていた判断が、他者から見ると違って見えることがあります。
教師の協同的な省察に関する研究でも、安心感のある関係の中で対話することによって、自分では自明だと思っていた認識の枠組みを問い直し、新たな理解が生まれることが示されています。(J-STAGE)
12.振り返りには心理的安全性が必要
他者との振り返りで最も避けたいのは、
「授業の悪いところを指摘する会」
になることです。
それでは教師は、自分の迷いや失敗を話さなくなります。
「なぜ、そんな指導をしたのですか」
と責められる場では、深い振り返りは起こりにくくなります。
大切なのは、
「そのとき、何を考えていましたか」
「子どもの姿をどう見ていましたか」
「別の方法があるとしたら、どんな方法でしょう」
と一緒に考えることです。
文部科学省も、教師同士の学び合い、協働的な職場環境、学校全体の学び合い文化を重視しています。(文部科学省)
振り返りには、失敗や迷いを話しても大丈夫だと思える関係が必要です。
13.振り返りと「反すう」を分ける
ここは非常に重要です。
振り返りが、
「あのとき、なぜあんなことを言ったのだろう」
「自分はダメだ」
「もっとできたはずだ」
と同じことを何度も考える状態になることがあります。
これは、次の行動を考える振り返りとは違います。
一般の心理学研究では、反すうの中でも、否定的なことを繰り返し考える「考え込み」と、問題を理解しようとする「省察的熟考」では、心理的な影響が異なる可能性が報告されています。ただし、この研究は大学生を対象としたものであり、教師にそのまま当てはめられるものではありません。(J-STAGE)
実践上は、
「考えた結果、次の選択肢が増えているか」
を一つの目安にするとよいと思います。
何度考えても、
自分を責めるだけ。
同じ場面を思い出すだけ。
苦しくなるだけ。
なら、一度考えることから離れます。
必要なら人に相談します。
振り返りは、自分を追い込むために行うものではありません。
14.「自分だけが悪かった」と考えすぎない
学校で起こる出来事は、一人の教師だけで決まるものではありません。
授業。
生徒の状態。
人間関係。
学級環境。
家庭状況。
時間帯。
教材。
学校の仕組み。
様々な要因が関係しています。
振り返りのたびに、
「自分の指導力不足だった」
と結論付ける必要はありません。
自分が変えられる部分。
学年で考える部分。
学校として改善する部分。
本人や家庭と相談する部分。
専門職と連携する部分。
を分けます。
自己省察と自己責任化は違います。
自分を振り返ることと、すべてを自分の責任にすることを混同しないことが大切です。
15.振り返りを勤務時間外の自己犠牲にしない
教師が学び続けることは重要です。
しかし、
毎晩長時間ノートを書く。
休日に仕事を振り返り続ける。
睡眠時間を削って教材研究する。
ことを前提にする必要はありません。
文部科学省は、学び続ける教師を支えるためには、働き方改革や指導・運営体制の充実を通して、教師が研修や学ぶ時間を確保することが必要だとしています。(文部科学省)
2026年4月からは、改正給特法等に基づき、教育委員会に業務量管理・健康確保措置の計画策定等も求められています。(文部科学省)
振り返りも、
会議の最後の5分。
授業後の数分。
校内研修。
学年会。
勤務時間内の短い対話。
などに組み込むことができます。
教師の成長を、勤務時間外の善意だけに依存させない
ことも重要です。
16.経験年数によって振り返る問いを変える
教師の経験によって、考えたい問いは変わります。
若手教師
「何が起きていたのか」
「次はどうすればよいか」
という具体的な実践を中心に考えます。
中堅教師・主任
「自分の行動だけでなく、周囲が動きやすい環境をつくれていたか」
「若手が相談しやすい状態だったか」
と組織まで視野を広げます。
管理職
「この問題を個人の能力の問題だけにしていないか」
「仕組みとして変えるところはないか」
「教職員が安心して振り返れる職場になっているか」
と考えます。
役割が変われば、
「自分が何をしたか」から「自分の働き掛けによって組織に何が起こったか」へ
振り返りの対象も広がっていきます。
17.最後は「明日、一つ何を変えるか」で終える
振り返りをした結果、
10個の改善点が見つかることがあります。
しかし、翌日から10個全部変えるのは難しいものです。
最後に一つ選びます。
明日は、発問後の待つ時間を取る。
明日は、Aさんにこちらから話しかける。
次の会議では、先に目的を確認する。
次の授業では、生徒の振り返りを一つ読む。
次に同じことが起きたら、一人で判断せず相談する。
小さくて構いません。
振り返り→一つ試す→また振り返る
という循環をつくります。
教師の学びについて文部科学省が重視しているのも、研修を受けた数を増やすことそのものではなく、現状を把握し、自らの経験や他者から学び、次の学びへつなげていく姿です。(文部科学省)
教師は、毎日たくさんの経験をしています。
うまくいったこと。
失敗したこと。
迷ったこと。
思いがけず生徒から教えられたこと。
同僚の姿から学んだこと。
それらを全部覚えておくことはできません。
だから、ときどき立ち止まります。
何が起きたのか。
自分はどう考えていたのか。
子どもはどうだったのか。
別の見方はないか。
次に何を一つ変えるのか。
振り返りは、過去を何度も見つめるためではなく、次の実践を少しよくするために行うものです。
そして、教師一人ひとりが安心して自分の実践を振り返り、同僚と語り合える学校には、学び続ける文化が生まれます。
「うまくいかなかった」と言える。
「分からない」と言える。
「こんな方法を試してみた」と話せる。
そんな職員室であれば、教師の学びは個人の努力だけに閉じません。
教師の振り返りを、個人の自己研鑽から、互いに学び合う学校文化へ。
その視点を大切にしたいと思います。
教師のための5分振り返りシート
□ 今日、印象に残った事実は何か
□ 子どもはどのような姿だったか
□ 自分は何を意図して行動したか
□ 別の見方・方法は考えられるか
□ 次に一つだけ変えるなら何か
これだけでも十分です。
書くことが目的ではありません。
次の実践につながれば、それが振り返りです。
参考資料
・中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」(文部科学省)
・文部科学省「研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励に関するガイドライン」(文部科学省)
・文部科学省「学校における働き方改革について」(文部科学省)
・上條正太郎・赤坂真二「協同的な省察において教師の学びは如何につくられるのか―反省的実践家としての教師の成長をめざして―」『日本学級経営学会誌』(J-STAGE)
・西川大志・松永美希・古谷嘉一郎「反すうが自動思考と抑うつに与える影響」『心理学研究』(J-STAGE)
・Tsubono et al. “Multidimensional analysis of schoolteachers’ occupational stress by the New Brief Job Stress Questionnaire” Industrial Health (J-STAGE)

