「教師を辞めようかな」
長く教師をしていれば、一度くらいそう考えることがあっても不思議ではありません。
私は、「辞めたいと思うこと」そのものを否定する必要はないと思っています。
だからといって、すぐに辞めることを勧めるつもりもありません。
大切なのは、
「辞めたい」という気持ちを、そのまま「辞める」という結論にしないことです。
なぜ辞めたいのか。
今の学校が合わないのか。
今の役割が苦しいのか。
教師という仕事そのものから離れたいのか。
それとも、学校の外にやってみたいことができたのか。
ここを分けて考えるだけでも、見えてくる景色はかなり変わります。
私自身も転職活動をしたことがあります。
転職するかどうかを考えることは、「教師を辞める準備」ではありません。
これからの人生をどう働き、どう生きたいのかを考える機会です。
- 1.「辞めたい」は結論ではなく、自分からのサイン
- 2.最初に「何から離れたいのか」を考える
- 3.「教師を続けるか、辞めるか」の二択にしない
- 4.転職を考えたら、最初に求人を見る必要はない
- 5.「教師として何年働いたか」より「何ができるか」を整理する
- 6.転職先は「会社名」より「仕事内容」から探す
- 7.教育から少し横にずらすという考え方
- 8.条件は「年収」だけで比べない
- 9.転職活動は、在職中でなければならないわけではない
- 10.転職サービスは「判断してくれる場所」ではない
- 11.退職を決める前に確認しておくこと
- 12.職場には必要な段階で、必要なことを伝える
- 13.「一度辞めたら教師には戻れない」と決めつけない
- 14.若手・中堅・ベテランでは考えるポイントが違う
- 15.転職を考えることは、今の仕事を見直すことでもある
- 16.5年後、10年後の自分から今を見る
- 参考資料
1.「辞めたい」は結論ではなく、自分からのサイン
まず伝えたいのは、
教師を辞めたいと思ったからといって、教師に向いていないとは限らない
ということです。
教員の離職については、長時間労働や業務量だけでなく、職場で受けられる支援や人間関係など、さまざまな要因との関連が研究されています。退職した教員を対象とした研究でも、離職という決断と職場で得られたソーシャル・サポートとの関係が検討されています。
また、教師のストレスやバーンアウトと、実際に離職することを単純に同じものとして考えることには慎重であるべきだという研究上の指摘もあります。勤務環境や人間関係の変化によって状況が変わることもあります。
つまり、
「今の学校で働き続けることが苦しい」
ことと、
「教師という仕事そのものが自分に合っていない」
ことは同じではありません。
ここを混同しないことが、最初の一歩です。
2.最初に「何から離れたいのか」を考える
転職サイトを見る前に、一度紙に書き出してみることを勧めます。
自分は、何から離れたいのでしょうか。
例えば、次のように分けて考えられます。
①現在の学校から離れたい
職場の人間関係、学校文化、通勤、学校規模、組織運営などが大きな負担になっている場合です。
この場合には、異動によって状況が大きく変わる可能性があります。
②現在の役割から離れたい
担任、主任、生徒指導、部活動、校務分掌など、現在担っている役割の負担が大きい場合です。
役割が変われば、教師を続けられることもあります。
③現在の働き方から離れたい
仕事量や勤務時間、家庭との両立などが問題になっている場合です。
働き方を変える、役割を調整する、一定期間休むなど、「退職」以外の選択肢も検討できます。
文部科学省も、教師が授業を磨き、人間性や創造性を高めながら教育活動を行えるようにすることを目的として、学校における働き方改革を進めています。
④教師という職業から離れたい
授業、生徒との関係、学校という組織など、教師という仕事の中心部分そのものに違和感を感じている場合です。
この場合には、本格的に別の職業を調べる意味があります。
⑤新しい仕事をしたい
これは①~④とは少し違います。
「今の仕事が嫌だから」ではなく、
「学校の外で挑戦したいことができた」
という転職です。
同じ「辞めたい」でも、理由によって次の一手は全く違います。
3.「教師を続けるか、辞めるか」の二択にしない
キャリアを考えるときに陥りやすいのが、
教師を続ける
か、
教師を辞める
かの二択です。
しかし、実際にはその間に多くの選択肢があります。
例えば、
・現在の学校で働き続ける
