こまかな授業技術の基本①|「指示したのに動かない」を減らす、伝わる指示の出し方

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「今、説明しましたよね」

「何回言ったら分かるのですか」

授業中、つい口にしたくなる言葉です。教科書を開いてほしいのに開かない。ノートに書いてほしいのに手が止まっている。話し合いを始めてほしいのに、何を話せばよいのか分からず周りを見ている。

そんな場面に出会ったら、子どもの集中力や意欲を問題にする前に、教師の「指示」を見直してみたいものです。教師が言ったことと、子どもに伝わったことは、同じではありません。

授業を改善すると聞くと、新しい教材やICTの活用、優れた発問を考えたくなります。しかし、授業の土台を支えるのは、もっと小さな技術です。その一つが「指示の出し方」です。

この連載「こまかな授業技術の基本」では、明日の授業で一つ試せる技術を、具体的な場面から考えます。第1回は、指示を短く、具体的に、伝わる形で出すことです。

1.指示は、教師の言葉ではなく子どもの行動で確かめる

指示とは、子どもに「次に何をするか」を伝える働きかけです。教師が話し終えたことは、指示が完了したことを意味しません。子どもが何をするか理解し、実際に動けるところまで見届けて、初めてその指示が機能したと考えられます。

例えば、「それでは、いつものように進めてください」と言われても、初めてその活動をする子どもには分かりません。「いつものように」が分かる子もいれば、何から始めればよいか分からない子もいます。

授業者にとって当然の手順でも、子どもにとっては初めてかもしれません。教師の頭の中にある作業の順序を、子どもが見える形にする必要があります。

「伝えたはずだ」と考える前に、「何をすればよいか分かる言葉だったか」と自分に問い直します。これは若手だけでなく、経験を積んだ教師にも必要な点検です。

2.説明・発問・指示を混ぜない

授業中の教師の言葉には、異なる役割があります。説明は、知識や考え方、活動の意味を分かるように伝えること。発問は、子どもの思考を動かす問いかけ。指示は、具体的な行動を促す言葉です。

例えば理科で、「金属を加熱すると、どうなると思いますか」は発問です。「前の実験を思い出してみましょう」は思考を支える働きかけです。「予想を一つノートに書きます」は指示です。

これらを一息に続けると、子どもは考えるべきなのか、聞くべきなのか、書くべきなのか迷います。問いを出したら、まず考える時間をつくる。その後で「理由を一つ書きます」と指示する。順序を分けるだけでも授業の流れは見通しやすくなります。

本ブログの「発問と質問の違いと発問の基本」でも、発問と指示を区別する重要性を取り上げています。考えさせたいときに、活動の手順を長々と話し続けないことが大切です。

3.「一時に一事」は、最初に見直したい基本

「教科書の42ページを開いて、資料を読んで、重要なところに線を引いて、隣の人と確認して、終わったらプリントを出してください」

教師は一度で済ませたつもりでも、子どもには五つの作業が同時に届きます。聞いた言葉を覚えながら、教科書を探し、ページを開き、次の作業を思い出さなければなりません。

そこで、まず「教科書42ページを開きます」と伝えます。開けたことを確認してから、「二段落目を読みます」。次に「大事だと思う言葉に一本線を引きます」と続けます。

このように、一度に求める行動を絞る方法は、教育技術の世界で「一時に一事」と呼ばれることがあります。ただし、どの学年でも必ず一つずつしか指示してはいけないという意味ではありません。手順を理解し、自立して進められる子どもには、複数の工程をまとめて任せることもできます。

大切なのは、子どもが今できる範囲に合わせて、指示のまとまりを調整することです。

4.指示は「短い」だけでなく「具体的」であること

「きちんとやりましょう」「しっかり考えましょう」「ちゃんとまとめましょう」。どれもよく使う言葉です。しかし、行動として何を求めているのかが曖昧です。

「しっかり考えましょう」を「資料AとBの違いを二つ見つけます」に変えてみます。「きれいに書きましょう」を「題名を一行目に書き、次の行から本文を書きます」に変えてみます。

「静かにしてください」も、状況によっては「今から30秒、説明を聞きます」の方が分かりやすいでしょう。何をしてはいけないかだけでなく、何をすればよいかを示します。

ただし、指示を細かくしすぎると、子どもが自分で考える余地を奪います。基本動作や安全に関わる場面では具体的に伝え、考え方や表現の選択が必要な場面では自由度を残す。その区別が必要です。

