02/50 児童生徒の個人情報を私物端末・私物クラウドに保存しない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと

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教師の仕事では、児童生徒の情報を扱わずに一日を終えることはほとんどありません。名簿、成績、提出物、面談記録、生徒指導記録、保健情報、写真、保護者との連絡内容。どれも教育活動には必要な情報です。

だからこそ、便利さを理由に「少しだけ自宅で作業しよう」「自分のスマートフォンに送っておこう」「個人のクラウドに置けば家でも見られる」と考えることには大きなリスクがあります。

今回のテーマは、児童生徒の個人情報を私物端末や個人契約のクラウドサービスに保存しないことです。

重要なのは、「私物端末は絶対に危険で、公用端末なら絶対に安全」という単純な話ではありません。学校設置者が定めた情報セキュリティポリシー、情報資産の重要性分類、利用を認められた端末・サービス、持ち出しや保存の手続に従うことが基本です。個々の教職員が便利さだけで保存先を決めないことが、児童生徒と自分自身を守ります。

1.個人情報の事故は「悪意」より日常の便利さから起こる

情報漏えいという言葉から、不正アクセスやサイバー攻撃を思い浮かべる人は多いでしょう。しかし学校で起きる事故は、それだけではありません。端末の置き忘れ、USBメモリの紛失、メールの誤送信、共有設定の誤り、不要になったデータの消し忘れなど、日常業務の延長線上で起こるものがあります。

個人情報保護委員会は2025年6月、学校における個人情報の漏えい等事案を踏まえ、個人情報の取扱いについて注意喚起を公表しました。学校という組織が扱う情報の重要性を考えれば、情報管理は一部のICT担当者だけの仕事ではありません。

教師にとって危険なのは、「悪いことをしている」という感覚がないまま、便利な方法を選んでしまうことです。

例えば、自宅で所見を書くためにファイルを個人メールへ送る。学校で撮った写真を自分のスマートフォンへ移す。個人契約のオンラインストレージに教材と一緒に名簿を置く。自分しか使わないから大丈夫だと思っていても、その保存方法が組織のルールに適合しているとは限りません。

情報セキュリティでは、善意か悪意かではなく、情報が適切な管理下にあるかが問われます。

2.児童生徒の情報は「自分の仕事の材料」ではない

教師は日常的に児童生徒の情報を使います。そのため、長く仕事をしていると、自分が作成した名簿や記録を「自分のファイル」のように感じてしまうことがあります。

しかし、そこに記載された児童生徒の個人情報は、教師個人の所有物ではありません。職務上必要な範囲で、学校・教育委員会等の管理の下で取り扱っている情報です。

この感覚の違いは重要です。

「私が作ったExcelだから自分のクラウドに保存してよい」ではありません。「学校で扱う情報資産を、定められた方法で取り扱っているか」と考える必要があります。

特に、成績、生徒指導、家庭状況、健康、障害や支援に関する情報などは、漏えいした場合に児童生徒本人や家族へ大きな影響を与え得ます。単に氏名を消せば安全になるとも限りません。学年、所属、出来事、家庭状況などの組合せによって個人が推測できる場合もあります。

「名前を書いていないから個人情報ではない」と自己判断するのではなく、所属自治体・学校のルールに従って扱う必要があります。

3.私物スマートフォンへの保存が危険な理由

スマートフォンは非常に便利です。カメラ、メモ、メール、クラウド、メッセージ、スキャンなど、多くの機能を一台で使えます。その便利さが、学校の情報管理ではリスクにもなります。

例えば、児童生徒の作品や板書を撮影したつもりでも、氏名、顔、座席表、提出物などが写り込むことがあります。写真アプリの設定によっては、撮影した画像が自動的に個人のクラウドへ同期されることもあります。

すると、本人は「スマートフォンで一枚撮った」だけのつもりでも、実際には学校の管理外にある複数の保存先へデータが複製されている可能性があります。

端末を買い替えたとき、家族と写真を共有しているとき、クラウドの同期設定を変更したときにも影響が出ます。

したがって、「端末にパスコードをかけているから大丈夫」だけでは不十分です。学校設置者がその端末・サービスでの取扱いを認めているか、どの情報まで扱えるのかを確認することが先です。

