授業の終わりに、教師が「今日の振り返りを書きましょう」と伝えます。子どもたちはノートを開き、「楽しかったです」「難しかったです」「よく分かりました」と書きます。教師はそれを見て、授業を終えます。
この場面は珍しくありません。振り返りの時間を確保していること自体には意味があります。しかし、毎時間同じ感想が並び、次の授業にもつながらないのであれば、少し方法を見直す余地があります。
今回の「こまかな授業技術の基本」は、授業の終わりの3分を、児童生徒が自分の学びを確かめ、教師が次の指導を考える時間にするための具体的な技術を扱います。
ここでいう3分は、実践を始めるための一例です。全教科・全授業で3分間の記述を義務付けるという意味ではありません。単元のねらいや子どもの状態によって、口頭での確認、短い記述、実演などを選びます。
- 1.「振り返り」と「感想」を混同しない
- 2.授業の最後に確かめる一問を、授業前に決める
- 3.「まとめ」と「振り返り」の役割を分ける
- 4.終わり3分の基本形をつくる
- 5.問いを「何を見たいか」で三種類に分ける
- 6.「分かりました」を一段具体的にする
- 7.理科では「予想と結果のずれ」を扱う
- 8.数学では「解けたか」だけでなく方法を見せる
- 9.国語では「根拠が変わった瞬間」を聞く
- 10.社会では「資料と主張」を結び付ける
- 11.実技教科では文章以外の振り返りを使う
- 12.書けない子には「書く前の支援」を用意する
- 13.いつも「特になし」と書く子を責めない
- 14.「毎時間書かせる」ことを目的にしない
- 15.授業時間が足りないときは問いを減らす
- 16.記述を集める前に、教師が見る点を一つ絞る
- 17.返答の形式より、学び直せる機会を用意する
- 18.振り返りを成績の点数に直結させない
- 19.ICTは回収の便利さだけで選ばない
- 20.振り返りを翌日の指導改善に生かす
- 21.ベテランにも役立つ「一つだけ変える」授業改善
- 22.明日の授業で試す最小の手順
- 参考資料・関連記事
1.「振り返り」と「感想」を混同しない
「楽しかった」という感想には価値があります。安心して学べたか、活動に参加できたかを知る手がかりにもなります。ただ、それだけで学習内容の理解や、考え方の変化まで分かるとは限りません。
例えば、理科で水溶液の性質を調べた後に「実験が楽しかった」と書かれていても、何を根拠に性質を判断したのかは読み取れません。
そこで「どの結果を根拠に、どのように判断したか」と問います。すると、学習の内容に近づきます。
感想を書いてはいけないのではありません。授業で確かめたいことに応じて、感想を聞くのか、理解を確かめるのか、次の課題を見つけるのかを分けることが大切です。
2.授業の最後に確かめる一問を、授業前に決める
授業の終わりに何を確認するかは、授業を始める前に決めておくと考えやすくなります。ただし、「毎時間、目標について文章を書かせる」という意味ではありません。児童生徒の学びの状況に応じて、口頭で説明する、短い問題を解く、図で示すなど、確かめ方を選びます。
例えば、小学校算数で長方形の面積を扱う授業なら、「縦と横の長さを入れ替えても面積が同じになる理由を、図か言葉で示そう」という一問が考えられます。答えだけでなく、どのように考えたかを見取るための問いです。
教師は回答を見て、面積の求め方を説明できる児童、式は書けても説明が難しい児童、図の捉え方から確認が必要な児童がいるかを確かめます。次の授業で何を扱うかを考える材料にするのです。
文部科学省の「教育課程の実施と学習評価」でも、各教科等の目標に向けて学習状況を把握し、指導の改善に生かすことが示されています。ここで紹介した問いと見取り方は、その考え方を授業に取り入れるための実務的な例です。
3.「まとめ」と「振り返り」の役割を分ける
授業の「まとめ」は、学習した内容や考え方を整理するものです。一方、「振り返り」は、何を理解し、どこで考えが変わり、何がまだ曖昧なのかを児童生徒自身が確かめる営みとして設計できます。
例えば、まとめが「電流の大きさには回路のつなぎ方による特徴がある」であれば、振り返りでは「予想と実験結果が違ったところはどこか」「次に回路を組むときに注意したいことは何か」と尋ねます。
毎時間、両方を長文で書かせる必要はありません。まとめを全体で共有した後、一つだけ振り返りの問いを選ぶ方法もあります。
黒板に「まとめ」と書いた後、さらに「振り返り」を書かせることが目的にならないようにしたいものです。
4.終わり3分の基本形をつくる
一つの方法として、最後の3分を次のように使います。最初の30秒で教師が問いを示し、続く90秒で児童生徒が書くか考えを整理し、残り60秒で数例を共有する、または提出します。
例えば「今日の学習で、最初の考えから変わったことを一つ書こう」と伝えます。教師は書き始めるまで待ち、机間を回って様子を確かめます。
