中学校の卒業式練習で大切にしたいこと|意味を理解して参加する卒業式へ

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卒業式が近づくと、多くの中学校で卒業式練習を行います。
入場。
着席。
起立。
礼。
卒業証書授与。
式歌。
退場。
確認しなければならない動きは少なくありません。
しかし、卒業式練習の目的は、生徒の動きをきれいに揃えることだけではありません。
卒業式は、中学校生活に一つの節目をつくり、これまでを振り返りながら、次の生活へ進んでいくための学校行事です。
中学校学習指導要領でも、卒業式を含む「儀式的行事」は、学校生活に有意義な変化や折り目を付け、「新しい生活の展開への動機付け」となることが位置付けられています。(文部科学省)
卒業式練習も、その目的から考えたいものです。

1.最初に「卒業式を何のために行うのか」を共有する

最初の練習で、いきなり動きの確認から始める必要はありません。
まず、
「卒業式は、何のために行うのだろう」
と考える時間をつくります。
三年間を振り返るため。
次の生活への区切りにするため。
支えてくれた人への感謝を伝えるため。
仲間と過ごした時間を確かめるため。
新しい一歩を踏み出すため。
生徒によって答えは違って構いません。
学習指導要領では、学校行事について、その意義や活動を行う上で必要なことを理解し、主体的に考えて実践できるようにすることが求められています。(文部科学省)
したがって、
「ここで立ちます」
と教えるだけではなく、
「なぜこの場面で立つのか」
まで伝えることに意味があります。
動きを先に教えるのではなく、意味と動きをつなげます。

2.「厳粛さ」を教師の統制だけでつくらない

卒業式には、普段の学校生活とは異なる雰囲気があります。
学習指導要領でも、儀式的行事について「厳粛で清新な気分」を味わうことが示されています。(文部科学省)
しかし、厳粛な雰囲気は、
教師が強く注意する。
一切動かないよう求める。
少しの失敗も許さない。
という方法だけで生まれるものではありません。
友達が卒業証書を受け取る時間を大切にする。
話している人に意識を向ける。
自分たちにとって節目となる時間を尊重する。
そうした意味を理解して参加することで、結果として落ち着いた雰囲気が生まれます。
「静かにしなさい」から始めるのではなく、「大切にしたい時間だから静かにする」へつなげる
ことが大切です。

3.揃えること自体を目的にしない

卒業式練習では、
礼のタイミング。
立つタイミング。
座るタイミング。
歩く速さ。
などを揃える場面があります。
式全体を円滑に進めるため、一定の共通理解は必要です。
一方で、
「揃っているほど教育的価値が高い」とは限りません。
学校に長く残っている作法には、明確な理由が分からないまま継承されているものもあります。
儀式的行事の作法についての研究でも、「なぜその動作を行うのか」という意味が十分明確でないまま指導されている事例が検討されています。(J-STAGE)
そこで、一つずつ考えます。
この動きは、安全のために必要なのか。
式を円滑に進めるために必要なのか。
相手への敬意を示すためなのか。
教育的な意味があるのか。
それとも、単に「昔からそうしている」だけなのか。
必要なことは丁寧に教えます。
必要性の低い細かな形式については、改めて考える余地があります。

4.必要な動きは具体的に教える

意味を大切にすることと、具体的な指導をしないことは別です。
卒業式には、初めて経験する動きがたくさんあります。
どこから入場するのか。
どこに座るのか。
自分の名前が呼ばれたらどうするのか。
どの経路を歩くのか。
どこで卒業証書を受け取るのか。
受け取った後はどこへ進むのか。
生徒に分からないことがあるなら、明確に教えます。
このとき、
「間違えないように」
ではなく、
「次に何をすればよいか分かるようにする」
ことを意識します。
指導とは、注意することではありません。
できるようになるための情報を渡すことです。

5.PowerPointやICTは「見通し」をつくるために使う

卒業式練習では、PowerPointや大型提示装置を活用できます。
特に初回の説明では、
・式全体の流れ
・体育館の座席配置
・入退場の経路
・卒業証書授与の動き
・自分が動くタイミング
などを図や写真で示すと、言葉だけで説明するより理解しやすくなります。
例えば、
①卒業式の意味
②当日の全体の流れ
③会場配置
④入場
⑤卒業証書授与
⑥式中の基本的な動き
⑦退場
という程度で十分です。
すべての注意事項をスライドに詰め込む必要はありません。
「これから何が起こるのか」が分かること
を優先します。

