授業中、休み時間、移動教室、清掃、放課後。いるはずの児童生徒が見当たらないことに気付いたとき、「近くにいるだろう」「少し探せば戻ってくるだろう」と担任一人で探し続けてはいけません。
実際には、トイレや保健室にいる場合もあります。しかし、校外へ出た、事故に遭った、体調を崩して倒れている、強い不安から人目を避けている、第三者が関わっているといった可能性も、確認できるまでは除外できません。結果として無事だったかどうかと、初動が適切だったかどうかは別の問題です。
必要なのは、むやみに騒ぎを大きくすることではありません。「見当たらない」という事実を早く組織に載せ、児童生徒の安全確認と捜索を同時に進めることです。本稿では、担任が最初にすること、学校として分担すること、保護者・教育委員会・警察との連携を判断する考え方を整理します。
1.「いない」は安全を確認できていない状態
児童生徒が見当たらないとき、「また教室を抜けた」「どこかに隠れている」「反抗している」と、過去の行動から理由を決めつけることがあります。しかし、教師が確認すべきなのは行動の評価より先に、本人の現在地と安全です。
特に、低年齢の子、危険を予測することが難しい子、言葉で助けを求めにくい子、強い不安や自傷の懸念がある子、初めて学校からいなくなった子は、危険性を高く見積もる必要があります。気温、交通量、近くの川や線路、工事現場など、学校周辺の環境によっても緊急度は変わります。
「行方不明と決めるには早い」と考えて報告を遅らせる必要はありません。報告するのは原因の断定ではなく、「何時の時点で、どこにいるはずの誰が、確認できない」という事実です。
2.担任だけで探し始めない
見当たらないことに気付いた教職員は、まず管理職、学年主任、近くの教職員など、学校の連絡手順に従って直ちに共有します。自分の受け持つ児童生徒を残したまま、一人で校内外を走り回ると、別の事故が起きても気付けません。また、一人の記憶と判断だけでは、確認した場所の重複や見落としが生じます。
最初の連絡では、少なくとも次の事実を簡潔に伝えます。
- 氏名、学年・学級
- 最後に本人を確認した時刻と場所
- 見当たらないことに気付いた時刻
- 服装、所持品、靴やかばんの有無
- 体調、直前の様子、行きそうな場所
分からない項目を埋めるために報告を待ってはいけません。「現時点では不明」と伝え、確認できた情報を追加します。第一報の時刻も記録します。
3.在籍確認と捜索を同時に進める
管理職が指揮を取り、所在確認、捜索、情報集約、他の児童生徒の安全確保、外部連絡を分担します。捜索する人が増えても、全員が思い付いた場所へ向かうだけでは機能しません。担当区域を決め、確認済みの場所を一か所へ報告します。
同時に、ほかの児童生徒の人数と安全も確認します。見当たらない子に注意が集中すると、教室、運動場、特別教室などにいる子の見守りが薄くなるからです。移動教室や学年活動の途中なら、名簿を使い、誰を、どの教職員が、どこで確認したかを明確にします。
文部科学省の「学校の危機管理マニュアル作成の手引」は、事故等の発生時には児童生徒の安全確保を最優先にし、複数の教職員による対応、事実確認と役割分担、警察・救急・教育委員会・保護者への連絡体制をあらかじめ確立するよう示しています。行方が確認できない場面でも、この危機対応の原則が土台になります。
4.「校内を全部探してから連絡する」と決めない
どの時点で保護者、学校設置者、警察へ連絡するかは、各学校・設置者の危機管理マニュアルと、その時点の危険性に基づいて管理職が判断します。全国一律に「何分後」と決め付けることはできません。しかし、校内の全てを探し終えるまで外部連絡をしない、という固定的な考え方は危険です。
校外へ出た可能性がある、道路・水辺・線路などの危険箇所へ向かった可能性がある、犯罪や事故に巻き込まれた懸念がある、自傷や生命に関わる言動があった、本人だけで安全を保つことが難しい場合には、緊急性を高く判断します。警察庁も、事件・事故の通報など緊急を要するものは110番または最寄りの警察署へ連絡するよう案内しています。
担任が警察への連絡の可否を一人で抱える必要はありません。ただし、管理職が不在だから何も進めないことも避けます。誰が不在時の指揮を執るか、誰が緊急通報できるかを平時に決めておくことが必要です。
5.保護者への連絡を「見つかってから」にしない
保護者への連絡が遅れると、家庭にいる、家へ向かった、家族へ連絡したといった重要な情報を得る機会も遅れます。一方、確認できていない原因を断定したり、学校の責任を避けるような説明をしたりしてはいけません。
連絡では、「○時○分に○○で確認した後、現在、校内で所在を確認できていない」「学校では管理職の指揮で確認している」「校外へ出た可能性も含めて関係機関への連絡を判断している」など、分かっている事実と現在の対応を伝えます。家庭で把握している情報や、本人が向かう可能性のある場所も確認します。
