生徒指導というと、問題行動への対応、教育相談、いじめや不登校への対応などを思い浮かべる人がいるかもしれません。
しかし、生徒指導は、それだけではありません。
むしろ、毎日の授業こそ、生徒指導の最も大切な場の一つです。
『生徒指導提要』では、生徒指導の目的を、児童生徒一人一人の個性の発見と、よさや可能性の伸長、社会的資質・能力の発達を支え、自己実現につなげていくこととしています。
また、生徒指導によって支える「発達」には、心理面だけでなく、学習面、人間関係などの社会面、進路面、健康面まで含まれています。
そして、第2章では「教科の指導と生徒指導」が位置付けられ、授業を、全ての児童生徒を対象とした発達支持的生徒指導の場として捉えています。
特に大切にしたいのが、
「自己存在感の感受」
「共感的な人間関係の育成」
「自己決定の場の提供」
「安全・安心な風土の醸成」
という視点です。
私は、この考え方を理解することが、授業と生徒指導を考える原点の一つだと思っています。
教師がどんな表情で教室に入るのか。
最初に何をするのか。
どんな指示をするのか。
誰を指名するのか。
間違えた生徒にどう返すのか。
分からない生徒をどう支えるのか。
友達同士をどうつなぐのか。
授業の最後に何を振り返るのか。
その一つ一つが、生徒指導です。
これまで学校現場では、数え切れないほどの授業実践が積み重ねられてきました。
そこから学べることはたくさんあります。
ただし、昔の方法を、そのまま今の教室に持ち込めばよいわけではありません。
時代は変わっています。
子どもたちは多様化しています。
学校に求められることも変わっています。
「教師がどう教えるか」だけではなく、
「この授業によって、一人一人の子どもがどう学び、どう育つのか」
という視点から、授業を捉え直す必要があります。
そこで、日々の授業で大切にしたいことを、12のまとまり、120のコツとして整理しました。
120個もあります。
もちろん、全部を一度にやる必要はありません。
むしろ、一つずつです。
明日の授業で、一つだけ変える。
そこからで十分だと思っています。
本記事は、私の20数年間の授業メモをまとめ、生徒指導提要(改訂版)に照らし合わせて、構成したものです。
授業研究を深めていくと、あらためてその土台となる授業力を問われます。
記事末尾に授業チェックシートをワードファイル、PDFファイルで添付しましたが、その土台を確認するためのものだと思ってください。
参考にしていただければ幸いです。
- Ⅰ 授業が始まる前と、最初の数分を整える
- Ⅱ 指示・説明・見通しを分かりやすくする
- Ⅲ 発問と「考える時間」をつくる
- Ⅳ 板書・教材・ノート・ICTを学びやすくする
- Ⅴ 一人一人に「自分もこの授業の一員だ」と感じてもらう
- Ⅵ 個に応じた指導と、学びにくさへの支援
- Ⅶ 対話と協働を「本当の学び合い」にする
- Ⅷ 間違い・失敗・安心を大切にする
- Ⅸ 自己決定と主体性を授業の中で育てる
- Ⅹ 授業を通して児童生徒理解を深める
- Ⅺ 授業の終わり・評価・振り返りを変える
- Ⅻ 授業と生徒指導を一体として考える
- 授業と生徒指導は、別々のものではありません
- 120個全部やろうとしなくていい
- 授業チェックシート(ワードファイル・PDFファイル)
- 最後に――必ず『生徒指導提要』そのものを読んでください
- 参考資料
Ⅰ 授業が始まる前と、最初の数分を整える
1 授業が始まる前に教師の準備を終えておく
チャイムが鳴ってから、プリントを探す。端末を接続する。黒板を消す。教材を職員室まで取りに戻る。
こうした時間が長くなると、生徒の集中は少しずつ切れていきます。
それ以上に問題なのは、教師自身に余裕がなくなることです。
教師が慌てていると、生徒の表情を見る余裕がなくなります。
いつもより元気がない生徒。
教室に入ってきたものの席に着けない生徒。
何か言いたそうにしている生徒。
授業前には、すでに多くの情報があります。
教材をそろえ、提示資料を確認し、端末を接続し、最初に何をするかまで決めておきます。
授業準備とは、教える内容を準備するだけではありません。
生徒を見る余裕をつくることまで含めて、授業準備だと思っています。
2 教室に入った瞬間の表情を大切にする
教師が教室に入った瞬間、生徒は教師を見ています。
今日は機嫌がよさそうだ。
今日は何だか怖そうだ。
話しかけても大丈夫そうだ。
今日は近づかない方がよさそうだ。
生徒は、教師が思っている以上に敏感です。
教師も人間ですから、嫌なことがあった日もあります。
忙しい日もあります。
体調が悪い日もあります。
それでも、職員室で起きたことを、そのまま教室へ持ち込まないようにしたいものです。
教師の不機嫌を、生徒に処理させてはいけません。
私は、教師の不機嫌は、授業ではかなり罪深いものだと思っています。
3 チャイムとともに「すること」が分かるようにする
授業が始まりました。
しかし、生徒は何をすればよいのか分かりません。
教師は出欠確認をしています。
プリントを配っています。
その間に話し始める生徒がいます。
ぼんやりする生徒もいます。
これを毎時間繰り返すと、授業の始まりは「待つ時間」になります。
黒板に一問書いておく。
前時の内容を一つ確認する。
写真を一枚提示して「気付いたことを二つ書く」としておく。
方法は何でも構いません。
「授業が始まったら、まずこれをする」が見えるようにします。
開始直後に迷わせないことは、授業に入りにくい生徒への大切な支援でもあります。
4 最初の課題は、多くの生徒が参加できるものにする
一時間目の最初から難問を出し、ほとんどの生徒が手を止めてしまう。
そのような授業があります。
もちろん、難しい問題に挑戦することは大切です。
しかし、授業の入口から「分からない」「できない」と感じさせる必要はありません。
前時の内容を思い出す。
資料を見て気付いたことを選ぶ。
予想する。
自分の経験と結び付ける。
正解が一つに決まらない問いから始める。
最初に「自分にも参加できる」と思えることで、その後の学習へ入りやすくなります。
入口は広く、その後に深くしていけばよいのです。
5 授業開始直後に生徒の状態を見る
授業の最初は、内容を進めることだけを考えないようにします。
顔色。
姿勢。
机の上。
教材の準備。
隣との距離。
普段と違う様子。
ほんの数十秒でも、教室全体を見るようにします。
いつも必ず教科書を出している生徒が、今日は何も出していない。
普段はよく話す生徒が、今日はずっと下を向いている。
そうした変化は、授業だからこそ見えるものです。
すぐに問い詰める必要はありません。
「今日は少し違うな」と気付いておくことが、児童生徒理解の第一歩になります。
6 授業の始まりを叱責から始めない
「静かにしなさい」
「何回言ったら分かるんですか」
