小学校から中学校への引継ぎで大切にしたいこと|情報ではなく支援をつなぐ17の視点

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小学校から中学校への進学は、子どもにとって大きな環境の変化です。
教科担任制になる。
授業時間や学習内容が変わる。
定期テストが始まる。
部活動が加わる。
人間関係が広がる。
生活時間も変わります。
こうした移行期だからこそ、小学校から中学校への引継ぎには大きな意味があります。
ただし、引継ぎの目的は、
「この子はこういう子です」と中学校へ人物像を渡すことではありません。
大切なのは、
「この子が中学校でも安心して学び、生活し、成長していくために、何をつなげればよいか」
を考えることです。
文部科学省は2026年2月の通知でも、進級・進学後に支援が途切れないよう、悩みや困難を抱えている児童生徒、いじめを受けた児童生徒、不登校となっている児童生徒などについて、丁寧な引継ぎと継続的な見守り体制を求めています。(文部科学省)
引継ぎは、情報の受け渡しではありません。
支援の連続性をつくる仕事です。

1.引継ぎの目的を「中学校が困らないため」にしない

引継ぎでは、
「問題を起こしそうな生徒を知っておきたい」
「注意した方がよい家庭を知っておきたい」
という発想になりやすいことがあります。
しかし、引継ぎの中心に置きたいのは学校側の都合ではありません。
子どもが新しい環境で困らないために何が必要か
です。
例えば、
・どのような環境なら安心して過ごせるか
・どのような説明なら理解しやすいか
・困ったときに誰へ相談できるか
・学習上どのような支援が有効だったか
・人間関係で配慮した方がよいことは何か
・本人がどのようなことを大切にしているか
を確認します。
生徒指導提要も、児童生徒を問題行動への対応対象としてだけでなく、全ての児童生徒の発達を支えるという立場から生徒指導を捉えています。(文部科学省)
引継ぎも同じ視点から考えたいものです。

2.「評価」ではなく「事実」を引き継ぐ

例えば、
「落ち着きがない」
「やる気がない」
「保護者が難しい」
「友達とうまくいかない」
という表現があります。
しかし、これだけでは次の教師が適切に支援できません。
できるだけ具体的にします。
「口頭で三つ以上の指示を一度に伝えると、途中で分からなくなることがある」
「提出期限を黒板だけで示すより、ICT上にも表示すると提出できることが増えた」
「大人数の話合いでは発言しにくいが、二人組では自分の考えをよく話す」
というようにします。
人物への評価ではなく、観察できた事実を伝える。
これだけで、引継ぎの質は大きく変わります。
複数の教師が児童生徒の情報を共有する場合にも、具体的・客観的な情報を整理することの重要性が研究で指摘されています。(J-STAGE)

3.困っていることだけでなく「できること」を引き継ぐ

引継ぎ資料は、困りごとの一覧になりがちです。
しかし、それだけでは子どもの姿が見えません。
絵を描くことが得意。
年下の子どもに優しい。
好きな教科では集中できる。
ICTを使うと表現しやすい。
一対一ならよく話せる。
責任を任されると力を発揮する。
スポーツが好き。
図鑑に詳しい。
こうした情報も重要です。
中学校に入学した直後は、新しい人間関係の中で本人のよさがまだ見えにくいことがあります。
そのとき、
「この子は何ができるのか」「何を好きなのか」
という情報があれば、新しい教師との関係づくりの入口になります。
引継ぎは弱みを伝えるだけでなく、
次の学校で本人の強みを生かすためのもの
にしたいところです。

4.「うまくいった支援」を具体的に引き継ぐ

非常に重要なのが、
何をすると支援につながったか
です。
例えば、
・予定を視覚化すると落ち着いて行動できた
・座席位置を工夫すると集中しやすかった
・提出期限を一週間単位で示すと管理できた
・本人へ事前に予定変更を伝えると不安が少なかった
・個別に声を掛けるより、選択肢を提示すると動きやすかった
・別室で少し休んだ後なら教室へ戻れた
などです。
文部科学省の学校間連携に関する資料でも、小学校で行ってうまくいった支援、うまくいかなかった支援の双方を中学校へ伝えることが示されています。(文部科学省)
「配慮が必要です」だけでは、中学校側は何をすればよいか分かりません。
支援を再現できる程度まで具体化する
ことが大切です。