2026年4月17日の文部科学大臣会見でも、学校の危機管理として、日頃の出欠確認を徹底し、事件・事故の発生時には児童生徒や保護者への説明の機会を適切に設けることが重要だと述べられています。説明は事後の弁明ではなく、安全確認に必要な連携の一部です。
6.公開情報と捜索情報を混同しない
捜索に必要な情報は、警察、保護者、学校設置者などと速やかに共有する必要があります。しかし、教職員個人のSNSや地域のグループチャットへ、氏名、顔写真、障害や家庭事情などを独断で投稿してはいけません。
広く協力を求めることが必要な場合も、公開する範囲、写真、表現、発信主体について、警察・設置者・保護者と調整します。情報が拡散すると、発見後も残り続け、本人のプライバシーや安全を損なうことがあります。捜索の速さと、無制限な情報公開は同じではありません。
7.見つかった瞬間を「解決」にしない
本人が見つかったら、まずけが、体調、意識状態を確認し、必要なら救急要請や受診につなげます。強い叱責や、大勢の前での問い詰めは避けます。恐怖、混乱、いじめ、叱責への不安などが背景にある場合、問い詰めることで再び話せなくなることがあります。
「見つかってよかった。今は安全です」「話せる範囲で、何があったか教えてください」と伝え、落ち着ける場所で確認します。保護者、管理職、必要な支援担当と情報を共有し、本人を一人で帰すかどうかも安全を踏まえて判断します。
その後、発見から連絡、捜索、外部連携、発見までの時刻と事実を記録します。誰かの責任を探すためだけではなく、どこで気付きが遅れたか、連絡が届かなかったか、捜索区域が重複したかを検証し、次の対応を改善するためです。
8.本人の特性を「いつものこと」で片付けない
教室を離れることが過去にもあった子については、「また同じだろう」と緊急度を下げやすくなります。しかし、同じように見える行動でも、背景と危険は毎回同じではありません。強い音や叱責を避けたかった、体調が急に悪くなった、友人関係のトラブルがあった、帰宅しようとしたなど、直前の状況を確認する必要があります。
一方で、本人の障害名や行動特性を、捜索に必要のない相手まで広く知らせることも避けます。支援に必要な情報は、どの呼び掛けなら応じやすいか、危険を感じたときに向かいやすい場所はどこか、音声での指示が伝わるかなど、具体的な行動情報として共有します。
個別の教育支援計画や緊急時対応の資料には、本人・保護者と確認した上で、安全確保に必要な情報を記載します。担当者しか知らない状態にせず、かといって全ての個人情報を全職員へ無制限に広げるのでもなく、緊急時に必要な人が必要な情報へアクセスできる形にします。
9.校門や防犯カメラだけに頼らない
校門の施錠や防犯カメラは、所在確認の助けになります。しかし、「門は閉まっていたから校内にいる」「映像に映っていないから外へ出ていない」と断定することはできません。死角、別の出入口、記録時刻のずれ、機器の不具合も考えられます。
映像を確認する担当と実際に捜索する担当を分け、機器の確認だけで捜索や外部連絡を止めないことが重要です。映像の保存や警察への提供についても、学校設置者の手順に従います。証拠になり得る映像を個人端末で撮り直したり、教職員間の私的なアプリで共有したりしないようにします。
10.平時に決めておくべき五つのこと
緊急時に初めて相談していては、動きが遅れます。年度途中でも、次の五点を危機管理マニュアルと校内研修で確認します。
- 見当たらないことに気付いた人の第一報先
- 管理職不在時の指揮者と緊急通報の権限
- 校内外の捜索区域、危険箇所、担当分け
- 保護者・設置者・警察へ連絡する判断手順
- 所在確認中もほかの児童生徒を守る人員配置
東京都教育委員会の学校危機管理資料は、訓練を現実的にする想定の一つとして、校内で児童生徒が行方不明になった場合を挙げています。避難訓練と同様、所在不明時も役割を紙に書くだけでは動けません。「一人見当たらない」という図上訓練を短時間でも行い、連絡と情報集約が機能するか確かめることが重要です。
関連する安全対応として、児童生徒の事故・けがを自己判断しない、校内の不審者へ一人で対応しない、校外学習の安全を施設任せにしない、連続欠席して連絡が取れない子の対応も併せて確認してください。
11.まとめ
児童生徒が見当たらないときにしてはいけないのは、「すぐ戻るだろう」と担任一人で探し続けることです。第一報を早く上げ、管理職の指揮の下で、全体の在籍確認、分担した捜索、情報集約、ほかの児童生徒の安全確保を同時に進めます。
危険性があるときは、校内捜索の完了を待つことなく、保護者、学校設置者、警察との連携を判断します。そして無事に見つかった後も、本人の心身の確認、記録、検証、再発防止までを学校の対応と考えます。
大切なのは、担任が一人で正解を出すことではありません。「いない」という事実をためらわず共有し、学校全体で命と安全を確認することです。
参考資料
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