03/50 いじめの訴えを担任一人で「様子見」にしない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと

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児童生徒から「いじめられているかもしれない」「もう学校に行きたくない」と打ち明けられたとき、担任が一人で受け止め、少し様子を見ようと判断することがあります。子ども同士の関係をよく知る担任ほど、「まず自分で確かめたい」「大ごとにしたくない」「本人が広めないでほしいと言っている」と考えやすいものです。

しかし、いじめの訴えを担任一人の判断にとどめることは、児童生徒の安全を損ない、証拠や記憶を失わせ、保護者との信頼を壊し、学校として長期間の対応を要する重大事案につながり得ます。必要なのは、訴えを受けた教員がその場で「いじめかどうか」を確定することではありません。安全を確保し、聞いた内容を記録し、校内の定められた組織へ速やかにつなぐことです。

この記事では、いじめの初期対応で何をしてはいけないのか、訴えを受けた直後に何を確認し、誰と共有し、どのように事実確認を進めるのかを整理します。学校ごとの基本方針や教育委員会の手順がある場合は、それを最優先してください。

1.最も危険なのは「まだ、いじめとは決まっていない」という停止

いじめ対応が遅れる場面では、「本人の話しか聞いていない」「相手にも言い分がある」「ふざけ合いかもしれない」という言葉がよく使われます。これらは、事実確認を丁寧に行う必要があるという意味では正しいものです。しかし、「だから今は動かない」という結論に使うなら間違っています。

最初の段階で必要なのは断定ではなく、「いじめの疑いがある情報」として扱うことです。訴えが事実か、行為がどの程度続いているか、誰が関わっているかは、その後の組織的な確認によって明らかにしていきます。疑いの段階で情報を止めれば、確認する機会そのものが失われます。

「明日もう一度聞こう」と考えている間にも、SNS上の投稿が消される、周囲の児童生徒の記憶が曖昧になる、関係者の間で口裏合わせが起きる、本人が「話しても何も変わらなかった」と感じる可能性があります。被害を訴えた児童生徒にとって、相談後の教師の動きは、学校を信頼できるかどうかを判断する重要な材料になります。

2.いじめの定義は、教員の「悪質さ」の印象では決まらない

いじめ防止対策推進法は、一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的または物理的な影響を与える行為で、対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものを「いじめ」と定義しています。インターネットを通じて行われるものも含まれます。

ここで重要なのは、「強い子が弱い子を繰り返し攻撃した場合だけ」という定義ではないことです。一回の行為、仲のよい友人同士の行為、教員から見ると軽い悪ふざけに見える行為でも、法の定義に該当することがあります。逆に、本人がすぐに「いじめです」と表現できるとも限りません。「しんどい」「教室に入りたくない」「あの子の近くが怖い」という言葉の中に、いじめの疑いが含まれていることがあります。

教員が「これはけんか」「双方に原因がある」と早い段階で分類すると、被害を受けた側の苦痛や力関係を見落とします。双方に不適切な言動があったとしても、それだけで、いじめに該当する可能性が消えるわけではありません。まず行為と苦痛を具体的に把握し、評価は学校いじめ対策組織で行うことが必要です。

3.訴えを受けた最初の10分で行うこと

最初の聞き取りで全てを明らかにしようとする必要はありません。むしろ、長時間の尋問のようになれば、児童生徒は疲れ、自分が疑われていると感じることがあります。最初の10分では、次の事項を優先します。

  • 「話してくれてよかった」「つらかったことを軽く扱わない」と伝える
  • 今、この後、下校後に危険がないかを確認する
  • いつ、どこで、誰から、何をされたかを本人の言葉で簡潔に聞く
  • SNS、写真、動画、メッセージ、壊された物など、失われる可能性のある情報を確認する
  • 保健室、別室、座席、下校方法など、その日の安全策を相談する
  • 一人で抱えず、守るために必要な先生と共有すると説明する
  • 聞き取った時刻、場所、発言、表情や身体状況を記録する