5.うまくいかなかった支援も大切な情報

成功した方法だけでなく、うまくいかなかった方法も伝えます。
ただし、
「○○をしてもダメだった」
ではなく、
「どのような条件で、どのような反応があったか」
を伝えます。
例えば、
「全員の前で繰り返し注意すると、その後発言しなくなることがあった」
「細かな一日計画を立てさせると、計画どおり進まなかった時点で学習そのものをやめることがあった」
という情報です。
それを知っていれば、中学校側は同じ方法を無条件に繰り返さずに済みます。
同時に、
小学校で効果がなかったから、中学校でも効果がないと決めつけない
ことも必要です。
年齢も環境も人間関係も変わります。
引継ぎ情報は、未来を決定する情報ではなく、次の支援を考えるための材料です。

6.本人の声を引き継ぐ

教師同士が話すだけでなく、可能な範囲で本人自身の認識も大切にします。
「中学校で楽しみにしていることは何ですか」
「心配なことはありますか」
「困ったとき、どうしてもらうと助かりますか」
「自分が得意だと思っていることは何ですか」
と聞くことができます。
教師が、
「この子は○○が苦手です」
と考えていても、本人は別のことに困っている場合があります。
反対に、教師側が気にしていることを本人は特に負担に感じていないこともあります。
支援される本人が、自分抜きで語られ続ける引継ぎにはしない。
これは非常に重要だと考えます。

7.保護者と「何をつなぐか」を共有する

保護者も、小学校から中学校への進学に不安を感じることがあります。
中学校側へ何が伝わるのか。
これまでの配慮は続くのか。
一から説明し直さなければならないのか。
こうした不安があります。
特別支援教育では、文部科学省も本人・保護者と相談しながら引継ぎを進め、個別の教育支援計画や個別の指導計画を確実につないでいくことを示しています。(文部科学省)
不登校児童生徒の「児童生徒理解・支援シート」についても、学校間の引継ぎでは個人情報の取扱いや共有範囲について本人・保護者等へ十分説明し、適切に進めることが示されています。(文部科学省)
引継ぎを、
学校から学校へ情報を送る作業だけにしない
ことです。

8.特別支援教育に関する情報は「診断名」だけで終わらせない

診断名が分かれば、支援方法が自動的に決まるわけではありません。
同じ診断名でも、教育的ニーズは一人ひとり異なります。
重要なのは、
・本人が何に困っているか
・どのような場面で困難が生じるか
・どのような支援が有効か
・本人が希望する支援は何か
・どこまで自分でできるか
・どのような合理的配慮が行われてきたか
です。
個別の教育支援計画や個別の指導計画がある場合には、それを継続的な支援の資料として活用します。文部科学省も、移行期にこれらの計画を確実に引き継ぐことを示しています。(文部科学省)
診断名を引き継ぐのではなく、教育的ニーズと有効な支援を引き継ぐ
という意識が必要です。

9.不登校については「登校日数」だけを引き継がない

不登校経験のある児童について、
「年間○日欠席」
だけでは、必要な支援は分かりません。
どのような状況で登校しやすかったのか。
教室以外では学べたのか。
教育支援センター等とのつながりがあるのか。
オンライン学習を利用していたのか。
本人が学校についてどう感じているのか。
安心できる大人は誰か。
どのような学習を続けているのか。
こうした情報も重要です。
文部科学省は、不登校支援について、児童生徒の状況を的確に把握し、学校・家庭・必要に応じた関係機関が情報共有して、組織的・計画的に支援することを求めています。(文部科学省)
さらに2026年の通知でも、進級・進学によって支援が途切れないよう丁寧な引継ぎを求めています。(文部科学省)
「中学校では登校できるようにする」ことだけをゴールにせず、学びと人とのつながりをどう継続するか
を考えます。