時間が短ければ、問いを一つに絞ります。「分かったこと、分からなかったこと、感想、次の目標を全部書こう」では、書くことが多すぎます。
この時間配分は固定的な正解ではありません。低学年や書くことに負担のある児童生徒には、口頭、図、選択肢などを使います。授業の性質によっては、3分より長く必要なこともあります。
5.問いを「何を見たいか」で三種類に分ける
振り返りの問いは、大きく三つに整理すると使いやすくなります。
一つ目は、理解を確かめる問いです。「今日の方法を使って、この一問を解こう」「理由を一文で説明しよう」といったものです。
二つ目は、考え方の変化を確かめる問いです。「最初の予想と今の考えはどう違うか」「友達の意見で参考になった点は何か」と尋ねます。
三つ目は、次の学びにつなぐ問いです。「まだ確かめたいことは何か」「次はどの方法を試したいか」と問います。
すべてを一度に扱わず、単元のどの段階なのかに合わせて選びます。最初の授業と、単元の終わりの授業では、必要な問いが違って当然です。
6.「分かりました」を一段具体的にする
「よく分かりました」と書く子に、毎回「もっと詳しく」と返しても、何を書けばよいか分からないことがあります。
そこで教師が、具体化のための足場を示します。「何が分かったのか」「どの例で確かめられたのか」「前はどう考えていたのか」のうち、一つを選んで付け加えてもらいます。
例えば「割合が分かった」を「比べる量をもとにする量で割ると割合を求められると分かった」に変えられれば、教師も理解を確認しやすくなります。
ただし、言葉が長いほど理解が深いとは限りません。短い式や図で的確に表せる場合もあります。
大切なのは、作文の上手さを競うことではなく、学んだ内容を自分で確認できるようにすることです。
7.理科では「予想と結果のずれ」を扱う
理科の実験後には「実験が成功してよかった」で終わりがちです。そこで「予想と結果が同じだったか。違ったなら、どのデータが判断の根拠になったか」と尋ねます。
例えば、金属の温まり方を調べた授業なら、「火から近いところが先に温まり、離れたところへ広がると考えた根拠」を観察結果と結び付けます。
結果が予想と異なっても、誤答として扱う必要はありません。むしろ、なぜそう考えたのかを確かめる機会になります。
一方、実験操作の不備が疑われるときは、観察事実と推測を分けます。児童生徒に「正しい結果」を無理に書かせないことも重要です。
8.数学では「解けたか」だけでなく方法を見せる
数学では、最後の一問が正解かどうかだけで判断すると、偶然の正答や途中の誤解を見落とすことがあります。
例えば一次方程式の授業なら、「この式を解き、移項した理由を一言で説明しよう」とします。答えが合っていても、等式の性質の理解が不十分な場合が見えてきます。
別の授業では「今日使った解き方が、昨日の方法とどうつながるか」と問うこともできます。
ただし、基礎的な計算を初めて学ぶ時間に、毎回長い説明を求める必要はありません。正確に一問解くことがその日の確認に適している場合もあります。
何を見取るのかを絞ることが、振り返りを使いやすくします。
9.国語では「根拠が変わった瞬間」を聞く
国語で登場人物の気持ちを考えた後、「いろいろな意見があって面白かった」と書かれることがあります。それを一歩進め、「どの叙述を根拠に、考えが変わったか」と問い直します。
例えば、最初は「怒っている」と考えたが、ある一文に注目して「不安もあったのではないか」と捉え直した、と書ければ学習の過程が見えます。
自分と異なる読みを聞いても考えが変わらない場合もあります。そのときは「自分の考えを保った理由」を書いてもよいのです。
考えを変えること自体をよい評価にしないことが重要です。本文の根拠をもって考えられたかを見ます。
10.社会では「資料と主張」を結び付ける
社会科で複数の資料を比較したなら、「今日、一番説得力があった資料はどれか。その資料から何が読み取れるか」と尋ねます。
例えば地域の人口変化を扱うとき、グラフから読み取れる事実と、その背景についての推測を分けて書かせます。
「人口が減っている」は資料に示された事実かもしれませんが、「若者が住みにくいからだ」は別の根拠が必要な推測です。
この区別ができていない子が多ければ、次の授業で資料の読み方を取り上げられます。
振り返りは意見を一つにそろえる時間ではありません。資料に基づいて説明する力を確かめる時間にもできます。
11.実技教科では文章以外の振り返りを使う
体育、音楽、美術、技術・家庭科などでは、長い文章を書くことが学習の確認に最適とは限りません。
体育なら「今日意識した動きと、次に試す工夫を一つ言う」、音楽なら「表現を変えた箇所を演奏で示す」、美術なら「選んだ色や構図の理由を短く説明する」といった方法があります。
