退職する先生に聞いておきたい16の質問|ベテラン教師の経験を次の世代へ

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退職する先生に聞きたい16の質問|

3月になると、長く学校現場を支えてこられた先生が退職されます。
30年、40年と教職を続けてきた先生もいます。
その先生が最後に職員室を出ていくとき、一緒に学校を去ってしまうものがあります。
授業の技術。
生徒との距離の取り方。
保護者との向き合い方。
学年を動かすときの判断。
うまくいかなかった経験。
若い頃の失敗。
教師を続けてこられた理由。
そして、長い教職人生を経たからこそ分かることです。
こうしたものは、マニュアルだけでは受け継げません。
だから私は、退職される先生がいたら、できるだけ話を聞きたいと思っています。
大げさな「インタビュー」でなくて構いません。
職員室で少し話す。
一緒に帰るときに尋ねる。
昼休みにコーヒーを飲みながら話す。
送別の機会に少し話を聞く。
それだけでも、思いがけない話を聞けることがあります。
教師は、研修だけで成長するわけではありません。
隣にいる教師から学ぶことも、教師にとって大切な研修です。

1.長く教師を続けた人には、その人だけの「知」がある

教師の仕事には、文章にしやすいものと、文章にしにくいものがあります。
例えば、
「生徒がいつもと少し違う」
「今日はこのクラスでは予定を変更した方がよい」
「この保護者には、まず話を聞いた方がよい」
「この生徒には今は声をかけず、少し待った方がよい」
「学年が少し危ない方向へ進み始めている」
といった判断です。
経験を積んだ教師は、目の前の状況を見ながら、これまで蓄積したさまざまな経験を使って判断しています。
しかし、その判断過程は必ずしも言葉になっているとは限りません。
だからこそ、
「どうして、そう判断したのですか」
と尋ねることに価値があります。
文部科学省が示す「新たな教師の学びの姿」でも、教師が一人で知識を得るだけでなく、対話や振り返りを通して学び続けることが重視されています。
また、教師の学びに関する研究でも、学校内の実践的な知識は、同僚との対話や授業研究などを通して蓄積・共有されてきたことが指摘されています。
ただし、
ベテランの言うことはすべて正しい
という意味ではありません。
長年の経験は貴重です。
一方で、学校教育を取り巻く制度、社会、子どもの姿、価値観は変化しています。
大切なのは、昔の方法をそのまま受け継ぐことではありません。
その先生が何を見て、どう考え、なぜその判断をしたのかを学ぶことです。

2.「昔はどうでしたか」だけで終わらせない

退職される先生と話すと、
「昔はこうだった」
という話になることがあります。
もちろん、それも興味深い話です。
しかし、
「昔の学校はどうでしたか」
だけで終わるともったいないと思います。
聞きたいのは、懐かしい昔話だけではありません。
例えば、
「その経験から、今はどう考えていますか」
「今の若い先生にも通じる部分はありますか」
「逆に、今は変えた方がよいと思うことはありますか」
と、もう一歩尋ねてみます。
すると、
単なる思い出が、
現在にもつながる経験知
になります。
「昔はこうだった。だから今もこうすべきだ」
ではなく、
「昔はこうだった。そこから自分は何を学んだのか」
を聞きたいのです。

3.質問① 一番心に残っている子どもは誰ですか

長い教職人生の中では、何百人、何千人もの子どもと出会う先生もいます。
その中で、
「今でも覚えている子どもはいますか」
と聞いてみます。
成績のよかった子とは限りません。
手のかかった子かもしれません。
ほとんど話さなかった子かもしれません。
卒業後に突然訪ねてきた子かもしれません。
そして可能であれば、
「なぜ、その子が心に残っているのですか」
と尋ねます。
その答えには、その先生が教師として何を大切にしてきたかが表れることがあります。
もちろん、児童生徒の個人情報や、本人が話したくない内容に踏み込む必要はありません。
聞く側にも配慮が必要です。

4.質問② 一番うれしかったことは何ですか

教師を続けていて、
「この仕事をしていてよかった」
と思った瞬間を聞きます。
授業がうまくいった日かもしれません。
卒業式かもしれません。
何年もたって教え子が訪ねてきたことかもしれません。
苦しかった生徒との関係が変わった瞬間かもしれません。
教師という仕事の価値は、給与や役職だけでは測れません。
長く続けてきた人が何に喜びを感じてきたのかを聞くと、この仕事の別の景色が見えることがあります。