「また準備していない人がいます」
これが毎時間の第一声になってしまうことがあります。
必要な注意はあります。
しかし、毎時間、授業の入口が叱責になると、生徒は授業そのものを「注意される時間」と感じるようになります。
まず、できている状態を言葉にしてみます。
「教科書を開けた人が増えてきました」
「準備できたところから始めます」
必要な注意は、その後に短く行います。
始まりの空気は、その後の50分に意外なほど影響します。
7 前時とのつながりをつくる
毎回の授業が独立していると、生徒は学習を断片として受け取ります。
「前回、最後に何が分かりましたか」
「前回残った疑問は何でしたか」
「昨日の考えを今日はここから広げます」
ほんの一分でも構いません。
前時と今日の授業をつなぎます。
特に学習内容のつながりを捉えることが苦手な生徒には、「今日は昨日の続きです」と明確に示すだけでも見通しになります。
授業は一時間ずつ切れていても、学びはつながっています。
8 出欠確認も生徒を見る時間にする
出欠確認は事務作業のように見えます。
しかし、名前を呼び、返事を聞き、顔を見る機会でもあります。
返事が小さい。
声が違う。
視線が合わない。
いつもと違う。
そうした小さな変化に気付くことがあります。
もちろん、出欠確認だけで生徒の状態を判断することはできません。
それでも、毎日積み重なる小さな情報には価値があります。
名前を確認する作業ではなく、「今日ここにいる一人一人を見る時間」と考えると、出欠確認の意味も少し変わります。
9 教材を出せない生徒を、すぐ怠慢と決めない
授業が始まっても、教科書を出さない生徒がいます。
「準備ができていません」
と注意することは簡単です。
しかし、理由は一つではありません。
忘れた。
どこにあるか分からない。
家に置いてきた。
そもそも何を出すか分かっていない。
気持ちが授業に向いていない。
別のことで頭がいっぱいになっている。
まず授業に参加できる状態をつくることを優先します。
隣の生徒と一緒に見る。
予備を渡す。
今日必要なページだけ示す。
原因への指導は、その後でもできます。
10 最初の5分を教師自身が振り返る
授業後に内容だけを振り返るのではなく、最初の5分を思い出してみます。
何人くらいがすぐ活動できたか。
迷っている生徒はいなかったか。
説明が長くなっていなかったか。
準備に時間がかからなかったか。
最初から注意ばかりしていなかったか。
授業の最初が整うだけで、その後が大きく変わることがあります。
授業全体を変えようとすると大変です。
まず最初の5分だけを見る。
これは、授業改善を始めるときの分かりやすい方法の一つです。
Ⅱ 指示・説明・見通しを分かりやすくする
11 「何をするか」を具体的に伝える
「ちゃんと考えてください」
「きちんとまとめてください」
「しっかり話し合ってください」
教師には意味が分かっています。
しかし、生徒には「具体的に何をすればよいのか」が分からないことがあります。
「三つの資料から共通点を一つ見つけます」
「理由を一文付けて書きます」
「二人の考えの違いを一つ確認します」
このように、行動が見える言葉にします。
指示が伝わらないとき、生徒の聞く態度だけを問題にしないことです。
教師の言葉を変えるだけで、生徒が動けることはたくさんあります。
12 一度の指示を短くする
教師は授業の流れを全部知っています。
そのため、つい先のことまでまとめて伝えてしまいます。
「教科書を開いて、線を引いて、終わった人はプリントを出して、隣と比べて……」
これでは、途中で分からなくなる生徒がいて当然です。
まず一つ。
確認して次。
必要なら、手順を黒板やスライドにも示します。
短い指示は、聞く力が弱い生徒のためだけのものではありません。
教室全体の無用な混乱を減らします。
13 口頭の指示だけに頼らない
「今言ったでしょう」
教師としては言いました。
しかし、言ったことと、伝わったことは同じではありません。
聞き取りにくかった。
途中で別のことに気を取られた。
複数の指示を覚えられなかった。
様々なことがあります。
大切な指示は、黒板、スライド、プリントなどにも残します。
「①教科書を読む、②二つ選ぶ、③理由を書く」
と見える形にしておけば、自分で確認できます。
何度も教師に聞かなくても済む環境をつくることも、自立を支える方法です。
14 活動時間をできるだけ示す
「少し考えましょう」
の「少し」が、教師と生徒では違うことがあります。
30秒なのか。
3分なのか。
10分なのか。
「まず2分、一人で考えます」
「あと3分です」
と示せば、時間の見通しをもちやすくなります。
ただし、時間を示したからといって、全員を機械的に切り上げる必要はありません。
生徒の様子を見て延ばすこともあります。
大切なのは、時間を教師だけが知っている状態にしないことです。
15 活動の終わり方まで示す
「プリントをしてください」
と言われた生徒は、どこまでやれば終わりなのか分からないことがあります。
全問なのか。
三問なのか。
時間になったら途中でも止めるのか。
「まず1番から3番までです」
「一つできたら先生に見せます」
「5分後に途中でも一度確認します」
終わりが見えると、活動に取り組みやすくなります。
特に、大きな課題を前にすると動き出しにくい生徒には、「どこまでやればよいか」が分かることが重要です。
16 説明するときは、最初に全体像を示す
いきなり細部の説明から始めると、何について話しているのか見失う生徒がいます。
最初に、
「今日は三つあります」
「最初に理由を考え、その後二つの資料を比べます」
と全体像を示します。
地図を見せてから道順を説明するようなものです。
全体が分かってから細部を聞く方が理解しやすい生徒は少なくありません。
説明の内容だけではなく、説明の順番も考えます。
17 一度説明したら、すぐ生徒の反応を見る
教師が10分、15分と続けて説明すると、生徒がどこで分からなくなったのか見えにくくなります。
短く説明する。
一度やらせる。
反応を見る。
必要なら戻る。
この繰り返しにします。
一問やらせてみれば、説明が伝わっていたか分かります。
「説明したから分かっているだろう」と考えず、理解を確かめながら進めます。
18 難しい言葉は、具体例と一緒に使う
「根拠」
「比較」
「考察」
「関連」
教科では必要な言葉です。
だからこそ、言葉を使わないのではなく、意味が分かるように教えます。
「根拠とは、自分がそう考えた理由になる部分です。本文なら、どの一文を使ったか示します」
というように具体化します。
言葉を簡単にし過ぎて学習内容を薄くする必要はありません。
難しい言葉を理解できるように支えることが大切です。
19 教師の「これくらい分かる」を疑う
何年も同じ教科を教えていると、教師にとって当たり前のことが増えます。
教科書の見方。
