若手教員が失敗したとき、職員室では二つの反応が起こり得ます。
一つは、『本人の確認不足だった』『もっと早く相談すべきだった』と、原因を本人の問題に集約する反応です。もう一つは、『なぜ相談しにくかったのか』『誰が途中で気付けたのか』『同じことを次の若手に起こさないために何を変えるか』と、組織の側にも問いを向ける反応です。
もちろん、本人の責任がなくなるわけではありません。しかし、若手を育てる学校と、若手を消耗させる学校の違いは、失敗のあとに『誰を責めるか』ではなく、『何を学び、仕組みに変えるか』を考えられるかどうかに表れます。
第20回は、管理職を目指す先生や中堅教員に向けて、『若手の失敗を本人だけの問題にしない』というテーマを考えます。若手を守るとは、かばうことでも、ミスを隠すことでもありません。事実を確認し、必要な報告を行い、本人が一人で背負わないようにしながら、組織として再発防止につなげることです。
1.『本人のミス』で終わらせると、次の報告が遅くなる
学校では、誰でも失敗します。連絡の行き違い、保護者への説明不足、提出期限の見落とし、児童生徒への声かけのずれ、教材準備の不足、情報共有の抜け。経験年数に関係なく起こります。
問題は、失敗そのものより、失敗した人が『言えなくなる』職場をつくってしまうことです。
若手が何かを失敗したときに、『何でこんなことも確認しなかったの』『普通は分かるでしょう』『前にも言ったよね』と返されれば、次から相談は早くなるでしょうか。多くの場合は逆です。次はもう少し自分で何とかしよう、もう少し様子を見よう、と考えます。その結果、問題が小さいうちに共有されず、保護者対応や生徒指導、事故対応などでは状況が大きくなってから管理職に届くことがあります。
ここで管理職や中堅が持つべき視点は、『なぜ早く言わなかったのか』だけではありません。『早く言える職員室だったか』という問いです。
報告の遅れを個人の性格だけで説明すると、組織は変わりません。相談したときに責められる、忙しそうで声をかけにくい、以前相談したときに話を遮られた、担当者に聞けと言われた、相談しても結局自分でやるしかなかった。そうした経験が積み重なると、職員は『相談しない方が早い』と学習します。
若手の報告が遅い学校では、若手だけを指導する前に、相談を受ける側の態度を点検する必要があります。
2.若手を守ることは、責任を曖昧にすることではない
『若手を守る』と言うと、何でも管理職が肩代わりする、本人の失敗をかばう、厳しいことを言わない、と受け取られることがあります。それは違います。
守ることと、甘やかすことは別です。
本人が確認すべきことを確認していなかったなら、その事実は伝えます。手続に誤りがあったなら、正しい手順を一緒に確認します。保護者への説明が必要なら、誰が、いつ、何を説明するかを決めます。重大な事案なら、管理職が速やかに組織として対応します。
ただし、『あなたのミスだから、あなたが何とかしなさい』と突き放さないことです。
学校で起こる多くの出来事は、一人だけで完結していません。学年、分掌、管理職、養護教諭、特別支援教育コーディネーター、SC、SSW、教育委員会など、必要に応じて複数の人が関わります。だからこそ、問題が起きたときは、誰か一人を犯人にするより、どこで情報が止まったのか、誰が支援できたのか、手順に曖昧さがなかったかを確認する方が再発防止につながります。
管理職や中堅が盾になるとは、『こちらで事実関係を整理します』『まず私も一緒に話を聞きます』『この対応は一人で抱えなくていい』と言えることです。
責任を引き受けることと、責任の所在を曖昧にすることは違います。事実は事実として確認しながら、本人を孤立させない。それが組織としての守り方です。
3.『相談してよかった』と思える最初の三分をつくる
若手が相談に来たとき、最初の数分で、その後の報告行動は大きく変わります。
『どうした?』と聞いたあと、すぐ評価しないことです。まず事実を聞きます。『いつ』『どこで』『誰が』『何をしたか』『今、何が一番心配か』。この順で整理するだけでも、本人は落ち着きます。
特に避けたいのは、途中で結論を決めてしまうことです。『それはあなたが悪い』『保護者が過敏だ』『その子はいつもそうだ』と早い段階で評価すると、必要な事実が出てこなくなります。
管理職や中堅は、相談を受けた瞬間から『判定者』になる必要はありません。まず情報を受け取る人でよいのです。
その上で、『ここまでは分かった。次は私も一緒に確認する』『この件は管理職に共有しよう』『今すぐ対応が必要な部分と、明日でもよい部分を分けよう』と次の一手を示します。