5.質問③ 一番苦しかったことは何ですか

成功した話だけではなく、苦しかった話も聞いてみたいものです。
「教師を辞めようと思ったことはありますか」
「一番苦しかった時期はいつですか」
と聞くこともできます。
ただし、これは相手との関係によります。
無理に聞く質問ではありません。
話してくださるのであれば、
「その時期を、どうやって乗り越えたのですか」
まで聞いてみます。
何十年も教師をしてきた人だから、ずっと順調だったわけではありません。
辞めたかった時期。
自信を失った時期。
失敗した時期。
人間関係で苦しんだ時期。
そうした時間を含めて、教職人生なのだと思います。

6.質問④ 若い頃に一番失敗したことは何ですか

私は、成功談以上に失敗談から学べることがあると思っています。
「若い頃、どんな失敗をしましたか」
と尋ねます。
すると、今は落ち着いて見える先生から、
「最初の頃は全然授業ができなかった」
「生徒に言いすぎてしまった」
「保護者との対応で失敗した」
「全部自分でやろうとしていた」
という話が出てくることがあります。
若い先生にとって、
ベテランの先生にも若手だった時代があった
と知るだけでも意味があります。
完成した姿だけを見て比較する必要はありません。

7.質問⑤ 今なら、あのときどうしますか

過去の失敗を聞いたら、もう一つ尋ねます。
「今だったら、どうしますか」
これは非常に学びの多い質問です。
経験とは、単に出来事をたくさん経験することではありません。
出来事を振り返り、
「あのときは、こうした方がよかった」
と考えることによって、自分の判断が変わっていきます。
若手の先生が同じ失敗を何十年もかけて経験し直す必要はありません。
先輩の振り返りを聞くことで、少し先から教師人生を始めることができます。

8.質問⑥ 授業で一番大切にしてきたことは何ですか

教科の教師なら、ぜひ聞いておきたい質問です。
「授業で一番大切にしていることは何ですか」
教材研究かもしれません。
発問かもしれません。
子どもの表情を見ることかもしれません。
教材そのものの面白さかもしれません。
全員が参加できることかもしれません。
答えは先生によって違います。
だから面白いのです。
さらに、
「一番得意な単元はどこですか」
「その単元をどんな流れで授業しますか」
まで聞けば、かなり具体的な学びになります。
可能であれば、退職間際ではなく、まだ授業をしているうちに授業を見せてもらうのもよいと思います。

9.質問⑦ 子どもと話すとき、何を大切にしていますか

生徒指導には、その人の考え方がよく表れます。
「子どもと話すとき、気をつけてきたことは何ですか」
「叱るときに大切にしていることはありますか」
「話を聞くときは、何を見ていますか」
などと尋ねてみます。
「まず最後まで聞く」
「人前では言わない」
「感情的なときには話を決着させない」
「翌日に必ずもう一度声をかける」
など、その先生なりの原則を持っていることがあります。
方法だけではなく、
なぜ、それを大切にしているのか
まで聞くことが重要です。

10.質問⑧ 保護者と関わるときに大切にしてきたことは何ですか

若い頃には難しく感じやすい仕事の一つが、保護者との関係づくりです。
そこで、
「保護者対応で大切にしてきたことは何ですか」
と尋ねます。
ベテランの先生ほど、
話し方のテクニックよりも、
「早く連絡する」
「最初に話を聞く」
「子どものよいところも伝える」
「一人で抱えない」
といった基本的なことを挙げるかもしれません。
その「基本」にたどり着くまでに、何十年もの経験があることがあります。

11.質問⑨ 学級がうまくいかないとき、最初にどこを見ますか

これは担任経験の長い先生に聞いてみたい質問です。
「クラスが少し落ち着かなくなったとき、最初に何を見ますか」
授業でしょうか。
教師と子どもの関係でしょうか。
子ども同士の関係でしょうか。
生活リズムでしょうか。
一部の生徒だけを見るのではなく、学級全体を見るかもしれません。
「荒れてきたらどうするか」ではなく、
何を手がかりに状態を判断しているか
を聞くのがポイントです。

12.質問⑩ 若手の頃に知っておきたかったことは何ですか

「今の自分が、25歳の自分に一つだけ教えられるとしたら、何を言いますか」
という聞き方でもよいと思います。
この質問では、
長い教師人生が一つの言葉に凝縮されることがあります。
「もっと人に頼ればよかった」
「授業をもっと見てもらえばよかった」
「子どもの話をもっと聞けばよかった」
「学校以外の世界も見ておけばよかった」
「家族との時間をもっと大事にすればよかった」
何を答えるかは分かりません。
だから聞いてみたい質問です。

