- 発問したのに手が挙がらない場面から考える
- 1.沈黙を児童生徒の問題だけにしない
- 2.発問と指示を混ぜない
- 3.問いを短くしても、思考を浅くしない
- 4.考える前に発言を求めない
- 5.待つ時間に教師が話し続けない
- 6.全員が同じ速さで答えられると想定しない
- 7.挙手の人数だけで授業の成否を決めない
- 8.正解が一つの問いと、複数の考えを比べる問いを分ける
- 9.答えにくい問いは二段階にする
- 10.選択肢は考える入口として使う
- 11.隣同士の相談を万能策にしない
- 11補.「分からない」と言える経路を残す
- 12.発言しない児童生徒を突然追い詰めない
- 13.誤答の扱いで次の挙手が変わる
- 14.正答にも理由を求める
- 15.同じ子ばかり答える状況を変える
- 16.黒板に問いを残す
- 17.ICTで回答を集める前に目的を決める
- 18.理科では予想と観察事実を分けて問う
- 19.国語では本文に戻る問いを使う
- 20.数学では途中の考えを見取る
- 21.体育や音楽では動きや音で答える
- 21補.発問が機能しなかった授業を責めない
- 22.授業後は発問を一つだけ振り返る
- 22補.若手への助言は発問を一緒に作り直す
- 23.管理職や授業研究担当者は挙手数だけを評価しない
- 24.明日の授業で試す小さな手順
- 参考資料・関連記事
発問したのに手が挙がらない場面から考える
授業中、教師が問いを投げかけても、教室が静まり返ることがあります。数秒待っても手が挙がらず、教師が自分で答えを言ってしまう。あるいは、いつも答える数人を指名して授業を進める。どちらも授業を止めないための工夫ですが、問いを出した意味が薄くなることがあります。
静かな教室を、直ちに「意欲がない」「理解していない」と判断するのは早計です。問いの意味がつかめない、考える材料が足りない、言葉にする時間が必要、間違いを恐れているなど、背景は一つではありません。今回は発問そのものの作り方と、発問後の教師の動きを分けて考えます。
1.沈黙を児童生徒の問題だけにしない
答えが出ないとき、まず教師が点検したいのは、問いを聞いた児童生徒に何をしてほしいのかが伝わっているかという点です。「どう思いますか」は便利ですが、何について、どの資料を手掛かりに、どの程度説明すればよいのかが不明なことがあります。
発言しない理由を本人の性格や積極性だけに帰すと、問いの設計を改善する機会を逃します。反対に、すべてを教師の責任にする必要もありません。授業の内容、教室の関係性、個々の児童生徒の状態を見ながら、変えられる条件を一つずつ確かめます。
2.発問と指示を混ぜない
「この資料を見て、気付いたことを話し合って、考えを書いてください」と一度に伝えると、児童生徒は何から始めるのか迷うことがあります。発問は考える内容を示し、指示は行動を示すものとして分けてみます。
例えば社会科なら、「この二つのグラフで、増え方が違うのはどの期間ですか」が発問です。その後に「まず一人で線を引きます。三十秒後に隣の人と確認します」と指示します。発問の良し悪しを、指示の分かりにくさと混同しないための工夫です。
3.問いを短くしても、思考を浅くしない
短い発問とは、単純な暗記問題だけを意味しません。「どちらの説明が妥当ですか」「根拠になる一文はどこですか」と焦点を絞ることで、複雑な思考への入口をつくることもできます。
長い説明をしなければ答えられない問いは、板書や資料で条件を見えるようにしてから出します。問いの文が短くても、資料を比較したり、根拠を選んだりする活動には十分な深さがあります。
4.考える前に発言を求めない
問いを出した直後に「はい、誰か」と言うと、すぐに答えが浮かぶ児童生徒が中心になりやすくなります。まず考える時間を示し、必要ならメモや図で整理させます。
例えば「一分間、自分の考えをノートに書きます。その後で二人の考えを聞きます」と伝えます。一分が常に最適という意味ではありません。計算の確認と資料の比較では必要な時間が違うため、問いの負荷に合わせて調整します。
5.待つ時間に教師が話し続けない