このとき、『大丈夫、大丈夫』と根拠なく安心させるのも適切ではありません。大丈夫かどうかは、事実確認の後に判断します。必要なのは、安心させる言葉より、『一人にしない』という態度です。
相談してよかった、と一度でも感じた若手は、次から早く相談しやすくなります。反対に、一度でも相談したことを後悔すると、その後の報告は遅くなります。
4.管理職の仕事は、個人の頑張りを仕組みに変えること
学校では、とても面倒見のよい中堅教員が若手を支えていることがあります。それ自体は素晴らしいことです。しかし、その人が異動した途端に若手支援が弱くなるなら、それは組織の仕組みにはなっていません。
管理職が考えるべきは、『誰が面倒を見るか』だけではなく、『誰でも相談できる経路をどうつくるか』です。
例えば、初任者や若手に対して、相談相手を一人に固定しないことです。学級経営は学年主任、授業は教科の先輩、服務や手続は教頭、心身の不調は養護教諭や管理職というように、複数の入口を見える形にしておく方が相談しやすくなります。
また、問題が起きてから『何かあったら相談して』と言うだけでは不十分です。定期的に短い確認の時間を持つ、職員打合せ後に声をかける、年度当初に『この種類の案件はすぐ管理職へ』と共有するなど、相談を行動レベルまで具体化しておく必要があります。
『何かあったら』は、経験の浅い人には難しい言葉です。何が『何か』に当たるのかが分からないからです。
管理職は、相談基準を具体化する必要があります。『児童生徒の安全に関わること』『保護者から強い訴えがあったこと』『いじめ、虐待、自傷、性に関わること』『個人情報』『事故・けが』『対応に迷って一人で決めきれないこと』は、早く共有する。このように示しておけば、若手の判断負担を減らせます。
5.失敗の振り返りを『反省会』にしない
失敗のあとに必要なのは振り返りです。しかし、振り返りが『本人の反省を確認する場』だけになると、組織学習にはつながりません。
『どうしてそうしたの』『次から気を付けて』で終われば、再発防止策は『本人が注意する』だけになります。
それでは弱いのです。
例えば、保護者への連絡漏れが起きたなら、『本人が気を付ける』以外に、連絡対象を一覧化できないか、学年内で確認できないか、校務支援システムで共有できないか、締切前に確認する役割を置けないかを考えます。
事故報告が遅れたなら、『次は早く報告する』だけではなく、どの程度のけがなら誰に報告するか、迷ったときはどうするかを全員で共通理解にします。
失敗した本人から話を聞くときも、『何を反省している?』より、『どこで迷った?』『何が分かりにくかった?』『誰に相談できれば止められた?』『仕組みとして何を変えれば次の人が困らない?』と聞く方が、再発防止につながります。
反省を求めることと、学習することは同じではありません。管理職の役割は、個人の反省を組織の改善に変えることです。
6.研究から見ても、上司・同僚からの支援は軽く扱えない
『職員室の雰囲気』や『管理職の支援』は、単なる気分の問題ではありません。
文部科学省が公表した令和6年度の公立学校教職員の人事行政状況調査では、精神疾患による病気休職者は7,087人で、全教育職員の0.77%でした。要因として教育委員会から多く挙げられたものには、児童生徒への指導そのもの、職場の対人関係、校務分掌や調査対応などの事務的業務が含まれています。
この数字だけで、管理職の関わりが休職の原因だと結論づけることはできません。ただ、職場の対人関係が無視できない要因の一つとして報告されている以上、管理職や中堅の関わり方を『個人の相性』で片付けるべきではありません。
国内の小・中学校教員200人を対象とした研究では、同僚サポートや管理職サポートが教師のバーンアウトの過程と関連することが示されています。海外の学校教員を対象とした研究でも、学校リーダーとの支援的な対話や、信頼して働ける環境が、教師のバーンアウトや組織へのコミットメントと関連することが報告されています。
また、日本の保育者500人を追跡した2026年の研究では、上司や同僚からの支援とバーンアウトとの関連に、心理的安全性が媒介する可能性が示されています。対象は小中学校教員ではないため、そのまま学校現場に一般化はできません。しかし、『支援がある』だけでなく、『助けを求めても不利益を受けないと感じられること』が重要だという示唆は、学校組織を考える上でも参考になります。
若手が困ったときに、相談できる。間違いに気付いたときに、隠さず言える。分からないことを『分からない』と言える。この状態をつくることは、優しさだけではなく、事故や重大事案を早く把握するためのリスク管理でもあります。