技能を見取る必要がある場面では、実演や作品、写真などを適切に活用します。記録の保存や共有では、学校の個人情報保護・情報セキュリティのルールを守ります。
「振り返り=毎時間ノートに三行書くこと」と決めつけない方が、教科の学びに近づきます。
12.書けない子には「書く前の支援」を用意する
振り返りで白紙になる子を、意欲がないと判断してはいけません。問いが抽象的すぎる、書く言葉が見つからない、何を学んだか整理できていないなど、理由はさまざまです。
例えば「今日の学びを書こう」ではなく、「①新しく知ったこと ②まだ迷っていること」のどちらかを選ばせます。板書から言葉を選んで使ってもよいことにします。
友達と30秒話してから書く、図にする、教師に口頭で伝える、といった方法もあります。
ただし、選択肢を与えたからといって理解したことにはなりません。教師は選択した理由を聞くなどして、必要な学習支援につなげます。
13.いつも「特になし」と書く子を責めない
「分からないことはありますか」と聞かれても、「特になし」と書く子はいます。本当に困っていない場合もあれば、分からないことを言葉にできない場合もあります。
そのようなときは、「次の二つの説明のうち、正しいのはどちらか。理由は何か」といった短い確認問題を使う方が、理解の状況をつかみやすいことがあります。
「質問がないのは真剣でないからだ」と決めつけないことです。質問をつくること自体が難しい学習活動だからです。
また、困りごとを教室全体に公表させない配慮も必要です。提出カードなどを用い、教師にだけ伝えられる方法を残します。
14.「毎時間書かせる」ことを目的にしない
振り返りの記述を毎時間行うと、教師も児童生徒も慣れてきます。慣れは利点ですが、定型文を埋める作業になることもあります。
その日の授業が技能の反復練習なら、最後に一問解く方が適切な場合があります。議論を深めた授業なら、最初と最後の考えを比べる方が有効かもしれません。
単元の中で、短い確認、記述、対話、実演、単元末の振り返りを組み合わせます。
振り返りは形式ではなく、学習の状況を確かめるための方法です。教員が新しい書類や記録を増やすためのものではありません。
15.授業時間が足りないときは問いを減らす
授業が盛り上がり、チャイム直前になってしまうことがあります。そこで慌てて「一行だけ書いて」と言っても、何を書くか分からないまま終わることがあります。
まず、授業の準備段階で、最後に確認したいことを一つ決めておきます。予定より時間が押したら、複数の問いを一つに絞ります。
例えば「今日の大事な考えを、隣の人に20秒で説明しよう」として、教師が数組のやり取りを聞く方法もあります。
もちろん、毎時間の時間超過が続くなら、授業前半の説明や活動の量を見直す必要があります。振り返りだけを無理に削って解決したことにしないことです。
16.記述を集める前に、教師が見る点を一つ絞る
振り返りを集めても、何を読み取るのか決まっていなければ、記述を眺めて終わることがあります。提出させる前に、「今日はどこを確認するか」を教師自身が決めておくと、次の授業に生かしやすくなります。
例えば、中学校英語で週末の出来事を伝える授業なら、振り返りの文章量ではなく、過去の出来事を相手に伝わる形で表現できているかという一点に着目します。
生徒が書いた英文を確かめ、時制の誤りが複数見られたら、次時の冒頭で短い例文を比較する活動を行います。すでに表現できている生徒には、出来事の順序や理由を付け加えて伝える課題を用意する方法もあります。
このように、集めた記録を次の指導に使うことが中心です。記述だけでは判断が難しい場合は、ノート、授業中の発言、短い確認問題など、ほかの情報も合わせて確かめます。個別の対応が必要な児童生徒には、状況に応じた支援を行います。
文部科学省の「指導と評価の一体化」の考え方を踏まえた実践案であり、毎時間の記述や特定の確認方法を一律に勧めるものではありません。
17.返答の形式より、学び直せる機会を用意する
教師が振り返りに言葉を返すときは、その場で正解を伝えることだけを目的にしないようにします。児童生徒が自分の考えを確かめ直す機会につなげることも大切です。
例えば、社会科の振り返りに「人口が減ったのは交通が不便だからです」と書かれていたとします。教師は「人口が減っていることは、どの資料から分かりますか。交通の不便さとの関係は、今ある資料だけで判断できますか」と問い返すことができます。
次の授業で人口の推移を示すグラフと交通に関する資料を区別して見る時間を設ければ、児童生徒は「確認できた事実」と「これから確かめる仮説」を整理できます。これは授業改善のための具体例であり、特定の研究で効果が実証された指導手順として紹介するものではありません。
英国のEducation Endowment Foundation(EEF)のフィードバック・ガイダンスは、書面か口頭かという形式の違いだけでなく、学習上の誤解を捉え、学びの改善を支えることを重視しています。
