4月、別の学校へ異動することがあります。
同じ自治体の公立学校であっても、実際に働き始めると驚くほど違うことがあります。
職員会議の進め方。
学年の動き方。
生徒指導。
授業。
評価。
校務分掌。
ICT。
保護者への連絡。
職員室の雰囲気。
前任校では当たり前だったことが、異動先では当たり前ではありません。
特に初めての異動では、
「教員として何年も働いてきたのだから、ある程度できなければ」
と思いやすいものです。
しかし、異動したばかりなのだから、分からないことがあるのは当然です。
むしろ最初に必要なのは、
自分の力を見せることではなく、新しい学校を理解することです。
中学校教員の初めての異動を扱った研究では、異動後の困難として、「関係する人々の特徴の違い」「仕事のやり方の違い」「周囲からどのように見られているか」「自分が大切にしてきた考えとのずれ」という四つが確認されています。
異動は、机を別の学校へ移すだけではありません。
新しい学校文化、新しい人間関係、新しい仕事の仕組みの中へ入っていくことです。
だから、最初から全部分かる必要はありません。
この記事では、異動した教師が最初に確認しておきたいことと、異動してきた先生を迎える側ができることをまとめます。
- 1.最初の目標を「できる人と思われること」にしない
- 2.前任校と比較すること自体は悪くない
- 3.「前の学校ではこうでした」を武器にしない
- 4.前年度の職員会議資料を読む
- 5.年間行事予定を最初に確認する
- 6.校長・教頭に「自分に何を期待しているか」を聞く
- 7.生徒指導の基本方針を確認する
- 8.授業・評価について学校や教科の共通事項を確認する
- 9.事務手続とICT環境は早めに確認する
- 10.「この学校独自のルール」を聞いておく
- 11.「誰に聞けばよいか」を先に知る
- 12.最初から人間関係の「勢力図」を覚えようとしない
- 13.分からないことを「知っているふり」しない
- 14.異動直後に学校改革を始めない
- 15.「早く認めてもらうため」に仕事を抱え込まない
- 16.前任校で身につけたものは捨てなくてよい
- 17.1学期は「三つできればよい」と考える
- 18.異動してきた先生を迎える側ができること
- 参考資料
1.最初の目標を「できる人と思われること」にしない
異動すると、
「早く役に立たなければ」
「前の学校で経験してきたのだから、即戦力にならなければ」
と力が入ることがあります。
しかし、私は最初から結果を出そうとしなくてよいと思っています。
新しい学校では、
誰が何を担当しているのか。
どのように相談するのか。
どこまで学年で決めるのか。
どこから管理職へ上げるのか。
まだ分かりません。
その状態で積極的に動きすぎれば、かえって周囲の仕事を増やすこともあります。
最初の1か月くらいは、
理解することも立派な仕事です。
分からないことを聞く。
人を見る。
会議を見る。
資料を読む。
学校の動きを知る。
そこから始めればよいと思います。
2.前任校と比較すること自体は悪くない
異動すると、どうしても前の学校と比較します。
「前の学校ではこうだった」
「こちらはずいぶん違うな」
と思います。
比較すること自体は悪いことではありません。
むしろ、異動したからこそ見えることがあります。
一つの学校に長くいると、
「学校とはこういうものだ」
と思っていたものが、実はその学校だけの慣習だったと気づくことがあります。
異動には、教師がそれまで当然としていた考え方を問い直す契機になる側面があります。人事異動が教師の成長・発達に与える影響についても、研究では一方向に良い・悪いと捉えるのではなく、両義的な影響があることが指摘されています。
だから比較はします。
ただし、そこで結論を急がないことです。
3.「前の学校ではこうでした」を武器にしない
異動時に特に気をつけたいことです。
「前任校では、そんなやり方はしていませんでした」
「前の学校の方法の方がいいと思います」
「このやり方は非効率です」
異動して間もない時期に、この言葉を繰り返すのは勧めません。
前任校の方法が本当に優れている場合もあります。
それでも、現在の学校がその方法になっている理由をまだ知らない可能性があります。
学校規模。
生徒の実態。
地域。
施設。
人員。
過去の経緯。
教育委員会との関係。
さまざまな条件があります。
だから最初は、
「どうして、この形になっているのですか」
