生成AIに「中学2年生向けの確認問題を10問作って」「この単元のワークシートを作って」と頼めば、数十秒で形の整った教材案ができます。忙しい学校現場では心強い道具です。しかし、文章が自然で見た目が整っていることと、授業で安全に使えることは同じではありません。
生成AIは、もっともらしい誤情報、存在しない出典、学習段階に合わない説明、偏った例を出すことがあります。教師が気づかずに配れば、誤概念を教えたり、児童生徒を傷つけたり、著作権や個人情報の問題を招いたりする可能性があります。大切なのはAIを避けることではなく、AIの出力をそのまま完成品とせず、教師が確認しながら授業に合う形へ整えることです。
この記事では、生成AIで作った教材を児童生徒に渡す前に、教師が確認したい七つの項目を整理します。主要キーワードは「生成AI 教材作成 教師」です。すでに公開している教師の生成AI学び始めの活用20選が活用場面を広く紹介する記事であるのに対し、今回は配布前の検証に焦点を絞ります。
1.生成AIは教材づくりの「案出し役」と考える
文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」は、生成AIの出力には誤りや偏りが含まれ得ることを踏まえ、人間が判断し、責任を持つことを重視しています。生成AIが作った文章は、教科書、学習指導要領、公式統計、原典の代わりにはなりません。
教材作成で有効なのは、たたき台を出す、別の説明を考える、問題の形式を増やす、文章の難易度を変えるといった場面です。一方、正解の確定、評価規準との整合、児童生徒への配布可否は教師が決めます。「AIがそう答えた」ではなく、「教師が根拠を確認して採用した」と言える状態にしてから使います。
生成AIの回答は、同じ指示でも毎回同じになるとは限りません。前回うまく作れたから今回も正しい、という保証はありません。プロンプトを保存するだけでなく、採用した出力と確認した根拠も残しておくと、教材を修正するときや同僚と共有するときに説明しやすくなります。
2.学習目標とのずれを確認する
AIは、見栄えのよい問題を作れても、その授業で育てたい力を理解しているとは限りません。知識の確認をしたいのに、本文から言葉を探すだけの問題になることがあります。思考を促したいのに、正解が一つに固定された問いになることもあります。
まず「この教材で何をできるようにしたいか」を一文で書きます。そのうえで、各設問が目標のどこにつながるかを説明できるか確認します。説明できない設問は、面白くても外す候補です。学習指導案の考え方を整理したい場合は、中学校学習指導案の書き方の基本も参考になります。
また、AIが作った教材に合わせて授業を変えるのではなく、授業の目標に合わせてAIの出力を削り、並べ替え、書き直します。主語はあくまで授業者です。
3.事実・計算・出典を原資料で確かめる
配布前には、固有名詞、年号、数値、定義、引用、計算結果を一つずつ確認します。AIが示したURLや書名が実在するかも開いて確かめます。リンクがあるだけでは出典確認になりません。一次資料、教科書、官公庁資料、原典など、授業で説明できる根拠に戻ります。
特に注意したいのは、「最新」「一般に」「研究では」といった表現です。根拠が特定できなければ削除するか、確認できる表現に直します。複数の答え方が成り立つ問いでは、AIの模範解答だけを唯一の正解にしません。想定される別解と、採点で見る観点を教師が考えます。
情報の確かめ方そのものを児童生徒と共有することは、情報活用能力の育成にもつながります。関連して、情報活用能力は「PC操作」だけではないも参照してください。
4.個人情報と機密情報を入力していないか見直す
教材を個別化しようとして、児童生徒の氏名、成績、障害や病気、家庭状況、相談内容、顔写真、答案をそのまま外部の生成AIに入力してはいけません。名前を消しても、学年、所属、出来事の組合せから本人が推測できる場合があります。
利用するサービスは、学校設置者のルール、利用規約、データの保存・学習利用の扱いを確認します。個別の事情を考慮した教材案が必要なら、「読み書きに時間がかかる架空の中学生」のように一般化し、本人を識別できる情報を入れない方法があります。ただし、匿名化すれば何でも入力してよいわけではありません。判断に迷う情報は入力せず、管理職や情報担当者に確認します。
学校で扱う個人情報の基本は、個人情報を私物端末・私用クラウドに保存しないでも整理しています。
5.著作権と「似すぎ」を確認する
文化庁は「AIと著作権に関する考え方」やチェックリストを公表しています。AIを使ったから直ちに著作権侵害になるわけでも、AIが出したものなら自由に使えるわけでもありません。既存著作物との類似性や依拠性、利用の仕方など、具体的な事情で判断が変わります。
