教育相談と生徒指導を分けない|「聴く」と「指導する」をつなぐ15の視点

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「生徒の話をしっかり聴くことが大切です」
その通りだと思います。
一方で、
「必要なことは、きちんと指導しなければならない」
これもその通りです。
学校では、ときどきこの二つが対立するものとして語られます。
「話を聴いてばかりでは、生徒は変わらない」
「厳しく指導すると、生徒との関係が悪くなる」
しかし私は、教育相談と生徒指導を、このような二者択一で考えない方がよいと思っています。
文部科学省『生徒指導提要』では、教育相談を生徒指導から独立した活動ではなく、生徒指導の一環であり、その中心的役割を担うものと位置付けています。
そして、
「教育相談は話を聞くばかりで子どもを甘やかす」
「生徒指導はきまりを押し付けて子どもの心を無視する」
という対立的な捉え方を示したうえで、両者が相まって初めて包括的な児童生徒支援が可能になるとしています。
つまり、
聴くことも生徒指導です。
必要なことを伝えることも教育相談と切り離せません。
目指したいのは、
「優しい先生」と「厳しい先生」が役割を分担する学校ではありません。
一人一人の教師が、目の前の子どもの状況に応じて、
聴く。
理解する。
考える。
伝える。
支える。
必要なら組織につなぐ。
そのすべてを行える学校です。

1.教育相談は「困った生徒の面談」だけではない

教育相談という言葉を聞くと、
「悩みを抱えた生徒と別室で面談すること」
を思い浮かべるかもしれません。
しかし、現在の『生徒指導提要』における教育相談は、もっと広いものです。
全ての児童生徒を対象にした発達支持的教育相談があります。
例えば、
日常の授業。
学級活動。
何気ない会話。
朝の挨拶。
班活動。
学校行事。
こうした通常の教育活動の中にも、教育相談の視点を生かすことができます。
文部科学省は、発達支持的教育相談について、個別面談やグループ面談だけでなく、通常の教育活動を教育相談の視点から実践することが重要だとしています。
教育相談は、
「何か問題が起きてから始まるもの」
ではありません。
日常の関係づくりそのものから始まっています。

2.生徒指導も「問題行動を注意すること」ではない

同じように、生徒指導も誤解されやすい言葉です。
遅刻を注意する。
服装を指導する。
問題行動に対応する。
もちろん、それらも生徒指導の一部です。
しかし、生徒指導の中心は、
「問題を起こさせないために生徒を管理すること」
ではありません。
『生徒指導提要』では、生徒指導の目的を、一人一人の児童生徒の個性の発見とよさや可能性の伸長、社会的資質・能力の発達を支えることとして整理しています。
つまり、
授業で自分の考えを言える。
友達と協力できる。
困ったときに助けを求められる。
自分で考えて行動を選べる。
失敗した後に立て直せる。
こうした力を育てることも生徒指導です。
生徒指導は「言うことを聞かせる仕事」ではありません。
子ども自身がよりよい選択をできるよう支える仕事です。

3.「優しい先生」と「厳しい先生」に分けない

学校では、
「あの先生は教育相談タイプ」
「あの先生は生徒指導タイプ」
という言い方をすることがあります。
確かに、教師によって得意分野は違います。
話を聴くことが得意な先生。
集団への説明が得意な先生。
関係機関との調整が得意な先生。
生徒の小さな変化に気づく先生。
さまざまな教師がいることは学校の強みです。
しかし、
教育相談=優しい
生徒指導=厳しい

とは考えません。
話を丁寧に聴きながら、必要なことをはっきり伝える教師もいます。
集団へ明確に説明しながら、一人一人への配慮を欠かさない教師もいます。
そもそも「優しい」と「厳しい」は、生徒指導と教育相談を説明する専門的な区分ではありません。
大切なのは性格の違いではなく、
今、この生徒にどのような関わりが必要か
です。

4.指導する前に「何が起きているのか」を理解する

例えば、生徒が授業中に突然教室から出ていったとします。
「授業中に勝手に出てはいけない」
と伝える必要がある場合があります。
しかし、その前に、
なぜ出たのか。
を確認します。
友人とのトラブルがあった。
課題が分からなくなった。
教室の音がつらかった。
教師の言葉に傷ついた。
体調が悪くなった。
不安が強くなった。
理由によって支援は変わります。
『生徒指導提要』は、児童生徒理解を、学習面、心理・社会面、進路面、家庭面などの情報を収集し分析し、適切な指導・援助につなげるプロセスとして示しています。
行動だけを見て指導するのではなく、その行動の背景を理解してから働きかける。
これが教育相談と生徒指導をつなぐ重要な部分です。

5.「聴くこと」と「同意すること」は違う

生徒の話を聴くというと、
「何でも生徒の言うことを認めるのか」
という疑問が出ることがあります。
違います。
聴くことと、同意することは別です。
例えば、生徒が、
「腹が立ったから相手を殴った」
と話したとします。
「腹が立ったんだね」
と感情を理解しようとすることはできます。
しかし、
「だから殴っても仕方がない」
と認める必要はありません。
感情は受け止める。
行為については必要なことを伝える。