と聞きます。
理解した上で、
「前任校ではこのような方法もありました。ここでも使える部分はありますか」
と提案すればよいのです。
前任校の経験は、
正解ではなく、選択肢の一つ
として持ってきます。
4.前年度の職員会議資料を読む
新しい学校を理解するために有効なのが、前年度の職員会議資料です。
全部を細かく読む必要はありません。
まず1年分をざっと見ます。
年間行事。
校務分掌。
学校行事。
生徒指導。
研修。
学校評価。
進路。
ICT。
安全。
どんなことが職員会議に提案され、何月にどのような学校の動きがあるのかを見ます。
可能であれば、単なる提案資料だけでなく、学校評価や年度末の振り返りも確認します。
すると、
この学校が何を大切にし、何を課題としているのか
が少しずつ見えてきます。
ただし、個人情報等を含む資料については、その学校の情報管理ルールに従うことが前提です。
5.年間行事予定を最初に確認する
異動したら、年間行事予定を早めに見ます。
定期考査。
体育大会。
文化行事。
校外学習。
修学旅行。
三者面談。
進路関係。
学校公開。
研究授業。
入試。
卒業式。
予定が分かれば、自分の一年も見通せます。
特に自分が担当する校務分掌や学年行事について、
「実施日」
だけではなく、
いつ準備を始める必要があるのか
まで考えます。
異動直後は目の前の4月だけで精いっぱいになりがちですが、5月、6月の予定まで見ておくと少し余裕ができます。
6.校長・教頭に「自分に何を期待しているか」を聞く
異動先では、管理職が何らかの理由をもって自分をその役割に配置している場合があります。
そこで、
「今年度、私にはどのような役割を期待されていますか」
と聞いてみます。
担任として。
学年で。
教科で。
校務分掌で。
若手支援で。
学校全体で。
期待されていることを確認します。
これは管理職の指示どおりに動くという意味ではありません。
自分がしたいことと、学校から求められていることの両方を知るためです。
現在の文部科学省の教師育成の考え方でも、教師が学校管理職等との対話を通して、自分の役割や今後必要な学びを捉えることが重視されています。2026年3月には教員の資質向上に関する国の指針も改正されています。
7.生徒指導の基本方針を確認する
中学校では特に重要です。
問題が起きてから、
「この学校では、そういう対応だったのですか」
とならないようにします。
遅刻。
欠席。
服装。
スマートフォン。
SNS。
生徒間トラブル。
いじめ。
暴力。
別室対応。
保護者連絡。
教育相談。
特別支援。
緊急対応。
何を担任が判断し、どこから学年主任や生徒指導主事、管理職へ相談するのかを確認します。
大切なのは、
「ルールを覚えること」
だけではありません。
なぜ、その方針になっているのか
も聞きます。
そうすれば、単なる形式ではなく、学校としての生徒支援の考え方が見えてきます。
8.授業・評価について学校や教科の共通事項を確認する
教科の授業にも学校ごとの違いがあります。
授業開始・終了。
教材。
ICT。
定期考査。
提出物。
評価資料。
成績処理。
通知表。
観点別評価。
教科会の進め方。
特に評価は、個々の教師が独自に決めるものではありません。
学習指導要領や学校・教科としての評価方針を踏まえる必要があります。
「前任校ではこうしていた」
ではなく、
まず現在の学校・教科の考え方を確認します。
分からないことがあれば、教科主任や同じ教科の先生へ早めに聞きます。
9.事務手続とICT環境は早めに確認する
異動直後には事務的な手続も大量にあります。
校務支援システム。
勤怠。
出張。
休暇。
旅費。
教材購入。
印刷。
共有フォルダ。
メール。
クラウド。
端末。
名簿。
各種アカウント。
こうしたものは、分からないまま放置すると後から困ります。
特に個人情報を扱うシステムでは、
「前任校と同じだろう」
と推測せず、学校や教育委員会のルールを確認します。
事務職員や情報担当者に聞くことも大切です。
異動した教師が、すべてを自力で調べる必要はありません。
10.「この学校独自のルール」を聞いておく
学校には、文書には載っていない小さなルールがあります。
印刷室の使い方。
鍵。
駐車場。
電話。
欠席連絡。
朝の動き。
給食。
職員朝礼。
共有物。
会議前の資料提出。
保護者から電話があったときの対応。
誰に確認すればよいか分からないこともあります。
