次期学習指導要領に向けた議論を追っていると、これからの学校ではデジタル端末をもっと使わなければならない、と受け止める人もいるかもしれません。しかし、最初に押さえておきたいのは、情報活用能力は「端末を上手に操作する力」と同義ではないということです。
文部科学省の教育課程企画特別部会では、次期学習指導要領等に向けた審議が続いています。2026年8月31日の第17回では「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)」が配付され、9月25日には第18回の開催が予定されています。つまり、この記事を書いている2026年9月15日時点では、次期学習指導要領そのものが告示されたわけではありません。ここは明確に区別する必要があります。
一方で、情報活用能力がこれからの教育課程を考える重要な論点になっていることは、すでに公開されている審議資料から読み取れます。初任者から中堅の先生にとって大切なのは、「次の学習指導要領が出るまで待つ」ことでも、「とにかく端末を使う」ことでもありません。現行の教育課程で求められていることを土台に、日々の授業の中で子どもが情報を集め、比べ、確かめ、整理し、表現する場面を少しずつつくることです。
1.まず「決まったこと」と「審議中のこと」を分ける
次期学習指導要領をめぐる情報は、これから急速に増えていきます。そのとき注意したいのが、審議会の資料に書かれた内容を、そのまま「次からこうなる」と受け取らないことです。
中央教育審議会では、2024年12月の諮問以降、教育課程企画特別部会を中心に検討が進められてきました。2025年9月には論点整理が報告され、その後も各教科等のワーキンググループや特別部会で議論が続いています。2026年8月31日の第17回でも審議まとめは「素案」の段階です。
したがって、現時点で学校が依拠すべき制度上の基準は現行の学習指導要領です。次期学習指導要領に関する資料は、将来の方向を考える重要な材料ですが、まだ審議中の事項と、すでに現行制度で求められている事項を混同しないことが必要です。
若い先生ほど、SNSやニュースで「教育が大きく変わる」という見出しを見ると焦るかもしれません。しかし、焦って新しい言葉を追いかけるより、「これは告示済みなのか」「中教審の審議資料なのか」「委員の意見なのか」を区別して読む習慣を持つ方が、長い目で見れば強い教師になります。
2.情報活用能力は、すでに現行学習指導要領で重要な基盤
情報活用能力は、次期学習指導要領になって突然登場する考え方ではありません。現行の学習指導要領でも、言語能力、問題発見・解決能力等と並び、学習の基盤となる資質・能力として位置付けられています。
ここで「情報」と聞いて、すぐにタブレットやパソコンを思い浮かべると本質を見失います。もちろん、端末を使う技能は必要です。しかし、授業で本当に育てたいのは、検索窓に言葉を入れる技能だけではありません。
例えば社会科で、二つの統計資料を比較して共通点と相違点を見つける。理科で、実験結果を表やグラフに整理して傾向を読む。国語で、複数の文章を読み比べ、根拠の確かさを考える。総合的な学習の時間で、インターネットから集めた情報について発信者、更新日、根拠を確認する。こうした学習も情報活用能力の育成につながります。
端末は、そのための強力な学習基盤です。しかし「端末を使ったかどうか」を授業改善の物差しにすると、目的と手段が逆転します。
3.「検索できた」で終わらない
一人一台端末が日常化し、調べ学習の入口は大きく変わりました。以前なら図書室へ行き、限られた資料の中から探していた情報に、今は数秒でアクセスできます。生成AIを使えば、質問に対する文章そのものも短時間で得られます。
だからこそ、これから重要になるのは「見つけること」より、その後です。
誰が発信した情報なのか。いつ更新されたのか。一次資料はどこにあるのか。他の情報と一致しているか。事実と意見は分けられているか。
こうした確認をせず、検索結果の一番上をそのまま写すだけなら、端末を使っていても情報活用能力が十分に育っているとは言いにくいでしょう。
例えば「日本の子どもの読書時間は減っているか」を調べる授業なら、検索結果の要約だけで答えを出すのではなく、文部科学省、国立教育政策研究所、全国学校図書館協議会など、調査主体と調査方法を確認させます。数字が違えば「どちらが正しいか」だけでなく、対象年齢、調査時期、質問方法が違わないかを考えます。
この一手間が、情報を「消費する側」から「吟味して使う側」へ子どもを移します。
