生成AIによる成績出力(通知表等)のリスク管理について|AI×教育と学校現場

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通知表の所見を書く時期になると、同じ表現が続く、限られた文字数に収まらない、一人ひとりのよさをどう言葉にすればよいか迷う、といった悩みが出てきます。生成AIに文章を整えてもらえば、負担を減らせるのではないかと考える先生もいるでしょう。

生成AIは、文章の言い換えや構成案の作成が得意です。一方、通知表の所見には、児童生徒の学習状況、行動、成績、家庭に関わる情報などが入り得ます。便利だからといって、普段使っている生成AIに氏名やエピソードをそのまま入力してよいわけではありません。

大切なのは、「生成AIを使うか、使わないか」の二択ではなく、どの環境で、どの情報まで扱い、教師が最後に何を判断するかを分けることです。この記事では、生成AIを通知表所見の作成補助に使う際の線引きを整理します。

1.所見作成は「文章作成」だけではない

通知表所見には、少なくとも二つの仕事が含まれます。一つは、児童生徒の学習や成長を見取り、何を伝えるかを決める仕事です。もう一つは、その内容を読みやすい文章に整える仕事です。

生成AIが支援しやすいのは、主に後者です。文の長さを整える、同じ語尾の連続を減らす、保護者にも伝わる表現に言い換える、といった作業には活用の余地があります。

しかし、「この子の何を評価するか」「今学期の成長をどう捉えるか」「次の学びにつながる言葉は何か」は、日々関わってきた教師が判断する部分です。生成AIが自然な文章を出しても、その文章が本人の事実を表しているとは限りません。うまい文章と、適切な所見は同じではありません。

2.最初に確認するのは学校の利用環境

生成AIへ何を入力できるかは、サービス名だけでは判断できません。学校設置者が契約し、安全管理措置を講じた環境なのか、個人で取得した一般向けアカウントなのかで、扱える情報が異なります。

文部科学省のガイドラインは、教職員が校務で生成AIを利用する際、教育委員会の方針や教育情報セキュリティポリシー、管理者の指示に従うことを求めています。また、個別契約等により適切なセキュリティ対策が講じられた環境を除き、成績情報等の重要性の高い情報をプロンプトへ入力してはならないとしています。

したがって、所見作成を始める前に確認するのは、プロンプトの工夫ではなく、次の三点です。

  • 教育委員会または学校が利用を認めているサービスか
  • 個人情報や成績情報を扱える契約・設定・運用になっているか
  • 入力データの保存、学習利用、国外移転、削除に関する条件を確認しているか

「有料版だから安全」「学校の端末から使っているから大丈夫」とは限りません。承認された利用環境と運用ルールを確認できない場合は、児童生徒を特定できる情報や成績情報を入力しないことが基本です。

3.氏名を消せば匿名になるとは限らない

氏名を「Aさん」に置き換えれば安全だと考えがちですが、個人を識別する手掛かりは氏名だけではありません。学年、部活動、珍しい受賞歴、家庭状況、障害や病気、具体的なトラブルなどを組み合わせれば、学校内の人には誰か分かる場合があります。

例えば、「中学2年、吹奏楽部、県大会で独奏賞を受賞し、2学期に長期欠席した生徒」のような入力は、名前がなくても特定につながる可能性があります。情報を細かく入れるほど所見らしい文章を得やすくなりますが、同時に個人識別性も高まります。

一般向けの生成AIしか使えない場合は、本人の具体的な記録を入力するのではなく、「努力を継続したことを80字で肯定的に表現する例を五つ」「改善点を責めず、次の行動につなげる文型」のように、個人情報を含まない表現例を求めます。その例を材料として、教師が手元の正式な記録を基に書き直します。

個人情報の扱いに関する基本は、児童生徒の個人情報を私物端末・私物クラウドに保存しないでも整理しています。

4.安全な環境でも必要最小限にする

教育委員会が契約し、個人情報等を扱えるよう適切なセキュリティ対策を講じた生成AI環境であっても、何でも入力してよいわけではありません。利用目的に必要な範囲を決め、入力項目を絞ります。

所見作成に不要な住所、電話番号、家族の職業、診断名、相談記録などは入力しません。学習の記録を用いる場合も、所見に反映する事実だけを選びます。「念のため全部読み込ませる」という使い方を避けることが大切です。

個人情報保護委員会は、行政機関等が生成AIサービスへ個人情報を含むプロンプトを入力する場合、利用目的のために必要最小限であることを十分確認するよう示しています。また、その情報が回答生成以外の目的で扱われる場合は、法令違反となる可能性があるため、機械学習に利用されないことなどを確認する必要があります。

