
Xでフォローをさせていただいている八神夕歌さんが、先日書籍「ブリリアントジャーク 静かにチームを壊す人たち(三笠書房)」を紹介されていました。
気になったので、書籍を購入し、読了しました。
結果、実際に学校でも起こっていることであり、納得の連続でした
八神夕歌さんに感謝です。
ありがとうございました。
さて、職員室には、
仕事ができる。
授業もうまい。
生徒指導にも強い。
保護者対応もできる。
難しい仕事を任せれば、きちんと仕上げる。
学校にとって、頼りになる先生がいます。
ところが、そんな先生の中で、ほんの一部ですが、組織をマイナスへ進める人がいます。
例えば、
会議では、誰も発言しなくなります。
若手が質問しなくなります。
「そんなことも分からないの?」
「それ、前にも説明したよね」
「だから、そのやり方ではだめなんです」
正しいことを言っている場合もあります。
仕事もできています。
だから、周囲も言いにくいのです。
管理職も、
「あの先生には助けてもらっているから」
「仕事はできるから」
と、対応を先送りしてしまいます。
しかし、その状態が続くと、少しずつ職員室から声が消えていきます。
相談が減ります。
提案が減ります。
失敗を隠すようになります。
若手が挑戦しなくなります。
誰も、その人に逆らわないように仕事を始めます。
一人の力によって学校が動いているように見えながら、実は学校全体の力が弱くなっていきます。
沢渡あまねさん、伊達洋駆さんの著書『ブリリアント・ジャーク 静かにチームを壊す人たち』を読んで、これは企業だけの話ではないと思いました。
- 1.ブリリアント・ジャークとは何か
- 2.学校では「優秀さ」が問題を見えにくくする
- 3.学校で現れやすい7つの兆候
- 4.問題は「嫌な人がいること」だけではない
- 5.「仕事を人質にとる」状態をつくらない
- 6.管理職が「仕事ができるから」で見逃さない
- 7.管理職が具体的にできること
- 8.「心理的安全性」は仲良しの職員室という意味ではない
- 9.若手教師が「強い人」をまねしない
- 10.同僚としてできること
- 11.自分自身がブリリアント・ジャークになっていないか
- 12.5つの自己点検
- 13.学校には「できる人」より「周りもできるようにする人」が必要
- 14.温かい職員室は「何でも許す職員室」ではない
- 15.ステージ別に考える
- 16.参考資料
1.ブリリアント・ジャークとは何か
三笠書房『ブリリアント・ジャーク 静かにチームを壊す人たち』
「ブリリアント・ジャーク」とは、簡単に言えば、
仕事の能力や専門性が高く、成果を上げる一方で、その言動によって周囲に悪影響を与える人
のことです。
本書では、
・なぜ優秀さが有害さへ変わるのか
・チームを静かに崩していくパターン
・その人だけではなく組織構造に何があるのか
・自分自身の中にもその兆候がないか
というところまで扱っています。
大切なのは、
「仕事ができる人=よいチームメンバー」とは限らない
ということです。
個人として高い成果を上げる能力と、周囲と協働しながら組織全体の力を高める能力は、同じものではありません。共著者の伊達洋駆さんも、個人の成果とチームへの影響は別に見る必要があると説明しています。
学校でも同じだと思います。
2.学校では「優秀さ」が問題を見えにくくする
例えば、こんな先生がいるとします。
授業力があります。
生徒指導もできます。
行事を仕切らせれば速いです。
保護者対応にも強いです。
資料もきれいにつくります。
困難な仕事も引き受けます。
学校にとっては、とてもありがたい存在です。
ところが、
人の提案をすぐ否定する。
若手の失敗を強く責める。
自分と違う方法を認めない。
不機嫌になると周囲に分かる態度をとる。
会議で相手を追い込む。
自分が持っている情報や仕事を周囲へ渡さない。
「あの人に聞くと面倒だから、聞かないでおこう」
と周囲が考えるようになります。
それでも、その先生自身の仕事は回っています。
むしろ成果を出しています。
だから問題が見えにくいのです。
成果が見える人ほど、その周囲で失われているものが見えにくくなることがあります。
失われているのは、
発言。
相談。
挑戦。
情報共有。
若手の成長。
同僚の意欲。
こうした、数値には表れにくいものです。
3.学校で現れやすい7つの兆候
ここからは、本書の問題意識を学校組織に置き換えて考えます。
01.「正論」で会話を終わらせる
言っていることは正しいのです。
しかし、
「それは違う」
「普通はこうする」
「そんなことでは通用しない」
と正しさで相手の話を終わらせます。
結果として、
「何を言っても否定される」
と感じた人は話さなくなります。
正論を言うことと、人を動かすことは同じではありません。