グラフの読み方。
定規の使い方。
ノートの取り方。
資料集の探し方。
しかし、生徒には初めてのことがあります。
「これくらい分かるでしょう」と省いた部分で、多くの生徒が止まることがあります。
うまくいかないときは、生徒の能力だけでなく、「こちらが何を省略したのか」を考えます。
20 説明の最後に「何をすればよいか」をもう一度示す
長い説明の最後に、
「では、やってください」
とだけ言うと、生徒が顔を見合わせることがあります。
説明の最後は、
「今からすることは二つです」
と行動に戻します。
内容を理解することと、次の行動が分かることは別です。
授業が止まる原因の一つは、「分からない」のではなく「何をすればよいか分からない」ことです。
Ⅲ 発問と「考える時間」をつくる
21 答えを当てるだけの発問に偏らない
知識を確認する問いは必要です。
しかし、毎時間、
「これは何ですか」
「誰ですか」
「何年ですか」
だけでは、生徒は教師が用意した答えを当て続けることになります。
「なぜでしょう」
「どこが違いますか」
「どちらの考えに近いですか」
「条件が変わったらどうなりますか」
と、考えが動く問いを混ぜます。
知識を使って考える時間をつくることが大切です。
22 発問をした後、すぐ自分で答えない
教師は沈黙が苦手です。
問いを出したのに手が挙がらない。
すると、
「つまりですね……」
と自分で説明を始めてしまいます。
これを繰り返すと、生徒は「待っていれば先生が答えてくれる」と学習します。
問いを出したら少し待ちます。
静かな時間があっても構いません。
その沈黙の中で、生徒が考えているかもしれません。
23 考える前に挙手させない
問いを言い終わった瞬間、何人かの手が挙がります。
教師はうれしくなり、すぐ指名します。
しかし、まだ考え始めてもいない生徒がたくさんいます。
「まず30秒考えましょう」
「一度ノートに書きます」
としてから発言を求めます。
早く考えられる生徒も大切です。
同時に、ゆっくり考える生徒にも参加する権利があります。
24 「なぜ」を聞きすぎない
「なぜ?」
は便利な発問です。
しかし、何でも「なぜ?」と聞けばよいわけではありません。
理由を言語化すること自体が難しい生徒もいます。
「どこを見てそう考えましたか」
「どちらが近いですか」
「最初に何に気付きましたか」
「この二つならどちらですか」
問いを少し具体的にすることで、考えを表しやすくなります。
25 一問一答だけで授業を進めない
教師が質問し、生徒が答える。
教師が評価し、次の質問をする。
この繰り返しでは、教師と一人の生徒だけのやり取りになりやすくなります。
一人の発言を、
「今の考えと同じ人は?」
「少し違う人は?」
「付け加えられる人は?」
と教室全体につなぎます。
生徒の発言を、教師との会話で終わらせないことです。
26 発言の理由まで聞く
正しい答えが出たときこそ、
「なぜそう考えましたか」
と聞いてみます。
偶然正解したのかもしれません。
深く理解しているのかもしれません。
別の方法で考えているのかもしれません。
答えだけでは分からない学びが、理由の説明から見えてきます。
また、その説明が他の生徒の学習にもなります。
27 複数の答えがある問いを入れる
授業には正解が一つの問いも必要です。
同時に、
「あなたはどちらを選びますか」
「この中で最も重要だと思うものは?」
「別の方法はありますか」
という問いも入れます。
一つの正解を当てるのではなく、自分の考えをもち、その理由を説明する場面になります。
自己決定の場は、このような小さな問いの中にもあります。『生徒指導提要』も、自ら考え、選択し、決定し、発表したり制作したりする体験を重視しています。
28 教師が予想していなかった答えをすぐ切らない
教材研究をすると、教師の中に「こういう答えが出る」という想定ができます。
しかし、生徒から全く違う考えが出ることがあります。
すぐに、
「それは違います」
と切るのではなく、
「どうしてそう考えましたか」
と聞いてみます。
単なる勘違いの場合もあります。
しかし、教師が考えていなかった見方が含まれていることもあります。
授業計画は必要ですが、計画どおりの発言だけを求めないようにします。
29 問いの難易度を段階的にする
いきなり、
「この作品の主題を説明してください」
では難しくても、
「どの場面が一番印象に残りましたか」
「なぜですか」
「そこから作者が伝えたいことを考えると?」
と段階をつくれば考えられることがあります。
難しい問いを易しくするのではなく、そこへ届くための足場を用意します。
30 生徒自身の問いを拾う
「先生、これはなぜですか」
「もし反対だったらどうなりますか」
「この方法でもできますか」
こうした生徒の疑問は、授業を深める入口です。
予定があるからと毎回切ってしまうと、生徒は質問しなくなります。
全部を扱うことはできません。
「それは次に考えましょう」
「今の問い、大切なので黒板に残しておきます」
と、問いそのものを価値あるものとして扱います。
Ⅳ 板書・教材・ノート・ICTを学びやすくする
31 板書で授業の構造を見せる
黒板に教師が思いついたことを順番に書くだけでは、生徒は授業全体を捉えにくくなります。
今日の問い。
最初の考え。
比較した内容。
大切な言葉。
最後に分かったこと。
これらの位置関係を意識します。
板書は、教師の記録ではなく、生徒が授業を振り返るための地図です。
32 板書を途中で消し過ぎない
黒板が足りなくなると、最初に書いた内容を次々と消してしまうことがあります。
しかし、生徒の中には前の内容を見ながら現在の学習を理解している人もいます。
重要な問いや流れは、できるだけ最後まで残します。
どうしても消す場合は、写真を撮る、スライドに残すなど別の方法も考えます。
33 文字の大きさと情報量を考える
教師には読めても、教室の後ろから見えない文字があります。
一つのスライドに大量の文字を詰め込むこともあります。
「情報が多い=丁寧」ではありません。
何を見てほしいのかを考えます。
重要な言葉を絞る。
図を使う。
余白をつくる。
見やすさも授業への参加を支える条件です。
34 色を使い過ぎない
板書やスライドを分かりやすくしようとして、色をたくさん使うことがあります。
しかし、色が増え過ぎると、何が重要なのか分からなくなります。
色には役割をもたせます。
例えば、問い、重要語、生徒の考えなどです。
また、色だけで違いを示すと見分けにくい生徒もいます。
囲みや線、記号なども組み合わせます。
35 プリントを「埋める作業」にしない
空欄の多いプリントを配り、教師の言葉を次々に書かせる授業があります。
完成するときれいなプリントになります。
しかし、書き終えたことと、理解したことは同じではありません。
どこを自分で考えるのか。
どこを記録するのか。
