養護教諭から生徒の相談を受けたときに大切にしたい14のこと

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「先生、○○さんのことで少し話したいことがあります」
養護教諭から、このように声をかけられることがあります。
自分が担任している生徒が保健室へ行き、教室では話していなかったことを話していた。
そんなとき、
「なぜ自分には相談してくれなかったのだろう」
と思うことがあるかもしれません。
しかし、私はそこを気にする必要はないと思っています。
子どもには、
担任だから話せることがあります。
担任だから話しにくいこともあります。
養護教諭には話せることがあります。
教科担当だから話せることもあります。
部活動の顧問。
学年の先生。
スクールカウンセラー。
スクールソーシャルワーカー。
学校外の人。
その子が、「この人なら今は話せる」と思える大人が一人でもいることの方が重要です。
文部科学省は、養護教諭の職務として、救急処置や健康診断だけでなく、健康相談・保健指導、心身の健康課題への対応、保健室経営、学校保健組織活動などを位置付けています。2026年の文部科学省資料でも、この専門性が改めて整理されています。
保健室は、けがや発熱のときだけに行く場所ではありません。
そして、養護教諭は「担任ができなかった部分を代わりに担当する人」でもありません。
子どもを別の角度から見て、学校の支援をつなぐ大切な専門職です。

1.「自分に相談しなかった」を担任の評価にしない

生徒が養護教諭には話したのに、担任には話していなかった。
それだけで、
「自分は信頼されていない」
「担任として失格だ」
と考える必要はありません。
子どもが誰に話せるかは、相談内容、タイミング、相手との距離、話す場所などによって変わります。
担任には毎日会うからこそ、話した後の関係が変わることを心配する生徒もいるでしょう。
教室では言えなくても、静かな保健室なら言葉が出てくることもあります。
養護教諭と児童生徒との関係についての研究では、保健室内だけでなく、廊下、学校行事、委員会活動など保健室外での養護教諭との日常的な関わりも、その後の保健室利用と関連する可能性が検討されています。
大切なのは、
「誰に相談したか」ではなく、「誰かに相談することができた」
と受け止めることです。

2.最初の反応は「教えてもらって助かった」でよい

養護教諭から情報を伝えられたとき、最初から自分の説明を始めない方がよいと思います。
「そのことは知っています」
「いつものことです」
「最近、あの子はそうなんです」
と言いたくなることがあります。
しかし、まず聞きます。
私は、
「教えてもらって助かります」
から入るくらいでよいと思っています。
自分が知らなかった生徒の姿を教えてもらえるからです。
その上で、
「いつ頃からでしょうか」
「保健室ではどんな様子でしたか」
「本人は何に一番困っているようでしたか」
「今、私が気をつけた方がよいことはありますか」
と確認します。
養護教諭からの情報を「担任への批判」と受け取れば、連携は難しくなります。
目的は担任の評価ではありません。
目の前の生徒をどう支えるかです。

3.養護教諭の見方を「参考意見」程度に扱わない

養護教諭は、学校の中で独自の位置から子どもを見ています。
保健室に来る理由は、
けが。
発熱。
腹痛。
頭痛。
睡眠不足。
不安。
人間関係。
授業への負担感。
家庭のこと。
学校へ行きづらい気持ち。
などさまざまです。
身体症状の背景に心理的・社会的な課題がある場合もあります。
中学校の不登校予防に関する研究でも、不登校に至る過程で身体症状を訴えて保健室を利用する生徒がいることから、養護教諭は変化を把握しやすい立場にあり、不登校やいじめ等の早期発見・早期対応での役割が期待されると論じられています。
文部科学省も、現代的な健康課題に対して、養護教諭だけでなく、担任、管理職、学校医、SC、SSW等が連携することを示しています。
「保健室での話だから」
と軽く扱わないことです。

4.「甘えている」で説明を終わらせない

現場では、
「かまってほしいだけ」
「甘えている」
「保健室へ逃げている」
という言葉が使われることがあります。
私は、この言葉だけで判断を終えない方がよいと思っています。
仮に誰かに「かまってほしい」と感じているのであれば、
なぜ今、その人とのつながりを必要としているのか
を考えた方が支援につながります。
授業へ行きづらいのであれば、
何が負担なのか。
人間関係なのか。
学習なのか。
教師との関係なのか。
教室環境なのか。
体調なのか。
家庭の状況なのか。
本人にもまだ説明できないのか。
「甘え」という評価だけでは、何をすればよいのかが分かりません。
事実と背景を見ます。

