教頭最初の2年間でやっておくこと③|「仕事の入口」を整える仕組みづくり

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朝、職員室に入ると、机の上には前日からの書類が残っています。電話が鳴り、保護者から相談が入ります。教育委員会からは調査の依頼が届き、教務主任からは行事の日程について判断を求められます。

その間に、教職員から「教頭先生、少しよろしいですか」と声をかけられます。

気がつくと、今日やろうと思っていた仕事には一つも手を付けられていない。そんな日が続くと、「自分の段取りが悪いのだろうか」と考えてしまうかもしれません。

しかし、教頭の仕事には、そもそも予定外の依頼が集まりやすいという特徴があります。自分の処理速度を上げるだけでは、解決しない問題もあります。

最初の2年間で身に付けたいのは、すべての仕事を自分で片付ける能力ではなく、仕事が学校に入ってきた瞬間に、必要な対応と担当を整理する力です。

第1回では着任直後の仕事の見取り、第2回では校長への報告・相談・決裁の線引きを扱いました。今回は、教頭の机に仕事が積み上がり続ける状態を、学校全体の仕組みとして改善する方法を考えます。

1.忙しさを個人の能力の問題にしない

教頭の一日は、計画どおりに進まないことが少なくありません。授業を担当する教員と異なり、学校の外から入ってくる依頼や校内の調整を、まず受け止める場面が多いからです。

私も教頭の仕事を経験し、電話、文書、相談、突発的な対応が次々に重なる難しさを感じました。

ここで「もっと早く処理しなければ」と考えるだけでは、仕事の総量も、依頼の流れも変わりません。教頭の能力が高まるほど、「あの人に頼めば早い」と仕事が集まることさえあります。

大切なのは、仕事が入ってきたときに、教頭が担う必要があるもの、担当者と進めるもの、校長の判断を要するもの、学校以外の協力が必要なものを分けることです。

学校の仕事は、教頭一人の頑張りで成立させるものではありません。

2.「仕事の入口」を五つの項目で確認する

新しい依頼を受けたら、私はまず五つを確認する方法を勧めます。「何を」「何のために」「いつまでに」「誰が」「誰の判断で」です。

例えば、「金曜日までに資料をお願いします」と言われたら、資料の目的は何か、どの範囲の情報が必要か、誰が原案を作るのか、誰が確認するのかを確かめます。

期限だけを聞いて引き受けると、後から追加の作業が生まれます。依頼者自身が目的を整理できていない場合もあります。

「何を確認するための資料でしょうか。既存の一覧で足りますか」と聞くだけで、仕事が小さくなることがあります。

五つの項目は、国が定めた様式ではありません。私が提案する実務上の確認方法です。すべての依頼に書類を作る必要はなく、口頭で確認できることも多いでしょう。

3.緊急と重要を同じ意味にしない

「急ぎです」と言われると、手元の仕事を止めて対応したくなります。しかし、相手の希望する期限と、学校が優先すべき順番は必ずしも一致しません。

児童生徒の生命・身体の安全に関わること、重大な権利侵害が疑われることなどは、速やかな初動が必要です。関係する法令や設置者の手順を優先し、必要な報告・連携を行います。

