こまかな授業技術の基本②|机間指導の基本

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「机間指導をしているつもりですが、机の間を歩いているだけになってしまいます」
「分からない子に声をかけると、その子に時間を取られて、ほかの子を見られません」
授業中、児童生徒が問題を解いたり、考えを書いたりしている間に、教師は教室を回ります。ところが、何を見ればよいのかが曖昧なままだと、机間指導は単なる巡回になります。
前回は「伝わる指示の出し方」を取り上げました。今回は、その指示の後、子どもが実際にどう学んでいるかを見取り、必要な支援につなぐ小さな技術を考えます。
大切なのは、全員のノートに目を通すことでも、全員に声をかけることでもありません。授業の目標に照らして、いま何が起きているかを捉え、次の一手を選ぶことです。

1.机間指導の目的を「歩くこと」にしない

机間指導は、机と机の間を移動すること自体が目的ではありません。児童生徒の学習状況を把握し、その場で指導を調整するための機会です。
例えば、数学の授業で方程式の文章題に取り組んでいるとします。教師が見たいのは、単に答えが合っているかどうかではありません。数量の関係を捉えられているか。未知数を何に置いたか。式を立てる前の段階で止まっているのか。式は立ったが計算でつまずいているのか。そこを見分けます。
同じ「解けていない」でも、必要な支援は違います。机間指導の質は、歩いた距離ではなく、見取った内容とその後の働きかけで考えたいものです。

2.巡回前に「今日は何を見るか」を一つ決める

教室には多くの情報があります。姿勢、発言、ノート、端末、友達とのやり取り、表情。すべてを同時に正確に見ることは難しいものです。
そこで授業前に、見取る観点を一つか二つ決めます。例えば国語なら「自分の考えを本文の言葉と結び付けて書いているか」。理科なら「予想と観察結果を区別しているか」。社会なら「資料のどの部分を根拠にしているか」です。
観点を決めておくと、ノートの文字量だけで学習状況を判断しにくくなります。書くのが遅い子でも、考えが整理されている場合があります。反対に、たくさん書いていても問いから外れている場合があります。量ではなく、学習目標との関係を見ることが出発点です。

3.最初の一巡は「全体の地図」をつくる

机間指導の最初から一人の子に長く関わると、教室全体で何が起きているかを見失いがちです。まず短く教室を見渡し、取り組みの分布を把握します。
自力で進んでいる子はどのくらいいるか。手が止まっている子はどこにいるか。同じところで困っている子が複数いないか。ペアで相談している内容は課題に沿っているか。
例えば、何人もの子が課題文の意味を取り違えているなら、個別に同じ説明を繰り返すより、全体に短い確認を入れた方がよいかもしれません。最初の一巡は、誰を叱るか探す時間ではなく、授業を調整するための情報収集です。

4.ノートは「正誤」より「途中」を見る

完成した答えだけを見れば、丸かバツかは判断できます。しかし、学びを支えるためには、答えに至る途中が重要です。
算数なら、図を描いたか、式にどの数を使ったか。英語なら、伝えたい内容はあるが語順に迷っているのか、そもそも何を書くか決まっていないのか。理科なら、観察した事実と自分の考察を区別できているかを見ます。
「ここまでは自分で考えられていますね。次に何を確かめたいですか」と伝えれば、できている部分を認めつつ次の課題を示せます。「違う、こう書きなさい」と完成形を先に与えると、子どもが考えた過程が見えなくなることがあります。

5.白紙を「やる気がない」と決めつけない

ノートが白紙の子を見ると、教師は「早く始めなさい」と言いたくなります。しかし、白紙にはさまざまな理由があります。課題が分からない。最初の一文が書けない。書き方を間違えるのが不安。読むのに時間がかかっている場合もあります。まず「どこから難しくなりましたか」「問題の意味は分かりますか」と確かめます。必要なら「まず、この二つの言葉に線を引いてみよう」と入口を小さくします。課題全体の提示方法に改善の余地がないかも考えます。

6.観察してから声をかける

児童生徒の手が止まっていても、必ずしも困っているとは限りません。問題文を読み直しているのか、考えを整理しているのかを見てから、必要な支援を判断します。本人に「一緒に確認しましょうか」と尋ねることもできます。

7.「分かった?」を別の問いに置き換える

「分かった?」と聞くと、児童生徒は「はい」と答えやすいものです。しかし、それだけで理解を確認できたとは限りません。「次は何をしますか」「どこを根拠にしましたか」「この式の3は何を表していますか」と具体的に尋ねます。言葉での説明が難しい子には、図や式を指して示す方法も用意します。教師の問いは、試すためではなく、支援を決めるために使います。