6.一度に全部教えない

卒業式では動きが多いため、教師は一度に全部説明したくなります。
しかし、
入場。
起立。
着席。
卒業証書授与。
式歌。
退場。
を連続して説明されても、生徒は覚えきれません。
そこで、
「今日は入場から着席まで」
「次は卒業証書授与」
というように、まとまりをつくります。
説明する。
実際に動く。
確認する。
必要ならもう一度行う。
この繰り返しです。
長時間説明を聞かせるより、
短く説明して、実際に動く
方が分かりやすくなります。

7.練習時間そのものを精選する

卒業式は大切な学校行事です。
しかし、大切な行事だからといって、練習時間を増やせばよいわけではありません。
一度通す。
修正する。
もう一度通す。
さらに修正する。
こうしていくと、完成度を高めること自体が目的になりやすくなります。
練習を追加するときには、
「この練習によって、何ができるようになるのか」
を確認します。
目的が明確なら行います。
すでに十分できているなら終えます。
授業時間や他の教育活動も有限です。
卒業式を大切にすることと、練習時間を増やすことは同義ではありません。

8.失敗しても立て直せることを伝える

卒業式は一度しかありません。
だからこそ、生徒は緊張します。
教師が、
「絶対に間違えないように」
と繰り返すほど、さらに緊張する生徒もいます。
卒業証書授与で動きを少し間違える。
立つタイミングがずれる。
歩く方向を一瞬迷う。
そのようなことは起こり得ます。
大切なのは、完璧に間違えないことではなく、
間違えたときに落ち着いて次へ進めること
です。
「少しくらい間違えても大丈夫です。落ち着いて次の動きをしてください」
と伝えておきます。
これは、本番の安心感にもつながります。

9.一人ひとりが参加しやすい環境を考える

同じ卒業式でも、感じ方や負担は一人ひとり違います。
長時間座り続けることが難しい生徒。
大人数の空間が苦手な生徒。
大きな音や拍手に強い負担を感じる生徒。
先の見通しが持てないと不安が高まる生徒。
体調上の事情がある生徒。
様々な生徒がいます。
必要に応じて、
座席。
休憩。
移動経路。
入退場方法。
音への配慮。
参加方法。
などを調整します。
文部科学省は、障害のある児童生徒について、教育的ニーズを踏まえながら、教育内容・方法、支援体制、施設・設備などの観点から合理的配慮を検討することを示しています。(文部科学省)
同じ行事に参加するための方法まで全員同じである必要はありません。

10.卒業に対する気持ちの違いを認める

卒業式というと、
感動。
寂しさ。
感謝。
達成感。
といった感情を想像しやすいものです。
しかし、すべての生徒が同じ気持ちで卒業するわけではありません。
学校生活を心から楽しんだ生徒もいます。
つらい経験があった生徒もいます。
登校すること自体が難しかった生徒もいます。
人間関係に悩んだ生徒もいます。
次の進路への不安が大きい生徒もいます。
卒業できることに、ほっとしている生徒もいるでしょう。
だから、
「三年間は最高だった」
「全員が寂しいはずだ」
と感情まで一つにしない

ことが大切です。
嬉しくてもよい。
寂しくてもよい。
不安でもよい。
淡々としていてもよい。
同じ式に参加していても、受け止め方は一人ひとり違います。

11.「感動させること」を目標にしない

卒業式について、
「今年は感動的だった」
「たくさんの生徒が泣いていた」
という評価を聞くことがあります。
感動することは自然です。
涙が出ることもあります。
しかし、
泣いた人数で卒業式の価値を測る必要はありません。
教師が感動を演出しようとしすぎると、生徒に特定の感情を求めることにもなります。
静かに三年間を振り返る生徒もいます。
笑顔で卒業したい生徒もいます。
卒業式は、
同じ感情になるための行事ではなく、それぞれが節目を迎える行事
と捉えた方がよいでしょう。

12.教師間で「何を大切にするか」を先に揃える

卒業式練習で混乱が起きやすい原因の一つが、教師によって指導内容が違うことです。
ある教師は、
「ここでは必ず礼をする」
と言います。
別の教師は、
「そこまで揃える必要はない」
と言います。
これでは、生徒が困ります。
そこで、生徒への指導を始める前に教師間で確認します。
・卒業式の目的
・最低限共通にする動き
・指導する内容
・生徒に任せる部分
・配慮が必要な生徒への対応
・練習時間
・当日の役割
などです。
細部まですべて統一する必要はありません。
しかし、
大人側の考えが整理されていないまま、生徒に統一を求めない
ことは重要です。