02.「自分がやった方が早い」が増える
仕事のできる人ほど、
「説明するより自分でやった方が早い」
と感じることがあります。
確かに、その場では早く終わります。
しかし、それを続けると、周囲が育ちません。
その人しかできない仕事が増えていきます。
そして、
「自分がいなければ、この学校は回らない」
という状態になります。
これは本人にとっても、学校にとっても危険です。
03.周囲がその人の機嫌を読む
「今日は機嫌が悪そうだから、あとにしよう」
「この話は今出さない方がいい」
「反対すると面倒だから、そのまま通そう」
この状態になると、職員室は仕事の内容ではなく、特定の人の感情を見ながら動き始めます。
本人が怒鳴っていなくても起こります。
沈黙。
ため息。
表情。
強い口調。
こうしたものでも周囲は萎縮します。
04.若手が質問しなくなる
若手が質問しない職員室を見て、
「最近の若手は自分から聞きに来ない」
と考える前に、
質問できる環境になっているか
を考えたいと思います。
一度質問したときに恥をかかされた。
「そんなことも知らないのか」という反応をされた。
忙しそうに嫌な顔をされた。
そんな経験が積み重なると、人は聞かなくなります。
分からなくても黙って進めるようになります。
その方が組織にとっては危険です。
05.その人の前だけ会議が静かになる
普段は意見を言う人たちが、特定の人がいると黙る。
管理職が、
「何か意見はありませんか」
と言っても誰も話さない。
しかし会議が終わると、廊下や職員室では意見が出ます。
これは、
「意見がない」
のではなく、
そこで意見を言うことにリスクを感じている
可能性があります。
06.「あの人はそういう人だから」で済ませる
学校で非常に危険な言葉の一つだと思います。
「あの人は言い方がきついから」
「悪気はないから」
「昔からああいう人だから」
「仕事はできるから」
これらの言葉は、ときに管理をしない理由になります。
本書でも、「個性」を理由に問題行動を許容してしまうことや、組織側のマネジメントの問題が扱われています。
個性は尊重します。
しかし、周囲を傷つける行動まで「個性」で済ませる必要はありません。
07.周囲が「あの人を通さない方法」を考え始める
直接相談すると面倒だから、別の人を通す。
会議で反対されるから、事前に根回しする。
質問すると責められるから、自分だけで処理する。
こうして組織に余計な仕事が増えていきます。
本人は仕事が速いのに、
その人がいることで周囲の仕事が遅くなる
という逆転が起こります。
4.問題は「嫌な人がいること」だけではない
ここで一番避けたいのは、
「あの先生はブリリアント・ジャークだ」
と人にラベルを貼ることです。
本書が重要なのは、単に困った人物を特定する話で終わっていないところです。
なぜそのような状態が生まれたのか。
なぜ組織が放置したのか。
なぜ周囲が言えなくなったのか。
組織そのものを見る必要があります。
例えば、
難しい仕事を全部一人に任せてきた。
成果を出す人だけを評価してきた。
人を育てる仕事を評価してこなかった。
その人しか分からない仕事を長年放置してきた。
管理職が注意することを避けてきた。
「あの人が辞めたら困る」と依存してきた。
そうした組織の側の問題があるかもしれません。
一人を排除しただけで、同じ構造を残していれば、別の誰かが同じ状態になる可能性があります。
だから、
「誰が悪いのか」だけではなく、「なぜこうなったのか」を考える必要があります。
5.「仕事を人質にとる」状態をつくらない
本書で印象に残る表現の一つに、**「仕事を人質にとる」**という問題があります。出版社も本書の主要テーマとして紹介しています。
学校でも起こり得ます。
「あの仕事は○○先生しか分からない」
「行事は○○先生がいないと無理」
「ICTは○○先生に全部聞く」
「進路関係はあの先生しか分からない」
その先生に高い専門性があること自体は、とてもよいことです。
しかし、
その人がいなければ学校が動かない状態
は健全ではありません。
管理職は、
専門性を尊重しながら、
マニュアルをつくる。
複数で担当する。
情報を共有する。
次の人を育てる。
仕事を標準化する。
ということを進める必要があります。
属人化を解消することは、その人の価値を下げることではありません。
その専門性を学校全体の財産にすることです。
6.管理職が「仕事ができるから」で見逃さない
管理職には大きな役割があります。
ブリリアント・ジャーク的な行動が放置される理由の一つは、その人が成果を上げていることです。
「仕事をしてもらっているから言いにくい」
という気持ちは理解できます。
しかし、
その人の成果だけを見てはいけません。
見るべきなのは、
その人がいることで、組織全体に何が起きているか
です。