8.答えを教える前に次の一歩を示す

教師が答えをすべて教えると、その場の課題は終わります。しかし、次に似た問題に出会ったとき、自分で進められるとは限りません。社会科なら「横軸と縦軸は何を表していますか」。国語なら「この段落で気持ちが変わったことが分かる言葉はどれですか」。考えるための手がかりを渡します。ただし、説明そのものが必要な子には、見本を示すことも大切です。支援は一律ではありません。

9.「ほめる」より具体的な事実を返す

「すごいね」「よくできたね」は励みになることがあります。ただ、それだけでは何がよかったのか伝わりにくい場合があります。「二つの資料を比べて、違いを数字で示せていますね」「実験結果と予想を分けて記録していますね」のように、具体的な行動や思考に言及します。誤りを見つけたときも「ここがダメ」だけで終わらせません。「ここまでの考え方は合っています。単位をもう一度確認してみましょう」と次の行動につなげます。フィードバックは、教師の感想ではなく、学習者が現在地と次の一歩を理解するための情報です。

10.一人に時間を使いすぎない工夫

困っている子の隣で説明を続けているうちに、ほかの子が待ってしまう。授業ではよく起こります。そこで、最初の声かけを短くし、いったん本人に取り組んでもらいます。「まず図のこの部分を書いてみてください。あとで戻ってきます」と伝え、別の子の状況を見ます。戻る約束をしたら実行します。同じつまずきが多いときは全体に補助の説明を入れます。個別の支援が必要な子については、授業後の支援や他の教職員との連携も検討します。

11.全体指導へ切り替えるタイミング

同じ誤解を複数の児童生徒がしているとき、個別の声かけを続けるより、授業の進め方を修正した方がよい場合があります。理科で「観察結果」と「考察」が混ざっている子が多いと気づいたら、全体に「見たこと・測ったこと」と「そこから考えたこと」の違いを例示します。数学で式の意味を取り違えている子が多ければ、条件の読み取りを確認します。ただし、少数の子のつまずきを全体の前で名指ししないことが前提です。「ここは考え方を一度そろえます」と伝えれば、必要な修正を自然に行えます。

12.できている子を放置しない

机間指導では、困っている子に目が向きやすくなります。しかし、早く課題を終えた子にも学習を深める機会が必要です。「別の方法でも説明できますか」「反対の立場から考えるとどうなりますか」「この考えが使えない例はありますか」と問いを広げます。ただし、早くできた子に、いつもほかの子への説明役を任せることには注意が必要です。本人の学習機会が失われたり、支援する役割が固定されたりするからです。協働は大切ですが、教える役を引き受けることを当然視しないようにします。

13.教科ごとの見取り

教科の目標に合わせて、児童生徒の考え方や学習過程を見取ります。

14.ペア活動の会話を聞き取る

教室がにぎやかでも、学習が進んでいるとは限りません。誰が話しているかだけでなく、何を根拠に話しているか、相手の考えを受けて意見が変わったかを聞き取ります。話していない子も、聞きながら考えているのか、参加しづらいのかを決めつけずに確かめます。「二人の意見が違うのはどこですか」と尋ねると、対話の内容を見取る手がかりになります。

15.端末の画面だけで理解を決めない

一人一台端末の授業では、教師が画面上の進捗を確認できることがあります。しかし、入力の速さや提出の有無だけでは、理解の深さは分かりません。回答が早い子も、選択肢を選んだだけかもしれません。入力が遅い子も、資料を丁寧に読んでいるかもしれません。画面上の情報と本人の説明、ノート、活動の様子を組み合わせます。デジタルの一覧表示は、声をかける相手を見つける手がかりであり、理解を確定するものではありません。個人情報の扱いにも配慮します。

16.研究が示す見取りと声かけの視点

加藤栞里・桐生徹・大島崇行(2020)は、理科授業における熟達教員2名と教職未経験者4名の机間指導を比較しました。熟達教員は、学習者の教材だけでなく複数の情報を組み合わせて見取る特徴が報告されています。対象者の少ない研究であり、全教科に一般化できるものではありません。

佐久間大・吉井拓弥・室田真男(2016)は、小学校5年生の総合的な学習の時間で、熟達教師が児童の取組状況に応じて形成的フィードバックを使い分けていたと報告しています。研究を声かけの万能な正解として扱わず、子どもの状態に合わせて支援を変える視点として参考にしたいものです。