「絶対に誰にも言わない」と約束してはいけません。守秘は大切ですが、生命・心身の安全に関わる内容を一人の教員だけで秘密にすることはできません。「あなたの話を勝手に広めない。ただし、あなたを守るために必要な先生には相談させてほしい。誰にどう伝えるかは一緒に考える」と説明します。本人の不安を尊重しながら、必要な共有まで止めない言い方です。

4.安全確保は、事実認定より先に行う

学校は、公平な事実確認を行わなければなりません。ただし、公平であることと、安全策を事実認定まで保留することは同じではありません。被害の訴えがあり、接触によってさらなる苦痛や危険が予想されるなら、確認中でも暫定的な安全策を取ります。

例えば、休み時間の居場所を確保する、登下校の動線を確認する、座席や班を調整する、見守る教員を決める、オンライン上の接触を止めるよう働きかける、保護者と帰宅方法を相談するなどです。措置の内容は事案に応じて決めますが、「真相が分かるまで同じ環境で我慢してもらう」という対応は避けるべきです。

一方で、被害を訴えた児童生徒だけを別室へ移し続けると、「なぜ自分が教室を出なければならないのか」と感じることがあります。本人の意向を聞かずに安全策を決めないことも大切です。守るための措置が、本人の学習機会や所属感を奪うことになっていないかを確認します。

5.「仲直り」を初動のゴールにしない

教員は関係修復を願うため、早い段階で双方を同席させ、「お互いに言いたいことを言おう」「謝って仲直りしよう」と進めたくなることがあります。しかし、安全確認や個別の事実確認より前に対面させることは危険です。

力関係がある場で被害を受けた側は、相手の前で本当のことを言えない場合があります。「自分にも悪いところがあった」と言わされるように感じたり、形だけの謝罪を受け入れたりすることもあります。同席後に見えない場所で報復されるおそれもあります。また、その場を収めることを優先すると、どの行為がいつから続き、周囲がどう関わり、学校がどこまで把握していたのかが曖昧になります。

謝罪や関係修復を一律に否定する必要はありません。ただし、それは安全の確保、別々の聞き取り、事実関係の整理、本人と保護者の意向確認、再発防止策の検討を経た後の選択肢です。「握手したから解決」「本人がもういいと言ったから終了」ではありません。

6.聞き取りは、別々に、短く、誘導せずに行う

初期の事実確認では、対象となる児童生徒、行為をしたとされる児童生徒、周囲にいた児童生徒から、原則として別々に話を聞きます。複数の教員で役割を分担し、誰が誰に、いつ、どこで聞くかを決めます。関係者を一斉に呼び出し、廊下で待たせると、うわさが広がったり、話し合いが行われたりするため、時間と場所への配慮も必要です。

質問は、「○○さんを無視したのですね」のような誘導ではなく、「そのとき何がありましたか」「最初から順に教えてください」「その場には誰がいましたか」とします。分からないことを無理に埋めず、「分からない」「覚えていない」という回答もそのまま記録します。

発言の食い違いがあっても、すぐにどちらかをうそと決めつけません。見た位置、時刻、記憶、言葉の意味が異なることがあります。各人の話を時系列に並べ、共通する点、異なる点、追加確認が必要な点を分けます。事実と推測を一つの文章に混ぜないことが、後の検討を助けます。

7.記録は「後で報告書を書くため」だけではない

いじめ対応における記録は、児童生徒を継続して守るためのものです。担当者が休んでも対応を引き継げる、同じ質問を何度もして本人を疲れさせない、学校の認識と対応の経過を説明できる、見落としていた変化に気づけるという役割があります。

最低限、次の項目を残します。

  • 情報を得た年月日・時刻・場所・手段
  • 誰が誰から聞いたか
  • 本人が用いた言葉に近い発言内容
  • 確認できた行為、時期、場所、関係者
  • けが、体調、欠席、遅刻、学習や生活への影響
  • 写真や画面保存など、存在を確認した資料
  • その場で行った安全確保と連絡
  • 次に確認すること、担当者、期限