13.生徒自身が考える場面をつくる

卒業式は、教師が設計し、生徒が指示されたとおりに動くだけの行事にする必要はありません。
例えば、
「どのような卒業式にしたいか」
を学級や学年で考えることができます。
卒業までに仲間へ伝えたいこと。
後輩へ伝えたいこと。
家族や先生への感謝。
三年間で変わったこと。
これから大切にしたいこと。
生徒が考える場面をつくります。
特別活動では、自主的・実践的な活動を通して、よりよい生活や人間関係を形成していくことが重視されています。現在進められている次期学習指導要領に向けた特別活動の検討でも、卒業式を含む儀式的行事は引き続き学校行事として位置付けられている。(文部科学省)
「自分たちの卒業式」と感じられる余地
を残したいものです。

14.本番と同じ状況で確認する部分を絞る

すべての練習を本番と同じ形で行う必要はありません。
一方で、
一度は実際の動線で確認しておいた方がよいこともあります。
例えば、
・入場経路
・座席
・卒業証書授与
・退場経路
・移動時の安全
などです。
特に証書授与は、一人ひとりの移動が連続するため、実際に動いてみないと分かりにくい部分があります。
逆に、一度確認すれば十分な部分を何度も繰り返す必要はありません。
練習量ではなく、必要な経験を選ぶ
という考え方が大切です。

15.卒業式直前の教師の言葉は短くする

本番直前になると、教師もいろいろなことを伝えたくなります。
三年間の思い。
学年への思い。
注意事項。
当日の心構え。
しかし、卒業式直前の生徒は十分に緊張しています。
長い話を追加する必要はありません。
例えば、
「ここまで確認してきたので、もう大丈夫です。
少しくらい間違えても構いません。
周りを見ながら、落ち着いて動いてください。
そして今日は、自分自身の卒業式として、この時間を過ごしてください。」
この程度でも十分です。
最後まで教師が動かそうとするのではなく、
最後は生徒に任せる
ことも卒業に向けた大切な過程です。

16.卒業式練習のチェックポイント

卒業式練習を考える際には、次の点を確認するとよいでしょう。
□ 卒業式の目的を生徒と共有している
□ 動きだけでなく、その意味も説明している
□ 必要以上に細かな統一を求めていない
□ 見通しを持てる資料を準備している
□ 一度に多くのことを説明していない
□ 練習時間を必要最小限にしている
□ 間違えても立て直せることを伝えている
□ 一人ひとりの参加方法を考えている
□ 卒業への気持ちの違いを認めている
□ 感動を強要していない
□ 教師間で指導内容を整理している
□ 生徒自身が考える場面を設けている
□ 本番と同じ条件で確認すべき部分を絞っている
この中で最も重要なのは、
「この指導は、何のために行っているのか」
を教師自身が説明できることです。

17.卒業式を「最後の統制」ではなく「次への節目」にする

卒業式は、中学校生活の最後の日です。
だからこそ、最後まで教師が細かく生徒を動かすのではなく、生徒自身が意味を理解して参加できる状態をつくりたいものです。
歩き方を揃えること。
礼を揃えること。
静かに座ること。
それ自体が卒業式の目的ではありません。
自分の三年間を振り返る。
周囲の人とのつながりを感じる。
一つの生活を終える。
次の生活へ進む。
そのための節目が卒業式です。
学習指導要領が儀式的行事に「新しい生活の展開への動機付け」を位置付けていることには、大きな意味があります。(文部科学省)
卒業式練習は、生徒を完璧に動かすための時間ではなく、生徒が自分の卒業式に意味をもって参加できるようにするための時間です。
その視点から、練習の内容、回数、教師の言葉を考えていきたいものです。

参考資料

・文部科学省「中学校学習指導要領 第5章 特別活動」(文部科学省)
・文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別活動編」(文部科学省)
・文部科学省「特別活動WG」(2026年8月4日)(文部科学省)
・文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」(文部科学省)
・「儀式的行事における儀式作法の指導の在り方について」『日本特別活動学会紀要』(J-STAGE)

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