沈黙が不安になると、教師は問いを言い換えたり、ヒントを重ねたりしがちです。しかし、児童生徒が考え始めたところで新しい説明が入ると、かえって思考が途切れることがあります。
問いを一度明確に示したら、まず児童生徒の表情や手元を見ます。必要に応じて「資料の左側を見てください」など短い補助を入れますが、答えを先に言い過ぎないようにします。待つことは放置することではなく、学習の状況を観察する時間でもあります。
6.全員が同じ速さで答えられると想定しない
口頭で即答できることと、内容を理解していることは同じではありません。考えを文章にしてから話したい児童生徒もいれば、図にすれば説明しやすい児童生徒もいます。
書く、指で示す、選択肢を選ぶ、短く話すなど、内容に応じて表現方法を選びます。ただし、選択肢を選べたことだけで十分な理解と判断せず、必要な場面では理由や根拠を確かめます。
7.挙手の人数だけで授業の成否を決めない
たくさん手が挙がる授業は活気があります。しかし、挙手が多いから全員が理解したとは限りません。反対に挙手が少なくても、手元の記述には豊かな考えがある場合があります。
教師は発言者だけでなく、ノート、図、短い確認問題など複数の手掛かりから理解を見取ります。国立教育政策研究所の学習評価に関する参考資料も、教科の目標や評価規準に応じた方法の工夫を扱っています。挙手数を学習評価そのものと取り違えないことが重要です。
8.正解が一つの問いと、複数の考えを比べる問いを分ける
「この計算の答えはいくつですか」と「なぜこの方法で計算できるのですか」は、求める思考が違います。前者は短い確認、後者は理由の説明です。どちらが優れているということではありません。
例えば算数で分数の計算を扱うなら、まず計算結果を確かめ、次に「分母をそろえる必要があるのはなぜですか」と問うことができます。理解が不十分な段階で理由の説明だけを求め続けない配慮も必要です。
9.答えにくい問いは二段階にする
「この登場人物の心情はどう変化しましたか」と尋ねても答えが出ないときは、「最初の場面でどんな言葉を使っていますか」「最後の場面ではどうですか」と、本文を確かめる問いに分けられます。
ただし、教師が細かく誘導し過ぎると、児童生徒が自分で読み取る機会を失います。どの部分でつまずいているのかを見て、必要な一段だけ足場を置くという考え方が役立ちます。
10.選択肢は考える入口として使う
答えが出ないとき、「AとBのどちらに近いですか」と選択肢を示す方法があります。選択するだけなら参加しやすくなりますが、そこで終わると理由を確かめられません。
例えば理科で「温度が上がると体積は増える、変わらない、減るのどれだと思いますか」と問った後、「そう考えた根拠は何ですか」と続けます。誤った予想も、実験前の考えを確かめる材料として扱えます。
11.隣同士の相談を万能策にしない
一人では答えにくい問いも、短い対話で考えを整理できる場合があります。一方、二人とも何を考えればよいか分からなければ、相談時間だけが過ぎてしまいます。
対話の前に「資料から分かることを一つ見つける」など個人の課題を明確にします。対話後は「相手の意見で納得した点」だけでなく、「まだ確かめたい点」も聞きます。話し合いの有無より、何を学べたかを見ます。
11補.「分からない」と言える経路を残す
教師が「分からない人はいますか」と尋ねても、教室全体の前では手を挙げにくい児童生徒がいます。困っていることを示すカードや、ノートの端に印を付ける方法など、周囲に知られずに教師へ伝えられる経路を用意することも考えられます。
ただし、教師がその合図を見逃しては意味がありません。合図があったときに、いつ、誰が、どのように支援するかを決めておきます。教師一人で全員に即時対応できない場合は、授業後に確認する、次の時間に共通のつまずきを扱うなど、実行できる方法を選びます。
発言を促す工夫は、声を出せる子を増やすことだけではありません。学習の困りごとを安全に伝えられる教室をつくることも、その一部です。
12.発言しない児童生徒を突然追い詰めない
手が挙がらない子を突然指名すると、教室に緊張が生まれることがあります。もちろん、全員に発言の機会をつくることは大切ですが、答えられないことを人前で責める必要はありません。