10.いじめに関する情報は確実につなぐ

進級・進学したからといって、いじめに関する支援をリセットしてはいけません。
関係する児童生徒が同じ中学校へ進学する場合もあります。
別々の学校へ進む場合もあります。
本人が強い不安を抱えている場合もあります。
文部科学省は、転校や進学に際して、いじめの事実関係だけでなく、当事者の特性や抱える困難等を含め、必要な引継ぎを行うよう求めています。
いじめ重大事態調査報告書の分析でも、進級・進学・転校時の情報共有や引継ぎが再発防止上の課題として繰り返し挙げられています。(文部科学省)
ここは、
「もう卒業したから終わり」にしてはいけない情報
です。
必要な支援と見守りを次の学校につなぎます。

11.生徒指導だけでなく「学び方」も引き継ぐ

小中の引継ぎというと、生徒指導情報に重点が置かれがちです。
しかし、中学校生活で大きく変化するのは学習です。
どのような授業を経験してきたのか。
ICTをどのように使っていたのか。
どの程度、自分で学習計画を立てていたのか。
グループでどのように学んでいたのか。
どのような振り返りをしていたのか。
外国語ではどのような活動を経験しているのか。
こうした情報も接続には重要です。
小中連携についての研究では、小中学校間の教育内容や学びの連続性を教師が重要だと認識していても、引継ぎシステムや相互理解の不足などから十分につながっていないことが指摘されています。(J-STAGE)
中学校側も、
「小学校で何を学んできたのか」を知った上で中学校教育を始める
必要があります。

12.中学校側から小学校を知ろうとする

学校間連携では、送る側だけに責任を負わせないことが大切です。
中学校側からも、
「小学校ではどのような学びをしているのか」
「どのような支援をしてきたのか」
「この児童が力を発揮していたのはどんな場面か」
と尋ねます。
可能なら、
授業を見る。
小学校の取組を知る。
教員同士で話す。
という機会も有効です。
小中連携研究でも、学校種間の引継ぎ・共有システムだけでなく、互いの教育への理解や心理的な距離が連携に影響することが示唆されています。(J-STAGE)
小学校側に、
「中学校に必要な情報を全部準備してください」
と求めるだけではありません。
受け取る側にも、理解しに行く責任があります。

13.一人の担任から一人の担任への引継ぎにしない

引継ぎを、
「6年生担任から中学1年生担任へ」
だけにすると、情報が個人に集中します。
中学校では複数の教科担当が関わります。
学年主任。
生徒指導担当。
養護教諭。
特別支援教育コーディネーター。
スクールカウンセラー。
必要に応じてスクールソーシャルワーカーなども関わります。
生徒指導提要も、学校をチームとして機能させ、教職員間で情報や支援方針を共有することを重視しています。(文部科学省)
したがって、
「誰が知っておく必要がある情報なのか」を整理し、組織で支援できる状態をつくる
ことが必要です。
担当者が異動しても支援が途切れない仕組みが重要です。

14.共有する情報は「多ければ多いほどよい」わけではない

引継ぎでは、児童生徒や家庭に関する非常にセンシティブな情報を扱います。
健康。
障害。
家庭状況。
成績。
人間関係。
いじめ。
不登校。
相談内容。
必要な情報共有は重要ですが、誰にでも何でも共有すればよいわけではありません。
支援の目的に照らして、必要な人が、必要な情報を適切に扱う
ことが基本です。
個人情報保護委員会は2025年、学校現場では健康情報、病歴、成績、家庭環境などプライバシー性の高い情報を日常的に扱っており、ICTによる情報共有も含めて漏えい事案が発生しているとして、学校・教育委員会に組織的・技術的な安全管理を求めています。(警察庁)
学校・設置者の個人情報取扱規程等を確認し、紙でもデジタルでも適切に扱う必要があります。

15.引継ぎ情報で「最初から生徒を決めない」

中学校側が多くの情報を受け取ると、
「この子はこういう子なんだ」
というイメージができます。
これは支援の準備には役立ちます。
一方で、注意も必要です。
小学校では発言が少なかった生徒が、中学校では活発に発言するかもしれません。
人間関係が変わり、安心して過ごせるようになるかもしれません。
新しい教科に強い関心を持つかもしれません。
成長段階も変わります。
だから、
引継ぎ情報は「人物の確定情報」ではなく「最初の理解を助ける情報」
として扱います。
「小学校でこうだったから、中学校でもこうなる」
と決めつけないことです。
本人との新しい関係の中で、理解を更新していきます。