この二つは両立します。
「腹が立つほど嫌だったんだな。ただ、相手を殴ることは認められない。次に同じようなことがあったとき、どうすればよいか一緒に考えよう」
という関わりができます。
理解することは、免責することではありません。

6.「指導すること」と「強く言うこと」も違う

反対に、
「指導する」
ことを、
「強い口調で言う」
ことと同じにしない方がよいと思います。
必要なことは、静かでも伝えられます。
「それはしてはいけません」
「その行動については、あなたにも考えてもらう必要があります」
と、落ち着いて伝えることができます。
大きな声。
威圧。
人前で叱ること。
感情的に追い込むこと。
これらが指導力を示すわけではありません。
重要なのは、
何を問題としているのかが本人に分かり、次の行動につながること
です。
教師が強い感情を示した結果、生徒がその場では黙ったとしても、それだけで自己決定や行動の改善につながったとは限りません。

7.「なぜしたの?」を取り調べにしない

問題が起きたとき、
「なぜそんなことをしたの?」
と尋ねます。
しかし、生徒自身も自分の行動の理由を十分に説明できないことがあります。
また、教師が最初から答えを決めていると、
「なぜ?」
という質問が、
「自分が納得する答えを言いなさい」
という圧力になることがあります。
「何があった?」
「そのとき、どんな気持ちだった?」
「その前に何かあった?」
「今はどう思っている?」
と少しずつ確認します。
目的は自白させることではありません。
本人と一緒に出来事を整理することです。

8.個への支援と集団への働きかけをつなぐ

一人の生徒の問題として見えていたことが、実は学級全体の課題であることがあります。
例えば、ある生徒がグループ活動へ入りにくい。
本人への面談や支援は必要です。
しかし、
学級の人間関係。
グループのつくり方。
教師の指示。
授業の構造。
にも改善できることがあるかもしれません。
反対に、学級全体へ話をしたからといって、一人一人への支援が不要になるわけでもありません。
教育相談が個を重視し、生徒指導が集団への働きかけを含むという特徴はあります。
しかし、現実の学校では、
個を支えながら集団を変え、集団を育てながら個を支える
必要があります。
この二つを往復します。

9.相談しやすい学校を「問題が起きる前」につくる

生徒に、
「困ったら相談してください」
と一度伝えただけで、相談できるようになるとは限りません。
相談すること自体に不安を感じる子どももいます。
「こんなことで相談してよいのか」
「先生に迷惑ではないか」
「誰かに知られるのではないか」
「弱いと思われないか」
と考えることがあります。
『生徒指導提要』では、定期相談や、担任以外の希望する教職員と話せる機会など、学校の中で相談できる相手を広げる取組も紹介されています。
中学生の援助要請についても研究が続いており、教師側から相談しやすい働きかけを行うことが重要な研究課題となっています。
相談できる力は、
「本人の性格」
だけの問題ではありません。
相談しても大丈夫と思える環境を学校側がつくること
も必要です。

10.「話を聴く」のは担任だけの仕事ではない

担任は子どもの近くにいる重要な存在です。
しかし、担任だけが相談相手になる必要はありません。
養護教諭。
教科担当。
部活動顧問。
学年の先生。
教育相談担当。
スクールカウンセラー。
スクールソーシャルワーカー。
学校にはさまざまな人がいます。
『生徒指導提要』は、教育相談週間などに、児童生徒が担任以外にも希望する教職員と面談できるようにする取組を例示しています。
生徒が、
「担任には話しにくいけれど、あの先生には話せる」
と思うことがあってよいのです。
担任が、
「なぜ自分に言わなかった」
と考える必要もありません。
学校の中に話せる大人が何人もいる。
その方が子どもにとって安心できる学校です。

11.教師自身も一人で抱え込まない

教育相談で重要なのは、生徒だけが相談できることではありません。
教師も相談できることです。
「自分の学級だから自分が何とかする」
「自分が担任なのだから最後まで抱える」
という責任感が、教師を孤立させることがあります。
『生徒指導提要』は、学校に関係する人に求められる姿勢の最初に、
「一人で抱え込まない」
ことを挙げています。
また、困難なケースでは、担任が「自分の指導力不足だ」と責任を感じて追い込まれることがあるため、担任を支える視点も必要だと明記しています。
スクールカウンセラーによる教師へのコンサルテーション研究でも、SCには児童生徒への直接支援だけでなく、教師の援助活動への助言、コーディネート、教師自身の内省を支える役割などが期待されています。
相談する教師は力がない教師ではありません。
相談しながら支援を組み立てられることも専門性の一つです。

