中学校教師の授業力を高める30のTips

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授業は、特別な技術を一つ身につければ急にうまくなるものではありません。
時間の使い方、教師の立ち位置、指示の出し方、発問、板書、生徒の見方、授業後の振り返り。こうした小さな技術の積み重ねで、授業は少しずつ変わります。
また、授業は教科内容を教える時間であると同時に、生徒指導の場でもあります。文部科学省『生徒指導提要』では、教科指導においても児童生徒理解を基盤とし、一人一人の学習状況やつまずき、参加状況などを丁寧に把握して指導することが求められています。
ここでは、中学校の授業で私が大切だと考えることを、30のTipsとしてまとめます。30項目すべてを一度に変える必要はありません。「次の授業で一つ変える」ところから始めることが大切です。

1.授業開始前に準備を終える

授業が始まってから教材やプリントを探していると、その間、生徒を見ることができません。
教材、プリント、ICT機器、板書に必要なものなどは、可能な限り授業開始前に準備しておきます。
準備を早く終える目的は、教師が楽をするためだけではありません。授業開始前から生徒を見る余裕をつくるためです。

2.授業開始時刻を守る

チャイムが鳴ってから教師が教室へ向かう状態を当たり前にしないことが大切です。
教師が授業時間を大切にしていなければ、生徒にも授業時間を大切にしてほしいとは言いにくくなります。
毎回完璧である必要はありませんが、「時間を守る」という基本を教師自身が示します。

3.最初の数分を整える

授業開始直後は、その後の授業の雰囲気を左右します。
教師が教室に入り、教材を探し、機器を立ち上げ、そこから授業を始めるのではなく、最初の数分の流れをある程度決めておきます。
挨拶、教材確認、前時の確認、今日の課題提示など、毎回の型をつくっておくと、生徒も授業に入りやすくなります。

4.教師の不機嫌を教室へ持ち込まない

教師にも疲れている日や忙しい日はあります。
しかし、その不機嫌をそのまま教室へ持ち込み、生徒にぶつけることは避けなければなりません。
教師の表情や声の調子は、教師が思っている以上に教室の雰囲気へ影響します。
授業に入った瞬間、生徒が「今日は先生の機嫌が悪そうだ」と教師の顔色を読む必要のない教室にします。

5.最初に授業の全体像を示す

説明を細部から始めると、生徒は「今、何をしているのか」が分からなくなることがあります。
「今日は最初に○○を確認し、その後△△を考え、最後に□□をまとめます」のように、授業の全体像を先に示します。
見通しがあるだけで、活動への参加がしやすくなる生徒もいます。
授業チェックシートでも、細かな説明の前に流れや活動の全体像を示すことを重視しています。

6.指示は短く、一つずつ出す

一度に、
「教科書を出して、42ページを開いて、線を引いて、隣と話し合って、終わったらプリントをしてください」
と伝えると、途中から分からなくなる生徒がいます。
指示は短くし、一つずつ出します。
特に複数の活動を伴う場合は、
「まず教科書42ページを開きます」
「開いたら、ここに線を引きます」
と段階を分けます。

7.大切な指示は目でも確認できるようにする

口頭だけの指示は、聞き逃す可能性があります。
重要な指示、活動手順、提出方法などは、必要に応じて板書、スクリーン、プリントでも示します。
「ちゃんと聞いていたら分かるはず」と考えるのではなく、分かるための手掛かりを複数用意します。

8.活動時間を示す

「少し考えてください」だけでは、生徒によって「少し」の意味が違います。
「3分間考えます」
「あと1分です」
など、活動時間を示します。
時間が見えることで、活動への見通しをもちやすくなります。

9.活動の終わり方まで示す

「考えてください」だけでは、どこまで考えれば終わりなのか分からないことがあります。
「自分の考えを一つ書けたら終わり」
「二つの意見を比べられたら終わり」
「問題3までできたら一度止まる」
など、終了条件まで示します。
授業では、「何をするか」だけでなく「どこまでできればよいか」を伝えることが大切です。

10.教師の「これくらい分かる」を疑う

教師は毎年同じ内容を扱います。
しかし、生徒にとっては初めて学ぶ内容であることがあります。
教師にとって当たり前の言葉や手順でも、生徒には分からないことがあります。
「これくらい分かるだろう」ではなく、「初めて聞く生徒にはどう聞こえるか」を考えます。