一方、来週の会議資料の体裁を整えることや、年度末の参考資料を早めに作ることは、必要でも直ちに他の仕事を中断する理由にはならない場合があります。

私は、「今すぐ対応する」「今日中に方向を決める」「期限までに計画して進める」の三つに分けると整理しやすいと考えます。

これは危機対応を単純化するための分類ではありません。安全に関わる兆候があるときは、分類表に当てはめる前に初動を取ります。

4.すべての依頼にその場で「はい」と言わない

新任教頭は、頼られることがうれしい反面、断ることに不安を感じるかもしれません。

「分かりました。私がやります」と答え続けると、仕事の行き先が教頭に固定されます。

その場で引き受けられない場合には、「目的と期限を確認して、今日の午後に担当と進め方をお伝えします」と返す方法があります。

これは依頼を拒否しているのではありません。実行可能な約束をするための返答です。

もちろん、相手が児童生徒の安全に関する緊急の相談をしているなら、保留するのではなく必要な対応を優先します。

即答しないことと、放置することは違います。 判断する時刻を伝え、必ず返答することが信頼につながります。

5.場面① 教育委員会から急な調査が届く

例えば、翌日を期限とする調査依頼が届いたとします。教頭がすべての数値を調べ、集計し、入力することが最善とは限りません。

まず通知文を読み、目的、対象、提出形式、根拠となる資料、提出先を確認します。既存の校務支援システムや保存済みの集計表で回答できないかを探します。

そのうえで、教務主任、事務職員、関係分掌などの専門性と権限を確認し、必要な範囲で役割を相談します。

ただし、「事務職員に渡せばよい」という意味ではありません。事務職員にも担当業務があり、職務分担や情報へのアクセス権限も異なります。

「この項目は既存データから確認できますか。難しければ教育委員会へ照会します」と、作業の可否を一緒に判断します。

回答の正確性と提出責任を曖昧にせず、個人情報を必要以上に共有しないことも欠かせません。

6.場面② 保護者から長時間の電話が入る

保護者から「今日中に校長先生と話したい」と電話が入ったとします。

最初に行うのは、相手の話を遮って予定を調整することではありません。何が起きたのか、児童生徒の安全に差し迫った問題があるのかを確認することです。

そのうえで、教頭が事実確認を行うのか、校長に直ちにつなぐのか、担任や学年主任と情報を整理するのかを判断します。

「お話の内容は受け止めました。まず事実関係を確認し、本日何時までに学校からご連絡します」と伝えられる場合もあります。

一方、生命・身体への危険や重大な事案が疑われる場合は、通常の折り返し対応にせず、学校の危機管理手順に従って動きます。

電話を長く続けること自体が誠実さの証明ではありません。必要な情報を聴き、学校として責任をもって次の対応につなぐことが大切です。

7.場面③ 主任から「全部見てください」と頼まれる

教務主任から、行事の案内文、当日の動線、保護者への周知、時間割変更まで一式を持ち込まれたとします。

教頭がすべてを点検すると安心かもしれませんが、主任が主体的に判断できる部分まで教頭の確認待ちになってしまうおそれがあります。

そこで、「安全面と対外的な説明は管理職で確認します。時間割の調整は教務で原案をまとめてください。難しい点は一緒に考えましょう」と役割を分けます。

校長の決裁や設置者の手続が必要な事項は、もちろん省略しません。

任せるとは、確認をしなくなることではありません。どこまで任せるか、どこで管理職が判断するかを明らかにすることです。

主任の経験が浅い場合には、完成した案だけを求めず、途中で相談できる時点も決めます。

8.場面④ 教職員の欠員が生じる

朝、教職員の急な欠勤が分かったとします。時間割変更、児童生徒への説明、保護者への連絡、授業の代替などが一度に必要になることがあります。

まず当日の児童生徒の安全と授業の成立を確認し、必要な担当を決めます。教頭が代替授業を担当することもあるでしょう。

しかし、それが数週間続く場合は別の問題です。毎日、同じ教員が空き時間を失う状態を続けてはいけません。

教頭は校長と相談し、教育委員会への応援要請や代替人員の確保、校務分掌の変更、会議や行事の見直しなど、学校だけでは解決できない課題を整理します。

「今日を乗り切るための対応」と「来週以降も続けられる体制」は分けて考えます。

欠員の事情や本人の健康情報を、不必要に校内へ広げないことも重要です。

9.「誰に任せるか」より「何を減らすか」を先に考える

仕事を教頭から他の教職員へ移せば、それだけで業務改善になるわけではありません。単に負担の場所が変わるだけなら、学校全体は楽になりません。

例えば、学年主任に新しい調整業務をお願いするなら、従来の資料作成や会議準備を減らせないか考えます。