5.「これ」「そこ」「あれ」を減らす

教師は黒板を指さして「ここを見て」「これを書いて」と言います。教師自身には何を指しているか明らかでも、教室の後方にいる子どもには分からない場合があります。

「右上の青い枠を見ます」「教科書42ページの下の表を見ます」「黒板の二番目の式を写します」と、対象を言葉にします。

画面共有や電子黒板でも同じです。教師の手元ではカーソルが見えていても、教室では小さくて分からないことがあります。必要なら拡大し、位置を言葉で示します。

国立特別支援教育総合研究所の発達障害教育推進センターも、指示代名詞をできるだけ避け、必要な情報を短く明確に伝える配慮を紹介しています。これは特定の子どもだけの技術ではありません。

6.指示を出す前に、聞ける状態をつくる

子どもがプリントを配っている途中に次の指示を出しても、聞き取れない子が出ます。ノートを片付けながら教師の説明を聞き、同時に新しい作業を覚えるのは簡単ではありません。

まず、活動の切れ目をつくります。「手を止めて、次の手順を確認します」と伝え、必要な範囲で注意が向いたことを確認してから話します。全員に一律の姿勢を強制することが目的ではありません。聞くべき情報にアクセスできる状態を整えることが目的です。

聞こえにくさ、視線を向けにくさ、感覚面の事情がある子どももいます。教師の目を見ないから聞いていない、と決めつけることは避けます。必要な配慮を行いながら、理解できたかを行動や応答で確かめます。

教師が大きな声を出す前に、声を届ける条件を整える。その小さな工夫が、授業の落ち着きにもつながります。

7.指示を出したら、すぐに次の説明を重ねない

「ノートに日付を書きます」と言った直後、教師が「それから、今日の内容は……」と話し始めることがあります。子どもは書くことと聞くことを同時に求められます。

短い指示を出したら、子どもが行動する時間を取ります。教科書を開く、道具を準備する、題名を書く。その行動を確認してから、次へ進みます。

「早く進めなければ」と思うほど、教師の言葉は増えがちです。しかし、説明の途中で何度も聞き返されるなら、結果として時間がかかります。

一度立ち止まり、子どもが動き始めるのを待つことも授業技術です。沈黙を埋めるために話し続けないようにしたいものです。

8.「何を」「どこまで」「いつまで」をそろえる

作業を始めるときに、「問題を解いてください」だけでは、何問解くのか、どこまでできたらよいのか、いつ終えるのかが分からない場合があります。

例えば、「問題1と2を解きます。途中式を残します。まず4分間です」と伝えます。これで、対象、成果物、時間の見通しができます。

話し合いなら、「二人で考えを一つずつ紹介します。相手の理由を一つメモします。3分後に全体で共有します」と具体化できます。

ただし、時間を示すことは、全員を同じ速度で終わらせることではありません。時間が足りない子どもには支援や延長を検討し、早く終えた子どもには考えを深める課題を用意します。

終わり方が見えていると、子どもは自分で進み具合を確かめやすくなります。

9.「終わった人はどうするか」まで準備する

授業中、早く終わった子どもが手持ち無沙汰になり、隣の子に話しかけることがあります。その場で「静かに待ちなさい」と言うだけでは、次の行動が分かりません。

「終わった人は、別の解き方がないか考えます」「自分の文章を読み直し、理由が伝わるか確認します」と、学習につながる選択肢を示します。

反対に、作業が終わっていない子どもを急がせすぎないことも必要です。早く終わることを競争にすると、丁寧に考える子どもが不利になります。

活動の終了条件は、単なる時間管理ではなく、子どもが安心して学びを進めるための支援です。

10.大事な指示は板書や画面に残す

口頭の指示は、話し終わると消えてしまいます。聞き逃した子どもは、友達の動きを見て推測するしかありません。

そこで、活動の手順を黒板の端に残します。例えば「①資料を読む ②違いを二つ書く ③二人で比べる」のように、短い言葉で示します。今取り組む段階に印を付けてもよいでしょう。

ただし、黒板に文章を詰め込みすぎると、かえって分かりにくくなります。授業の目標や考える材料と、作業の手順を見分けられるように配置します。

ICT端末で手順を配ることもできますが、端末操作が負担になる場合は黒板の方が適しています。方法を選ぶ基準は、機器の新しさではなく、子どもが必要な情報を確かめられるかどうかです。