11.難しい言葉は具体例と一緒に示す

「根拠を書きなさい」
「考察しなさい」
「比較しなさい」
と言っても、それらの言葉自体が十分理解できていない生徒もいます。
抽象的な言葉を使うときは、「例えばこういうことです」と具体例を示します。
学習内容だけでなく、学び方の言葉も教える必要があります。

12.発問と質問を区別する

教師が生徒に問いかける言葉には、さまざまな役割があります。
知識を確認する質問も必要です。一方で、生徒の思考を動かす発問も必要です。
「分かりましたか」だけで授業を進めるのではなく、
「なぜそう考えたのか」
「どちらがよいと思うか」
「共通点は何か」
など、考える必要のある問いを入れます。
※発問については、既存の「発問と質問の違い」の記事を残し、ここから内部リンクを設定するとよい。

13.発問したら待つ

教師が問いを出した直後、自分で答えてしまうことがあります。
沈黙が怖くなるからです。
しかし、生徒が考えるためには時間が必要です。
発問のあとに数秒待つだけでも、考え始められる生徒が増えます。
授業チェックシートでも、発問後すぐに教師が答えず、思考するための時間を保障することを重視しています。

14.速く答える生徒だけで授業を進めない

問いを出した直後に挙手を求めると、考えるのが速い生徒を中心に授業が進みやすくなります。
まず全員が考える。
短く書く。
隣と確認する。
その後に発言を求める。
こうした順序も有効です。
「発言できる生徒が参加している授業」ではなく、「全員が考えられる授業」を目指します。

15.正解より考え方を扱う

生徒が答えたとき、
「正解です」
「違います」
だけで終わらせないようにします。
「どこからそう考えたのか」
「なぜその答えを選んだのか」
と理由を聞きます。
正解か不正解かだけでなく、そこへ至った思考を授業で扱うことで、他の生徒も学ぶことができます。

16.間違いを授業の材料にする

間違った答えが出たときに、すぐ教師が修正するだけではもったいありません。
「なぜこの考えになったのだろう」
「どこまでは合っているだろう」
と考えることで、学習内容への理解が深まる場合があります。
間違えた生徒を晒すのではなく、間違いそのものを学習材料として扱います。

17.教師が話し続けない

教師の説明は必要です。
しかし、教師がほとんどの時間を話し続け、生徒が聞くだけになっていないかは振り返る必要があります。
書く、考える、話す、比較する、試す、説明するなど、生徒自身が活動する時間を入れます。
授業の主役は「教師の説明」ではなく「生徒の学び」です。

18.生徒の視線を見る

教師は教材や板書だけを見るのではなく、生徒の様子を見ます。
説明を聞いているかだけではありません。
戸惑っている。
手が止まっている。
周囲を見ている。
机の下で別のことをしている。
友達の様子を見ながら何とか参加しようとしている。
そうした小さな変化を見ます。
授業観察による児童生徒理解は、『生徒指導提要』でも教科指導に生かす情報収集の一つとして示されています。

19.教師の立ち位置を変える

教師がいつも教卓の前だけにいると、見える範囲が限られます。
説明するとき、活動を見るとき、個別に支援するときで立ち位置を変えます。
教室後方から見ると、前からでは気づかなかった生徒の様子が見えることもあります。
「どこに立てば生徒が見えるか」を考えます。

20.声の大きさだけで授業を動かさない

授業が落ち着かないと、教師は声を大きくしがちです。
しかし、大声に頼る授業は教師も生徒も疲れます。
大切なのは、声量だけではなく、
話す速さ

視線
立ち位置
指示の短さ
です。
「大きな声を出せば伝わる」と考えないことが大切です。

21.全員を同じ方法で学ばせようとしない

同じ説明を聞けば全員が理解できるとは限りません。
文章で理解しやすい生徒もいれば、図や具体物があると分かりやすい生徒もいます。
一人で考える方がよい場合も、誰かと話すことで理解が進む場合もあります。
『生徒指導提要』でも、学習の習熟状況だけでなく、興味・関心、参加状況、つまずきの原因まで丁寧に把握し、個に応じた指導を充実させる必要があるとしています。

22.「発言しない=考えていない」と決めつけない

授業中に手を挙げない生徒、グループ活動であまり話さない生徒がいます。
しかし、それだけで意欲がないとは限りません。
内容が難しい。
言葉にするのが苦手。
間違えることが怖い。
人間関係に不安がある。
さまざまな背景があります。
『生徒指導提要』も、授業への消極的な参加の背景に、学習上のつまずきだけでなく友人関係などがある可能性を示しています。