「考えがまとまったら後で聞きます」「まずノートの一行を読んでもよいです」と選択肢を示す方法があります。児童生徒の特性や状況に応じ、事前に発言の見通しを伝えることも考えられます。
13.誤答の扱いで次の挙手が変わる
答えが違ったときに「違います、次」とだけ返すと、児童生徒は間違いを避けようとするかもしれません。誤答を必ず褒めるという意味ではなく、どこまで考えられているかを見取ります。
例えば「その考えは、この資料のどの部分から出てきましたか」と尋ね、根拠を確認します。そのうえで事実と合わない点を整理します。誤りを放置せず、人格や努力の否定にもつなげない返し方を意識します。
14.正答にも理由を求める
正しい答えが出ると、教師はすぐ次に進みたくなります。しかし、たまたま当たったのか、根拠を持って答えたのかは、答えだけでは分かりません。
「どこを見て判断しましたか」「別の方法でも確かめられますか」と続けると、考え方を共有できます。ただし毎回長い説明を求めると授業が進まないため、その時間に確かめたい内容を絞ります。
15.同じ子ばかり答える状況を変える
いつも同じ児童生徒が答えると、教師も安心して進められます。しかし、その状態が続くと、ほかの子が「誰かが答えてくれる」と感じることがあります。
一人で短く書く、全員がカードで選ぶ、数人の記述を匿名で紹介するなど、参加の入口を増やします。全員に毎時間発言させることを目的にせず、全員が考える機会を確保することを優先します。
16.黒板に問いを残す
口頭で一度聞いただけでは、問いの条件を忘れることがあります。とくに複数の資料を扱う授業では、考えている途中で「何を答えるのだったか」と迷いやすくなります。
問いの中心となる言葉を板書し、必要なら「根拠を一つ」「比較するのは二つの資料」など条件も見えるようにします。文字を増やし過ぎず、何を考える時間なのかを確認できる板書を目指します。
17.ICTで回答を集める前に目的を決める
端末で全員の回答を集めれば、教師は一覧を確認できます。ただし、回答の公開範囲によっては、他人の答えに引っ張られたり、書きにくくなったりする場合があります。
まず個別に考えさせ、必要な場面で考えを共有するなど、授業の目的に合わせて運用します。個人情報や学習記録の保存・共有については、学校と設置者のルールを確認します。紙のカードで目的を果たせるなら、無理に端末を使う必要はありません。
18.理科では予想と観察事実を分けて問う
理科で実験前に「結果はどうなると思いますか」と尋ねることと、実験後に「実際に何が起きましたか」と尋ねることは違います。予想の段階では、異なる考えが出ることに意味があります。
実験後は「観察したこと」と「そこから考えたこと」を分けて聞きます。例えば金属の温まり方なら、色の変化など観察できた事実を先に確かめ、そこから温まり方を説明します。正しい結論を先に教師が言ってしまわないことが重要です。
19.国語では本文に戻る問いを使う
国語で「主人公はどんな気持ちですか」と問うと、根拠のない感想が並ぶことがあります。そこで「そう考えた言葉や行動はどこにありますか」と本文に戻る問いを組み合わせます。
ただし、一つの正解の気持ちに全員をそろえることが目的ではありません。複数の読みがある場合も、本文の表現を根拠として説明できるかを確かめます。
20.数学では途中の考えを見取る
数学で「答えは何ですか」と問うだけでは、途中の誤解を見逃すことがあります。例えば一次方程式なら、答えの数値だけでなく「その変形をした理由」を短く聞きます。
正答できなかった生徒にも「どこまでは分かりましたか」と尋ねられます。途中の式や図を共有することは、教師が次に説明すべき点を判断する材料になります。
21.体育や音楽では動きや音で答える
発問への答えは、言葉に限りません。体育なら「今の動きで体重を移したのはどの場面ですか」と問い、動作で示してもらうことができます。音楽なら、表現を変えた箇所を演奏で示す方法もあります。
文章で説明することが学習目標に適している場合もありますが、実技教科では技能そのものを確かめる方法が必要です。言葉で答える速さを、技能の理解と取り違えないようにします。
