教師のキャリアは「どこまで行くか」より「何を大切にするか」|自分の方向を見失わない17の視点

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教師として働いていると、ときどき立ち止まって考えることがあります。
これから、どんな教師になりたいのか。
何を大切にして働きたいのか。
どんな力を伸ばしたいのか。
今の仕事を、この先も続けたいのか。
担任を続けたいのか。
主任を経験したいのか。
管理職を目指すのか。
授業を深く研究したいのか。
特別支援教育や教育相談など、一つの分野を専門的に学びたいのか。
正解はありません。
教師のキャリアは、全員が同じ方向へ進むものではないからです。
中央教育審議会は、これからの教師について「教職生涯を通じて学び続ける」こととともに、一人ひとりが異なる専門性を持ち、多様な専門性を有する教職員集団を形成することを重視しています。(文部科学省)
大切なのは、
「どこまで昇るか」を決めることではなく、「自分は何を大切にして、どの方向へ学び続けたいのか」を、ときどき考えること
だと思います。

1.教師のキャリアを「役職の階段」だけで考えない

教師のキャリアというと、
担任。
学年主任。
教務主任。
主幹教諭。
教頭。
校長。
という道を思い浮かべることがあります。
それも一つのキャリアです。
しかし、それだけではありません。
授業を深く研究する。
特別支援教育を専門的に学ぶ。
教育相談を深める。
ICT教育を研究する。
進路指導に力を入れる。
若手育成に関わる。
地域連携を進める。
大学院で学ぶ。
教育行政を経験する。
学校現場で担任を続ける。
どれも教師としてのキャリアです。
役職が上がることと、教師として成長することは同じではありません。
役職に就かなくても、専門性を高め、周囲に大きな影響を与えている教師はたくさんいます。

2.「何になりたいか」より「何を大切にしたいか」から考える

将来について考えるとき、
「校長になりたい」
「学年主任になりたい」
と役職から考える方法もあります。
しかし、もう一つ考えてみたいのが、
「自分は教育の何を大切にしたいのか」
です。
授業で、分からなかったことが分かる瞬間を大切にしたい。
学校に居場所を感じにくい生徒を支えたい。
若い先生が安心して働ける学校にしたい。
教職員が疲弊しない組織をつくりたい。
ICTを使って学び方の選択肢を増やしたい。
教師と生徒が普通に話せる学校にしたい。
こうした願いが先にあって、その実現に必要なら役職や専門性を選びます。
役職は目的ではなく、自分が実現したい教育のための手段の一つ
と考えることができます。

3.今すぐ明確な将来像がなくてもよい

20代の教師が、
「10年後のキャリアを明確にしてください」
と言われても、分からないことがあります。
それで構いません。
まだ経験していない仕事について、最初から答えを決める必要はありません。
担任を経験して考えが変わる。
学年主任を経験して変わる。
異動して変わる。
子育てや介護など生活環境によって変わる。
尊敬できる教師と出会って変わる。
思ってもいなかった仕事を任されて変わる。
キャリアは、最初に作った計画どおりに進むとは限りません。
文部科学省の研修に関するガイドラインでも、教師自身がこれまでの学びを振り返り、自分の強みや課題、今後伸ばしたい分野を捉えながら、主体的・自律的に目標を設定していく考え方が示されています。(文部科学省)
将来を決め切ることより、今の自分を定期的に見直すこと
の方が重要です。

4.目標は「日本一」「地域一番」でなくてよい

教師として成長しようとすると、
「一番を目指す」
「誰にも負けない」
という目標を立てることがあります。
競争が励みになる人もいるでしょう。
しかし、教師の専門性は順位では測りにくいものです。
例えば、
授業が地域で何番なのか。
学級経営が県内で何番なのか。
教育相談が学校で何番なのか。
客観的に測定することは困難です。
それより、
「昨年度より生徒の発言を丁寧に拾える授業にする」
「不登校支援について一次資料と研究を読む」
「若手から相談されたとき、すぐ答えを与えず一緒に考えられるようになる」
という目標の方が、自分の行動につながります。
他者との順位ではなく、自分が何をできるようになりたいのか
を考えます。