セキュアな環境は「注意しなくてよい環境」ではなく、「定められた条件の中で必要な情報を扱える環境」です。学校独自の判断で利用範囲を広げず、設置者が示した手順に従います。

5.AIに評価そのものを決めさせない

通知表所見では、文章の前に評価があります。児童生徒の作品、発言、振り返り、活動の過程などを見取り、どの成長を取り上げるかを決める必要があります。

文部科学省のガイドラインは、児童生徒の学習評価を、教師が判断せず生成AIの出力だけで行うことを不適切な例として挙げています。所見作成でも、AIが選んだ「強み」や「課題」を、そのまま教師の評価に置き換えることはできません。

特に注意したいのは、生成AIが入力された記録を平均化し、目立つ言葉だけを拾う可能性です。発言回数が多いことを主体性とみなす、静かに考える時間を消極性と捉える、文章量の多さを理解度と結び付けるなど、教師が意図しない偏りが入ることがあります。

生成AIに任せるのは、教師が選んだ事実を文章化する補助までです。評価の根拠を選ぶこと、複数の場面から成長を捉えること、本人に伝える内容を決めることは教師が担います。生成AI時代の評価の考え方は、生成AI時代のレポート課題をどう評価するかも参考になります。

6.使うなら「三段階」で確認する

生成AIを所見の文章調整に使う場合は、次の三段階に分けると判断しやすくなります。

第一段階 教師が伝える事実を選ぶ

授業記録や作品を確認し、「課題を最後まで修正した」「友達の意見を聞いて考えを更新した」など、根拠のある事実を教師が選びます。AIに記録全体から勝手に評価点を抽出させません。

第二段階 許可された範囲で文章案を得る

一般向け環境なら個人情報を含めず、文型や言い換えだけを求めます。個人情報等を扱える承認済み環境なら、学校の手順に沿って必要最小限の情報を入力します。一案だけでなく、語調や長さを変えた複数案を出させると、教師が比較しやすくなります。

第三段階 教師が本人に照らして完成させる

事実に誤りがないか、本人らしさがあるか、過度な断定やレッテルになっていないか、次の学びにつながるかを確認します。最終文は教師自身が読み直し、学校の評価方針と文字数に合わせて完成させます。

生成物を授業で使う前の確認方法は、生成AIで作った教材をどう見直すかにも共通します。

7.便利さより先に「本人が読んだら」を考える

AIが整えた所見は、文法的には正しくても、どこか均一で、その子に向けた言葉に感じられないことがあります。「意欲的に取り組みました」「今後の成長が期待されます」が繰り返されるだけでは、本人や保護者に具体的な成長が伝わりません。

完成前に、本人が読んだとき、自分のことだと分かるかを確かめます。教師しか知らない小さな変化や、本人が努力した過程を一つ入れると、文章は具体的になります。ただし、失敗や家庭事情など、通知表に残す必要のない情報を詳しく書かない配慮も必要です。

AIが作った文章を採用するかどうかは、読みやすさだけでなく、教育的な意味、事実への忠実さ、本人への影響から判断します。生成AIは案出し役であり、児童生徒との関係を引き受ける主体ではありません。

8.学校で決めておきたい五つのこと

  1. 所見作成に利用できる生成AIサービスとアカウント
  2. 入力できる情報と入力してはいけない情報
  3. 学習データ・成績情報を扱える環境の条件
  4. 出力結果を確認する観点と最終責任者
  5. 誤入力や情報漏えいが疑われる場合の報告手順

個々の先生が便利さと不安の間で毎回判断する状態は、活用も安全も進みません。管理職、情報担当、評価担当が設置者の方針を確認し、校内で共通の線引きを示す必要があります。

文部科学省は、適切なセキュリティ対策の下で個人情報等を扱える生成AI環境の実証も進めています。つまり、個人情報を使う校務活用は、個人の工夫ではなく、環境整備と組織的な運用を伴って進める課題です。

9.教師が最後に判断する

通知表所見で生成AIを使う余地はあります。ただし、一般向けサービスに児童生徒の情報をそのまま入力することと、安全な環境で文章作成を補助させることは別です。また、文章を整えてもらうことと、評価を決めてもらうことも別です。

利用環境を確かめ、必要最小限の情報だけを扱い、評価の根拠は教師が選ぶ。そして、本人に向けた言葉として最後まで教師が責任を持つ。この順序を守れば、生成AIは教師の判断を奪うものではなく、判断に使う時間を確保する道具になり得ます。

校務での活用例を広く知りたい方は、教師の生成AI学び始めの活用20選もあわせてご覧ください。

参考資料

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