7.中堅教員だからできる『一歩手前の支援』がある
若手を守る役割は、校長や教頭だけのものではありません。むしろ日常では、中堅教員の存在が大きいものです。
管理職には言いにくくても、隣の席の先輩には言える。教頭室へ行くほどではないと思っていても、学年主任には聞ける。そうした『一歩手前の支援』が、問題の早期発見につながります。
中堅教員ができることは難しくありません。
『それ、教頭にも共有しておいた方がいいよ。一緒に行こうか。』
『自分も同じところで迷ったことがある。』
『その対応を一人で決めなくていい。』
『今日中に整理しておこう。』
こうした短い言葉で、若手が一人で抱え込むのを止められることがあります。
一方で、中堅が何でも引き受ける必要はありません。中堅自身が疲弊すれば続きません。大切なのは、自分が全部解決することではなく、必要な人につなぐことです。管理職につなぐ、養護教諭につなぐ、専門職につなぐ、教育委員会につなぐ。つなぐ力も、立派なリーダーシップです。
8.明日から変えられる五つの行動
管理職や中堅が若手を守るために、明日からできることを五つに絞ります。
一つ目。『何かあったら』ではなく、相談すべき具体例を伝える。
安全、保護者、いじめ、虐待、事故、個人情報など、迷ったら早く共有する案件を明文化します。
二つ目。相談の最初に評価しない。
まず事実を聞き、本人が話し切る前に『あなたが悪い』と結論づけないようにします。
三つ目。『一人で対応しなくていい』と明言する。
保護者対応や重大な生徒指導では、誰が同席するか、誰が説明するかまで具体的に決めます。
四つ目。失敗のあとに仕組みを一つ変える。
チェックリスト、共有方法、報告基準、役割分担など、個人の注意以外の再発防止策を残します。
五つ目。中堅から管理職へつなぐ。
若手が管理職に直接言いにくそうなら、『一緒に行こう』とつなぎます。中堅が抱え込むのではなく、組織対応に乗せます。
9.『守ってもらった経験』は、次の人を守る力になる
若手のとき、失敗した自分を誰かが守ってくれた経験は、後に大きく残ります。
もちろん、失敗そのものを肯定するわけではありません。必要な指導を受け、反省し、次に生かすことは必要です。ただ、その過程で『一人にされなかった』という経験は、その人が中堅になったとき、後輩への関わり方に表れます。
自分が責められて育ったから、後輩にも同じようにする。そういう連鎖を続ける必要はありません。
学校には、厳しさが必要な場面があります。しかし、本当に必要な厳しさは、人を孤立させることではありません。事実から逃げないこと、必要な報告をすること、同じ失敗を繰り返さないこと。そのために、組織として支えることです。
管理職や中堅が若手の盾になる学校は、若手だけに優しい学校ではありません。情報が早く上がり、問題が小さいうちに対応でき、失敗から組織が学べる学校です。
『誰が悪かったか』で終わるのではなく、『次に誰も同じことで困らないために、何を変えるか』まで考える。
それが、これから管理職を考える先生に持っていてほしい視点の一つです。
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参考資料
- 文部科学省『令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査について』
- 塚本伸一(2023)『ソーシャル・サポートが教師のバーンアウトと離職願望に及ぼす影響』東京未来大学研究紀要
- Adams, C. M., Adigun, O. B., & Fiegener, A. (2023). The School Principal, Teacher Burnout, and Need-Supportive Conversation.
- The effects of leader support for teacher psychological needs on teacher burnout, commitment, and intent to leave.
- Matsuda, Y. & Hamada, S. (2026). Occupational stress and burnout among Japanese early childhood education and care teachers: the mediating role of psychological safety.
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