こうした情報は、公式マニュアル以上に、日常の仕事を左右します。
だから、
「この学校で、新しく来た人が最初につまずきやすいことはありますか」
と聞いてみるのもよいと思います。
11.「誰に聞けばよいか」を先に知る
すべての情報を覚える必要はありません。
それより、
何かあったとき、誰に聞けばよいのか
を知っておきます。
時間割なら教務。
生徒指導なら生徒指導主事。
進路なら進路担当。
健康面なら養護教諭。
特別支援ならコーディネーター。
事務なら事務職員。
ICTなら担当者。
学校ごとに役割は異なります。
相談先が分かっているだけで、異動後の負担はかなり違います。
中学校の職員室を調べた事例研究でも、日頃の気軽な声かけや相談、生徒についての会話などのインフォーマルなコミュニケーションが、相談しやすく安心して働ける職場と関係する可能性が示されています。
12.最初から人間関係の「勢力図」を覚えようとしない
異動すると、
「あの先生には気をつけた方がいい」
「あの二人は仲が悪い」
「あの先生が実質的に学校を動かしている」
という話を聞くことがあります。
参考になる情報もあるでしょう。
しかし、それをそのまま自分の人間関係の地図にしない方がよいと思います。
人についての評価は、話す人の立場によって変わります。
自分自身で関わってから考えればよいのです。
誰かの評価を聞いて、会話する前から相手を決めつけない。
異動直後だからこそ、できるだけフラットに人と関わります。
13.分からないことを「知っているふり」しない
経験年数が増えるほど、
「そんなことも知らないのかと思われたくない」
と感じることがあります。
しかし、新しい学校のことを知らないのは当然です。
分からないまま進めて失敗する方が困ります。
「初めてなので教えてください」
「この学校ではどうしていますか」
「ここまで自分で進めて大丈夫でしょうか」
と聞けばよいのです。
教師同士が学び合い、他者との対話や振り返りを通して学ぶことは、現在の文部科学省の教師育成政策でも重視されている。
質問できることも、専門職として必要な力です。
14.異動直後に学校改革を始めない
新しい学校へ行くと、
改善したくなることがあります。
「この会議はいらない」
「この書類は無駄だ」
「この生徒指導は変えた方がよい」
実際、その通りのこともあるでしょう。
しかし、まず少し見ます。
なぜ続いているのか。
誰が困っているのか。
誰が支えているのか。
過去に変更しようとしたことはあるのか。
何を変えれば、どこに影響するのか。
学校はシステムです。
一つだけ変えればよいとは限りません。
異動してきた人だから気づける違和感は大切にします。
メモしておきます。
そして、状況を理解した上で提案します。
最初に黙ることと、ずっと黙ることは違います。
15.「早く認めてもらうため」に仕事を抱え込まない
異動直後は頑張りすぎやすい時期でもあります。
誰より早く来る。
何でも引き受ける。
遅くまで残る。
頼まれると断らない。
これを続ける必要はありません。
最初に無理をすると、それが「この人の通常運転」になります。
学校に慣れるだけでも、多くの認知的負荷があります。
異動後の困難そのものが研究対象になるほど、仕事の方法、人間関係、周囲からの評価、自分の信念とのずれなど複数の負荷が同時に生じ得ます。
だから最初から100%で走らない。
分からないことを聞きながら、少しずつ自分のペースをつくります。
16.前任校で身につけたものは捨てなくてよい
ここまで、
「前任校のやり方を押し付けない」
と書きました。
しかし、前任校で学んだことを全部捨てる必要はありません。
むしろ、それは大切な財産です。
授業。
学年経営。
生徒指導。
校務改善。
ICT。
同僚との関わり。
そこで学んだものを、新しい学校でさらに問い直します。
教師の異動には、役割や立ち位置の変化を通して教師の成長・発達に影響する側面が研究されています。
また、異動後に授業を見たり、助言してくれる人やロールモデルと出会ったり、豊かなコミュニケーションを経験することが教師の変容に関係する可能性も指摘されています。
前任校の経験と新任校の経験が混ざり合う。
そこに異動の大きな意味があります。
17.1学期は「三つできればよい」と考える
異動した最初の1学期に、私は三つくらいを目標にすればよいと思います。
一つ目は、
子どもを見ること。
名前を覚え、授業や学級での姿を見る。
二つ目は、