5.大きな目標を「次の行動」まで下ろす

「授業をよくしたい」
だけでは、何をすればよいか分かりません。
そこで、少し小さくします。
例えば、
授業をよくしたい。

生徒が考える時間を増やしたい。

自分の説明時間を見直す。

来週一度、授業を録画して確認する。
このようにします。
管理職を考えているなら、
管理職になりたい。

学校組織について理解したい。

今年は学校予算と年間行事計画を学ぶ。

今月、管理職に一度話を聞く。
という形でも構いません。
遠い目標より、次に何をするかが分かる目標
の方が実際の成長につながります。

6.「自分の強み」を定期的に確認する

自分の弱点ばかり見ていると、教師の仕事は苦しくなります。
教師に求められることは多いからです。
授業。
学級経営。
生徒指導。
保護者対応。
ICT。
校務。
特別支援。
組織運営。
すべて得意な人はいません。
だから、
「何ができていないか」
と同時に、
「自分は何なら周囲に貢献できるか」
を考えます。
文部科学省も、教師と管理職との対話において、自らの研修ニーズだけでなく、「自分の強みや弱み」「今後伸ばすべき力」「学校で果たすべき役割」を踏まえて学ぶことを重視しています。(文部科学省)
強みを見つけ、そこを伸ばす考え方については、教師はまず一つの専門性を育てる|強みを学校に還元し、学び続けるための17の視点でも詳しくまとめています。

7.弱みをすべて克服しようとしない

もちろん、教師として最低限必要な力は身に付けなければなりません。
しかし、すべての弱点を得意分野にする必要はありません。
例えば、
ICTがそれほど得意ではない。
行事運営が苦手。
大人数の前で話すことが得意ではない。
細かな事務処理に時間がかかる。
そうした違いはあります。
必要な水準までは学ぶ。
その先は、得意な人に相談する。
協働する。
仕組みで補う。
という方法もあります。
学校は一人で働く場所ではありません。
中央教育審議会が「多様な専門性を有する質の高い教職員集団」を掲げているのも、全員が同じ能力を持つことを目指す考え方ではありません。(文部科学省)
一人で万能になるのではなく、互いの強みを組み合わせる。
その方が組織として強くなります。

8.「やりたいこと」と「求められること」の間で考える

経験を重ねると、自分がやりたい仕事だけを担当するわけにはいかなくなります。
希望していなかった校務分掌。
初めて担当する学年。
経験のない主任。
突然任される仕事。
そうしたことがあります。
ここでは、
「自分がやりたいか」
だけでも、
「学校から求められたから」
だけでも考えません。
自分の関心。
自分の強み。
学校の課題。
今求められている役割。
今後伸ばしたい力。
これらを重ねて考えます。
文部科学省の「対話に基づく受講奨励」も、教師本人の意向を十分にくみ取りつつ、学校で果たす役割と本人の学びを結び付けることを基本としています。(文部科学省)
ときには、
自分では選ばなかった仕事から、新しい専門性が生まれる
こともあります。

9.今の役割を永遠の役割だと思わない

何年も担任を続けていると、
「自分は担任の人」
と思うことがあります。
教務主任を続ければ、
「自分は教務の人」
と思うかもしれません。
しかし、人は変わります。
学校も変わります。
求められる役割も変わります。
一つの仕事に習熟することは重要です。
一方で、
「これしかできない」
「この仕事しかしたくない」
と自分の可能性まで狭める必要はありません。
経験していない仕事に、
意外な面白さや適性があることもあります。
自分を一つの役割だけで固定しない。
キャリアの選択肢を持ち続けるために大切な考え方です。

10.異動をキャリアを考える機会にする

学校が変わると、自分に対する評価も役割も変わります。
ある学校ではICTに詳しい教師だった人が、次の学校では普通かもしれません。
ある学校では若手だった人が、異動した学校では中堅になります。
これまで担当したことのない校務を任されることもあります。
異動は負担でもありますが、
自分の専門性を相対化する機会
にもなります。
前の学校では当たり前だったことが、別の学校では違う。
自分が得意だと思っていたことを、さらに上手に行う人に出会う。
新しい課題に気付く。
そうした経験を通して、自分が次に学びたいものが見えてくることがあります。

11.研修を「参加した数」で考えない

教師として成長したいと思うと、研修をたくさん受けることがあります。
研修そのものには意味があります。
しかし、
10本受講した教師が、5本受講した教師より成長しているとは限りません。
研修履歴についても、文部科学省は記録そのものを目的化しないことを明確にしています。研修履歴は、自分の学びを振り返り、新たな学びにつなげるための「手段」として活用するものです。(文部科学省)
研修を受けた後に、
何を持ち帰ったか。
何を試したか。
何が変わったか。
次に何を学びたいと思ったか。
そこまで考えます。
研修歴を増やすより、実践と学びをつなぐ。
その方が重要です。

12.経験年数だけで成長を測らない

10年働いたから、10年分成長するわけではありません。
同じ経験を繰り返すこともあれば、一つの経験から多くを学ぶこともあります。
教師の専門性についての研究では、教師の成長を、知識や技術の獲得だけでなく、実践を振り返りながら専門家として発達していく過程として捉える議論が積み重ねられています。鹿毛雅治は、教師を「学び続ける教師」として捉え、教職を含む多様な人生経験の積み重ねを専門性形成の重要な要素として論じています。(J-STAGE)
したがって、
「何年経験したか」
だけではなく、
「その経験から何を考え、次にどう変えたか」
を大切にします。

