学校と塾の違いから考える、中学校教育で大切にしたいこと

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学校と塾は、よく比較されます。
「塾の授業の方が分かりやすい」
「学校には塾にはない役割がある」
「塾では受験対策ができる」
「学校はすべての生徒を育てなければならない」
どれも、一面では理解できる言葉です。
しかし、学校と塾を単純に比較して、「どちらが優れているか」を考えても、あまり意味はありません。
そもそも、学校と塾では目的も、制度も、置かれている条件も違います。
私は教師になる以前、塾講師として働いていた時期があります。
その後、中学校教師になり、両方の立場から授業を見ることになりました。
そこで強く感じたのは、
学校は塾になる必要はありません。しかし、塾から学べることはあります。
同時に、
塾には学校にはない強みがありますが、学校にしか担えない教育もあります。
両者の違いを冷静に理解することが、中学校教育をよりよくすることにつながると考えています。

学校と塾は目的が違う

まず確認したいのは、学校と塾を同じ物差しで評価しないことです。
学習塾は一括りにはできません。
進学塾、補習塾、個別指導、集団指導、オンライン型など、目的も指導方法も大きく異なります。
一般に、学習塾では学力向上、学校の学習の補充、定期テスト対策、入学試験対策など、比較的明確な目的を設定して学習を進めることができます。
一方、学校教育の目的は、テストの点数や高校合格だけではありません。
文部科学省は学習指導要領を、全国どこの学校でも一定の教育水準を確保するための教育課程の基準としています。現在の学習指導要領では、「知識及び技能」だけではなく、「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」を含む資質・能力の育成を目指しています。(文部科学省)
中学校では教科の授業だけでなく、道徳、総合的な学習の時間、特別活動、生徒指導、キャリア教育、学校行事なども含めて生徒を育てます。
つまり、学校の授業を、
「塾より点数を上げられるか」
だけで評価すること自体が適切ではありません。
その一方で、
「学校は塾とは目的が違うから、授業の分かりやすさはそれほど重要ではない」
という考え方も違います。
学校だからこそ、すべての生徒にとって分かりやすく、学びに参加できる授業を目指す必要があります。

「分かりやすさ」は学校でも大切

「主体的・対話的で深い学び」が重視されるようになり、授業では話し合い、探究、協働的な活動などが増えました。
これは重要な変化です。
しかし、
「話し合ったからよい授業」
「生徒が活動していたからよい授業」
ではありません。
分からないまま話し合わせても、深い学びにはなりません。
文部科学省も、主体的・対話的で深い学びについて、知識をつなげて理解したり、自分の考えを形成したり、新しい発見や発想につなげたりする授業改善として示しています。(文部科学省)
教師の説明が分かりやすい。
何を学ぶ時間なのかが分かる。
何をすればよいかが分かる。
どこまでできればよいかが分かる。
分からないときに戻れる場所が分かる。
こうした授業の基本は、今も変わりません。
塾の授業から学ぶとすれば、まずこの部分です。
「今日、この生徒に何を分かるようにするのか、何をできるようにするのか」を明確にすることです。

目標を具体的にする

塾では、
「次の定期テストで数学を10点上げる」
「この単元を今週中にできるようにする」
「志望校に必要な力と現在の力との差を確認する」
など、目標を具体化しやすい環境があります。
学校でも、この具体性はもっと大切にしてよいと思います。
例えば、
「今日は一次関数を勉強します」
だけではなく、
「今日は、グラフから変化の割合を読み取れるようになります」
と示します。
「文章を読みましょう」
ではなく、
「筆者の主張と、その根拠を分けて読めるようになります」
と示します。
教師が目標を具体化すれば、生徒も、
「今日は何ができるようになればよいのか」
を理解できます。
学習の見通しを持つことは、現在の学習指導要領が重視する主体的な学びにもつながります。(文部科学省)

授業を改善し続ける姿勢

塾によって違いはありますが、授業そのものがサービスの中心である塾では、授業の分かりやすさや成果について厳しく評価される場合があります。
学校教師も、
「毎年この授業をしているから」
「教科書どおり進めたから」
という理由だけで授業を続けないことが大切です。
生徒は理解できたでしょうか。
発問は適切だったでしょうか。
説明は長すぎなかったでしょうか。
課題は難しすぎなかったでしょうか。
できる生徒だけが進んでいなかったでしょうか。
授業後に振り返ります。
そして、次のクラスでは少し変えます。
大きな研究授業だけが授業研究ではありません。
一時間の授業を、一時間ごとに少し改善することも授業研究です。
これは学校でも徹底できることです。