返答は短い問い返しでも、授業冒頭の全体への説明でも構いません。重要なのは、児童生徒がそれを受けて考え直す機会があるかどうかです。必要な個別支援を省くために、形式を簡略化するのではありません。
18.振り返りを成績の点数に直結させない
「たくさん書いた子ほど高い評価」「前向きな感想を書いた子ほどよい評価」という扱いには注意が必要です。
文章量や感想の明るさだけで、学習の理解や主体性を判断することはできません。また、教師が望む言葉を書くことが目的になるおそれがあります。
文部科学省は「指導と評価の一体化」の中で、児童生徒の学習状況を把握し、指導の改善に生かすことを重視しています。授業の振り返りは、そのための情報の一つとして活用できます。
観点別の評価や評定を行う場合は、各教科の目標・評価規準、単元全体で集めた資料に基づいて判断します。振り返り一枚だけで結論を出さないことが重要です。
19.ICTは回収の便利さだけで選ばない
一人一台端末で短い振り返りを回収すると、回答を一覧で見られる利点があります。一方、入力操作に時間がかかったり、他の子の回答が見えることで自分の考えを書きにくくなったりする場合もあります。
紙の小さなカードでも、ノートの最後の一行でも、授業の目的を満たせるなら十分です。
デジタルを使う場合は、回答の公開範囲、保存先、児童生徒の個人情報、学校の運用ルールを確認します。
ツールを使ったかどうかではなく、教師が何を見取り、児童生徒が次の学びへどうつなげられたかで方法を選びます。
20.振り返りを翌日の指導改善に生かす
振り返りを集めた後に教師が行いたいのは、長いコメントを書くことだけではありません。児童生徒の記述から、学習内容の理解やつまずきを確かめ、次の授業の進め方を考えることです。
文部科学省が示す「指導と評価の一体化」では、学習状況を把握して指導を改善し、児童生徒自身の学習改善にもつなげることが重視されています。短い振り返りは、そのための材料の一つとして扱えます。
例えば、理科の授業後に「結果は書けたが、理由を説明できない」という記述が複数見られたら、次の授業の冒頭で、観察結果を根拠に説明する短い活動を設けます。数学で異なる解法が出ていたら、次時に二つの考え方を比べる時間をつくる方法もあります。
一方、振り返りの文章だけで理解度を決め付けないことも大切です。発言、ノート、問題への取組、実演などと合わせて見取り、書くことが苦手な児童生徒には別の方法で確かめます。
何を書かせたかではなく、その記録から何を確かめ、次の授業をどう変えたか。 この視点で振り返りを見直すと、短い時間にも役割が生まれます。
21.ベテランにも役立つ「一つだけ変える」授業改善
授業経験を重ねると、終末の進め方が習慣になっていることがあります。だからといって、すべての授業を作り直す必要はありません。
来週の一時間だけ、「今日の感想」ではなく「最初の考えと変わった点」を尋ねてみる。あるいは「何が分からないか」ではなく、短い確認問題に変えてみる。
児童生徒の反応を見て、次の授業を一つ調整します。その小さな改善を同僚と共有できれば、若手にも役立ちます。
拙著『管理職(校長・教頭)への道を考え始めた先生へ』では、授業を通して子どもの成長を支える現場の仕事の価値にも触れました。授業の小さな技術を磨くことは、経験年数に関係なく続けられる専門性の一つです。
22.明日の授業で試す最小の手順
明日の授業で行うなら、まず授業の目標を一つ確かめます。その目標に対して、最後に何を見ればよいかを考えます。そして問いを一つだけ用意します。
授業後は、書かれた内容を「分かっていること」「迷っていること」「問いが伝わっていないこと」に大まかに分けます。翌時間の冒頭で、そのうち一つを扱います。
子どもに振り返らせるだけでなく、教師も自分の授業を振り返るのです。
大きな様式を新しくつくる必要はありません。授業の終わりの短い時間が、次の授業を考える材料になれば、それだけで意味があります。
参考資料・関連記事
- 文部科学省「教育課程の実施と学習評価―指導と評価の一体化」
- Education Endowment Foundation(2021)Teacher Feedback to Improve Pupil Learning(英語・報告書PDFあり)
- 応援の空「こまかな授業技術の基本①|伝わる指示の出し方」
- 応援の空「こまかな授業技術の基本②|机間指導の基本」
- 春野伸一『管理職(校長・教頭)への道を考え始めた先生へ』(ほんの森出版、2026年)。授業を通じて子どもを支える仕事と管理職の仕事を考える記述を参照。
※本記事の「3分」や問いの分類は授業づくりのための実践案であり、法令や国の一律の指導基準ではありません。
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