何を後から見直すのか。
プリントの役割を考えてつくります。
36 ノートの取り方を生徒任せにし過ぎない
「自分で大切なところをまとめましょう」
と言われても、何が大切か判断できない生徒もいます。
最初は型を示して構いません。
日付。
問い。
自分の考え。
大切な内容。
振り返り。
慣れてきたら少しずつ自由度を高めます。
支援をすることと、ずっと同じ型に縛ることは違います。
37 書く量を学習の量と考えない
ノートをたくさん書いたから、たくさん学んだとは限りません。
書くことそのものに大きな負担を感じる生徒もいます。
説明を聞きながら大量に書くことが難しい場合もあります。
何を残す必要があるのかを絞ります。
書く量を減らした分、考える時間が増えるのであれば、それも一つの授業改善です。
38 実物を見せられるなら実物を使う
言葉で長く説明するより、一度見せた方が分かることがあります。
器具の使い方。
作品。
模型。
実験。
運動の動き。
資料の読み方。
完成形だけでなく、途中の状態を見せることも有効です。
「どうすればそこまでいくのか」が分かるからです。
39 ICTを使うこと自体を目的にしない
一人一台端末があるから、毎時間使わなければならないわけではありません。
紙の方がよい場面もあります。
対面で話す方がよい場面もあります。
一方で、文字入力、拡大表示、音声、動画、自分のペースでの確認、考えの共有など、ICTによって学びやすくなる生徒もいます。
「端末を使ったか」ではなく、「学習の選択肢が増えたか」で考えます。
40 教材は一つの方法に固定しない
教科書だけ。
プリントだけ。
動画だけ。
どの方法にも得意な生徒と苦手な生徒がいます。
同じ内容でも、文章、図、実物、音声、動画など、複数の入口を用意できる場合があります。
『生徒指導提要』は、個別学習、グループ別学習、繰り返し学習、習熟の程度に応じた学習、興味・関心に応じた課題、補充的・発展的な学習など、個に応じた指導の充実を示しています。
Ⅴ 一人一人に「自分もこの授業の一員だ」と感じてもらう
41 全員に何らかの参加の場をつくる
「全員参加」というと、全員に発表させることだと思われることがあります。
そうではありません。
考える。
書く。
選ぶ。
図にする。
話す。
操作する。
聞いた上で考え直す。
参加には様々な形があります。
一時間の中で、「自分は何もせず、授業が終わった」という生徒をできるだけ減らします。
42 発表しない生徒も見ている
授業で目立つのは、よく手を挙げる生徒です。
教師も、ついその生徒と会話を続けてしまいます。
しかし、手を挙げない生徒も学んでいる場合があります。
ノートにはしっかり考えを書いている。
友達の説明をよく聞いている。
あと少し時間があれば答えられる。
目立つ反応だけを生徒理解の材料にしないことです。
43 一時間に一度は「あなた」を見る
大げさな個別指導でなくても構いません。
ノートを見て、
「ここまでできましたね」
と声をかける。
小さな質問に答える。
目が合ったらうなずく。
一人一人が、「自分もこの教室の一員として見てもらえている」と感じられる瞬間をつくります。
『生徒指導提要』は、授業において「自分も一人の人間として大切にされている」と感じることを重視しています。
44 名前を注意するときだけに使わない
教師から名前を呼ばれるのは、いつも注意されるときだけ。
これでは、名前を呼ばれただけで緊張するようになります。
「〇〇さん、この視点は面白いですね」
「〇〇さん、質問してくれて助かりました」
名前は、認めるときにも使います。
名前を丁寧に呼ぶことは、一人一人を個として扱う基本でもあります。
45 できた生徒だけを見ない
授業中、教師はどうしても結果に目が向きます。
正解した。
早くできた。
発表した。
しかし、その陰に、
間違えたけれど最後まで考えた生徒。
昨日より一問多くできた生徒。
初めて質問できた生徒。
途中でやり直した生徒。
がいます。
成長は、結果の中だけにあるわけではありません。
46 目立たない生徒を意識して見る
問題行動がある生徒、よく発言する生徒には教師の注意が向きやすくなります。
その一方で、静かに座り、大きな問題を起こさない生徒が見えなくなることがあります。
その生徒は本当に困っていないでしょうか。
授業を理解できているでしょうか。
孤立していないでしょうか。
「問題を起こしていない=支援が必要ない」ではありません。
47 「誰にも見てもらえなかった授業」を減らす
一時間の授業で、教師と一度も目が合わない。
ノートも見てもらわない。
発言もしない。
友達とも話さない。
そのような授業が毎日続けば、自分の存在が授業から消えていくように感じる生徒もいます。
すべての生徒と毎時間長く話すことはできません。
だからこそ、短い関わりを意識的につくります。
48 生徒のよさを授業の中で見つける
学校生活で目立つ役割をしていない生徒にも、授業の中で見えるよさがあります。
丁寧に図を書く。
友達の話を最後まで聞く。
違う方法で問題を解く。
分からない友達にさりげなく教える。
教師は、そのような場面を見つけて言葉にします。
「勉強ができる」という一つの尺度だけで生徒を見ないことです。
49 同じ生徒ばかり褒めない
教師が無意識に同じ数人を評価し続けることがあります。
毎回発言する生徒。
提出物がいつも完璧な生徒。
成績のよい生徒。
その生徒たちを認めることは大切です。
同時に、それ以外の生徒が何を頑張っているかを探します。
「認められるためには、このタイプの生徒にならなければならない」と感じさせない教室にします。
50 自己存在感は「特別な活動」だけで育てない
自己存在感を育てるために、特別なプログラムを用意する必要があるとは限りません。
毎日名前を丁寧に呼ぶ。
考えを聞く。
質問を受け止める。
ノートを見る。
間違いを笑わない。
小さな成長を認める。
こうした日常の積み重ねが大きいと思います。
生徒指導は、特別な時間にだけ行うものではありません。
Ⅵ 個に応じた指導と、学びにくさへの支援
51 全員を同じ速さで進ませることにこだわらない
同じ教室に30人いれば、理解する速さも違います。
一度で分かる生徒。
繰り返して分かる生徒。
図があると分かる生徒。
一問一緒にやれば進める生徒。
全員が同じ時間に同じ場所まで終わることだけを「公平」と考えると、無理が生じます。
同じ目標を目指しながら、そこへ向かう方法には違いがあって構いません。
52 「分からない」を一種類にしない
同じ「分かりません」でも中身は違います。
問題文の意味が分からない。
用語が分からない。
計算ができない。
何から始めればよいか分からない。
前の学習でつまずいている。
教師は、「どこで止まっているのか」を見ます。
分からない生徒に説明を最初から全部繰り返すだけでは、解決しないことがあります。