・校務分掌や役割について相談する
・異動する
・別の自治体で教員を目指す
・小中高など別の校種を検討する
・公立から私立へ移る
・常勤講師、非常勤講師など別の働き方を検討する
・教育関係の民間企業へ移る
・NPOや教育支援の仕事に関わる
・学校外の教育施設に関わる
・教育とは異なる業界へ移る
などがあります。
文部科学省も、これからの教職員集団について、多様な専門性や背景を持つ人材が学校に関わることを重視しています。また、教師のキャリア形成自体も一律の一本道としてではなく、生涯にわたって学び続けるものとして位置付けています。
「教師を続けるか辞めるか」ではなく、
「自分には、どんな働き方があるのか」
まで選択肢を広げて考えた方がよいと思います。
4.転職を考えたら、最初に求人を見る必要はない
転職を考えると、すぐ求人サイトを開きたくなります。
しかし、その前にしておきたいことがあります。
自分の仕事を棚卸しすることです。
教師は毎日、多くの仕事をしています。
ところが教師自身は、それを特別な能力だと思っていないことがあります。
例えば、
授業をつくること。
人前で説明すること。
集団を動かすこと。
相手の理解度を見ながら説明を変えること。
保護者と調整すること。
行事を企画し、期限までに実施すること。
会議を進行すること。
文章を書くこと。
ICTを活用すること。
複数の仕事を同時に進めること。
トラブルに対応すること。
同僚と連携すること。
子どもの変化を観察すること。
こうした仕事は、学校では日常です。
しかし、学校の外の言葉に置き換えると、
「プレゼンテーション」
「ファシリテーション」
「プロジェクト管理」
「ステークホルダーとの調整」
「研修・人材育成」
「進捗管理」
「課題発見」
「文書作成」
などとして説明できるものがあります。
もちろん、「教師だったから民間企業でも即戦力になる」という意味ではありません。
業界ごとに必要な専門知識があります。
しかし、
自分が何をしてきたのかを、学校の言葉だけで考えない
ことは重要です。
5.「教師として何年働いたか」より「何ができるか」を整理する
転職を考えるなら、
「中学校教員を15年間していました」
だけでは、自分の強みは十分に伝わりません。
例えば、
「学年主任をしていました」
なら、
・何人程度の組織だったのか
・どんな課題があったのか
・どのような調整をしたのか
・何を改善したのか
まで考えてみます。
「ICT担当でした」
なら、
・どんな仕組みを導入したのか
・誰を支援したのか
・どのような問題を解決したのか
を整理します。
「担任を10年間しました」
なら、
「担任10年」という肩書より、
その10年間で身につけた能力を言語化することが重要です。
厚生労働省の「ジョブ・カード」は、これまでの職業経験や能力を棚卸しし、今後のキャリアを考えるための公的なツールです。在職者も利用できます。
転職するかどうかを決めていない段階でも、一度作ってみる価値があります。
6.転職先は「会社名」より「仕事内容」から探す
有名な会社を探すことから始める必要はありません。
最初に見るべきなのは、
どんな仕事が存在するのか
です。
厚生労働省の「職業情報提供サイト job tag」では、さまざまな職業について、仕事内容、求められる知識やスキル、入職経路などを調べることができます。また、自分の興味や価値観、職業経験から職業との適合を考える機能もあります。
これは、転職サイトとは役割が違います。
転職サイトを見ると、
「募集中の会社」
が中心になります。
job tagで調べると、
「世の中にどんな職業があるのか」
を見ることができます。
教師は学校という比較的閉じた職業世界で長く働くため、世の中にどんな仕事があるのかを知らないままキャリアを考えてしまうことがあります。
最初から転職先を決める必要はありません。
まず、知らない仕事を知ることです。
7.教育から少し横にずらすという考え方
教師の経験を生かしたいのであれば、いきなり全く違う職業だけを考える必要もありません。
例えば、
学校教育
↓
教育サービス
↓
研修・人材育成
というように、少しずつ領域をずらして考える方法があります。
教育に近いところで考えれば、
・私立学校
・塾、予備校
・教育関連企業
・EdTech
・教材開発、教育出版
・研修、人材育成
・NPO
・フリースクール等の学校外の学びの場
・ICT導入支援
なども候補になります。