教科を超えて生徒の学習を見る

中学校では教科担任制です。
そのため、どうしても、
国語教師は国語。
数学教師は数学。
英語教師は英語。
という視点になりやすくなります。
しかし、生徒にとって学習時間は有限です。
例えば、ある生徒が、
「毎日2時間勉強しています。でも成績が上がりません」
と相談してきたとします。
そのとき、
「数学をもっと勉強しなさい」
だけでは十分ではありません。
どの教科に時間を使っていますか。
苦手なのはどこですか。
家庭学習をどのような順番でしていますか。
定期テストの結果はどうでしたか。
提出物に時間がかかりすぎていませんか。
睡眠時間は確保できていますか。
学校全体で考える必要があります。
学年の教師や教科担当者が情報を共有し、
「この生徒の学習全体をどう支えるか」
という視点を持ちたいところです。

教師ごとの違いを減らす

学校では、教師一人ひとりの個性が大切です。
すべての教師が同じ授業をする必要はありません。
しかし、生徒から見ると、
「先生によって全部違う」
ことが負担になる場合があります。
提出方法。
ICTの使い方。
宿題の出し方。
ノートの扱い。
欠席したときの学習方法。
再提出の方法。
こうした基本的な部分まで教科ごと、教師ごとに大きく違えば、生徒は学習内容以外のことに多くのエネルギーを使います。
学校全体ですべてを統一する必要はありませんが、
揃えた方が生徒にとって分かりやすい部分は揃える。
これは塾の運営から学べる重要な視点です。

個人差を前提にした授業

塾の中には、習熟度別のクラスや個別指導など、生徒の学習状況に応じて学習内容や進度を調整する仕組みを持つところがあります。
学校では、同じ教室にさまざまな生徒がいます。
既に内容を理解している生徒もいます。
前の学年の内容につまずいている生徒もいます。
読むことに時間がかかる生徒もいます。
書くことを苦手とする生徒もいます。
一斉授業だけで、この違いを完全に吸収することは困難です。
だからこそ、
課題の量を選べるようにする。
ヒントを準備する。
先に進める課題を用意する。
ICTで復習できるようにする。
友達と考える選択肢をつくる。
教師に質問できる時間をつくる。
などの工夫が必要です。
現在の学習指導要領でも、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実させる方向が示されています。(文部科学省)
全員に同じことをさせることと、全員の学びを保障することは同じではありません。

小さな成功を見えるようにする

学習では、
「できた」
という経験が次の学習へのエネルギーになります。
点数が上がった。
昨日できなかった問題が解けた。
単語を覚えられた。
発表できた。
文章を書き切った。
教師から見れば小さな変化でも、生徒本人にとっては大きな意味を持つことがあります。
私は塾講師をしていたとき、数学を嫌っていた生徒が、定期テストの点数が大きく上がったことをきっかけに数学を好きになった経験を見ました。
「好きだからできる」だけではありません。
「できるようになったから好きになる」こともあります。
学校でも、生徒の小さな伸びを具体的に返すことが大切です。
「頑張ったね」だけではなく、
「前回できなかったこの問題が解けています」
「説明に根拠が入るようになりました」
「三週間、提出を続けられています」
と伝えます。
生徒自身が成長を確認できるフィードバックにします。

進路指導で大切な具体性

塾の強みとして語られやすいものの一つが、入試情報です。
模擬試験などを使い、
「現在どの位置にいるか」
「何が不足しているか」
「何を優先して学習するか」
を具体的に示す塾もあります。
学校も、この「具体性」から学ぶことはできます。
ただし、学校の進路指導は合格可能性を示すことだけではありません。
現在の学習指導要領では、生徒が自らの生き方を考え、主体的に進路を選択できるよう、学校の教育活動全体を通じて組織的・計画的な進路指導を行うことが求められています。(文部科学省)
高校の名前を決めることだけが進路指導ではありません。
自分は何をしたいのか。
何を大切にして生きたいのか。
どのような学び方が合っているのか。
高校の先にどのような選択肢があるのか。
こうしたことまで一緒に考えるのが学校の役割です。
そのうえで、
「あなたなら大丈夫」だけで終わらせず、現在地と次にすることを具体的に示す。
ここは学校でも大切にしたいところです。