53 「どこまで分かった?」と聞く
「何が分からない?」
と聞かれて、
「全部」
と答える生徒がいます。
そんなときは、
「どこまで分かりましたか」
と聞いてみます。
問題文は読めた。
資料は見つけた。
式までは立てられた。
一段階前まではできた。
できているところから始めると、次の一歩が見つかりやすくなります。
54 課題を小さく分ける
「レポートを書きましょう」
では動けなくても、
「まず題を決めます」
「次に資料を一つ選びます」
「分かったことを三つ書きます」
なら始められる生徒がいます。
大きな課題を小さな行動に分けることは、学習内容を易しくすることとは違います。
目標へ向かう階段をつくることです。
55 最初の一問を一緒にする
十問の問題を渡されて、一問目から止まっている生徒がいます。
そんなとき、十問全部を教える必要はありません。
最初の一問だけ一緒に考えます。
問題文の読み方。
最初に書く式。
使う資料。
一問できれば、その方法を使って次へ進める場合があります。
支援は、「全部やってあげること」ではありません。
自分で動き出せるところまで支えることです。
56 課題量を調整する
全員に同じ20問を解かせることが、本当に必要かを考えます。
反復が必要な生徒もいます。
5問で十分理解できる生徒もいます。
最初の3問を丁寧に行う方がよい生徒もいます。
量を減らすことを、すぐ「甘やかし」と考えないことです。
何を身に付けるための課題なのかを考えれば、必要な量も変わります。
57 早く終わった生徒の学びを止めない
早くできる生徒も、一人一人に応じた指導が必要な生徒です。
毎回、
「終わった人は待ってください」
では、その生徒の学習時間が失われます。
別解を考える。
理由を説明する。
問題をつくる。
条件を変える。
発展的な資料を見る。
早く終わった後の学びも、最初から授業設計に入れておきます。
58 支援を目立たせ過ぎない
特定の生徒だけに毎回教師が付きっきりになると、本人が負担に感じる場合があります。
だからこそ、全員に選択肢を用意する方法もあります。
必要な人はヒントカードを使える。
説明動画をもう一度見られる。
例題を確認できる。
教師に質問できる。
支援を「特別な人だけのもの」にしない工夫です。
59 書くことが苦手な生徒には別の表現方法も考える
内容を理解していても、長い文章を書くことが大きな負担になる生徒がいます。
短い文。
箇条書き。
図。
口頭説明。
端末入力。
学習の目的によっては、複数の表現方法を認めることができます。
もちろん、書く力を育てる必要がある場面では書きます。
大切なのは、「書けない=考えていない」と短絡しないことです。
60 特別な支援を「ずるい」にしない
文字を大きくする。
時間を少し延ばす。
座席を変える。
音声で確認する。
課題量を調整する。
こうした支援を「あの人だけ特別」とする教室文化にはしたくありません。
眼鏡を必要とする人が眼鏡をかけるように、学びに必要な支援は人によって違います。
みんな同じにすることと、みんなが学べるようにすることは同じではありません。
Ⅶ 対話と協働を「本当の学び合い」にする
61 グループにしただけで協働と考えない
四人で机を合わせれば、協働的な学びになるわけではありません。
一人が全部話す。
一人が全部書く。
二人は聞くだけ。
分からない生徒は黙る。
こうしたことは普通に起こります。
グループ活動では、「誰が参加しているか」を教師が見ます。
62 一人で考える時間を先に取る
いきなり、
「四人で話し合ってください」
とすると、話すのが得意な生徒の考えだけで進むことがあります。
最初に一分でも、一人で考える時間をつくります。
自分の考えを少しでももってから集まることで、参加しやすくなる生徒が増えます。
協働する前に、個人の思考を保障します。
63 「何を話すか」を明確にする
「話し合ってください」
では曖昧です。
「二人の答えの違いを見つけてください」
「最も重要だと思うものを一つ選び、理由を決めてください」
「全員の意見に共通することを探してください」
話合いの目的を具体的にします。
何をすればよいかが分かれば、雑談になりにくくなります。
64 役割を固定し過ぎない
司会が得意な生徒が毎回司会。
書くのが得意な生徒が毎回記録。
発表できる生徒が毎回発表。
これでは役割が固定されます。
必要に応じて役割を交代します。
ただし、苦手な生徒にいきなり難しい役割を押し付けるのではなく、支援を用意します。
65 聞くことも学習として扱う
話す力ばかり注目されますが、対話では聞く力も重要です。
相手の話を最後まで聞く。
違う意見でもすぐ否定しない。
「つまり、こういうことですか」と確かめる。
自分の考えとの違いを見つける。
こうしたことも教えます。
66 友達の考えで自分の考えが変わる経験をつくる
対話の目的は、自分の意見を言って終わることではありません。
「最初はAだと思っていたけれど、〇〇さんの話を聞いてBに変わった」
これは大切な学びです。
考えが変わることを、「負けた」と捉えない教室にします。
新しい情報によって考えを修正できることは、立派な力です。
67 教え合いを特定の生徒に背負わせない
よくできる生徒に、
「分からない人に教えてあげて」
と毎回頼むことがあります。
助け合うことは大切です。
しかし、その生徒も学ぶ権利があります。
毎回教師の代わりをさせないことです。
教える側、教わる側を固定しないようにします。
68 友達に聞けない生徒がいることを前提にする
「分からなければ隣に聞けばいい」
簡単そうですが、友達に助けを求めることが難しい生徒もいます。
関係がよくない。
恥ずかしい。
迷惑をかけたくない。
何を聞けばよいか分からない。
教師に聞く、ヒントを見る、一人で確認するなど、複数の支援経路を用意します。
69 多数派の意見だけで終わらせない
「Aだと思う人?」
多くの手が挙がりました。
「ではAですね」
これでは少数の考えが消えてしまいます。
「Bを選んだ人は、どう考えましたか」
と聞きます。
少数意見が授業を深めることがあります。
多数であることと、正しいことは同じではありません。
70 互いを支え合える学習集団を育てる
『生徒指導提要』では、互いに認め合い、励まし合い、支え合える学習集団づくりが重視されています。
これは、一度のグループ活動でできるものではありません。
人の間違いを笑わない。
質問を邪魔しない。
違う考えを聞く。
困っている人に自然に声をかける。
毎日の授業の中で少しずつつくっていくものです。
Ⅷ 間違い・失敗・安心を大切にする
71 間違えた生徒への第一声を大切にする
生徒が答えました。
間違っていました。
この瞬間の教師の表情と言葉を、教室全体が見ています。
「違います」
だけで終わるのか。
「どうしてそう考えましたか」
と返すのか。