13.質問⑪ 教師を長く続けられた理由は何ですか

30年以上教師を続けることは、簡単なことではありません。
そこで、
「長く続けられた理由は何だと思いますか」
と聞いてみます。
使命感だけではないと思います。
同僚に恵まれた。
家族に支えてもらった。
趣味があった。
嫌なことを引きずらないようにした。
異動するたびに新鮮な気持ちになった。
子どもが好きだった。
さまざまな答えがあるでしょう。
特に若手の先生にとっては、仕事の技術だけでなく、
教師人生を持続させる方法
を学ぶ機会になります。

14.質問⑫ 仕事を抱え込まないために何をしてきましたか

学校の仕事には終わりがありません。
長く働き続けた先生が、
「何を頑張り、何を頑張りすぎないようにしたのか」
を聞いてみます。
仕事の優先順位。
人への頼り方。
断り方。
気持ちの切り替え方。
休日の過ごし方。
家庭とのバランス。
ここには、教科指導とは別の大切な教師の知恵があります。
「全部頑張る」以外の働き方を、先輩から学ぶこともできます。

15.質問⑬ 学校で一番大切にしてきた人間関係は何ですか

教師というと、子どもとの関係ばかりに目が向きます。
しかし、長く働くうえでは同僚との関係も重要です。
「職員室で大切にしてきたことはありますか」
「先輩や後輩とは、どう付き合ってきましたか」
と尋ねます。
現在の教師の学びでも、同僚と対話し、協働して学ぶことの重要性が示されています。
教師同士の学びは、
ベテランから若手へ一方的に知識を渡すだけではありません。
若手の新しい発想からベテランが学ぶこともあります。
ICT、特別支援教育、子どもの権利、多様性への理解など、若い世代から学ぶこともたくさんあります。
世代が違うからこそ、互いに学べる。
そんな関係がよいと思います。

16.質問⑭ 学校教育で変わった方がよいと思うことは何ですか

長く学校を見てきた人だからこそ、
変わってきたものと、
なかなか変わらないものの両方を知っています。
そこで、
「学校で、これから変えた方がよいと思うことはありますか」
と聞きます。
行事かもしれません。
校則かもしれません。
会議かもしれません。
授業かもしれません。
働き方かもしれません。
教師文化そのものかもしれません。
「昔はよかったですか」
と聞くのではなく、
「これからの学校はどうなればよいと思いますか」
と未来について聞きたいものです。

17.質問⑮ 教師になってよかったですか

とてもシンプルな質問です。
「もう一度人生をやり直しても、教師になりますか」
と聞いてもよいでしょう。
「もちろん」
という人もいるでしょう。
「分からないなあ」
という人もいるでしょう。
「別の仕事もやってみたかった」
という人もいるでしょう。
どの答えも、その人の人生です。
私たちは、答えを評価するために質問するのではありません。
その先生が何を考え、何を大切に生きてきたのかを聞くために質問します。

18.質問⑯ これからの先生たちに、一つ伝えるとしたら何ですか

最後に聞きたい質問です。
「これから学校を担う先生たちに、一つだけ伝えるとしたら、何を伝えますか」
授業の話かもしれません。
子どもの話かもしれません。
職員室の話かもしれません。
人生の話になるかもしれません。
30年、40年という教職人生を終えるときに出てくる言葉には、その人の経験が詰まっています。
ただし、その言葉も「正解」として受け取る必要はありません。
一人の先輩教師が、自分の人生を通してたどり着いた一つの考えです。
聞いた側が、自分自身の経験と重ねながら考えればよいのです。

19.16問すべてを聞く必要はない

ここまで16の質問を挙げました。
しかし、全部聞く必要はまったくありません。
むしろ、質問攻めにしない方がよいと思います。
その先生との関係や場面に応じて、
「これを聞いてみたい」
というものを一つ、二つ選べば十分です。
質問した後は、次の質問を考えるより、
その人の話を聞くこと
に集中します。
思いがけない方向に話が広がったなら、そのまま聞けばよいのです。
インタビューを完成させることが目的ではありません。
人から学ぶことが目的です。