5.養護教諭に「教室へ戻してください」と任せきりにしない

保健室を利用する生徒が増えてくると、
「授業へ戻してもらえませんか」
「長くいさせないようにしてください」
と養護教諭へ頼みたくなることがあります。
もちろん、保健室の利用について学校として一定の方針やルールが必要な場合はあります。
しかし、目的を、
「とにかく教室へ戻すこと」
にしないことです。
教室へ戻れたとしても、その生徒が抱えていた問題が解決したとは限りません。
反対に、保健室にいればそれでよいという意味でもありません。
なぜ教室へ入りにくいのか。
今、どの場所なら安心できるのか。
どのような支援があれば学習や集団とのつながりを持てるのか。
本人とも話しながら考えます。
保健室登校に関する研究でも、養護教諭による支援だけで完結させるのではなく、教室とのつながりや校内連携を含めた支援が検討されてきました。

6.情報は「誰にでも全部伝える」のではない

連携が大切だからといって、聞いた内容を職員室全体へ広げればよいわけではありません。
相談内容には、
家庭。
健康。
人間関係。
性に関すること。
虐待。
自傷。
希死念慮。
その他、極めて個人的な情報が含まれることがあります。
重要なのは、
支援に必要な人へ、支援に必要な情報を共有することです。
不登校支援について文部科学省は、担任、養護教諭、SC、SSW等が情報を共有しながら組織的・計画的に支援することを求める一方、情報共有・引継ぎでは個人情報の取扱いへの十分な留意も求めています。
「学校の先生だから全部知ってよい」
ではありません。
必要性を考えます。

7.「誰にも言わないで」と言われたときこそ慎重に考える

生徒から、
「先生には絶対言わないで」
「親には言わないで」
と言われることがあります。
ここは非常に慎重な判断が必要です。
まず、本人がなぜ伝えてほしくないのかを理解します。
そして可能な限り、
「誰なら伝えてもよいか」
「どこまでなら話してよいか」
を本人と相談します。
一方で、命や身体の安全に関わる場合、虐待・性被害等が疑われる場合などは、その約束だけを理由に一人で抱え続けることはできません。
文部科学省は、性被害の相談について、本人に情報共有の範囲の同意を取り、繰り返し話をさせないよう配慮するとともに、相談を受けた者が一人で抱え込まず、担任、養護教諭、SC、SSW等が連携して組織的に対応することを求めています。犯罪や性的虐待が疑われる場合には、警察や児童相談所への相談も必要としています。
「秘密を守ること」と「子どもの安全を守ること」を、単純な二者択一にしない。
専門職や管理職を含め、組織で判断します。

8.情報を聞いたら、自分の関わりを少し変える

養護教諭から情報をもらっても、
「分かりました」
で終われば、生徒から見れば何も変わりません。
例えば、
最近、人間関係で疲れていると知った。
朝が特につらいと知った。
授業で分からないことを言えずにいると知った。
教師から強く注意されることを必要以上に恐れていると知った。
それなら、自分の関わりを少し変えます。
朝に一言声をかける。
授業中の様子を見る。
休み時間に無理のない形で話す。
学習面の支援を考える。
学年で見守る。
必要ならSC等につなぐ。
ただし、
「保健室で全部聞いたよ」
という形で本人の安心を損なわないよう、共有された情報の扱い方は養護教諭等と確認します。
情報共有は、知るためではなく支援を変えるためにあります。

9.担任から見えたことも養護教諭へ返す

連携は一方向ではありません。
養護教諭から情報をもらった後、
「今日は1時間目から教室に入れました」
「昨日はグループ活動でよく話していました」
「本人と少し話したところ、○○が気になっているようでした」
など、必要な情報を返します。
すると養護教諭も、
教室ではどうなのか。
支援が機能しているのか。
別の対応が必要なのか。
を判断しやすくなります。
養護教諭と担任・学年主任との情報交換を学校経営の中で位置付けることの重要性は、学校保健研究でも指摘されています。校長による養護教諭の専門性を生かした学校運営についての研究では、担任・学年主任が保健室へ足を運び、養護教諭と情報交換をする取組も報告されています。
情報は一度渡して終わりではなく、行き来させます。

10.SCとSSWは「同じ相談員」ではない

養護教諭から相談を受けた後、SCやSSWにつなぐことがあります。
ここでも、それぞれの専門性を理解しておきたいところです。
学校では、
担任。
養護教諭。
教育相談担当。
SC。
SSW。
管理職。
それぞれ違う立場から子どもを見ます。
誰か一人が全部を担当するのではありません。
文部科学省は、不登校や生徒指導上の課題について、SC・SSW等を活用し、福祉、医療、児童相談所、警察などとも必要に応じて連携することを求めています。
重要なのは、
「誰に任せるか」ではなく「誰と一緒に支えるか」
です。

11.ケース会議では「誰が悪いか」を話さない

一人の生徒について複数の職員が集まると、
「家庭が……」
「本人が……」
「担任が……」
と原因探しになることがあります。
しかし、ケース会議で最も考えたいのは、
「なぜこんなことになったのか」
だけではありません。
「今、何に困っているのか」
「本人の強みは何か」
「何ができているのか」
「次に誰が何をするのか」