一つ一つの対応が、「この教室では間違えても大丈夫か」をつくります。
72 間違いを笑わせない
読み間違える。
発音を間違える。
計算を間違える。
少し変わった意見を言う。
そこで笑いが起こることがあります。
楽しい笑いと、人を傷つける笑いは違います。
誰かの失敗を笑うことについては、必要ならその場で短く伝えます。
見過ごさないことです。
73 教師も間違いを認める
教師も間違えます。
板書を間違える。
計算を間違える。
名前を間違える。
説明が不十分だった。
そんなときは、
「先生が間違えました」
と言えばよいのです。
教師が間違いを隠しながら、生徒にだけ「失敗してもいい」と言っても説得力がありません。
74 「分かりません」を言える言葉にする
「分かりません」
と言えることは弱さではありません。
自分の状態が分かっているから言える言葉です。
さらに、
「ここまでは分かります」
「もう一度説明してください」
「この言葉の意味が分かりません」
まで言えるようになれば、自分で学びを調整する力につながります。
75 質問した生徒を責めない
生徒が、
「先生、分かりません」
と言ったとき、
「さっき説明したでしょう」
と言いたくなることがあります。
教師には二回目でも、その生徒にとっては、ようやく質問できた瞬間かもしれません。
「どこまで分かりましたか」
とつなぐ方が、次の学びにつながります。
76 失敗を成績の低さと結び付け過ぎない
授業中に間違えることは、学習過程の一部です。
試しに答えた。
考えを修正した。
やり直した。
その過程に価値があります。
「間違えたら損をする」という感覚が強いと、生徒は安全な答えしか出さなくなります。
77 教師の皮肉を減らす
「やっとできましたね」
「珍しく早いですね」
「今日は起きていますね」
教師は冗談のつもりでも、本人にとっては傷つく言葉になることがあります。
特に教室全体の前で言われると、逃げ場がありません。
笑いを取るために、一人の生徒を材料にしないことです。
78 みんなの前で必要以上に叱らない
授業を妨げる行為に注意が必要なことはあります。
しかし、公開の場で長く叱責することが本当に必要なのかは考えたいところです。
行為だけを短く止め、詳しい話は後でする方法もあります。
本人の尊厳を守りながら必要な指導を行うことはできます。
79 「できないこと」を人格の問題にしない
課題を出さない。
忘れ物をする。
授業中に集中できない。
そこから、
「だらしない」
「やる気がない」
「いつもそう」
と人格まで評価しないことです。
問題にするのは行動です。
行動と人間そのものを分けます。
80 安全・安心を授業の前提条件として考える
安心して間違えられる。
質問できる。
違う意見を言える。
困ったときに助けを求められる。
こうした状態があって初めて、生徒は挑戦できます。
『生徒指導提要』も、一人一人が個性的な存在として尊重され、安全かつ安心して教育を受けられる風土を重視しています。
Ⅸ 自己決定と主体性を授業の中で育てる
81 小さな選択をつくる
自己決定というと、大きなことを想像しがちです。
授業では、
「どちらから解くか」
「どの資料を使うか」
「紙か端末か」
「一人で始めるか、相談するか」
程度でも構いません。
自分で決める経験を日常的に積み重ねます。
82 すべてを自由にしない
「好きにしていいですよ」
と言われると困る生徒もいます。
選択肢が多過ぎるからです。
「この三つから選びます」
「迷った人はAから始めます」
と枠組みを示します。
自己決定を支えることと、放任は違います。
83 自分で目標を決める場面をつくる
教師が全員に同じ目標を示すだけでなく、
「今日はここまでできるようにしたい」
「前回よりここを改善したい」
と、生徒自身が小さな目標を決める場面をつくります。
教師が決めた目標と、自分で決めた目標を組み合わせることもできます。
84 課題の順番を選ばせる
三つの問題があるなら、必ず1番から解かなければならないとは限りません。
自信のあるものから始める。
一番難しそうなものに挑戦する。
本人が選べる場合があります。
順番を選ぶだけでも、「自分で学習を進める」という経験になります。
85 表現方法を選べる場面をつくる
文章で説明する。
図にする。
口頭で説明する。
スライドにまとめる。
内容と目的によっては、複数の表現方法が考えられます。
何でも選択制にする必要はありません。
選べる場面と、全員が経験すべき場面を分けます。
86 教師が答えを決め過ぎない
教師の考えと同じことを言えば高く評価される授業になると、生徒は「先生が望む答え」を探します。
教科としての正確さは必要です。
その上で、理由が成り立つ複数の考えを認められる場面では、教師自身も答えを開いておきます。
87 学び方を選んだ理由を聞く
「なぜその方法を選びましたか」
と聞くことで、生徒は自分の学び方を振り返ります。
「図の方が分かりやすいから」
「一度一人で考えてから話したかったから」
学習方法そのものについて考えられるようになります。
88 途中で方法を変えてもよいことを教える
最初に選んだ方法が合わないことがあります。
それなら変えればよいのです。
一人でできないので相談する。
紙から端末に変える。
難しい課題から基本問題へ戻る。
計画を修正することも、自己調整の一部です。
89 「自分で決めたから全部自己責任」にしない
自己決定を大切にすることと、結果を本人だけの責任にすることは違います。
選んだけれどうまくいかなかった。
そのとき、
「自分で選んだでしょう」
で終わらせません。
なぜうまくいかなかったのかを一緒に考え、次の選択につなげます。
90 自己決定を自己指導能力につなげる
『生徒指導提要』では、生徒指導の目的を実現する上で、児童生徒が自己指導能力を身に付けることを重視しています。自ら課題を発見し、目標を選択・設定し、他者の主体性も尊重しながら、自ら行動を決めて実行していく力です。
授業の小さな選択は、その練習の場にもなります。
Ⅹ 授業を通して児童生徒理解を深める
91 授業中の行動を情報として見る
いつもより書くのが遅い。
急に居眠りが増えた。
隣と話さなくなった。
忘れ物が増えた。
一つだけなら偶然かもしれません。
しかし、変化が続く場合は何か背景があるかもしれません。
授業者だからこそ気付ける情報があります。
92 「やる気がない」で終わらせない
机に伏せている。
課題をしない。
発表しない。
それを全部、
「やる気がない」
で説明すると、その先がなくなります。
分からない。
疲れている。
失敗が怖い。
人間関係で悩んでいる。
学習方法が合っていない。
背景を考えます。
93 テストだけで生徒を理解しない
点数は重要な情報の一つです。
しかし、それだけではありません。
ノート。
課題。
授業中の様子。
質問。
発言。
振り返り。