20.聞いてはいけないこと、残してはいけないこともある

教師の経験談には、児童生徒や家庭に関する内容が含まれることがあります。
そのため、
個人が特定できる話を無理に聞く。
家庭事情を詳しく尋ねる。
聞いた話を本人の許可なくSNSやブログに掲載する。
職員室で聞いた個人的な話を他人へ広げる。
こうしたことは避けなければなりません。
また、本人が話したくなさそうなら、それ以上聞かないことです。
「経験を残したい」というこちら側の思いより、
話す本人と、話の中に登場する人への配慮
を優先します。

21.退職する直前だけでは遅い

本当は、退職するときだけ話を聞く必要はありません。
同じ職員室にいる間に、
「その授業、一度見せてもらえませんか」
「この対応について、どう考えますか」
「この学年を見て、何が気になりますか」
と日常的に聞けばよいのです。
ベテランが若手に教える。
若手がベテランに教える。
教科を越えて学ぶ。
立場を越えて話す。
そういう職員室であれば、経験は自然に受け渡されます。
校内研修に関する研究でも、ベテランから若手への一方向の指導だけでなく、互いに学びを深める関係の重要性が指摘されています。
教師の経験の継承とは、
「昔のやり方を若者へ教えること」ではありません。
互いの経験を言葉にし、問い直し、今の子どもたちに合う形へ更新していくことです。

22.ベテランの役割は「答えを教えること」だけではない

長く教師をしてきた人には、若い先生に伝えられることがあります。
しかし、
「昔はこうだった」
「自分の若い頃はこうした」
だけでは、経験は十分には伝わりません。
「私はこうしてきたけれど、あなたはどう思う?」
と聞く。
「今ならもっとよいやり方があるかもしれない」
と考える。
「これは失敗だった」
と話す。
そうした姿勢も、次の世代に残せる大切なものです。
教師の自発的なメンタリングを扱った研究でも、若手が中堅・ベテランから学ぶだけではなく、中堅・ベテランも若手から学ぶ相互的な関係が示されています。
教える人と教わる人を固定しない。
これからの職員室には、その感覚が必要だと思います。

23.若手だけでなく、中堅も管理職も聞いてほしい

この16の質問は、初任者だけのものではありません。
二校目の先生なら、
「これから中堅になる自分は、何を大切にすればよいか」
という視点で聞けます。
学年主任なら、
「学年を動かすとき、何を大切にしてきたか」
を聞けます。
管理職を考えている先生なら、
「管理職に望むことは何だったか」
「働きやすかった学校には何があったか」
と聞くこともできます。
校長や教頭であれば、
「この学校に残しておいた方がよいものは何ですか」
と聞いてみる価値があります。
立場が変われば、聞きたいことも変わります。

24.学校から人が去るとき、経験まで失わない

3月になると、職員室から人が去ります。
退職だけではありません。
異動する人もいます。
新しい職場へ進む人もいます。
その人がいなくなれば、その人にしか分からなかったことも一緒になくなることがあります。
文書にできるものは、引継ぎ資料に残せます。
しかし、
子どもの見方。
教師としての判断。
失敗から学んだこと。
働き続けるための知恵。
こうしたものは、人と人との会話でなければ残せないことがあります。
長く働いてきた先生に対して、
「お疲れさまでした」
と送り出すだけでもよいでしょう。
でも、少し時間があるのなら、
一つだけ質問してみてください。
「先生が教師をしてきて、一番大切だと思ったことは何ですか」
そこから始まる数分間の話が、研修会で聞く何時間もの話より、自分の中に残ることがあります。
教師の専門性は、本や研修資料だけでつくられるものではありません。
目の前にいる人の仕事を見る。
話を聞く。
質問する。
自分でやってみる。
失敗する。
また誰かに相談する。
そんな繰り返しの中で育っていきます。
そして、いつか自分がベテランと呼ばれる側になったとき、
今度は自分の経験を次の誰かへ渡していく。
温かい職員室とは、仕事を助け合うだけでなく、世代を越えて学びを渡し合える職員室でもある。
私は、そう思っています。

参考資料

中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」
前田菜摘「学校研究としての校内研修の若手教師の変容に対する機能」
石上靖芳「校内授業研究の活性化要因が若手・中堅・ベテラン教師の力量形成に与える影響」
「教師の自発的なメンタリングはどのようにして実現し、どのような意味を持つのか」
飯田寛志「学び続ける教員を支援するための研修機会の提供」

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