4.個人契約のクラウドも「自分だけが見る」では済まない

クラウドサービスは学校教育でも不可欠になっています。クラウドそのものを危険視する必要はありません。むしろ適切に設計・管理されたクラウド環境は、教育DXを支える重要な基盤です。

問題は、学校設置者が契約・管理している環境と、教職員個人が契約している環境を同じように考えることです。

組織が利用するクラウドでは、アカウント管理、アクセス権限、ログ、データ保存、退職・異動時の処理、インシデント発生時の対応などを含めて運用を設計します。一方、個人契約のサービスでは、その管理を基本的に本人が担います。

共有リンクを「リンクを知っている全員」にしてしまう。別の個人アカウントと共有する。同期先の端末が増える。退職後もデータが残る。こうした状態が生まれる可能性があります。

学校で認められたクラウドと個人クラウドの違いは、単なるサービス名の違いではなく、「誰が責任をもって管理する環境なのか」という違いです。

5.自宅で仕事をするための「一時的な持ち出し」も自己判断しない

教師の仕事量が多い中で、「学校では終わらないから自宅で続きをしたい」と思う場面は現実にあります。ここで問題になるのが、データの持ち出しです。

文部科学省の教育情報セキュリティポリシーに関するガイドラインやハンドブックでは、情報資産の重要性に応じた管理を行い、重要な情報資産の無許可での持ち出しを禁止する考え方が示されています。

実際の運用は各教育委員会等のポリシーによって定められます。したがって、「昨日も別の先生が持ち帰っていた」「昔からUSBで持ち帰っている」という慣行は、持ち出しを正当化する根拠にはなりません。

必要なのは、自分の所属する組織の規定を確認することです。

持ち出しが原則禁止なのか、許可制なのか。認められた端末は何か。VPN等の安全な接続方法があるのか。ローカル保存を認めているのか。保存した場合の削除手順はどうなっているのか。

分からなければ、管理職や情報セキュリティ担当へ確認します。「分からないので、自分にとって一番便利な方法を使う」が最も危険です。

6.USBメモリは「小さいから便利」が事故につながる

USBメモリはデータを簡単に持ち運べます。しかし、小さいからこそ紛失にも気付きにくい媒体です。

かばんのポケットに入れる。机の引き出しに入れる。自宅のPCに挿したままにする。別のUSBと取り違える。こうしたことは、特別な状況ではなく日常の中で起こり得ます。

所属する教育委員会等がUSBメモリの使用を禁止しているなら、当然使ってはいけません。利用を認めている場合でも、指定媒体、暗号化、許可、記録などの条件が設定されていることがあります。

重要なのは「USBなら駄目、クラウドなら安全」と媒体だけで判断しないことです。どの情報を、どの端末・媒体・サービスで、どの権限と手続の下で扱うかという全体で考えます。

7.生成AIへ入力するときも同じ原則で考える

生成AIの普及によって、新しい注意点も生まれています。

文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」では、校務で生成AIを利用する際にも、教職員が仕組みや特徴を理解し、適切性を判断できる範囲で活用することが前提とされています。

ここで、「名前を消したから、児童生徒の詳しい事情を何でも入力してよい」と考えるのは危険です。入力先のサービスが組織として利用を認められているか、入力可能な情報の範囲がどう定められているかを確認する必要があります。

例えば、保護者対応の文案を作りたいときに、児童生徒の氏名だけ消して、家庭状況、障害特性、具体的なトラブル、学級、部活動などを詳細に入力すれば、情報の組合せから個人を推測できる可能性があります。

生成AIは便利な道具ですが、入力欄が「学校の管理された保存場所」になるわけではありません。利用規約や組織のルールを確認し、入力する情報を必要最小限にします。

生成AIを授業・校務で使う際の基本については、関連記事「教師の生成AI学び始めの活用20選|授業・校務で使える具体例」も参照してください。

8.事故に気付いたとき「自分で何とかする」が被害を広げる

もし情報を誤った場所へ保存した、端末や媒体が見当たらない、誤送信した、共有範囲を間違えた、と気付いたらどうするか。

最も避けたいのは、「見つかるかもしれないから、しばらく自分で探そう」「削除できたから報告しなくてよいだろう」と一人で判断することです。

情報セキュリティインシデントでは、初動が重要です。管理職や定められた担当部署へ速やかに報告し、組織として事実確認と必要な措置を行います。

漏えい等が発生した場合には、内容によって個人情報保護法上の報告・本人通知等が必要になることがあります。その判断を教職員個人で行うものではありません。

事故そのものに加えて、報告が遅れれば、事実確認や被害拡大防止が難しくなります。

「叱られるかもしれない」と考えて報告を遅らせることは、結果として自分をさらに厳しい状況に置くことがあります。気付いた時点で報告することが、児童生徒を守り、自分を守る最善の行動です。