13.他者との対話で自分の方向を確かめる

自分のキャリアを一人で考えていると、視野が狭くなることがあります。
信頼できる先輩。
同僚。
管理職。
別の学校の教師。
大学の先生。
教育委員会の指導主事。
自分とは違う職種の人。
ときどき話をします。
「自分は何が得意に見えますか」
「今後、どんな経験をした方がよいと思いますか」
と聞いてみるのもよいでしょう。
自分では普通だと思っていたことを、
「そこはあなたの強みだと思う」
と言われることがあります。
反対に、自分では得意だと思っていたものに、新しい課題を指摘されることもあります。
教師の専門性開発についても、近年は省察だけでなく、他者と協働しながら専門性を形成していく教師像が論じられています。(J-STAGE)
キャリアは一人で設計するものではなく、対話しながら見つけていく側面があります。

14.人生全体からキャリアを考える

教師のキャリアだけを切り離して考えないことも重要です。
仕事。
家庭。
健康。
子育て。
介護。
趣味。
地域活動。
学び。
自分の人生には、学校以外にも様々な要素があります。
ある時期には仕事を優先したい。
ある時期には家庭を優先したい。
体調を整えることを最優先にする時期もある。
どれも自然です。
「今年は大きな挑戦をしない」
という選択もあります。
常に上を目指し続けなければ成長が止まるわけではありません。
立ち止まる時期。
整える時期。
深める時期。
広げる時期。
役割を引き受ける時期。
人に任せる時期。
長い教師人生には、いろいろな時期があります。

15.管理職になる・ならないを早く決めすぎない

管理職についても同じです。
「絶対に管理職になる」
と早く決める人もいます。
「自分は絶対にならない」
と思う人もいます。
どちらでも構いません。
ただ、経験する前から選択肢を完全に閉じる必要もありません。
学年主任を経験して考えが変わる。
学校全体を見る仕事を経験して変わる。
尊敬する管理職に出会って変わる。
逆に、管理職の仕事をよく知った上で、
「自分は授業や生徒との直接的な関わりを続けたい」
と思うこともあります。
重要なのは、
役職の上下ではなく、自分はどの立場なら教育に最も力を発揮できるか
を考えることです。
管理職は、教師キャリアの「最終地点」ではありません。
多くある選択肢の一つです。

16.年に一度、自分に5つの質問をする

キャリアプランを何ページも作る必要はありません。
年に一度程度、次の5つを考えるだけでも十分です。
①今年、できるようになったことは何か
授業、生徒対応、校務、組織などから考えます。
②今、自分の強みは何か
自分だけでなく、周囲から言われたことも含めます。
③今、最も困っていることは何か
困りごとは、次に学ぶテーマになることがあります。
④来年度、経験してみたいことは何か
大きな役職でなくても構いません。
⑤三年後、どのように働いていたいか
役職名ではなく、働いている姿を想像します。
三年後の答えは途中で変わって構いません。
むしろ、定期的に書き換えます。
文部科学省も、教師自身が学びを振り返り、現状を把握し、主体的・自律的に次の目標を設定することを重視しています。(文部科学省)

17.「どこまで行くか」ではなく「どうありたいか」

教師として20年、30年働けば、多くの役割を経験します。
思いどおりにいくこともあります。
希望していない仕事を任されることもあります。
評価されることもあります。
うまくいかないこともあります。
だからこそ、役職や肩書だけを目印にすると、途中で方向を見失うことがあります。
校長になったか。
主任になったか。
有名になったか。
表彰されたか。
それだけで教師の価値は決まりません。
目の前の子どもに丁寧に向き合う。
授業を少しずつ改善する。
困っている同僚を支える。
自分の専門性を周囲へ還元する。
必要なときには人に助けを求める。
新しいことを学ぶ。
自分とは違う考えを聞く。
そして、ときどき、
「自分は、どんな教師でありたいのだろう」
と考える。
教師のキャリアを考えるとは、未来の肩書を決めることではありません。
今の自分の強み、課題、大切にしたいこと、生活、学校から求められている役割を見ながら、次の一歩を選び続けること
だと思います。
目標は変わってよい。
立ち止まってよい。
方向を変えてよい。
ただ、自分の意思とは関係なく年月だけが過ぎていくのではなく、ときどき自分の歩いている方向を確かめる。
それが、長い教師人生を自分らしく歩いていくために大切なことだと考えます。

参考資料

中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」 (文部科学省)
文部科学省「研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励に関するガイドライン」 (文部科学省)
文部科学省「公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針」 (文部科学省)
・鹿毛雅治「教師の専門的能力」『教育心理学年報』第62集 (J-STAGE)
・木村優「公教育の変革を牽引する教師の専門性開発のビジョン―省察的・協働的・協創的専門職としての教師の定位―」『教育学研究』 (J-STAGE)

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