12.SC・SSWに「任せる」のではなく「一緒に考える」

スクールカウンセラーにつないだ。
スクールソーシャルワーカーにつないだ。
これで担任の役割が終わるわけではありません。
SCには心理の専門性があります。
SSWには福祉の専門性があります。
担任には毎日の学校生活を見ているからこそ分かることがあります。
養護教諭には心身の変化から見えることがあります。
それぞれの専門性を重ねます。
SCと教師のコンサルテーションに関する研究でも、問題把握、アセスメント、対応の検討、SCからの視点提供、経過共有などが行われていることが整理されています。
大切なのは、
「専門家に渡した」ではなく「専門家と一緒に支える」
です。

13.生徒指導と教育相談を校務分掌で分断しない

学校によっては、
「これは生徒指導部」
「これは教育相談部」
「不登校だから教育相談」
「問題行動だから生徒指導」
と分かれることがあります。
組織上の担当は必要です。
しかし、子どもの課題は校務分掌ごとに分かれていません。
不登校の背景に、
人間関係。
学習。
発達上の特性。
家庭。
いじめ。
健康。
進路。
複数の要因が関係することがあります。
『生徒指導提要』も、いじめや暴力は生徒指導、不登校は教育相談、障害は特別支援教育というような縦割り意識が強すぎると、複合的な課題を抱える児童生徒への適切な支援を阻害する可能性があるとしています。
子どもを校務分掌に合わせるのではなく、校務分掌が子どもに合わせてつながる。
この発想が必要です。

14.共通理解とは「全員が同じ言い方をすること」ではない

学校では、
「指導をそろえよう」
と言うことがあります。
必要なことです。
しかし、全ての教師が全く同じ言葉、同じ口調、同じ方法で関わるという意味ではありません。
大切なのは、
何を大切にする学校なのか。
どの行為は認められないのか。
本人のどんな力を育てたいのか。
何を目標に支援しているのか。
という目的と基本方針を共有することです。
その上で、
担任ができること。
養護教諭ができること。
SCができること。
学年主任ができること。
それぞれの立場から関わります。
同じ子どもに対して教師ごとに全く違う説明をし、本人を混乱させることは避ける。
しかし、個々の教師のよさまでなくす必要はありません。
共通理解と多様な関わりは両立します。

15.「聴く」と「指導する」の目的は同じ

教育相談と生徒指導について考えるとき、最後はここに戻ります。
何のために話を聴くのでしょうか。
何のために指導するのでしょうか。
教師が納得するためではありません。
教師の言うことを聞かせるためでもありません。
子どもが、
自分のことを理解する。
自分のよさに気づく。
困ったときに助けを求める。
自分の行動を振り返る。
他者の立場を考える。
次はどうするかを考える。
そして、自分でよりよい選択ができるようになる。
そこへつなげるためです。
『生徒指導提要』は、教育相談について、コミュニケーションを通して児童生徒の気付きを促し、主体的・能動的な自己決定を支える働きかけであると整理しています。
これは、生徒指導が目指しているものと重なります。
だから、
まず聴くべき場面では聴く。
伝えるべきことは伝える。
一緒に考えるべきことは一緒に考える。
一人では支えきれなければ、誰かにつなぐ。
教師に必要なのは、
「教育相談タイプ」
か、
「生徒指導タイプ」
になることではありません。
その場に応じて、自分の関わり方を選べることです。
そして、一人の教師だけで全部できなくても構いません。
学校には同僚がいます。
養護教諭がいます。
SCやSSWがいます。
管理職がいます。
必要なら学校外の専門機関ともつながれます。
文部科学省は、生徒指導と教育相談が一体となったチーム支援を明確に位置付けています。
担任一人では難しいことも、多職種・関係機関がアセスメントに基づいて役割分担することで、指導・援助の可能性は広がります。
子どもの話を丁寧に聴く先生と、
必要なことを明確に伝えられる先生。
この二人を別々の教師にする必要はありません。
私たち一人一人が、両方を大切にすればよいのです。
そして自分に足りないところは、職員室のみんなで補えばよい。
温かい職員室とは、誰かの指導方法を、
「甘い」
「厳しすぎる」
と単純に評価する職員室ではありません。
「なぜ、その関わりをしたのですか」
「この子には、次にどんな支援が必要でしょう」
と互いに問い合える職員室です。
「聴く」と「指導する」を対立させず、一人の子どもを多くの目で理解する。
そこから、これからの生徒指導と教育相談が始まるのだと思います。

参考資料

文部科学省「生徒指導提要(令和4年12月)」
中村美穂「教師へのコンサルテーションにおいて高校教師がスクールカウンセラーへ期待する役割と機能」『カウンセリング研究』
石原みちる「スクールカウンセラーによる教師に対するコンサルテーションの研究動向と課題」『カウンセリング研究』
酒井麻紀子・松本真理子「教師の援助要請における研究動向と今後の展望―国内外の研究レビューを通して―」『学校心理学研究』
後藤綾文「援助要請に対する教師の働きかけが悩み体験のあり方と利益・コスト認知,援助要請に及ぼす影響」日本教育心理学会総会発表論文集

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