様々な情報を合わせます。
『生徒指導提要』も、授業観察や課題、テスト、各種調査などから情報を収集し、児童生徒理解に生かすことを示しています。
94 点数が急に下がったときは理由を見る
「勉強しなかったのでしょう」
と簡単に決めないことです。
内容が難しくなった。
欠席が続いた。
家庭で学習する時間が取れなかった。
人間関係の問題があった。
体調が悪かった。
様々な理由が考えられます。
結果の変化は、声をかける入口になります。
95 いつもより静かな生徒を気にかける
よく話す生徒が静かなときは、教師も気付きやすいものです。
一方、もともと静かな生徒の変化は見逃しやすくなります。
普段との比較で見ます。
その生徒なりの「いつも」を知っていることが大切です。
96 授業参加の仕方の変化を見る
最近、グループ活動に入らなくなった。
発表しなくなった。
体育で見学が増えた。
端末の画面を閉じるようになった。
行動の変化には意味がある場合があります。
一つの授業だけで判断せず、他の教員にも確認します。
97 気になったことを短く記録する
人の記憶は曖昧です。
「最近ずっとそうだった気がする」
ではなく、
「火曜日、課題に10分取りかかれなかった」
「木曜日、昼休みも一人だった」
のように事実を短く残すと、情報共有しやすくなります。
評価ではなく事実を記録します。
98 生徒の言葉を勝手に解釈し過ぎない
「もう無理」
と言った生徒がいます。
勉強が無理なのか。
今日だけ疲れたのか。
学校生活全体がつらいのか。
教師だけで意味を決めません。
必要なら、
「何が一番しんどい?」
と確認します。
理解とは、教師が推測することだけではありません。
99 一人の教師だけの見方で決めない
自分の授業では落ち着かない。
しかし、別の授業では集中している。
その違いには意味があります。
教科内容なのか。
座席なのか。
友人関係なのか。
教師との関係なのか。
複数の教員の見方を合わせることで、支援のヒントが見つかります。
100 授業で得た気付きをチームにつなぐ
気になる生徒について、授業者だけで抱え込まないことです。
担任。
学年。
生徒指導。
教育相談。
養護教諭。
必要に応じてSCやSSW。
『生徒指導提要』でも、気になる児童生徒等について複数の教職員で協議し、個人でできること、連携して行うこと、全教職員で共通して行うことを整理する重要性が示されています。
Ⅺ 授業の終わり・評価・振り返りを変える
101 授業の最後を教師の説明だけで終わらせない
教師が、
「今日は〇〇について学習しました」
と言って終了するだけでは、生徒自身が何を学んだのか確認できません。
「今日分かったことは?」
「最初と考えが変わったところは?」
と、生徒自身が振り返る時間をつくります。
102 できるようになったことを確認する
授業の最後に、
「何ができるようになったでしょう」
と聞きます。
問題が解ける。
資料から読み取れる。
理由を説明できる。
言葉を使える。
自分自身の変化を認識することで、学習の手応えが生まれます。
103 分からなかったことも振り返る
振り返りを「今日できたこと」だけにしません。
「まだ分からないこと」
「もう一度確認したいこと」
も書かせます。
教師にとっては、次の授業を考える重要な情報です。
分からないことを認識できること自体も学習です。
104 感想だけで終わらせない
「楽しかったです」
「難しかったです」
も大切な感想です。
しかし、それだけでは学習内容が見えません。
「何が分かったか」
「どの考えが変わったか」
「次は何を確認するか」
といった問いも組み合わせます。
105 毎時間長い振り返りを書かせない
振り返りが大切だからと、毎時間長文を書かせる必要はありません。
一文。
選択。
短い自己評価。
口頭。
様々な方法があります。
振り返りを書くこと自体が負担になり、授業内容を考える余裕がなくなっては本末転倒です。
106 教師も一人の生徒を思い浮かべる
授業後に、
「今日のクラスはよくできた」
だけで終わらせないようにします。
一人を思い浮かべます。
あの生徒は何か一つ学べただろうか。
困ったまま終わっていなかったか。
一度でも認められただろうか。
集団を見ることと、個を見ることの両方が必要です。
107 「静かだった」を授業成功の基準にしない
生徒が全員静かに座っていた。
それだけでは、学んでいたかは分かりません。
考えていたのか。
理解していたのか。
質問できたのか。
ただ黙って時間が過ぎるのを待っていたのか。
授業の良し悪しを、静かさだけでは判断しないことです。
108 「盛り上がった」だけでも判断しない
よく発言した。
笑いが起きた。
活動が盛り上がった。
それもよいことです。
しかし、
「何を学んだのか」
「全員が参加できたのか」
を確認します。
楽しいことと、学びが深いことは重なる場合もありますが、同じではありません。
109 一度にたくさん改善しない
授業がうまくいかなかった日、
説明も、板書も、発問も、時間配分も全部変えたくなります。
しかし、全部変えると何が効果的だったのか分からなくなります。
次は指示を一つ短くする。
発問後に10秒待つ。
一人多くノートを見る。
一つから始めます。
110 生徒の声も授業改善に使う
教師だけでは気付けないことがあります。
説明の速さ。
板書の見え方。
グループ活動の困りごと。
質問のしやすさ。
時には短いアンケートや振り返りで生徒の声を聞きます。
ただし、教師の人気投票にはしません。
成果物、授業観察、テストなど他の情報と合わせて考えることが大切です。
Ⅻ 授業と生徒指導を一体として考える
111 授業そのものを発達支持的生徒指導と考える
生徒指導は、問題が起きたときだけに行うものではありません。
全ての子どもに対して、
自分は大切にされている。
学ぶことができる。
人と関わることができる。
自分で考えられる。
そうした経験を日常的に保障することも生徒指導です。
授業は、それを毎日行える大きな場です。
112 問題が起きる前の授業を大切にする
トラブルが起きてから指導する。
欠席が増えてから対応する。
もちろん必要です。
しかし、その前にできることがあります。
分かりやすい授業。
参加できる授業。
質問できる授業。
失敗しても大丈夫な授業。
これ自体が予防になります。
113 「授業が分からない」を生徒指導上の情報として考える
毎日何時間も授業が分からない状態が続けば、学校生活は苦しいものになります。
勉強のつまずきが、自信の低下、授業からの離脱、人間関係の問題につながる場合もあります。
学習上の困難を、「教科の問題だから生徒指導とは別」と切り離さないことです。
『生徒指導提要』も、生徒指導によって支える発達に学習面を含めています。
114 授業規律を「従わせること」だけで考えない
授業には一定のルールが必要です。
人が話しているときは聞く。