11.「分かりましたか」だけで確認しない

「分かりましたか」と尋ねると、子どもは「はい」と答えるかもしれません。しかし、それで全員が手順を理解したとは限りません。

「最初にすることは何ですか」「どこまでできたら終わりですか」と尋ねたり、実際に最初の作業を始めてもらったりして確認します。

指示を言い直せても、行動に移せない子どももいます。逆に、言葉で説明するのが苦手でも、作業なら理解できている子どももいます。確認方法を一つに固定しないことが大切です。

できなかったときは、「聞いていなかった」とすぐに判断せず、何が分かりにくかったのかを確かめます。指示の理解と、課題そのものの難しさは分けて考えます。

12.動けない子どもを叱る前に、つまずきを見立てる

指示の後に動き出さない子どもがいたとします。理由は一つではありません。聞き取れなかったのかもしれません。言葉の意味が分からなかったのかもしれません。どこから始めればよいか迷っているのかもしれません。課題に不安がある場合もあります。

「今はどこまで分かった?」と短く尋ねます。「最初の一行だけ一緒にやろうか」と支援することもできます。周囲の前で何度も注意するより、静かに近づいて手順を確かめる方がよい場面があります。

国立特別支援教育総合研究所の事例では、指示を理解しにくい背景を観察し、視覚的な手掛かりや段階的な指示などを検討しています。子どもが動けない原因を本人の意欲だけに帰さない姿勢が重要です。

13.教科別に見る、指示の言い換え

国語

曖昧な指示:「主人公の気持ちを考えてください」。具体化するなら、「気持ちが変わったと思う一文に線を引きます。その理由を一つ書きます」。思考そのものを細かく指定するのではなく、考え始める手掛かりを示します。

数学

曖昧な指示:「ちゃんと途中式を書いて」。具体化するなら、「式を一行ずつ書き、等号の左右がどう変わったか分かるようにします」。慣れてきたら、自分に合う書き方を考えさせる余地も残します。

社会

曖昧な指示:「資料を見て話し合って」。具体化するなら、「二つのグラフの違いを一つ見つけます。どこを見てそう考えたか、隣の人に説明します」。資料に戻れる指示にします。

理科

曖昧な指示:「実験の準備をして」。具体化するなら、「保護眼鏡を着けます。次に、器具の配置を確認します。教師の合図があるまで加熱しません」。安全に関わる場面では、活動開始の条件を特に明確にします。

英語

曖昧な指示:「ペアで練習して」。具体化するなら、「Aさんが質問を読み、Bさんが答えます。次に役割を交代します」。活動の型を示した後、内容を自分で工夫する時間へ移します。

14.安全に関わる指示は、普段より明確にする

理科の実験、体育の器具使用、技術・家庭科の工具、校外学習での移動などでは、指示の曖昧さが事故につながることがあります。

「危ないから気を付けて」だけでは十分ではありません。「まだ触らない」「この線の外で待つ」「器具の異常を見つけたら作業を止めて知らせる」など、必要な行動を具体的に示します。

作業開始前には、危険な場面と中止の合図を共有し、実際に理解しているかを確認します。子どもが指示どおりに動けなかった場合は、活動を止めて条件を整え直します。

ここでは「子どもに考えさせるために、あえて指示を曖昧にする」ことは適切ではありません。自分で考える学習と、安全のための明確な指示は区別します。

15.子どもの主体性と、具体的な指示は対立しない

「指示を細かくすると、子どもが受け身になるのでは」と心配する先生もいます。その懸念には一理あります。教師が考え方から答え方まで決めれば、子どもの選択の余地は減ります。

しかし、学習の手順が分からず、何も始められない状態が主体的とは言えません。例えば、「資料の違いを二つ見つける」という活動の入口は示し、どこに注目し、どう説明するかは子どもに任せます。

初めは手順を丁寧に示し、経験を積んだら指示を減らす。教師が支え続けるのではなく、支えを少しずつ外していくことも重要です。

目指すのは、指示がないと動けない子どもをつくることではありません。必要な支援を受けながら、自分で学習を進められるようになることです。

16.指示の後は、教室全体の「動き出し」を見る

教師が指示を出した後、すぐに教卓で次の資料を探し始めると、子どもがどう受け止めたかを見逃します。

誰がすぐに始めたか。誰が隣を見ているか。どの列で手が止まっているか。作業の目的を取り違えている子どもはいないか。教室全体の動きを短く確認します。

姫野完治(2020)は、熟練教師と教育実習生の視線配布を比較した事例研究で、熟練教師が意図を持って特定の子ども集団に視線を向け、理解の状況などを捉えていることを報告しています。研究の対象と方法には限界があるため、誰にでも同じ結果が出ると断定はできませんが、教師が「何を見るか」を決めて観察することの重要性を考える材料になります。