21補.発問が機能しなかった授業を責めない
経験の浅い教師は、発問しても誰も答えなかった授業を「失敗した」と感じるかもしれません。しかし、一つの問いがうまく機能しなかったことと、授業全体に価値がなかったことは別です。教師自身が何を確かめたかったのか、児童生徒にはどのような材料があったのかを整理すれば、次の授業で改善できる部分が見えてきます。
ベテラン教師でも、扱う教材や学級の状況が変われば、同じ問いが同じように働くとは限りません。授業の技術を経験年数だけで判断せず、児童生徒の反応に応じて問いを修正する専門性として捉えたいものです。
同僚に相談するなら、「あの場面で何を聞けばよかったでしょうか」と漠然と尋ねるより、「資料を示した後のこの問いで手が止まった。条件を一つ減らすなら何がよいか」と具体的に相談すると、改善案を検討しやすくなります。
22.授業後は発問を一つだけ振り返る
授業が終わったら、「今日は手が挙がらなかった」で終えず、どの問いで、何が起きたのかを振り返ります。問いが長かったのか、資料が不足していたのか、考える時間が短かったのかを具体的に確かめます。
次の授業では、一つだけ条件を変えて試します。例えば問いを板書する、最初に三十秒考える、選択肢を示した後で理由を聞く、といった小さな変更です。複数の条件を一度に変えると、何が役立ったか判断しにくくなります。
22補.若手への助言は発問を一緒に作り直す
授業研究の場で「もっと発問を工夫しましょう」とだけ伝えても、次の授業で何を変えればよいか分かりません。管理職や先輩教師は、授業者が実際に使った問いを一つ取り上げ、どこが答えにくかったのかを一緒に考えるとよいでしょう。
例えば「この文章についてどう思う?」という問いなら、「主人公が考えを変えたと分かる言葉はどこですか」と具体化する方法があります。ただし、元の問いに価値がなかったと決め付けるのではなく、授業者がどのような思考を期待していたのかを先に聞きます。
授業者の意図を確かめずに模範的な発問を押し付けると、教師の判断力を育てる機会を失います。助言の目的は正解の台詞を教えることではなく、問いを設計し直せるようにすることです。
23.管理職や授業研究担当者は挙手数だけを評価しない
授業参観で、発言が多いことをもって「よい授業」と評するのは慎重でありたいものです。問いの内容、児童生徒が考える時間、教師の見取り、発言以外の表現なども含めて授業を見ます。
授業後の協議では「何人が発言したか」だけでなく、「どの問いで考えが深まったか」「発言しなかった子の学びをどう確かめたか」を尋ねます。授業者を責めるのではなく、次の授業に使える一つの改善案を共に考えます。
24.明日の授業で試す小さな手順
最初に、授業の最後までに児童生徒が何を説明できればよいかを一つ決めます。次に、そのための問いを一文にします。問いを出したら、考える時間を確保し、必要なら書く・示す・話すなどの方法を選びます。
答えが出なければ、すぐに教師が答えを言うのではなく、問いの条件や資料を確かめます。授業後は、答えが出なかった理由を決め付けず、児童生徒の手元や発言を手掛かりに次の一手を考えます。
参考資料・関連記事
文部科学省「教育課程の実施と学習評価」。指導と評価の一体化についての公的資料です。
国立教育政策研究所「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料。教科ごとの評価方法と実践事例を確認できます。
Education Endowment Foundation(2021)Teacher Feedback to Improve Pupil Learning。教師のフィードバックに関するガイダンスです。
春野伸一『管理職(校長・教頭)への道を考え始めた先生へ』(ほんの森出版、2026年)。本記事は同書の文章を転載したものではなく、授業技術を扱う新規の実践記事です。
※本文の場面・発問例は説明のために構成したもので、特定の学校で実証した事例ではありません。研究成果を示す箇所と実践上の提案を区別して記述しています。
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