23.「静かな授業=よい授業」と決めない

静かに座っているからといって、生徒が学んでいるとは限りません。
逆に、多少声が出ていても、生徒同士が課題について考えを交流している場合があります。
授業を見るときは、
「静かだったか」
ではなく、
「生徒が考えていたか」
「理解していたか」
「参加できていたか」
で見ます。
授業振り返りでも、「静かだった」だけを成功の基準にしないことが重要です。

24.「盛り上がった授業=よい授業」とも決めない

笑いが起きた。
発言がたくさん出た。
生徒が楽しそうだった。
もちろん大切なことです。
しかし、それだけで授業の質は判断できません。
授業後に、
何を理解したのか
何ができるようになったのか
どの生徒が参加できなかったのか
まで見ます。
楽しさと学びの両方を大切にします。

25.授業中に安易に教室を離れない

授業時間中、教師にはその場の安全を確保する責任があります。
教材を取りに行くなどの理由で安易に教室を離れないことが基本です。
必要なものは可能な限り事前に準備します。
事故が起こってから、「少しの間だった」と説明しても、生徒の安全は戻りません。

26.安全を授業設計の一部として考える

体育、理科、技術・家庭、美術などだけが安全指導の対象ではありません。
机の移動
ICT機器やコード
教材の配置
教室内の動線
活動中の人数
など、どの教科にも安全上のリスクがあります。
安全は「問題が起きたら対応するもの」ではなく、授業を設計するときに考えるものです。

27.ICTは「使うこと」を目的にしない

ICTを使ったからよい授業になるわけではありません。
紙の方が早いこともあります。
黒板の方が分かりやすいこともあります。
一方で、拡大、共有、個別の確認、意見の可視化など、ICTだからこそ有効な場面もあります。
「今日は端末を使う」ではなく、
「何のために使うのか」
から考えます。

28.授業終了時刻を守る

授業開始時刻だけでなく、終了時刻も大切です。
説明が終わらないからといって、教師の都合で休み時間まで使うことを当然にしないようにします。
時間内に終わらなかった場合は、
内容を詰め込みすぎたのか
説明が長かったのか
活動時間の設定が適切だったのか
を授業設計の問題として振り返ります。

29.授業の最後に「何ができるようになったか」を確認する

最後に「今日の感想を書きましょう」だけで終わらせないようにします。
「何が分かったか」
「何ができるようになったか」
「まだ分からないことは何か」
を確認します。
振り返りそのものが目的にならないよう、授業内容や考えの変化と結び付けます。

30.次の授業で一つだけ変える

授業改善で最も避けたいのは、一度に全部変えようとすることです。
「もっと説明を短くしよう」
「発問後に3秒待とう」
「今日は後ろの生徒をよく見よう」
「最後の2分を確保しよう」
その程度で構いません。
授業アンケートも、教師の人気や人柄を採点するものではなく、授業改善の材料として、成果物、小テスト、授業観察、教師自身の記録などと組み合わせて活用することが大切です。
一つ変える。
次の授業でもう一つ変える。
その積み重ねが授業力になります。

31.授業は生徒指導そのものでもある

30のTipsを通して伝えたいのは、授業技術だけを磨けばよいということではありません。
教師がどの生徒を見るのか。
誰の発言を拾うのか。
間違いをどう扱うのか。
分からない生徒をどう支えるのか。
安心して質問できる雰囲気をつくれているか。
その一つ一つが生徒指導です。
文部科学省『生徒指導提要』では、教科指導と生徒指導を切り離して考えるのではなく、児童生徒理解を基盤として、一人一人に応じた指導を充実させることを求めています。また、必要に応じて、学年会、教科部会、生徒指導部会、教育相談部会等で情報を共有し、チームとして取り組むことも示されています。
授業が分かる。
自分の考えを出せる。
間違えてもやり直せる。
自分も授業の中にいると感じられる。
そうした授業を積み重ねることが、予防的・発達支持的な生徒指導にもつながります。
30項目を一度に実践する必要はありません。
まず、明日の授業で一つだけ変える。
そこから始めれば十分です。

参考資料

・文部科学省『生徒指導提要(改訂版)』
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1404008_00001.htm
・文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)』
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm
・国立教育政策研究所『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』
https://www.nier.go.jp/kaihatsu/shidousiryou.html

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