指示の良し悪しは、教師の話し方だけでは分かりません。子どもの反応を見て、次の指示を調整することが必要です。

17.うまく伝わらなかったときの立て直し方

指示が伝わらなかったと気づいたら、長い説教を始める必要はありません。「今の説明は分かりにくかったですね。最初にすることを一つに絞ります」と言い直せばよいのです。

教師が自分の言葉を修正する姿は、間違いを認めて学び直す姿でもあります。子どもだけに「よく聞きなさい」と求めるのではなく、教師も伝え方を変えます。

ただし、指示が伝わらない原因が、教室内の人間関係や不安、学習内容の難しさにある場合もあります。言葉を短くするだけで全てが解決するわけではありません。

授業技術は万能の方法ではなく、子どもの実態に応じて調整する道具です。技術を守るために子どもを動かすのではなく、子どもの学びを支えるために技術を使います。

18.若手教師とベテラン教師で、振り返る点は少し違う

若手教師は、まず一時間の授業で指示が長くなる場面を一つ見つけてみます。授業準備の段階で、子どもに伝える言葉を短く書いておくとよいでしょう。活動を始めるときの最初の一文だけでも準備しておくと、焦って言葉を重ねることを減らせます。

ベテラン教師は、長年の経験から省略している手順がないかを点検します。「例年、この学年なら分かる」「前のクラスでは通じた」という経験が、今の子どもに合うとは限りません。

授業を見合う際も、「指示がうまい」「テンポがよい」という印象だけで終わらせず、「何を言った直後に何人が動き始めたか」「どこで聞き返しが出たか」と具体的に話し合います。

指示の言葉を一つ変えた結果、子どもの動きがどう変わったか。小さな事実から学ぶことが、授業研究を実のあるものにします。

19.明日の授業で試す、五つの小さな改善

第一に、長い指示を一つ選び、二つか三つに分けます。第二に、「これ」「そこ」を具体的な場所や教材名に置き換えます。第三に、作業の終わり方を示します。第四に、大事な手順を黒板の端に残します。第五に、指示後の子どもの動きを数秒観察します。

五つ全部を一度に行う必要はありません。例えば、明日は「教科書42ページを開きます」と伝えた後、全体が開けたかを見る。それだけでも、普段の授業と違う発見があるかもしれません。

授業後は、「指示を何回出したか」より、「どの場面で子どもが迷ったか」を一行で記録します。翌日、同じ場面で言い方を変え、子どもの反応を比べます。

授業改善を大きな決意で終わらせず、明日の一つの行動に落とし込むことが大切です。

20.指示を減らす先にある授業

指示の出し方を磨く目的は、教師の言うことを素早く聞く子どもを育てることではありません。子どもが、何を学び、どう進めればよいかを理解し、安心して考えられる授業をつくることです。

最初は教師が「教科書を開きます」と伝えます。やがて子どもが、自分で必要な資料を選び、考える順序を決め、分からないときには手掛かりを探せるようになる。その変化を目指したいものです。

「言ったのに動かない」と感じたときこそ、授業を変える入口があります。子どもを責める前に、言葉を一つ変える。活動の順序を一つ整える。子どもの反応を一度見直す。

よい指示とは、教師の言葉が少ないことではなく、子どもが自分で学び始められることです。

参考資料

・春野伸一『管理職への道を考え始めた先生へ』(ほんの森出版、2026年)。教職員の強みを生かすこと、対話と支援を重視する考え方を参照。
・春野伸一「中学校教師の授業力の基本30」『応援の空』。
・春野伸一「発問と質問の違いと発問の基本」『応援の空』。
・国立特別支援教育総合研究所・発達障害教育推進センター「指示を理解することが苦手なのですが・・・」。
・同研究所「通常の学級における教育的な配慮について」。
・文部科学省「生徒指導提要(改訂版)」。
・姫野完治(2020)「授業実施中の授業者の視線配布と思考様式の解明―主観カメラを活用した事例研究を通して―」『日本教育工学会論文誌』44(1), 95–104。
※授業場面の会話例は、考え方を示すために構成した例であり、特定の実践記録を再現したものではありません。

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