教師が仕事だけで人生を埋め尽くさないために|生活・健康・大切な人を守る働き方

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教師の仕事には、終わりがありません。
授業準備。
教材研究。
生徒対応。
保護者対応。
部活動。
校務分掌。
会議。
研修。
行事。
一つ終われば、また次の仕事があります。
しかも、目の前には子どもがいます。
「もう少し準備した方がよい」
「この生徒のためにできることがある」
「他の先生に迷惑をかけたくない」
そう考えれば、いくらでも時間を使うことができます。
だからこそ、教師には、
仕事にどこまで時間を使うのかを、自分一人の頑張りだけに任せないこと
が必要です。
文部科学省も、学校における働き方改革の目的を、単に早く帰ることではなく、教師が自らの授業を磨き、人間性や創造性を高め、子どもたちに効果的な教育活動を行えるようにすることとしています。(文部科学省)
教師が生活を大切にすることと、教育を大切にすることは対立しません。
むしろ、長く教師を続けるためには、仕事以外の時間を持つことが必要です。

1.教師の長時間勤務を「本人の働き方」の問題だけにしない

まず確認したいのは、教師が忙しいことを、
「仕事が遅いから」
「要領が悪いから」
「断れない性格だから」
だけで説明しないことです。
文部科学省の令和4年度教員勤務実態調査では、中学校教諭の平日の在校等時間は平均11時間1分、土日は平均2時間18分でした。平成28年度調査より短くなっているものの、文部科学省自身が「依然として長時間勤務の教師が多い状況」としています。(文部科学省)
さらに同調査の分析では、若手であること、担当授業時数が多いこと、学年主任や教務主任を担っていること、校務分掌数が多いことなどと在校等時間の長さとの関連が示されています。(文部科学省)
つまり、
個人の工夫だけでは解決できない仕事量の問題がある
ということです。
もちろん、自分で改善できる働き方は改善します。
しかし、個人の努力だけで吸収し続けることを働き方改革とは呼べません。

2.「子どものためなら仕方がない」を一度疑う

教師の仕事では、
「子どものため」
という言葉が強い力を持ちます。
授業準備にあと1時間。
部活動にもう1日。
行事の資料をもっと丁寧に。
学級通信をもう1枚。
一つ一つには意味があります。
しかし、
子どものためになることを、すべて教師がしなければならないわけではありません。
教育には限られた人員、時間、予算があります。
何かを増やせば、どこかの時間が減ります。
例えば、毎日1時間多く学校に残るなら、その1時間は、
睡眠。
食事。
運動。
家族との時間。
友人との時間。
趣味。
学び。
何もしない時間。
のどれかから取っています。
仕事には成果が見えやすい一方、失われた生活時間は見えにくいものです。
だからこそ、
「これは本当に必要な仕事か」
「ここまでの完成度が必要か」
「学校全体でやめられないか」
を考える必要があります。

3.仕事以外の時間は「余った時間」ではない

仕事が全部終わったら家族と過ごす。
仕事が終わったら運動する。
仕事が終わったら本を読む。
この考え方では、教師の場合、いつまでたっても時間が残らないことがあります。
仕事に終わりがないからです。
そこで、
生活の時間を先に確保する
という発想が必要です。
何時までには学校を出る。
この日は予定を入れる。
休日のこの時間は仕事をしない。
睡眠時間を削らない。
そのうえで、限られた勤務時間の中で何を優先するかを考えます。
「仕事が終わらないのに帰る」のではありません。
仕事には終わりがないことを前提に、どこで区切るかを決める
ということです。

4.家庭の形を一つに決めない

「家庭を大切にする」と言っても、家庭の形は人によって違います。
配偶者と暮らしている人。
子育てをしている人。
一人で暮らしている人。
親と暮らしている人。
離れて暮らす親を支えている人。
介護を担っている人。
パートナーがいる人。
いない人。
友人との関係を大切にしている人。
家庭という言葉だけでは括れない生活があります。
したがって、
「教師は家族のためにこうすべきだ」という一つの生き方を示す必要はありません。
大切なのは、自分にとって重要な人や時間を、仕事によって恒常的に失わないことです。
そして、自分自身も「大切にする対象」に含めます。
一人で過ごす時間が必要な人もいます。
趣味に没頭する時間が必要な人もいます。
それも生活です。

5.身近な人との関係は「時間ができたら」では続きにくい

忙しくなると、身近な人との関係ほど後回しにしやすくなります。
職場では、
返信しなければならない。
資料を出さなければならない。
会議に出なければならない。
という締切があります。
一方、家族や友人との関係には締切がありません。
そのため、
「今週は忙しいから」
「行事が終わったら」
「年度末が終わったら」
と先送りできます。
しかし、学校には次の繁忙期がやってきます。
4月が終われば行事。
行事が終われば定期テスト。
その後は三者面談。
夏休み。
二学期。
進路。
年度末。
ずっと何かがあります。
だから、
忙しくなくなったら大切にするのではなく、忙しくても関係を維持できる働き方をつくる
必要があります。
長い時間でなくても構いません。
一緒に食事をする。
話を聞く。
予定を共有する。
休日を一緒に過ごす。
連絡する。
小さな時間を積み重ねます。