仕事の成果は高い。
しかし、
若手が相談できない。
会議で意見が出ない。
同僚が疲弊している。
情報がその人に集中する。
異動希望者が出る。
この状態なら、個人の成果だけで「優秀」と評価することはできません。
共著者の伊達さんも、個人の成果とチームに与える影響を分けて見る必要性を指摘しています。
7.管理職が具体的にできること
01.人物評価ではなく行動を扱う
「あなたは協調性がない」
ではなく、
「昨日の会議で、○○先生の発言途中に3回遮っていました」
「その後、他の職員から発言が出なくなりました」
というように、具体的な行動を扱います。
人格を否定する必要はありません。
02.成果とチームへの貢献を分けて見る
「仕事をたくさんこなす」
だけではなく、
人を育てる。
相談に乗る。
情報を共有する。
他者が発言できるようにする。
こうした行動も評価します。
03.早い段階で伝える
大きな問題になるまで放置すると、
本人にも、
周囲にも、
管理職にも、
対応が難しくなります。
小さな段階で、
「その言い方は相手が話しにくくなります」
と伝える方がよいと思います。
04.仕事を複数化する
「この人しかできない」を減らします。
専門性を奪うのではありません。
専門性を共有します。
05.周囲の声を拾う
管理職の前では問題が見えないことがあります。
部下や若手にだけ強く接している場合もあります。
日常の職員室を見る。
面談する。
教頭、首席、主任、養護教諭などからも情報を得る。
複数の視点で見ます。
06.本人にも支援が必要かもしれないと考える
ここも重要です。
高い成果を求められ続けた。
難しい仕事が集中した。
「あなたならできる」と任され続けた。
失敗できない立場になった。
余裕がなくなっている。
その結果として、周囲への態度が強くなっている可能性もあります。
問題行動は止める必要があります。
同時に、本人の負担や仕事の構造も見ます。
8.「心理的安全性」は仲良しの職員室という意味ではない
職員室を考えるとき、「心理的安全性」という言葉が使われることがあります。
心理的安全性研究で知られるAmy Edmondsonは、チームの心理的安全性を、メンバーが対人的なリスクを取っても安全だと共有して認識している状態として研究しています。心理的安全性はチームの学習行動と関連することが示されています。
これは、
何を言っても許される。
誰にも注意しない。
いつも仲良くする。
ということではありません。
学校で言えば、
「分かりません」
と言える。
「助けてください」
と言える。
「失敗しました」
と言える。
「私は違うと思います」
と言える。
「その対応は少し心配です」
と言える。
そうした職員室だと思います。
2026年にJ-STAGEで公開された学校職員室を対象とする事例研究でも、心理的安全性の高い教職員集団では、職務上の難しい課題について相談したり、日常的な会話から自己開示につながったりするインフォーマルなコミュニケーションが見いだされています。
9.若手教師が「強い人」をまねしない
1校目、2校目の先生にも考えてほしいことがあります。
学校には、
「仕事のできる先生」
がいます。
若手の頃は、その先生のようになりたいと思います。
それ自体はよいことです。
しかし、
仕事の速さ。
授業技術。
生徒への対応。
だけでなく、
その人と一緒に働く人たちがどうなっているか
も見てほしいと思います。
「あの先生が言うと誰も逆らえない」
ことを、
「リーダーシップがある」
と勘違いしないことです。
「怖いけれど仕事はできる」
ことを、
教師としての理想像にしないことです。
本当に力のある人は、自分がいなくても周囲が動けるようにします。
後輩を育てます。
情報を渡します。
相手の力を引き出します。
10.同僚としてできること
自分が管理職でなくても、できることはあります。
ただし、一人で正面から戦う必要はありません。
特に、相手との関係や立場によっては、直接指摘することが適切でない場合もあります。
まず、
何が起きたのか。
いつ起きたのか。
どのような言動だったのか。
その結果、何が起きたのか。
を事実として整理します。
そして必要に応じて、
学年主任。
首席。
教頭。
校長。
相談できる立場の人へ共有します。
「あの人が嫌いです」
ではなく、
「このような言動が続き、若手が質問できなくなっています」
と、組織への影響として伝えることが大切です。
11.自分自身がブリリアント・ジャークになっていないか
この記事で最も大切にしたいところです。
誰かの顔を思い浮かべるだけで終わらせないことです。
本書の第4章も、「あなた自身の中にある兆し」に目を向けています。
私自身も考えなければなりません。
経験年数が増えます。
役職が上がります。
知識が増えます。