特定の作家や教材会社の文体、人気キャラクター、既存の問題集を再現する指示は避けます。出力に特徴的な表現や図が含まれていたら、そのまま採用せず類似する既存著作物がないか確認します。教科書や資料集の文章を入力する場合も、複製や送信、サービス側での取扱いを含め、学校の契約と著作権上の扱いを確かめます。
「教育目的だから常に自由」と短絡しないことが大切です。判断が難しい教材は、自作表現に置き換える、権利処理された素材を使う、公開や配布の範囲を確認するなど、より安全な方法を選びます。
6.偏りと取り残される児童生徒を点検する
生成AIは、学習データに含まれる社会的な偏りを出力に反映することがあります。職業と性別、家庭像、国籍、障害、文化、進路などについて、一つの姿を「普通」として描いていないか確認します。
登場人物の性別や名前を変えるだけでは十分でないことがあります。問いの前提に、家族全員が同居している、家庭に通信環境がある、日本語を同じ速さで読める、といった暗黙の条件がないかを見ます。画像を使う場合は、ステレオタイプな描写になっていないか、必要な代替テキストを付けられるかも確認します。
教師自身の判断にも偏りはあります。AIと教師を対立させるのではなく、複数の目で点検する仕組みにします。校内で扱う視点として、教師の認知バイアスを知るも役立ちます。
7.年齢、難易度、授業時間に合うか試す
「中学生向け」と指示しても、語彙、漢字、文の長さ、前提知識が実態に合うとは限りません。簡単にしすぎると学ぶ価値が薄れ、難しすぎると本来測りたい力ではなく読解負荷を測る教材になります。
教師自身が児童生徒のつもりで問題を解きます。指示が一通りに読めるか、必要な情報がそろっているか、制限時間内に終わるか、正解が複数にならないかを確認します。できれば同僚にも一問だけ見てもらいます。短い相互点検でも、作成者には見えなかった曖昧さが見つかります。
選択肢問題では、正答だけでなく誤答選択肢も点検します。誤答が明らかすぎて考える必要がない、特定の語尾だけで正解が分かる、未習事項を知らないと判断できない、といった不具合が起こりやすいためです。解説も含めて実際の学習過程に合うか確かめます。
特別な支援を必要とする児童生徒には、文字量、余白、ルビ、図と文章の対応、解答方法の選択肢も見直します。AIに易しい版を作らせる場合も、最終的には本人の学びの目標を下げていないか教師が判断します。
8.使う場面・使わない場面・教師が決めること
使いやすい場面は、アイデア出し、例題の原案、文章の言い換え、複数案の比較、教師が検証できる範囲の補助です。ゼロから考える負担を減らし、検討に使う時間を増やせます。
使わない場面は、個人情報や相談記録の入力、児童生徒の処分・進路・成績の自動決定、教師が内容を検証できない専門領域、権利関係が不明な既存作品の再現です。便利さより安全と権利を優先します。
教師が最後に決めることは、学習目標との整合、事実の正確性、児童生徒への適合、安全性、配布の可否、評価への使用です。AIに作業を任せても、教育的な判断まで委ねません。
9.明日の授業・仕事でやること
- AIで作った教材を一つ選び、「AI案」や「要確認」とファイル名に付ける。一度確認する習慣をつくるための小さな工夫です。
- 授業の目標を一文で書き、各設問との対応を確認する。対応しない設問は削除します。
- 年号、数値、固有名詞、正答を原資料で照合する。出典不明の説明は、そのまま採用せず確認します。
- 入力文に個人を推測できる情報がないか見直す。迷う情報は入力せず、校内ルールを確認します。
- 既存作品への似すぎ、偏った人物像、排除的な前提を点検する。一つでも気づいたら書き換えます。
- 自分で解き、時間と難易度を測る。可能なら同僚に一問だけ読んでもらいます。
- 「採用・修正・不採用」を教師が決め、その理由を残す。次の教材作成にも使える確認記録になります。
10.AIで早く作り、人が丁寧に確かめる
生成AIの価値は、教師の判断を不要にすることではありません。最初の案を早く作り、教師が目標、事実、安全、権利、児童生徒の実態に照らして磨く時間を生み出すことにあります。
「そのまま採用するのではなく、一度確かめる」という習慣を校内で共有すれば、AI活用は個人技から組織的な実践へ変わります。まずは七項目のうち、事実確認と個人情報確認だけでもチェック欄にしてみてください。使う範囲と止める範囲が明確になるほど、生成AIは教師の判断を支える道具として扱いやすくなります。
参考資料
- 文部科学省「生成AIの利用について」(初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン Ver.2.0を掲載)
- 文化庁「AIと著作権について」
- UNESCO “Guidance for generative AI in education and research”
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