ただし、「教師経験があれば採用される」という意味ではありません。
それぞれの組織が求める能力や経験を確認する必要があります。
逆に、
「教育とは全く違う仕事をしてみたい」
という選択もあります。
大切なのは、教育分野に残ることではありません。
自分がこれから何をしたいのかです。
8.条件は「年収」だけで比べない
転職先を比較するときは、給与だけを見ない方がよいです。
少なくとも、
・仕事内容
・給与、賞与
・勤務時間
・休日
・通勤時間
・勤務地
・転勤の有無
・雇用形態
・退職金
・福利厚生
・育児、介護との両立
・研修制度
・昇進、キャリアの見通し
・働く場所や働き方
などを並べて比較した方がよいと思います。
そして、
「今より何が良くなるのか」
だけでなく、
「何を失う可能性があるのか」
も考えます。
仕事を変えれば、何かが良くなる一方で、何かを手放すこともあります。
転職を成功か失敗かで考えるより、
自分にとって大切なものの優先順位を決める
ことの方が重要です。
9.転職活動は、在職中でなければならないわけではない
可能であれば、働きながら情報を集める方法はあります。
収入を維持しながら時間をかけて比較できるからです。
しかし、
「必ず在職中に転職先を決めなければならない」
というものでもありません。
心身の状態、家庭の事情、今後の学び直しなどによっては、一度仕事から離れて考える人もいます。
そこに一律の正解はありません。
重要なのは、
「なぜ、この順番を選ぶのか」
を自分で説明できることです。
辞めてから探す。
働きながら探す。
一定期間休む。
学び直してから次へ進む。
それぞれにメリットとリスクがあります。
他人の「転職成功例」をそのまま自分に当てはめないことです。
10.転職サービスは「判断してくれる場所」ではない
民間の転職サービスを利用すること自体に問題はありません。
しかし、いくつ登録したかが転職の質を決めるわけではありません。
また、求人サイトや転職エージェントには、それぞれビジネスとしての仕組みがあります。
紹介された会社が、
自分にとって最善の会社とは限りません。
情報源の一つとして利用する。
複数の情報を比較する。
企業自身の採用情報も確認する。
公的な職業情報も見る。
できれば、その仕事を実際にしている人の話も聞く。
一つのサービスだけで進路を決めない。
このくらいの距離感がよいと思います。
進路指導で生徒に、
「一校だけ見て決めず、比較して考えよう」
と話すのであれば、自分の転職についても同じです。
11.退職を決める前に確認しておくこと
転職先が見えてきたら、現実的な確認も必要です。
特に、
お金
手続き
家族
時期
です。
生活費はどうなるのか。
収入が変わっても生活できるのか。
退職金や社会保険などはどうなるのか。
次の仕事まで期間が空く可能性はあるのか。
家族と生活を共有しているなら、働き方の変化をどう考えるのか。
こうしたことを具体的に数字にして確認します。
また、公立学校の教員については、任命権や勤務条件に教育委員会等が関わり、県費負担教職員では任命権が都道府県教育委員会に属することなどが制度上定められています。自治体や任用形態によって具体的な手続は異なるため、退職時期や必要書類などは自分の所属先の正式な規定・手続を確認する必要があります。
「誰かが去年こうしていた」
ではなく、
自分の所属する自治体や勤務先の正式な手続を確認する
ことが基本です。
12.職場には必要な段階で、必要なことを伝える
転職について、職員室全体に話す必要はありません。
まだ何も決まっていない段階で、不必要に広く伝える必要もないでしょう。
一方で、
「転職活動は絶対に誰にも話してはいけない」
とも思いません。
家族や信頼できる人、学校外の友人、キャリア支援の専門家などに相談することは、自分の考えを整理するうえで役立つことがあります。
そして退職する意思が固まった段階では、自分の勤務先のルールに従って、必要な時期に管理職へ伝えることになります。
ここでも大切なのは、
駆け引きではなく、
必要な人と必要な対話をすること
です。
13.「一度辞めたら教師には戻れない」と決めつけない
学校の外へ出ることを考えたとき、
「一度辞めたら、もう教師には戻れない」
と不安になる人がいます。
これも、一律には言えません。
文部科学省が2026年3月に公表した調査でも、全国で教師不足が存在していることが確認されています。
ただし、