学校の仕事の流れを知ること。
誰が、いつ、どのように仕事を進めているかを見る。
三つ目は、
相談できる人をつくること。
一人で構いません。
「これ、聞いてもいいですか」
と言える相手をつくります。
異動初年度から学校を変える必要はありません。
まず、自分がその学校の一員になる。
そこから始まります。
18.異動してきた先生を迎える側ができること
ここからは、迎える側の話です。
異動する側だけに、
「早く慣れてください」
と求めないことが大切です。
学校側にも、新しく来た人が働きやすくなるよう支える役割があります。
例えば、新しく来た先生に声をかける。
誰に何を聞けばよいかを伝える。
校内を一緒に回る。
共有フォルダの場所を教える。
年間予定を説明する。
生徒指導の基本方針を共有する。
最初の校務分掌について相談する。
数日後に「分からないことはありませんか」と聞く。
こうした小さな支援です。
中学校の職員室を対象とした研究では、気軽な声かけや相談、日常的なコミュニケーションが、協働的で相談しやすい職場をつくる一助になる可能性が示されている。
高価な研修を用意しなくても、できることがあります。
特に管理職や主任には、
「分からなければ聞いてください」だけで終わらせず、こちらから声をかけること
を大切にしてほしいと思います。
異動してきた人は、
何が分からないのかすら、まだ分からないことがあります。
学校が異動を前提とした組織であるなら、新しい人が入るたびに個人の努力だけで適応させるのではなく、迎える仕組みも必要です。教員の異動を扱った近年の研究でも、「異動を前提としていないように見える職場環境」が教師の孤立と関連する問題として論じられています。
異動には不安があります。
これまで築いてきた人間関係から離れます。
仕事のやり方も変わります。
自分より年下の人に教えてもらうこともあります。
以前なら簡単にできた仕事に時間がかかることもあります。
それでよいのです。
一校目で身につけたもの。
二校目で学ぶもの。
三校目で初めて気づくもの。
それぞれがあります。
教師のキャリアは、一つの学校だけで完成するものではありません。
異動したときに、
前の学校を否定する必要もありません。
新しい学校に無理に染まる必要もありません。
まず理解する。
違いを知る。
人に聞く。
自分の経験と比べる。
使えるものを持ち寄る。
そして、必要なら少しずつ改善する。
異動によって学校に新しい人が入ることは、その先生だけが学ぶ機会ではありません。
迎える学校にとっても、自分たちの「当たり前」を問い直す機会になります。
異動してきた先生が、
「前の学校ではこうしていました」
と話したとき、
「うちは違います」
だけで終わらせず、
「なぜ違うのだろう」
と一緒に考えることもできます。
現在、教師の学びには、他者との対話や協働、現場での経験を通した学びが重視されています。
異動は、その学びが自然に起こり得る大きな機会でもあります。
ただし、異動した本人だけに適応の責任を負わせない。
迎える側も支える。
「早くこの学校のやり方を覚えて」ではなく、「一緒に働きながら、お互いのよいところを知っていこう」と言える職員室にする。
温かい職員室とは、新しく来た人が最初から何でもできる職員室ではありません。
分からないことを安心して聞くことができ、前の学校で得た経験も尊重され、少しずつ新しい学校の一員になっていける職員室です。
そんな職員室なら、異動は「一からやり直すこと」ではなく、教師としてもう一度学び直す機会になるのだと思います。
参考資料
文部科学省「教師の資質向上に関する指針・ガイドライン」
文部科学省「公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針(令和8年3月9日改正)」
町支大祐「中学校教員の異動後の困難に関する研究―初めての異動に着目して―」『教師学研究』22巻1号、2019年
小杉進二「人事異動が教師の成長・発達に及ぼす影響―組織内における役割と立ち位置の変化に着目して―」『学校教育研究』36巻、2021年
東海林麗香「社会物質的アプローチから教員の発達を考える―学級担任制と教員人事異動に焦点を当てて―」『発達心理学研究』34巻4号、2023年
永田佳奈子・赤坂真二「中学校教職員間のインフォーマル・コミュニケーションに関する事例研究―教職員の職場風土認知と被援助志向性に着目して―」『日本学級経営学会誌』第3巻、2021年