16.4月に実際の姿を見て、引継ぎ内容を更新する

引継ぎは3月で終わりではありません。
4月に実際の中学校生活が始まってから確認します。
授業ではどうか。
休み時間はどうか。
人間関係はどうか。
教材管理はできているか。
疲れは出ていないか。
本人はどう感じているか。
小学校から聞いた支援は今も必要か。
新たに必要になった支援はないか。
特に、小学校から中学校へ進学すると、
教科担任制。
定期テスト。
部活動。
新しい友人関係。
など生活条件が大きく変わります。文部科学省の特別支援教育に関する引継ぎ資料でも、こうした学校段階の違いを意識して支援をつなぐことが示されています。(文部科学省)
引継ぎ情報と実際の姿を照合し、支援を更新する。
ここまでが引継ぎです。

17.引継ぎは「一回の会議」ではなく「つながり」をつくること

最も大切なのは、引継ぎを一日の行事にしないことです。
3月に資料を受け取った。
会議をした。
名簿にメモした。
それで終了ではありません。
必要であれば、入学後に、
「今はこういう様子です」
「小学校では似た場面はありましたか」
と確認することもあります。
中学校で見えてきた新たな姿を支援に反映します。
もちろん、いつまでも小学校時代の情報に依存するわけではありません。
必要なときにつながり、子どもの現在の姿を中心に支援を更新できる関係
を学校間につくっておくことが大切です。
小学校と中学校は、どちらが上でも下でもありません。
教育方法も学校文化も異なります。
互いの専門性を尊重しながら、
「この子が次の学校でも安心して成長するために何が必要か」
という一点でつながります。
引継ぎの本質は、情報量ではありません。
次の学校で支援が途切れないことです。
そしてもう一つ。
過去の姿を固定するためではなく、新しい環境でその子の可能性が広がるようにすることです。
そのための小中連携でありたいと考えます。

小学校から中学校への引継ぎチェックリスト

□ 本人の困りごとだけでなく強みも共有している
□ 評価語ではなく具体的な事実で伝えている
□ 有効だった支援を具体的に伝えている
□ うまくいかなかった支援も条件とともに共有している
□ 本人自身の思いや希望を把握している
□ 必要に応じて保護者と引継ぎ内容を共有している
□ 個別の教育支援計画・個別の指導計画等を適切につないでいる
□ 不登校支援が進学によって途切れないようにしている
□ いじめ等に関する必要な支援情報を確実につないでいる
□ 学習方法やICT活用など「学び方」も共有している
□ 中学校側が小学校の教育を理解しようとしている
□ 特定の担任だけでなく組織で共有している
□ 個人情報の共有範囲と管理方法を確認している
□ 引継ぎ情報だけで本人像を固定していない
□ 入学後の本人の姿を確認して支援を更新している
□ 必要な場合に学校間で再度相談できる関係がある
引継ぎで問われるのは、
どれだけ多くのことを聞いたかではなく、その情報によって次の支援がどうよくなったか
です。

参考資料

・文部科学省「生徒指導提要(改訂版)」(文部科学省)
・文部科学省「令和8年2月27日 児童生徒の自殺予防に係る取組について」(文部科学省)
・文部科学省「学校間連携の充実のために」(文部科学省)
・文部科学省「発達障害のある子供の教育支援に関する実践例16」(文部科学省)
・文部科学省「児童生徒理解・支援シートの作成と活用について」(文部科学省)
・個人情報保護委員会「学校における個人情報の取扱いに関する注意喚起」(警察庁)
・野村ほか「高知県における小中連携に関する教師ビリーフの検討」(J-STAGE)
・渡部永愛「外国語科の成果に対する小学校教師と中学校英語教師の意識の比較」(J-STAGE)
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小学校から中学校への引継ぎで大切な17の視点|支援を途切れさせない小中連携
メタディスクリプション
小学校から中学校への引継ぎで何を伝えるべきか。強み、有効だった支援、特別支援、不登校、いじめ、学習、本人・保護者の声、個人情報の扱いまで、2026年の文部科学省資料を踏まえて17の視点から整理します。
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