「管理職試験を受けないなら、この先のキャリアはどうなるのだろう」。そう考えて不安になる先生は少なくありません。しかし、管理職にならない選択は、成長をやめることでも、学校への貢献を小さくすることでもありません。大切なのは、役職に就かない代わりに、何を深め、誰にどのように力を届けるかを自分の言葉で決めることです。
この記事では、管理職にならない、あるいは今は目指さないと決めた後の教員キャリアを、具体的に設計するための視点を整理します。
1.「ならない」と「何もしない」を分ける
管理職にならないという結論だけでは、その後の進み方は見えません。「学級や授業で子どもに直接関わり続けたい」「若手の支援に力を使いたい」「特別支援教育や生徒指導の専門性を高めたい」など、選択の先にある役割まで言葉にする必要があります。
文部科学省の答申は、質の高い教職員集団をつくるために、教師一人一人の強みや専門性を高める必要があるとしています。これは、管理職だけが成長の行き先ではないことを示す材料になります。役職ではなく、どの力で学校を支えるかを考えることが、次の一歩です。
2.三つの軸でキャリアを描く
一つ目は「専門性」です。教科指導、学級経営、生徒指導、特別支援教育、ICT、教育相談、進路指導など、今後三年で深めたい分野を一つ決めます。研修を受けるだけでなく、授業記録を残す、実践を同僚に共有する、校内研修を担当するところまで考えると、学びが学校の力になります。
二つ目は「組織への貢献」です。学年主任や分掌主任、初任者の伴走、校内委員会の運営など、管理職でなくても担える役割はあります。ただし、善意だけで仕事を抱え込まないことが重要です。担当範囲、期限、相談先を明確にし、個人技ではなく引き継げる仕組みに変えます。
三つ目は「生活」です。家庭、健康、通勤、介護、学び直しなど、仕事以外の条件もキャリアの一部です。続けられない計画は、立派に見えても良い計画とはいえません。責任を増やす時期と、生活を守る時期があってよいのです。
3.「今は受けない」と「今後も受けない」を分ける
迷いがあるときは、結論を永久に固定する必要はありません。「今年度は受けない。次年度末にもう一度考える」と期限を決めれば、先送りと保留を区別できます。その間に、管理職の一日を聞く、校務分掌の運営に関わる、家族と生活条件を確認するなど、判断材料を増やせます。
反対に、現場で専門性を発揮し続ける道を選ぶなら、その選択も定期的に点検します。文部科学省のガイドラインは、教師が自分の強みや弱み、今後伸ばす力、学校で果たす役割を踏まえ、管理職との対話を通して主体的に学ぶことを重視しています。人事面談を「管理職になるかどうかを答える場」だけでなく、「次に伸ばす力を相談する場」として使う視点が役立ちます。
4.管理職でなければできないことも確認する
管理職には、学校全体の方針、人材配置、予算、危機対応、保護者や地域との調整など、立場に伴う権限と責任があります。自分が実現したいことが、学級や学年の改善なのか、学校全体の仕組みの変更なのかで、必要な立場は変わります。
「子どもと直接関わる時間を大切にしたい」なら、管理職にならない選択には一貫性があります。一方、「学校全体の相談体制を変えたい」「若手を守る配置や仕組みをつくりたい」という思いが強いなら、管理職という道を完全に閉じずに検討してもよいでしょう。どちらが上ではなく、実現したい仕事と立場が合っているかが判断基準です。
管理職の役割を具体的に知りたい方は、「どんな学校をつくりたいか」から考える記事も参考になります。試験を勧められて返事に迷っている場合は、返事の前に確認したい七つのことを先に整理すると、判断がしやすくなります。
5.一年後の自分に残す五つの問い
- この一年で、どの専門性を深めたいか。
- その力を、子どもや同僚にどう還元するか。
- 引き受ける役割と、引き受けない役割は何か。
- 家庭や健康を守るために必要な条件は何か。
- 次に管理職という選択を見直す時期はいつか。
五つを紙に書き、年度末に見直します。答えが変わっても問題ありません。キャリアは、一度の決断で完成するものではなく、経験と生活の変化に合わせて更新していくものだからです。家庭との両立が大きな判断材料であれば、管理職と家庭の両立を考える記事も併せてご覧ください。
6.「なる・ならない」を決める前に現実を比べる
拙著『管理職への道を考え始めた先生へ』は、管理職になることを勧めるための本ではありません。仕事の魅力だけでなく、責任の重さや現実も含めて知り、自分の価値観、生活、実現したい学校の姿と照らして考えるための材料をまとめています。
管理職になる道と、ならずに専門性を磨く道。その両方を並べて、後悔の少ない判断をしたい方は、まず書籍の紹介記事で内容をご確認ください。購入を検討される場合は、Amazonの商品ページもご覧いただけます。
参考資料
- 文部科学省「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」
- 文部科学省「教師の資質向上に関する指針・ガイドライン」
- 文部科学省「改正教育公務員特例法に基づく資質向上指標の策定に関する指針の改正等について」
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