校長最初の2年間でやっておくこと③|教職員との対話の留意点

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校長として着任した最初の年度、教職員と一人ずつ話す時間をつくろうと考える方は多いと思います。

「先生方の思いを知りたい」「困っていることがあれば早めに支えたい」。その目的は大切です。しかし、面談を始めたものの、校長ばかりが話してしまう。相談を受けると、つい自分の経験から答えを示してしまう。教職員は「分かりました」と言って帰るものの、その後、本音が聞こえてこない。そんなことはないでしょうか。

拙著『管理職への道を考え始めた先生へ』では、教職員との信頼を日々の対話で積み上げること、そして自分の助言が相手に「圧」として届いていたと教えられた経験を書きました。校長は善意で話していても、相手には「校長の正解に合わせなければ」と受け取られる場合があります。

今回は、着任後の1対1の対話を、単なる顔合わせや指導の機会で終わらせず、教職員が安心して仕事に向き合える学校づくりにつなげる方法を考えます。人事評価面談や研修履歴を活用した対話とは目的や制度上の位置付けが異なる、日常の学校経営上の対話を中心に扱います。

1.最初に「聴くための時間」と位置付ける

校長になったばかりのときほど、自分の考えを伝えたいものです。学校の方針を説明し、期待する役割を語り、困りごとへの解決策を示したくなります。

しかし、最初の対話の主目的を「校長の考えを理解してもらうこと」に置くと、教職員の実情を知る機会が減ります。まずは、相手がどのような仕事に手応えを感じ、何に困り、どのような支援を必要としているかを知る時間にします。

冒頭で「今日は評価や指導のためではなく、仕事の様子を知るためにお話を伺いたいと思っています」と目的を伝えます。ただし、職務上必要な報告や対応を免除する約束ではありません。安全や権利に関わる情報が出たときは、適切に対応する必要があります。

2.「全員と話す」と「同じ質問をする」は別

公平に機会を設けることと、全員に同じ話し方を求めることは違います。初対面でも率直に話す先生もいれば、時間をかけて関係をつくる先生もいます。

短い対話を好む人、事前に話題が分かると安心する人、口頭より文章の方が考えを整理しやすい人もいます。校長側のやりやすさだけで形式を決めないことです。

例えば「10〜15分程度を目安にしています。話したいことがあれば事前にメモしていただいても構いません」と案内します。時間は実務上の一例であり、標準時間ではありません。相談の内容に応じて、別日に改めて時間を取ることも考えます。

3.最初の質問は「困りごとはありませんか」だけにしない

「何か困っていることはありませんか」と尋ねると、「特にありません」と返ってくることがあります。校長と話すこと自体に緊張している場合、その答えだけで問題がないと判断できません。

「今年度、うまく進んでいると感じる仕事はありますか」「最近、少し時間がかかっている仕事は何でしょうか」「学校として続けてほしいことはありますか」と、答えやすい具体的な問いを用意します。

最初から弱みや不満を求めるのではなく、相手が大切にしている実践や学校のよさも聴きます。教職員の強みを把握することは、後の役割分担や支援を考える材料にもなります。

4.答えを急がず、まず事実と受け止めを分ける

例えば「学年の仕事がうまく回っていません」と言われたとします。校長がすぐに「主任とよく相談してください」と返すと、本人が何に困っているかを把握できません。

「どの仕事が滞っていますか」「いつ頃からでしょうか」「今、どのように対応していますか」と状況を確認します。そのうえで「一人で抱えている感覚があるのですね」と受け止めを確かめます。

事実を確認することと、気持ちを否定しないことは両立します。相手の話をそのまま事実認定する必要はありませんが、最初から反論すると、次の情報が出てこなくなるおそれがあります。

5.校長の経験談を話す前に一度確かめる

校長には、教諭、主任、教頭などの経験があります。その経験を伝えることが相手の助けになる場面もあります。しかし「私が担任だったときは」と話し始めた瞬間、相手の相談が校長の成功談に置き換わることがあります。

助言をしたいときは「私の経験を一つお伝えしてもよいですか」と尋ねる方法があります。そして、経験を唯一の正解として示さず「今の学校や学級にそのまま当てはまるとは限りません」と付け加えます。

教職員に考える余地を残すことが大切です。助言した後にも「今の話は、役に立ちそうですか」「別の方法の方がよいでしょうか」と確認します。

6.若手教員には「頑張っているね」だけで終わらせない

経験の浅い先生が「授業準備が終わりません」と話したとします。「最初はみんな大変だから、頑張って」と励ますだけでは、負担の原因が変わりません。

授業準備、教材研究、保護者連絡、提出物処理のどこに時間がかかっているのかを確認します。教科内で教材を共有できるか、学年で連絡文を共通化できるか、授業づくりの相談相手を確保できるかを考えます。