安全に実験する。
他人の学習を妨げない。
しかし、規律の目的は、教師の言うことを聞かせることではありません。
全員が安全に学べる環境をつくるためです。
ルールの目的を見失わないことです。
115 生徒は教師の言葉より行動を見ている
「人の意見を大切にしましょう」
と言いながら、教師が生徒の発言を途中で切る。
「間違えても大丈夫」
と言いながら、教師が間違いに苛立つ。
これでは伝わりません。
教師自身の関わり方が、教室の文化になります。
116 授業中の人権感覚を大切にする
容姿。
成績。
家庭。
性別。
障害。
国籍。
発達の特性。
様々な背景について、教師の何げない言葉が子どもを傷つけることがあります。
冗談だからよいということではありません。
一人一人が尊重されることは、授業の前提です。
117 学習上の困難を学校全体で共有する
「数学ではいつも止まります」
「国語ではよく話せています」
こうした情報を教科ごとに閉じ込めないことです。
複数の授業を比べると、その生徒に合う支援が見えてくることがあります。
教員同士の情報共有は、授業改善にもつながります。
118 学校に行きたいと思える授業を増やす
不登校になった子どもへの支援は大切です。
同時に、不登校になる前の日常も大切です。
学校へ行かないという選択を否定する必要はありません。
それでも、
「明日はあの授業がある」
「学校であの先生に聞いてみよう」
「友達と続きを考えたい」
と思える学校をつくることは、教師の大切な仕事の一つだと思います。
119 授業を学校への愛着につなげる
学校への愛着は、大きな行事だけで生まれるものではありません。
問題が一問解けた。
先生が名前を呼んでくれた。
自分の意見を聞いてもらえた。
友達と一緒に考えた。
間違えても笑われなかった。
そんな小さな経験の積み重ねです。
日常の大部分を占める授業を、安心できる時間にしていくことには大きな意味があります。
120 最後は四つの視点に戻る
120個書いてきました。
しかし、全部を覚える必要はありません。
迷ったときは、『生徒指導提要』が示す四つの視点
「自己存在感の感受」
「共感的な人間関係の育成」
「自己決定の場の提供」
「安全・安心な風土の醸成」
に戻ればよいと思います。
この授業で、一人一人が「自分も大切にされている」と感じられたでしょうか。
互いの違いを認め、支え合える関係があったでしょうか。
自分で考え、選び、決める場面があったでしょうか。
間違えても、分からなくても、安心して学べる教室だったでしょうか。
この四つです。
授業方法は時代とともに変わります。
ICTも変わります。
教材も変わります。
学習指導要領も変わります。
しかし、目の前の一人一人を大切にし、その成長を支えるという原点は変わりません。
授業と生徒指導は、別々のものではありません
中学校なら、生徒は一日に何時間もの授業を受けます。
一年間にすれば、膨大な時間です。
その時間の中で、
「自分にも分かった」
「先生が自分を見てくれた」
「質問しても大丈夫だった」
「間違えても笑われなかった」
「友達の考えを聞いて、自分の考えが変わった」
「昨日より少しできるようになった」
「自分で選ぶことができた」
そんな経験を積み重ねることができたら、それ自体が大切な生徒指導になります。
逆もあります。
一日中、
じっと座る。
ずっと聞く。
ひたすら写す。
教師の指示どおりに動く。
間違えないようにする。
分からなくても黙っている。
そんな授業が毎日続いたら、学校がつらくなる生徒がいても不思議ではありません。
特別な支援を必要とする生徒にとっては、さらに大きな負担になることがあります。
だから、授業と生徒指導を分けないことです。
生徒指導上の課題が起きたら、授業とは別のところで対応する。
それだけではありません。
毎日の授業そのものを変えていく。
参加できる。
分かる。
認められる。
選べる。
人とつながれる。
困ったときに助けを求められる。
そんな授業を増やします。
それが、発達支持的な生徒指導であり、予防的な生徒指導にもつながっていくのだと思います。
120個全部やろうとしなくていい
120個も並ぶと、
「こんなにできない」
と思うかもしれません。
その通りです。
全部を一度にやる必要はありません。
明日の授業で一つだけです。
指示を一文短くする。
発問した後に少し待つ。
普段あまり話さない生徒のノートを見る。
間違えた答えに、「どうしてそう考えましたか」と返す。
一人の生徒に名前を呼んで声をかける。
授業の最後に「まだ分からないこと」を聞く。
一つやってみます。
そして、生徒の反応を見ます。
うまくいかなければ変えます。
うまくいけば続けます。
教師の仕事には、ある日突然すべてがうまくいく魔法の方法はありません。
一時間、一時間。
一日、一日。
目の前の子どもたちを見ながら、少しずつ変えていくしかありません。
その積み重ねが、授業を変えます。
そして、授業が変われば、生徒との関係も、学級の空気も、学校生活も少しずつ変わっていくのだと思います。
授業チェックシート(ワードファイル・PDFファイル)
使い方
このチェックシートは、授業を「評価する」ためではなく、自分の授業を具体的に振り返り、次の一歩を見つけるためのものです。
120項目を一度にすべて点検する必要はありません。
授業研究、校内研修、若手教員との対話、学期末の振り返りなど、目的に応じて一つの分野だけ使うこともできます。
最後に――必ず『生徒指導提要』そのものを読んでください
この記事は、あくまで二次情報です。
大切なのは、一次情報を読むことです。
世の中には、誰かがまとめた情報、解説した情報、さらにそれを要約した情報があふれています。
便利です。
私も利用します。
しかし、まず原典を読むことを忘れないようにしたいものです。
『生徒指導提要』なら、まず第1章「生徒指導の基礎」を読んでほしいと思います。
生徒指導の目的。
生徒指導の実践上の視点。
発達支持的生徒指導。
課題予防的生徒指導。
児童生徒理解。
これらが整理されています。
そして、授業について考えるなら、第2章「生徒指導と教育課程」は外せません。
「学習指導と生徒指導」
「学級・ホームルーム経営と生徒指導」
「個に応じた指導の充実」
「児童生徒理解を基盤とした教科の指導」
「教科の指導と生徒指導の一体化」
が位置付けられています。
特に、「授業は全ての児童生徒を対象とした発達支持的生徒指導の場」という考え方は、ぜひ一度原文で確認してほしいと思います。
この記事にある120個を覚えることが目的ではありません。
生徒指導提要を読む。
自分なりに考える。
自分の授業を見る。
目の前の子どもを見る。
そして、行動を一つ変える。
そこからです。
参考資料
文部科学省『生徒指導提要(改訂版)』(令和4年12月)
文部科学省「生徒指導提要(改訂版)」