「以前から仲が悪い」「よくトラブルを起こす子」といった評価だけでは記録になりません。「9月10日12時40分、廊下で本人から『3日前からグループのメッセージに自分だけ返信がない』と相談を受けた」のように、事実と発言を具体的に残します。個人のメモ帳や私物端末ではなく、学校が定める安全な方法で保存してください。個人情報の扱いについては、連載の02/50「児童生徒の個人情報を私物端末・私物クラウドに保存しない」も確認できます。

8.担任から組織へつなぐときの報告

いじめ防止対策推進法第23条は、学校の教職員等が、児童生徒から相談を受けるなどして、いじめの事実があると思われるときは、学校への通報その他の適切な措置を取ることを求めています。また、学校は、複数の教職員や心理・福祉の専門家などで構成する学校いじめ対策組織を置くこととされています。

したがって、担任が学年主任に口頭で一度話して終わるのではなく、学校が定める情報集約先と学校いじめ対策組織につながったかを確認する必要があります。報告では、次の順に整理すると伝わりやすくなります。

  1. 現在の安全上の懸念
  2. 本人が訴えている具体的な行為と時期
  3. けが、欠席、体調、希死念慮など重大性に関わる情報
  4. 現時点で確認できた事実と、まだ未確認の事項
  5. 既に行った措置
  6. 本人と保護者の意向
  7. 今日中に決める必要があること

「たいしたことではないと思いますが」「たぶん誤解です」と前置きすると、受け手の判断を狭めます。自分の評価を先に置かず、疑いを含む情報を正確に渡します。組織へ報告することは、担任としての力不足ではありません。担任一人に責任を集中させないことが、児童生徒と教員の双方を守ります。

9.保護者への連絡で約束してよいこと、いけないこと

保護者への第一報では、結論を急がず、「相談を受けたこと」「現在確認できていること」「安全のために行ったこと」「これからの確認方法」「次に連絡する時刻」を伝えます。学校内で役割と説明内容をそろえ、必要に応じて管理職や複数の教員で対応します。

避けたいのは、「いじめではありません」「相手に謝らせます」「今日中に全部解決します」といった、調査前の断定や実行できるか分からない約束です。一方で、「まだ何も分かりません」だけでは、学校が動いていない印象を与えます。「現時点では○○まで確認しています。安全確保として△△を行いました。□□について確認し、明日16時までに経過を連絡します」と、事実・措置・次の期限を分けます。

保護者から強い言葉を受けても、その場で学校を守るための反論をしないことです。相談までに家庭で何が起き、本人がどれほど苦しみ、保護者が何を心配しているのかを確認します。難しい保護者対応を個人で抱えない考え方は、文科省が保護者対応ガイドラインを公表|学校が確認したい7つのことでも整理しています。

10.重大事態は「確定」してから動くものではない

文部科学省が2024年8月に改訂した「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」は、重大事態とは、いじめにより重大な被害が生じた疑い、または、いじめにより不登校を余儀なくされている疑いがある段階を指すと整理しています。疑いが生じた段階から、学校の設置者または学校は調査の実施に向けた取組を開始する必要があります。

自殺企図、自傷、暴行による負傷、心的外傷、継続する心因性の身体症状、金銭の強要、画像の拡散、転学を余儀なくされた場合などは、特に緊急性が高い例です。欠席について「30日に達していないから重大事態ではない」と機械的に判断してはいけません。文部科学省の改訂ガイドラインも、掲載例を下回る程度の被害や、診断書・警察への被害届がない場合でも、総合的に判断して重大事態と捉える場合があると示しています。

担任が重大事態を最終決定するわけではありません。しかし、重大な被害の疑いにつながる情報を上げなければ、学校も設置者も判断できません。希死念慮、自傷、生命身体への危険がある場合は、通常の校内報告の順番だけにこだわらず、管理職、保護者、医療、警察、関係機関などと緊急に連携します。

11.「本人が大ごとにしないで」と言ったとき

児童生徒が共有を拒む背景には、報復への恐れ、周囲に知られる恥ずかしさ、親を心配させたくない気持ち、以前相談してうまくいかなかった経験などがあります。まず、なぜ広めてほしくないのかを聞きます。その不安への対策を具体化せず、「決まりだから報告する」だけで進めれば、本人との信頼を失います。