「教師不足だから、いつでも必ず教員に戻れる」
という意味ではありません。
採用方法、選考、講師登録、必要となる免許状や勤務条件などは、自治体や学校種、雇用形態によって異なります。
将来教職へ戻る可能性も残しておきたいのであれば、関心のある自治体の採用制度を定期的に確認しておくとよいでしょう。
学校の外で得た経験が、再び学校で生きる可能性もあります。
キャリアは、必ずしも一本道ではありません。
14.若手・中堅・ベテランでは考えるポイントが違う
転職を考える意味は、経験年数によっても少し変わります。
若手の先生
まず、
「教師という仕事が合わない」
のか、
「まだ仕事を身につける途中で苦しい」
のかを分けて考えてみてください。
一校目だけで教師という職業全体を判断しなくてもよいと思います。
一方で、「若いから我慢すべき」ということでもありません。
中堅の先生
学校では重要な役割を任されるようになる時期です。
同時に、
「このまま20年、30年続けるのか」
と考え始める時期でもあります。
主任、専門性を高める道、管理職、学校外への転職など、選択肢を一度広く並べてみる価値があります。
ベテランの先生
これまで積み上げてきた経験は大きな資産です。
しかし、年齢が上がれば転職条件が自動的に良くなるわけではありません。
待遇、生活、退職後まで含め、より具体的に考える必要があります。
逆に、長年の経験を生かして、学校とは異なる形で教育に関わる道が見つかることもあります。
どの年代でも共通するのは、
「もう遅い」「まだ早い」と年齢だけで結論を出さないこと
です。
15.転職を考えることは、今の仕事を見直すことでもある
転職について調べているうちに、
「やはり教師を続けたい」
と思うこともあります。
それも立派な結論です。
外の世界を見ることで、
「自分は授業が好きだった」
「子どもと関わる仕事を続けたい」
「給与より、この仕事の意味を大切にしたい」
と気づくこともあります。
逆に、
「やはり別の仕事に挑戦したい」
という気持ちが強くなることもあります。
それも一つの結論です。
転職活動をしたから、転職しなければならないわけではありません。
情報を集めた。
自分の経験を整理した。
他の職業を知った。
家族と話した。
5年後、10年後を考えた。
その結果、
「今は教師を続ける」
と決めてもよいのです。
むしろ以前より納得して仕事ができるかもしれません。
16.5年後、10年後の自分から今を見る
最後に、一番考えてほしいことがあります。
「今の職場から逃げたいか」
だけで決めるのではなく、
5年後、10年後、どんな働き方をしていたいのか
を考えてみてください。
どんな仕事をしていたいか。
誰と働いていたいか。
どれくらいの時間を仕事に使いたいか。
何を大切にして生活したいか。
どんな力を身につけたいか。
誰の役に立ちたいか。
そこから逆算して、
今の仕事を続けるのか。
異動するのか。
新しい役割に挑戦するのか。
学び直すのか。
転職するのか。
考えてみます。
教師を辞めることが成功なのではありません。
教師を続けることが成功なのでもありません。
管理職になることが成功なのでもありません。
民間企業へ行くことが成功なのでもありません。
自分で考え、自分で選んだ人生を引き受けていくこと。
私は、それが大切だと思っています。
「教師を辞めたい」と思った自分を、慌てて否定する必要はありません。
その気持ちをきっかけに、自分の働き方と人生を一度考えてみてください。
そして、調べて、話して、比べて、考える。
それでも教師を続けたいと思えば、続ければいい。
別の道へ進みたいと思えば、その道を具体的に調べればいい。
人生は、学校の中だけにあるわけではありません。
同時に、学校の中にも、まだ見えていない選択肢があります。
辞めるか、続けるかを急いで決めるより、自分はこれからどう生きたいのかを考える。
転職を考える本当の意味は、そこにあるのだと思います。
参考資料
・文部科学省「令和7年度『教師不足』に関する実態調査」
・中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」
・文部科学省「学校における働き方改革について」
・厚生労働省「職業情報提供サイト job tag」
・厚生労働省「マイジョブ・カード」
・峯村恒平・渡邉はるか・枝元香菜子・藤谷哲「退職教員の退職理由と在職時に受けたソーシャル・サポートの関係」日本教育工学会研究報告集