4.生成AI時代には「答えを得る力」より「確かめる力」が重要になる
生成AIの普及は、情報活用能力をさらに重要にしています。生成AIは文章作成、発想支援、要約などで有用ですが、出力内容が常に正しいとは限りません。もっともらしい誤情報を含むこともあります。
そのため、学校で生成AIを扱うときは、「AIを使わせるか、使わせないか」という二択だけでは不十分です。出力された情報をどう確かめるか、何を一次資料まで戻って確認するか、最終的な判断を誰がするのかを教える必要があります。
例えば生成AIに「食品ロスの原因」を尋ねた後、回答に含まれた数値や制度名を環境省、農林水産省、消費者庁などの公式資料で確認させることができます。AIの回答と一次資料が食い違ったときこそ、学びの機会になります。
教師自身も同じです。教材案や保護者向け文書のたたき台をAIで作ったとしても、事実確認と最終判断は教師が行います。「AIがそう答えたから」は、教育上の判断の根拠にはなりません。
5.情報活用能力を「情報担当の仕事」にしない
情報活用能力という言葉から、ICT担当者や技術・情報科の先生が中心になって教えるものだと思われることがあります。しかし、学習の基盤となる力である以上、特定の教科や担当者だけで完結するものではありません。
国語には、文章を比較し根拠を吟味する場面があります。数学には、データを読み取り表現する場面があります。社会には、統計や資料の出所を確かめる場面があります。理科には、観察・実験のデータを整理して考察する場面があります。保健体育、音楽、美術、技術・家庭、外国語にも、それぞれの教科だからこそ育てられる情報活用の場面があります。
重要なのは、新しい「情報活用能力の授業」を大量に追加することではありません。今ある授業の中に、情報を選ぶ、比べる、整理する、根拠を示す、確かめるという学習活動を意識的に組み込むことです。
この考え方は、授業づくりの基本を見直すことにもつながります。関連して、初任者が最初の授業で大切にしたいこと|失敗から学んだ授業準備17の視点も参考になります。
6.「自由に調べて」は、実はかなり難しい課題
授業で「各自で調べてまとめましょう」と指示すると、子どもが主体的に学んでいるように見えます。しかし、検索語をつくる力、必要な情報を選ぶ力、情報源を確かめる力、複数の情報を比較する力、引用と自分の考えを分ける力に差があれば、学習成果にも大きな差が生まれます。
だから初期段階では、教師が足場を用意する必要があります。
「まず公式機関の資料を一つ探す」「二つ以上の情報源を比べる」「数字を使うときは出典を書く」「検索結果の要約だけで判断しない」など、確認する観点を示します。慣れてきたら支援を減らし、自分で判断させます。
これは子どもの主体性を奪うことではありません。自力で学べるようになるための足場かけです。
授業に端末を入れること自体を目的にしないという点では、文科省が「学びの可視化」実践を公開|初任〜中堅が明日の授業で試せる7つのことも併せて読むと、具体的な授業像を考えやすくなります。
7.紙かデジタルか、という二択から離れる
次期学習指導要領の議論を追う際、もう一つ避けたいのが「紙かデジタルか」という単純な対立です。
情報活用能力を育てるために、すべてをデジタルにする必要はありません。考えを手書きで整理した方がよい場面もあります。紙の資料を並べて比較した方が見やすいこともあります。一方、大量のデータを並べ替える、共同編集する、遠隔地の情報へアクセスするといった活動ではデジタルの強みがあります。
教師が考えるべきなのは「どちらが新しいか」ではなく、この学習目標に対して、どの方法が適しているかです。
端末を使わない授業を古いと決めつける必要も、端末を使う授業を先進的だと決めつける必要もありません。学習目標、子どもの実態、教材の特性を見て選ぶ。それが教師の専門性です。
8.明日の授業で変えられる5つのこと
次期学習指導要領が正式に決まるのを待たなくても、明日からできることがあります。
①「調べて」だけで終わらせず、情報源を一つ確認させる。
「誰が出した情報か」「いつの情報か」を確認するだけでも、検索の質は変わります。
②一つの情報だけで結論を出させない。
可能なら二つ以上の資料を比べます。数字が違えば、その理由を考えさせます。
③出典を書く習慣をつける。
小さな課題でも、資料名やURL、発行主体を書く習慣をつけます。引用と自分の考えを分ける第一歩になります。
④端末を使う前に「何のために使うか」を一言で決める。