6.「感謝」は物ではなく関係の中で伝える

身近な人への感謝は大切です。
ただし、感謝の表し方に一つの正解はありません。
何かを買う。
家事をする。
育児を担う。
話を聞く。
一緒に過ごす。
相手の予定を尊重する。
自分の仕事の都合だけを優先しない。
様々な形があります。
重要なのは、
「自分は仕事を頑張っているのだから、周囲が支えて当然」と考えないこと
です。
教師の仕事が重要なのと同じように、相手の仕事や生活も重要です。
学校で生徒や同僚を尊重するのと同じように、身近な人も一人の人間として尊重します。

7.子育てや介護を「個人の事情」で終わらせない

教職員の中には、子育てをしている人も、介護を担っている人もいます。
本人や家族の通院に付き添う人もいます。
現在は、育児や介護と仕事を両立するための制度整備も進められています。厚生労働省は育児・介護休業制度について、休業だけでなく柔軟な働き方や介護離職防止などを含めた制度を案内しています。なお、公立学校教職員が実際に利用できる制度や手続きは自治体等によって確認が必要です。(厚生労働省)
学校でも、
「子どもが小さいから仕方ない」
「介護がある人だけ特別扱い」
と考えるのではなく、
様々な生活をもつ人が働き続けられる職場をどうつくるか
という組織の問題として考えたいところです。
誰か一人が抜けたら学校が回らない仕組みなら、個人より先に仕組みを見直す必要があります。

8.睡眠を仕事の調整弁にしない

仕事が増えたとき、最も削りやすいものの一つが睡眠です。
夜に教材研究をする。
早朝に仕事をする。
持ち帰った仕事を終えてから寝る。
一時的にそうなる日はあるかもしれません。
しかし、睡眠を恒常的な調整弁にすることは避けたいところです。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人について6時間以上を一つの目安としつつ、必要な睡眠時間には個人差があるとしています。長期的な睡眠不足は身体疾患やメンタルヘルス上の問題とも関連します。(厚生労働省)
教師の判断力や感情のコントロールは、教育活動にも直結します。
自分では頑張れているつもりでも、
些細なことでいら立つ。
判断が雑になる。
生徒の言葉を最後まで聞けない。
同僚への言葉が強くなる。
という状態になれば、仕事時間を増やした意味がありません。
睡眠は仕事の外側ではなく、仕事を成立させる土台
と考えます。

9.「頑張れる人」に仕事を集めない

学校では、仕事ができる人ほど仕事が増えることがあります。
頼めばやってくれる。
断らない。
早い。
責任感がある。
その結果、
「できる人だから任せる」
が続きます。
しかし、それを繰り返せば、その人が疲弊します。
個人の善意と責任感で学校を支える構造は、持続可能ではありません。
文部科学省も現在の教師を取り巻く環境整備を、働き方改革だけでなく、指導・運営体制の充実や処遇改善と合わせて進めています。2025年の給特法等改正、2026年の教職員定数に関する法改正など、制度面でも個人任せではない環境整備が進められています。(文部科学省)
学校でも、
誰が抱えているか。
なぜその人に集中しているか。
役割を分けられないか。
やめられる仕事はないか。
を考える必要があります。

10.「断る力」より先に「断っても大丈夫な職場」をつくる

働き方の記事では、
「断る勇気を持とう」
と言われることがあります。
確かに、自分で断ることも必要です。
しかし、断ることが難しい職場があります。
若手だから断れない。
主任だから断れない。
管理職から頼まれたから断れない。
周囲が全員やっているから断れない。
こうした状況で、
「あなたが断れないのが問題です」
と個人に責任を戻しても解決しません。
必要なのは、
「できない」「今は難しい」と言っても評価を下げられない職場
です。
管理職や主任が、
「今、何を抱えていますか」
「これをお願いすると何ができなくなりますか」
と確認します。
仕事を渡すときには、仕事を減らすところまで考えます。

11.部活動は教師の生活すべてを使って支えるものではない

中学校教師の働き方を考えるとき、部活動を避けて通ることはできません。
令和4年度の勤務実態調査でも、中学校教諭の土日の在校等時間は平均2時間18分であり、業務別では部活動・クラブ活動が大きな部分を占めています。平成28年度からは減少していますが、休日の勤務がなくなったわけではありません。(文部科学省)
部活動には教育的な価値があります。
生徒にとって大切な居場所になることもあります。
だからといって、
教師が毎週末を差し出さなければ成立しない仕組みを当然としない
ことです。
活動日。
活動時間。
大会。
練習試合。
指導体制。
地域との連携。
学校として見直します。
「熱心な顧問だから休日も全部やる」という評価軸から離れる必要があります。