本人の力量を高める支援と、仕事の仕組みを整える支援は別です。成長を期待することを理由に、過重な負担を放置しないことが校長の仕事です。

7.ミドル教員には「頼りにしています」の先を聴く

学年主任や教務主任を務める先生は、校長から期待される一方、担任業務や後輩支援なども抱えていることがあります。「あなたがいてくれて助かります」という言葉だけでは、仕事の集中に気付けません。

「今の役割で、特に負担の大きい仕事は何ですか」「ほかの人と分担できることはありますか」「判断を管理職に戻した方がよいことはありますか」と尋ねます。

優秀な人に任せることと、その人に依存することは違います。新しい役割をお願いするなら、何を減らすかも同時に検討します。感謝を伝えるだけでなく、具体的な業務調整につなげます。

8.ベテラン教員の経験を「便利な資源」にしない

ベテランの先生に対して、校長が「若手の面倒を見てください」「学校を支えてください」と一方的に頼むことがあります。経験を生かしてもらう意義はありますが、本人の事情や希望を確認せずに役割を増やすのは適切ではありません。

「今後、どのような仕事に力を注ぎたいですか」「経験を共有するとしたら、無理のない方法は何でしょうか」と聴きます。個別指導を一人で抱えるのではなく、複数人で教材を共有するなど、負担を分散する方法もあります。

役割を引き受けないことを、協力する気持ちがないことと同一視しない姿勢が必要です。

9.「話したくないこと」を無理に聞き出さない

家庭の事情、健康状態、人間関係など、仕事に影響することがあっても、すべてを校長に詳しく話したいとは限りません。面談の場で私生活を詮索したり、理由の説明を強いたりしないことです。

「業務上、配慮や調整が必要なことがあれば、話せる範囲で教えてください」と伝えます。必要な配慮については、本人の意向と設置者の手続を確認しながら対応します。

健康上の問題が疑われる場合も、校長が診断するわけではありません。必要に応じて産業保健スタッフや教育委員会の担当部署など、適切な相談先につなぎます。

10.守秘について「絶対に誰にも言わない」と約束しない

相談を受ける際、「ここだけの話にします」と簡単に約束するのは危険です。児童生徒の安全、ハラスメント、法令違反などが関係する場合には、関係者への報告や組織的対応が必要になることがあります。

最初に「お話は必要な範囲で慎重に扱います。ただし、安全や権利に関わる内容など、対応のために関係者との共有が必要な場合があります」と説明しておきます。

共有する際は、何を、誰に、何のために伝えるかをできる限り明確にします。面談記録の保存や閲覧範囲も、設置者の規程や個人情報保護のルールに従います。校長の個人的なメモだから自由に扱える、とは考えないことです。

11.職員同士の対立を聞いたときは即断しない

「同じ学年の先生と仕事が進められません」と相談されたとします。校長が一方の話だけを聞いて「相手の先生に注意しておきます」と答えると、関係がかえって悪化することがあります。

まず、どの場面で、どのような支障が起きているのかを確認します。必要に応じて別の関係者からも事情を聴き、業務分担や連絡方法など、組織として調整できることを探します。

一方、ハラスメントや安全上の懸念がある場合は、単なる人間関係の問題として片付けず、設置者の規程に沿って適切な対応を進めます。「双方に原因があるはず」と最初から決め付けないことも重要です。

12.校長への批判を聞いたときこそ試される

「校長先生の説明では、何を優先すればよいのか分かりません」。そんな指摘を受けたとき、校長は自分の意図を説明したくなるものです。

しかし、まずは「どの場面で判断に迷いましたか」と聴いてみます。説明不足だったのか、方針に矛盾があったのか、現場に必要な時間や条件がなかったのかを確認します。

拙著では、管理職1年目に、自分の助言が教職員に「圧」として受け取られていると伝えられた経験を書きました。善意だったという説明で終わらせず、相手にどう届いたかを振り返ることが必要です。耳の痛い意見を受け取れるかどうかは、次の対話の質に関わります。

13.沈黙を「同意」と受け取らない

校長が「これでよいですか」と尋ね、相手がうなずいたからといって、納得したとは限りません。上下関係のある対話では、反対意見を言うこと自体に負担を感じる人もいます。

「今の案で困ることがあれば教えてください」「実行するとき、何が障害になりそうですか」と、具体的な懸念を尋ねます。すぐに答えが出なければ「後から気付いたことがあれば伝えてください」と時間を置きます。

沈黙を埋めようとして校長が話し続けると、考える時間まで奪ってしまいます。短い間を置くことも、相手への敬意の一つです。

14.研究が示す「発言しにくさ」への注意

三沢良・鎌田雅史(2022)は、公立学校の常勤教諭783人の調査から、率直な発言によって否定的に見られる不安などと、職員室の心理的安全性との関連を検討しました。発言しにくさは、単に教職員個人の性格の問題として片付けられません。

また、三沢良・鎌田雅史(2024)は、校長のエンパワリング・リーダーシップと教師の組織的学びの関係について、心理的安全性を介した関連が示唆されると報告しています。