検索、比較、共有、可視化、共同編集など、端末を使う目的を教師自身が説明できるようにします。
⑤生成AIの答えを一次資料で一つ確かめる。
生成AIを使う場面では、出力をそのまま完成品にせず、少なくとも重要な事実を公式資料まで戻って確認します。
生成AIの授業・校務活用については、教師の生成AI学び始めの活用20選|授業・校務で使える具体例でも具体例をまとめています。
9.次期学習指導要領を「新しい言葉の暗記」にしない
学習指導要領が改訂される時期になると、新しい用語や図が注目されます。しかし、用語を覚えることと、授業が変わることは別です。
情報活用能力についても、「重要になるらしい」と理解するだけでは学校は変わりません。大切なのは、自分の教科のどの単元で、子どもが情報を集め、比較し、吟味し、整理し、表現しているかを見直すことです。
一つの授業で全部を入れる必要はありません。今週は情報源を確認する。次の単元では二つの資料を比較する。別の単元ではデータを表に整理する。そうした小さな積み重ねが、子どもの情報活用能力を育てます。
次期学習指導要領への準備とは、まだ決まっていない制度を先取りして形だけ変えることではありません。公開された一次資料を丁寧に読み、現行の学習指導要領で求められていることを確実に実践しながら、審議の方向を踏まえて授業を少しずつ更新していくことです。
その意味で、今からでも遅くありません。
参考資料
- 文部科学省「教育課程部会 教育課程企画特別部会」
- 文部科学省「教育課程企画特別部会(第17回)配付資料」2026年8月31日
- 文部科学省「教育課程企画特別部会(第7回)議事録―情報活用能力について」
- 文部科学省「学習指導要領『生きる力』」
最新の記事
13/50 校内の不審者を教員一人で確認しに行かない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published
12/50 頭を打った子を「元気そう」で活動に戻さない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published
11/50 校外学習の安全を旅行会社や施設任せにしない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published
第20回 若手の失敗を『本人の問題』にしない
Published
10/50 理科実験を「前にもやった」と慣れで進めない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published
日本版DBSとは何か|2026年12月開始前に教職員が知っておきたいこと
Published Updated
09/50 性的な冗談や不必要な身体接触を「親しさ」で正当化しない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published Updated
学校が「何を今さら」と言われる前に――世界の変化を現場へ届ける仕組みを変える
Published Updated
08/50 体罰を「厳しい指導」と正当化しない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published Updated
07/50 子どもに「誰にも言わない」と約束しない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published
06/50 児童生徒の事故・けがを「この程度」と自己判断しない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published
05/50 児童虐待の疑いを「確証がない」と抱え込まない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published
04/50 食物アレルギー対応の基本|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published
03/50 いじめの訴えを担任一人で「様子見」にしない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published
文科省が『学びの可視化』実践を公開|初任〜中堅が明日の授業で試せる7つのこと
Published Updated