できる仕事が増えます。
そうすると、
「それは違う」
とすぐ分かるようになります。
若手の仕事を見て、
「遠回りしているな」
と思うようになります。
会議でも、
「この案ではうまくいかない」
と先が見えるようになります。
そこで、
全部言ってしまう。
全部直してしまう。
全部自分でやってしまう。
それを続けると、人を育てる機会を奪います。
経験が増えるほど、
できることを見せる力より、できる人を増やす力
が必要になるのだと思います。
12.5つの自己点検
時々、自分に問いかけたいと思います。
①私が発言したあと、会議で意見が続いているか。
自分の発言で議論を終わらせていないでしょうか。
②若手は私に「分かりません」と言えるか。
質問されないことを、自分への信頼だと思わないようにします。
③「私がやった方が早い」が増えていないか。
速さと育成は、ときに両立しません。
④正しさで相手を追い詰めていないか。
正しい内容でも、伝え方によって相手の力を奪うことがあります。
⑤自分がいなくても仕事が回るようにしているか。
自分しかできない仕事が増えることを誇りにしないようにします。
この五つのうち、一つでも気になったら、少し仕事の仕方を変えてみます。
13.学校には「できる人」より「周りもできるようにする人」が必要
もちろん、高い専門性は必要です。
授業がうまい。
生徒指導ができる。
ICTに強い。
校務処理が速い。
その力は学校にとって大切です。
しかし、その力が本当に学校の財産になるのは、
人に伝わったときです。
授業を見せる。
教材を渡す。
若手の相談に乗る。
失敗も話す。
仕事の仕組みを残す。
次の人を育てる。
そうすると、
一人の「できる先生」の力が、
学校全体の力になります。
反対に、その人しかできない状態をつくれば、学校はその人に依存します。
専門性の高さと、周囲を生かす力。
学校では両方を大切にしたいと思います。
14.温かい職員室は「何でも許す職員室」ではない
『応援の空』では、
温かい職員室が、温かい教室を生む。
ということを大切にしています。
温かい職員室とは、
誰にも注意しない職員室ではありません。
問題があっても、
「あの人はそういう人だから」
と見て見ぬふりをする職員室でもありません。
必要なことは伝えます。
しかし、人を切り捨てるのではなく、行動を扱います。
困っている人を守ります。
同時に、問題を起こしている本人にも変わる機会をつくります。
仕事ができる人には、さらに周囲を生かす人になってもらいます。
若手には、安心して挑戦できる場をつくります。
文部科学省の『生徒指導提要』でも、生徒指導の基盤として「教職員集団の同僚性」が位置付けられています。改訂過程の協力者会議でも、職員室の雰囲気や教職員の人間関係が生徒指導において非常に重要であるとの説明がなされています。
子どもを大切にする学校をつくるなら、
そこで働く大人同士の関係も大切にしなければならないと思います。
職員室で誰かが黙り込んでいる。
若手が質問できない。
人の顔色を見ながら仕事をしている。
それを、
「社会人だから仕方がない」
で済ませないことです。
仕事ができる人が、周囲の人もできるようにする。
経験のある人が、経験の浅い人を安心させる。
役職のある人が、人の声を引き出す。
そんな職員室をつくりたいと思います。
15.ステージ別に考える
1校目
「怖いけれど仕事のできる先生」を、そのまま理想にしないことです。
仕事の方法だけでなく、人との関わり方も見ます。
困ったときに一人で抱え込まず、相談できる人を複数持っておきます。
2校目
少し仕事ができるようになった時期こそ注意します。
後輩に対して、
「自分の頃はできた」
「そんなことも知らないのか」
という目線になっていないか確認します。
3校目以降
自分が成果を出す段階から、
周囲が成果を出せる環境をつくる段階
へ移ります。
自分しかできない仕事を減らし、若手や中堅へ渡していきます。
管理職
個人の仕事量や成果だけではなく、
その人が職員集団へ与えている影響
を見ます。
高い能力を持つ職員だからこそ、その力が学校全体へ広がるようマネジメントします。
16.参考資料
・沢渡あまね・伊達洋駆『ブリリアント・ジャーク 静かにチームを壊す人たち』三笠書房
・伊達洋駆「『ブリリアント・ジャーク』出版記念:仕事ができる人が、なぜチームを壊すのか」ビジネスリサーチラボ
・文部科学省『生徒指導提要(改訂版)』
・Edmondson, A. C.(1999)“Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams”
・小出晃大・赤坂真二(2026)「心理的安全性の高い教職員集団におけるインフォーマル・コミュニケーションの特徴を扱った事例研究」J-STAGE