9.管理職は「気を付けて」で終わらせない

情報事故が起きた後、「個人情報の取扱いには十分注意してください」と全教職員へ伝えるだけでは、再発防止として弱い場合があります。

管理職や情報セキュリティ担当は、なぜその行動が起きたのかを確認する必要があります。

校務用端末が不足していなかったか。自宅から安全に作業できる環境がなかったか。ルールが複雑で理解されていなかったか。保存先が分かりにくくなかったか。研修が抽象的な注意喚起だけになっていなかったか。業務量が過大で、持ち帰らなければ終わらない状態になっていなかったか。

情報セキュリティは、個人の注意力だけに依存すると弱くなります。「間違えにくい仕組み」「ルールを守りやすい環境」をつくることが重要です。

学校運営の意思決定や合意形成については、「学校での意思決定・合意形成で考えること」も関連します。ルールを一方的に示すだけでなく、なぜ必要なのかを理解できる形で共有することが、実効性につながります。

10.若手教員には「具体的に」伝える

初任者や若手教員に「個人情報に気を付けて」とだけ伝えても、具体的な行動にはつながりません。

例えば、次のような場面ごとに確認する方が実務的です。

  • 児童生徒の写真は何で撮影してよいか
  • 成績データはどこに保存してよいか
  • 自宅で仕事をする必要がある場合はどうするか
  • USBメモリは利用できるか
  • 個人メールへの転送は認められているか
  • 生成AIにはどの情報まで入力できるか
  • 誤送信や紛失に気付いたら誰へ連絡するか

「禁止事項の一覧」だけではなく、「この場合はどうすればよいか」という代替手段まで示すことが大切です。

若手教員の仕事の進め方については、「若手教師が最初の5年間で身につけたいこと25|仕事の進め方・学び方・働き方」も参考になります。

11.教師自身が今日確認したい10項目

情報管理は、年度初めの研修を一度受ければ終わりではありません。自分の現在の仕事の仕方を点検してみてください。

  1. 児童生徒の個人情報を私物スマートフォンに保存していないか
  2. 学校のデータを個人メールへ送っていないか
  3. 個人契約のクラウドに学校の情報を置いていないか
  4. 利用が認められていないUSBメモリを使っていないか
  5. 写真の自動クラウド同期を理解しているか
  6. 共有ファイルの公開範囲を確認しているか
  7. 生成AIへ入力できる情報のルールを確認しているか
  8. 異動前の学校のデータを手元に残していないか
  9. 情報事故時の報告先を知っているか
  10. 所属する教育委員会・学校の情報セキュリティポリシーを確認しているか

一つでも曖昧な項目があれば、確認する価値があります。

12.「便利だから」ではなく「認められた方法だから」を基準にする

教師の仕事には時間がありません。だからこそ、便利な方法へ流れやすくなります。

しかし、児童生徒の情報を扱うときの基準は「自分にとって便利か」ではありません。「組織として認められた方法か」です。

情報セキュリティは、教育活動を邪魔するためにあるのではありません。児童生徒と保護者から預かった情報を守り、教師が安心して教育活動を続けるための基盤です。

情報管理の事故は、一度起きれば、児童生徒や保護者への説明、事実確認、関係機関への報告、再発防止策の検討など、多くの時間を要する可能性があります。そして何より、失われた信頼を回復するには時間がかかります。

私物端末へ保存しない。個人クラウドへ置かない。持ち出しを自己判断しない。分からなければ確認する。事故に気付けばすぐ報告する。

特別に高度な技術ではありません。しかし、こうした基本を日常の習慣にできるかどうかが、教師として長く働き続ける上では重要です。

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