17.評価の記録を増やしすぎない

見取ったことをすべて記録しようとすると、教師は記録に追われ、子どもの様子を見られなくなります。文部科学省は、学習の状況を把握し、指導の改善につなげる「指導と評価の一体化」を重視しています。その場で支援に生かす見取りと、記録に残す評価は区別して考えます。必要な記録の方法や時期は、教科の目標と学校の評価方針に沿って整理します。

18.初任者とベテランで学び合う

初任者は、何を見ればよいか分からず、目についた子から順番に声をかけがちです。一方、ベテランにも、いつも同じ子に声をかけるなどの癖が生まれることがあります。授業を互いに見合うときは「何周したか」より「どの場面で何を見て、なぜその声をかけたか」を話し合います。「今の子には答えを教えず、問題文を指していましたね。何を見て判断したのですか」と尋ねます。授業者が意図を説明し、参観者が別の可能性を示す。こうした対話なら経験年数に関係なく学べます。

19.明日の授業で試す三つのこと

いきなり机間指導のすべてを変える必要はありません。第一に、授業前に「今日は何を見るか」を一つ決めます。第二に、最初の一巡では全体のつまずきを把握します。第三に、声をかけるときは「分かった?」の代わりに、次の一歩が見える具体的な問いを使います。授業後には、見取ったことをもとに、どんな指導の変更ができたかを振り返ります。

20.国語の授業での声かけ例

物語の人物の気持ちを考える授業で、児童が「悲しいと思った」とだけ書いていたとします。教師は「もっと詳しく書きなさい」と言う前に、「どの言葉からそう考えましたか」と尋ねます。本文に線を引けたら、「その言葉と悲しい気持ちはどうつながりますか」と次の問いを渡します。すぐに答えを示すのではなく、根拠と解釈をつなぐための支援です。別の子が異なる解釈をしていても、根拠を確かめてから全体で比較します。

21.理科の実験での声かけ例

実験結果をまとめる場面で「温度が上がったから、反応が起きた」と書いている生徒がいたとします。まず、測定した数値と、そこから考えたことを分けて確認します。「実際に測った温度はどれですか」「反応が起きたと考えた根拠は何ですか」と尋ねます。必要なら、班の記録を見直すよう促します。教師は正しい結論を先に言うより、観察事実と解釈を区別できるように支援します。実験中は安全確認を優先し、机間指導のために危険な状態を見過ごさないことも前提です。

22.授業後に一分だけ振り返る

机間指導の改善は、長い反省会がなくても始められます。授業後に「今日、最も多かったつまずきは何か」「その場で何を変えたか」「次の授業で何を確かめるか」を一行ずつ書きます。例えば「比較する資料の読み方で止まる子が多かった。軸の説明を追加した。次回は資料を示す順序を変える」と記録します。個人名を大量に残すのではなく、授業の設計を見直すための短いメモです。教職員同士で共有するときも、児童生徒を特定する必要のない情報は匿名化します。

23.管理職や主任が授業を見るとき

授業を参観する管理職や主任は、教師が机間指導で何人に声をかけたかだけを評価しないことが大切です。どの学習場面で、どのような情報を見取り、どのような支援につなげたかを確認します。参観後には「この場面で、何を見て声をかけましたか」と尋ね、授業者の意図を聞きます。授業者が見落としていた可能性を伝えるときも、「この子は、図を書いた後で手が止まっていました」と観察した事実から話します。授業技術の改善は、欠点を指摘するだけでは進みません。具体的な場面を一緒に検討し、次の授業で試すことを一つ決める対話が役立ちます。

おわりに

机間指導は、教室をくまなく歩き、全員に何かを言う時間ではありません。児童生徒の考えを見取り、必要な支援を選び、場合によっては授業全体の進め方を変える時間です。自分で考えられるところは待つ。困っているところには手がかりを渡す。同じつまずきが広がっていれば説明を変える。こうした小さな判断の積み重ねが、日々の授業を支えます。

参考資料

前回記事「伝わる指示の出し方」

文部科学省「教育課程の実施と学習評価」、国立教育政策研究所「指導と評価の一体化」のための参考資料

加藤栞里ほか(2020)「熟達教員と教職未経験者の机間指導に関する研究」

佐久間大ほか(2016)「総合的な学習の時間における教師の形成的フィードバックの分類の検討」

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