生徒の前で塾を否定しない

私は、生徒の前で安易に塾を悪く言うべきではないと考えています。
例えば、授業中に眠そうにしている生徒に、
「夜遅くまで塾に行っているからだ」
と決め付けることです。
本当にそうでしょうか。
睡眠時間が短いのかもしれません。
体調が悪いのかもしれません。
家庭で何かあったのかもしれません。
学校生活で疲れているのかもしれません。
あるいは、確かに塾の終了時間が遅いのかもしれません。
大切なのは、原因を決め付けることではなく、
「どうして眠いのか」を本人と一緒に考えることです。
さらに、塾に通うという選択の背景には、生徒本人の希望だけでなく、保護者の判断や家庭の経済的負担があります。
文部科学省の令和5年度「子供の学習費調査」では、公立中学校の子ども一人当たりの年間学習費総額は平均54万2,450円で、そのうち学校外活動費は35万6,018円でした。また、公立・私立中学校とも、学校外活動費の中では予習・復習、学習塾、家庭教師等を含む「補助学習費」が最も大きくなっています。(文部科学省)
家庭が費用を負担して選んだ学びを、事情を十分に知らない教師が生徒の前で一言で否定することには慎重であるべきです。

塾に通わない生徒への視点

一方で、ここは非常に重要です。
塾に通うことを前提に学校教育をつくってはいけません。
「これは塾で習っているでしょう」
「受験対策は塾でしてもらえばよい」
「分からなければ塾で聞いてください」
このような考え方は避けなければなりません。
学校外教育への参加には、家庭の経済状況などによる差があることが研究からも示されています。世帯収入や保護者の学歴などと学校外教育活動への参加との関連を分析した縦断研究では、学校外教育機会に社会経済的な格差が存在することが確認されています。(J-STAGE)
塾に行きたくても行けない生徒もいます。
家庭の事情で行かない生徒もいます。
塾を必要としない生徒もいます。
だから学校では、
塾に通っているかどうかにかかわらず、すべての生徒に必要な学びを保障すること
が大前提です。
ここは学校の極めて大きな役割です。

学校と塾を対立させない

学校と塾は、歴史的には対立するものとして語られることもありました。
しかし、学校と学習塾の連携についての研究では、授業提供、教材、教員研修、学習支援など、さまざまな連携事例が生まれてきたことが報告されています。
もちろん、学校と民間事業者が連携すれば何でもよいわけではありません。
教育の公共性。
費用。
個人情報。
公平性。
責任の所在。
教育課程との関係。
慎重に考えなければならないことがあります。
それでも、
「学校だから正しい」
「塾だから間違っている」
という考え方からは、何も生まれません。
互いの役割と限界を理解し、
子どもにとって何が必要なのか
から考えるべきです。

塾から学んでも学校の価値は失われない

塾から授業技術を学んだら、学校が塾のようになってしまうのでしょうか。
私はそうは考えません。
分かりやすく説明する。
目標を明確にする。
一人ひとりのつまずきを把握する。
学習結果を分析する。
教材研究をする。
授業を改善する。
進路情報を具体的に伝える。
これらは、塾だけのものではありません。
学校教師が大切にすべき仕事でもあります。
そのうえで学校には、
異なる背景を持つ生徒が共に生活すること。
他者と折り合いをつけること。
自分とは違う考えに出会うこと。
自治や協働を経験すること。
失敗した生徒を長い時間をかけて支えること。
学力だけでは測れない成長を見守ること。
など、学校だからこそできる教育があります。
学校と塾は同じではありません。
だからこそ、お互いのよさから学ぶことができます。

中学校教育で大切にしたいこと

学校と塾の違いを考えていくと、最後は学校教育の原点に戻ります。
目の前の生徒が分かっているでしょうか。
授業に参加できているでしょうか。
自分の成長を実感できているでしょうか。
困ったときに助けを求められるでしょうか。
塾に通っていても、通っていなくても、学校で学ぶ意味を感じられているでしょうか。
学校は、塾と競争する必要はありません。
塾を否定する必要もありません。
塾に学校の役割を任せることも違います。
学校は学校として、すべての生徒に質の高い学びを保障する。
そのために、学校の外に優れた実践があれば学びます。
塾から学べることもあります。
民間企業から学べることもあります。
他校から学べることもあります。
そして、学んだものをそのまま真似るのではなく、自分たちの学校、生徒、教育の目的に合わせて使います。
教師が学び続けること。
授業を改善し続けること。
一人ひとりの生徒の学びを学校全体で支えること。
学校と塾の違いを考えた先にあるのは、
学校教育そのものを、よりよくしていくという課題です。

参考資料

・文部科学省「学習指導要領とは?」(文部科学省)
・文部科学省「平成29・30・31年改訂学習指導要領の趣旨・内容」(文部科学省)
・文部科学省「育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び」(文部科学省)
・文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」(文部科学省)
・文部科学省「児童生徒の発達の支援―キャリア教育の充実」(文部科学省)
・松岡亮二「学校外教育活動参加における世帯収入の役割―縦断的経済資本研究―」『教育社会学研究』第98集(J-STAGE)
・早坂めぐみ「学校と学習塾の連携可能性の多様化―1999年以降の新聞記事の分析から―」『日本学習社会学会年報』第13号

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