いずれも研究上の関連を示すもので、「校長が面談を増やせば必ず改善する」という因果効果を保証するものではありません。それでも、校長が意見を受け止める態度や、教職員が声を出せる環境を見直す根拠になります。

15.話を聴いた後に「何をするか」を明確にする

面談で困りごとを聴いても、何も変わらなければ「話しても仕方がない」と感じられることがあります。すべての要望を実現する必要はありませんが、校長が何を検討するのかは伝えたいものです。

例えば「その業務が集中していることは分かりました。教頭と分担を確認し、来週中に対応の方向をお伝えします」と返します。実行できない場合も「この理由で今回は難しい。ただし、この部分は調整できる」と説明します。

「検討します」と言ったまま放置しないことです。小さな約束を守ることが、次の相談のしやすさにつながります。

16.面談記録は人物評価の材料集めにしない

対話の後にメモを残すことは有用です。しかし「不満が多い」「協調性に欠ける」など、校長の主観的なラベルを付けるのは避けたいものです。

記録するなら、本人が相談した業務上の課題、校長が約束した対応、確認期限など、必要最小限の事実を中心にします。相談内容を本人の了解なく会議で披露することも避けます。

正式な人事評価や研修に関する対話では、設置者が定める手続や記録方法が優先されます。日常の1対1対話を、それらと混同しないことです。

17.校長と教頭で情報共有の線引きを決める

教職員から聴いた内容のすべてを教頭に伝える必要はありません。一方、校長だけが抱え込み、必要な業務調整が進まないのも問題です。

例えば、学年会議の時間確保が課題なら、個人の詳細な発言を伝えずに「学年の打合せ時間を確保する必要がある」と共有できます。具体的な事案への対応が必要な場合は、共有の範囲や本人への説明を検討します。

校長は対話の窓口を独占するのではなく、教頭、主任、相談担当者など、複数の相談経路が機能するよう整えます。校長に直接話せない人にも、声を届ける方法が必要です。

18.時間を増やす前に、会議や業務を見直す

「全員と丁寧に面談する」と決めても、その時間を教職員の休憩時間や勤務時間外に当然のように求めてはいけません。校長自身も面談を詰め込みすぎれば、緊急対応や授業観察に支障が出ます。

既存の会議や個別の打合せを整理し、勤務時間内に短い対話を組み込めるか考えます。全員に一律の長時間面談を設定するより、まず短く話し、必要な人には改めて時間を確保する方法もあります。

文部科学省の校長の資質向上に関する指針では、教職員が意欲と能力を発揮できる環境づくりや働き方改革の視点が重視されています。対話のために過重な仕事を増やさないことも、学校経営の一部です。

19.2年目は「聴いたことが学校にどう反映されたか」を確かめる

1年目は、教職員の実情を知り、信頼の土台をつくることに力を注ぎます。2年目は、対話から見えた課題が、学校の仕事の進め方に反映されたかを確かめます。

例えば、若手の教材準備が負担になっていると分かったなら、教材共有の仕組みが動いているか。主任に仕事が集中していたなら、役割分担が改善されたか。意見が出にくかった会議なら、提案や異論が出るようになったかを振り返ります。

面談の回数や実施率だけを成果にしないことです。教職員の声を聞いて、必要な判断や改善につなげられたかを見ます。

20.明日から使える対話の進め方

最初の数分では、最近の仕事で手応えを感じたことを尋ねます。次に、負担や困りごとを具体的な業務に即して確認します。最後に、校長や学校にしてほしい支援と、校長が持ち帰る事項を整理します。

例えば「最近、授業でよかったと思う場面はありましたか」「今、時間が足りないと感じるのはどんな仕事ですか」「私たち管理職が変えた方がよいことはありますか」と尋ねます。

終わりには「今日はここまでのお話を伺いました。私が確認するのはこの点です。ほかに話したいことがあれば、別の機会でも構いません」と返します。相手の発言を、校長の期待する答えに誘導しないことが基本です。

21.校長自身も振り返る

面談を終えたら、相手がどれだけ話したかだけでなく、自分の態度を振り返ります。「相手の話を途中で遮らなかったか」「すぐに助言していなかったか」「自分に都合の悪い話題を避けなかったか」「次の行動を曖昧にしなかったか」という問いです。

自分では丁寧に接しているつもりでも、相手の受け止めは異なる場合があります。校長の立場には、言葉そのもの以上の影響力があります。だからこそ、話し方の技術以前に、相手の仕事と人格への敬意が必要です。

校長がすべてを解決する必要はありません。ただ、教職員が困ったときに「相談してみよう」と思える学校に近づけることはできます。最初の2年間で積み上げたいのは、面談の実施記録よりも、そのような日常の関係です。

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※本文中の対話の進め方や時間配分は実務上の提案であり、法令上の義務や特定自治体の人事評価制度を示すものではありません。

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