12.仕事を減らすことも専門性

優秀な教師というと、
何でもできる。
たくさん仕事をする。
行事を充実させる。
資料をたくさん作る。
という姿を想像することがあります。
しかし、経験を重ねるほど必要になるのは、
何をしないかを決める力
です。
この会議は必要か。
この資料は必要か。
このアンケートは必要か。
毎年続けている行事のこの部分は必要か。
この提出物は本当に学習につながっているか。
この仕事は教師がする必要があるか。
仕事を一つ増やすのは簡単です。
仕事を一つやめるには、その目的を考えなければなりません。
だから、業務を減らすことも専門的な判断です。
文部科学省も学校の働き方改革において、標準的な職務の明確化、学校徴収金の公会計化、連絡手段のデジタル化、調査の精選など、個々の教師の効率化だけではない業務改善を進めています。(文部科学省)

13.早く帰ることを競争にしない

一方で、
「定時で帰る人が偉い」
「残っている人は仕事ができない」
という見方も適切ではありません。
担当している仕事。
経験年数。
家庭状況。
校務分掌。
学級の状況。
授業時数。
その日の生徒対応。
人によって条件が違います。
勤務実態調査でも、在校等時間には学校間だけでなく学校内でもばらつきがあり、若手支援、学級規模、持ちコマ、主任業務、校務分掌数などへの組織的な対応が必要とされています。(文部科学省)
大切なのは、
早く帰る教師と遅くまで残る教師を対立させないこと
です。
誰もが必要以上の長時間勤務をしなくても仕事ができる仕組みをつくります。

14.仕事以外の経験が教師を豊かにする

教師に必要な学びは、教育書や研修だけではありません。
旅行する。
映画を見る。
小説を読む。
スポーツをする。
料理をする。
子どもと遊ぶ。
親の話を聞く。
地域の人と関わる。
別の仕事をしている友人と話す。
何もしない。
こうした時間も、その人をつくります。
文部科学省が学校の働き方改革の目的として、教師の「人間性や創造性」を高めることを明記している点は重要です。(文部科学省)
教師が学校の世界しか知らなくなれば、子どもたちに示せる世界も狭くなる可能性があります。
仕事以外の人生を持つことは、教師としての幅を失うことではありません。
むしろ、人としての幅を広げることにつながります。

15.人生の時期によって仕事への比重は変わってよい

教師人生は長く続きます。
仕事に多くの時間を使いたい時期もあります。
子育てを優先する時期もあります。
介護が必要になる時期もあります。
自分の学びに時間を使いたい時期もあります。
体調を整えることを最優先する時期もあります。
すべての時期に同じ働き方をする必要はありません。
20代と50代でも違います。
一人暮らしの時期と子育て中でも違います。
管理職になる前後でも違います。
その時期にできる働き方を選び直してよい
のです。
キャリアとは、常に仕事の比重を増やしていくことではありません。
仕事と生活の配分を、その時々で調整しながら長く働くこともキャリアです。

16.管理職・主任ほど「生活を大切にする姿」を見せる

管理職や学年主任が遅くまで働いていると、
若手は帰りにくくなります。
休日にもメールが届く。
夜遅くに資料が送られてくる。
管理職が年休を取らない。
そのような職場では、
「本当はそこまでしなくてよい」
と言葉で伝えても、行動の方が強いメッセージになります。
主任や管理職ほど、
年休を取る。
必要な日は早く帰る。
家庭や私生活の予定を尊重する。
夜間・休日の連絡を必要最小限にする。
誰かが休んでも責めない。
という姿を見せる意味があります。
働き方は、制度だけでなく職場文化によって決まります。
文部科学省も2025年の制度改正後、教育職員の業務量の適切な管理に加えて、健康・福祉の確保を図る措置を位置付けています。(文部科学省)

17.仕事も生活も「どちらか」ではない

教師の仕事は大切です。
子どもの成長に関わることができる仕事です。
そのため、夢中になる時期があってもよいと思います。
しかし、
仕事を大切にすることと、
生活を大切にすること。
家族や大切な人を大切にすること。
自分自身を大切にすること。
これらを対立させる必要はありません。
むしろ、
十分に眠る。
学校以外の人と話す。
好きなことをする。
休む。
自分の生活を持つ。
そうした時間があるからこそ、次の日に子どもの前に立つ余裕が生まれることがあります。
教師が疲弊することを前提に、よい教育を続けることはできません。
温かい教室をつくろうとするなら、そこで働く教師の生活も大切にされる必要があります。
そして、
温かい職員室とは、誰かの自己犠牲によって成り立つ職員室ではありません。
互いの仕事だけでなく、互いの生活も尊重できる職場。
困ったときには支え合い、休むときには休み、また学校に戻ってこられる職場。
そのような働き方を、教師一人の努力ではなく、学校全体でつくっていきたいものです。

参考資料

・文部科学省「学校における働き方改革について」(文部科学省)
・文部科学省「教師を取り巻く環境整備について」(文部科学省)
・文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)確定値」(文部科学省)
・厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(厚生労働省)
・厚生労働省「育児・介護休業法について」(厚生労働省)

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