です。
役割分担まで決めます。
担任は何をするのか。
養護教諭は何を見るのか。
SCへ何を相談するのか。
SSWが必要なのか。
管理職は何を調整するのか。
保護者とは誰が話すのか。
次にいつ確認するのか。
話し合っただけで終わらせません。

12.養護教諭一人にも抱え込ませない

「保健室なら相談できる」
という生徒が多い学校では、養護教諭へ相談が集中することがあります。
そのことを、
「養護教諭は相談の専門家だから」
だけで終わらせないことです。
文部科学省が示す養護教諭の標準的な職務は、健康相談だけではありません。
救急処置。
健康診断。
疾病の予防・管理。
保健教育。
心身の健康課題への対応。
保健室経営。
学校保健委員会等の保健組織活動。
非常に広い職務を担っています。
相談が特定の養護教諭へ集中しているなら、
「養護教諭がよくやってくれている」
だけでなく、
学校全体の相談体制はどうなっているか
を考える必要があります。
担任にも相談できる。
学年の先生にも相談できる。
SCにもつながれる。
管理職にも話せる。
校外の窓口も分かる。
子どもに複数の相談先がある学校をつくります。

13.管理職は「連携してください」だけで終わらせない

担任と養護教諭に、
「しっかり連携してください」
と言うだけでは、連携は個人の努力になります。
管理職には、連携できる仕組みをつくる役割があります。
いつ情報交換するのか。
誰がケース会議を開くのか。
教育相談を誰がコーディネートするのか。
どのような事案を管理職へ上げるのか。
SC・SSWとどうつなぐのか。
緊急時に誰が判断するのか。
情報をどこまで共有するのか。
こうした基本を学校として整理しておきます。
文部科学省は、養護教諭だけでなく、管理職、担任、学校医、SC、SSW等が連携して児童生徒の健康課題に取り組むことを明確にしています。
学校経営の視点から養護教諭を見る研究でも、養護教諭の意見や専門性を学校の意思決定や学級・学年経営に生かすことが示されています。

14.最後に大切なのは「誰が支えたか」ではない

生徒が少し元気になった。
教室へ行けるようになった。
自分の気持ちを言えるようになった。
必要な支援につながった。
そのとき、
「担任が支えた」
「養護教諭が支えた」
「SCのおかげだ」
と、誰の成果かを考える必要はありません。
その子にとって必要な人が、必要なところで関わった。
それでよいと思います。
担任には担任にしかできないことがあります。
養護教諭には養護教諭にしか見えないことがあります。
SCの専門性があります。
SSWだからつなげられるものがあります。
管理職だから動かせるものがあります。
そして、家庭や地域、医療・福祉等の力が必要な場合もあります。
文部科学省の『生徒指導提要』は、生徒指導を一人の教師の力量だけに委ねるのではなく、チーム支援による組織的対応として位置付けています。
私は、
「自分の学級の子どもだから、自分が何とかしなければ」
という責任感は大切だと思います。
しかし、その責任感が、
「自分一人で何とかしなければ」
に変わらないようにしたいと思います。
自分では気づかなかった生徒の姿を養護教諭が見つけてくれる。
その情報を担任が受け取る。
教室での様子をまた養護教諭へ返す。
必要なら学年で話す。
SCやSSWにつなぐ。
管理職も加わる。
外部機関とも連携する。
そうして、一人の子どもをいろいろな場所から支えます。
保健室へ相談に行った生徒を見て、
「自分に言ってくれなかった」
と思うのではなく、
「話せる人が学校にいてよかった」
と思える教師でありたいものです。
そして養護教諭から、
「少し気になることがあります」
と言われたとき、
身構えるのではなく、
「教えてください」
と言える職員室でありたい。
その一言から、子どもの見え方が変わることがあります。
温かい職員室とは、誰か一人がすべての子どもを支えられる職員室ではありません。
自分だけでは見えないものがあることを認め、互いの専門性と気づきを持ち寄れる職員室です。
そのような職員室が、子どもにとって「話せる大人が何人もいる学校」につながっていくのだと思います。

参考資料

文部科学省「生徒指導提要(令和4年12月)」
文部科学省「現代的健康課題を抱える子供たちへの支援~養護教諭の役割を中心として~」
文部科学省「養護教諭・栄養教諭の現状に関する基礎資料」
文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について」
島﨑慶子ほか「中学校における不登校予防―養護教諭による支援―」『学校保健研究』
籠谷恵ほか「中学校保健室登校支援における養護教諭の行動プロセス」『学校保健研究』
佐々木直美ほか「保健室外での養護教諭と児童生徒の関わりが、その後の児童生徒の保健室利用に与える影響」『学校保健研究』

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