ただし、本人の希望を尊重することと、必要な安全対応を全て止めることは同じではありません。伝える相手を必要最小限にする、本人の前で情報共有の内容を確認する、保護者への連絡時期や言葉を相談する、相手側への聞き取りで情報源が不用意に特定されないよう配慮するなど、本人の納得を高める工夫をします。

「あなたを守るために、私だけで持つことはできない。勝手に広げるのではなく、必要な先生と一緒に考える」と説明します。ここで、相談したことを責めない、本人のせいで問題が大きくなったように扱わないことが重要です。

12.管理職・主任が行うべき支援

組織対応を掲げても、報告した教員が責められる職員室では情報が上がりません。管理職や主任は、報告を受けたとき、最初に「なぜもっと早く気づかなかったのか」ではなく、「共有してくれてよかった。今から安全確保と確認を分担しよう」と応じる必要があります。

そのうえで、対応責任者、聞き取り担当、記録担当、保護者連絡担当、見守り担当、次の会議時刻を決めます。担任が授業を抱えたまま、聞き取り、保護者連絡、記録を全て行う状態にしてはいけません。担当を分けることは、負担軽減だけでなく、思い込みを減らし、記録の客観性を高めます。

また、報告後に情報が戻らないと、担任は教室でどのように見守ればよいか分かりません。個人情報に配慮しつつ、当面の安全策、児童生徒への声のかけ方、次の確認時刻を共有します。温かい組織と守秘の関係については、温かい職員室が温かい教室を生むも参考になります。

13.すでに「様子を見よう」と返してしまったら

初動を誤ったと気づいたとき、失敗を隠そうとすると被害が広がります。今からでも、本人に連絡し、「先ほどは十分に受け止められなかった。大切な話なので、改めて確認させてほしい」と伝えます。そして、記憶が新しいうちに記録し、管理職や学校いじめ対策組織へ報告します。

保護者に誤った説明をしていた場合も、「前の説明では確認が不十分でした。現時点で分かったことと、これから確認することを改めて説明します」と修正します。言い訳を重ねるより、不十分だった点を認め、現在の安全策と期限を示す方が信頼回復につながります。

生徒指導の初期場面で威圧や即断を避ける考え方は、威圧に頼らない生徒指導の初期対応についてでも詳しく扱っています。

14.明日の仕事で確認する7項目

いじめの訴えを受けてから手順書を探すのでは遅れます。明日、次の7項目を確認してください。

  1. 自校の学校いじめ防止基本方針を開き、情報集約先を確認する
  2. 学校いじめ対策組織の構成員と招集方法を確認する
  3. 相談を受けた直後に使う記録様式の保存場所を確認する
  4. 緊急時に児童生徒を安全に待機させる場所と担当者を確認する
  5. 管理職不在時の報告順と教育委員会への連絡方法を確認する
  6. SNS画面など消失しやすい情報を保存する学校の手順を確認する
  7. 「誰にも言わないで」と言われたときの説明を一度声に出して練習する

最初から完璧な聞き取りができる教員はいません。しかし、一人で抱えない、記録を残す、安全を先に確保するという三つは、経験年数にかかわらず実行できます。生徒との日常的な対話を整えるには、生徒との対話の基本30も併せて確認してください。

15.いじめ対応の初動で守る原則

いじめの訴えを受けた教員の役割は、一人で真相を確定し、当事者を仲直りさせることではありません。児童生徒の言葉を軽く扱わず、今の安全を確認し、事実と発言を記録し、組織へつなぐことです。

「大ごとにしないために様子を見る」という判断が、結果として事態を重大化させることがあります。早く共有することは、誰かを処罰するためではなく、児童生徒を守り、事実を丁寧に確かめ、適切な支援を始めるためです。担任一人の力量に頼らず、学校の仕組みを使うことが、普通に教師を続けるためにも欠かせません。

参考資料

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