ベテラン教員に若手の支援を頼むなら、相談の時間を勤務時間内に確保できるか確認します。

教頭が「私が忙しいからお願い」と言うのではなく、「学校全体としてこの仕事をどのように担うか」と考えることが必要です。

役割を増やす前に、やめること、簡素化すること、統合することを探します。教育活動の質と教職員の健康を、どちらか一方の犠牲で成り立たせないためです。

10.共有表は「監視表」にしない

仕事の入口を整理するため、校内で共有できる業務一覧を用意する方法があります。

項目は「案件名」「担当」「期限」「次の確認日」「管理職の判断待ちかどうか」程度で十分なこともあります。

一覧を作る目的は、誰が遅れているかを探すことではありません。依頼が宙に浮いていないか、同じ人に集中していないかを確認することです。

「担当者が空欄の案件が三つある」「同じ主任に今週五件の期限が重なっている」と気づけば、先に調整できます。

ただし、児童生徒の相談内容、健康情報、人事情報などを一般の共有表へ記載してはいけません。機微な情報は所定の管理方法で扱い、共有表には案件の存在や担当など必要最小限の情報だけを載せます。

新しい表を作ることで仕事が増えるなら、既存の校務支援ツールや会議記録を活用します。

11.期限を一つではなく三つに分ける

外部への提出期限が金曜日だとしても、木曜日に原案ができればよいとは限りません。

私は「原案の期限」「確認の期限」「提出の期限」を分けて考えることを勧めます。

例えば、金曜日の午後に提出する資料なら、水曜日に原案、木曜日に管理職確認、金曜日に提出とする方法があります。

もちろん、内容や分量によって必要な時間は異なります。短い報告に一律の三段階を求める必要はありません。

重要なのは、最終期限から逆算して、誰の作業がいつ必要になるかを見えるようにすることです。

教頭がすべての原案を自分で作ると、確認する時間がなくなります。確認すべき事項を見極め、誤りや説明不足を防ぐことも教頭の仕事です。

12.校長との十分間で優先順位をそろえる

前回は校長への報告・相談・決裁の線引きを扱いました。今回は、仕事の優先順位をそろえるための対話です。

例えば、朝の短い打ち合わせで「今日、判断が必要なこと」「今週、期限が重なること」「教職員の負担が気になること」を共有します。

「この調査と行事準備が重なっています。行事準備は来週に移し、今日は調査の正確性を優先したいです」と、教頭から案を示します。

校長には、優先順位を決めるだけでなく、必要な業務の中止や縮小を判断してもらうこともあります。

教頭が現場の実態を伝え、校長が学校経営上の判断を行う。二人の役割がかみ合うと、教職員への指示も整理されます。

打ち合わせが報告の読み上げだけで終わらないようにしたいものです。

13.仕事を頼む言葉を具体的にする

「これ、お願いできますか」という依頼は、便利ですが曖昧です。

依頼を受けた人は、どこまでやればよいのか、いつ相談すればよいのか、完成形が分からないことがあります。

例えば、「来週の校外学習の案内文を作ってください。安全に関わる部分は私が確認します。水曜日の昼までに原案を見せてください」と伝えます。

さらに、「ほかの仕事と重なるようなら、今ここで教えてください」と加えます。

これは細かく管理するためではありません。依頼の条件をそろえ、相手が安心して仕事を進められるようにするためです。

相手が「今週は難しいです」と言ったら、やる気の問題と決めつけず、現在の業務を確認します。必要なら期限や担当を見直します。

14.「できません」と言われたときに確かめる

教職員が新しい仕事を引き受けられないと言うと、教頭は困ることがあります。

しかし、「できません」の背景はさまざまです。時間が足りないのか、経験がないのか、目的が分からないのか、ほかの仕事との優先順位が決められないのか。

まず、「どの部分が難しそうですか」と尋ねます。

「原案は作れますが、保護者への説明は不安です」という返答なら、原案作成を任せ、説明は管理職が担う方法があります。

「今週は学年の対応が重なっています」という場合は、依頼の時期をずらすか、別の担当を探すことも考えられます。

ただし、本人の健康や家庭事情について、必要以上に説明を求めない配慮が必要です。

仕事を任せることと、相手に無理をさせることを混同しないようにします。

15.文部科学省の「学校と教師の業務の3分類」を生かす

令和7年9月25日改正の文部科学省指針では、学校と教師の業務を「学校以外が担うべき業務」「教師以外が積極的に参画すべき業務」「教師の業務だが負担軽減を促進すべき業務」に整理しています。

これは、すべての仕事を教員や教頭の努力で抱え込まないための重要な考え方です。

例えば、調査・統計等への回答は、教師以外の職員の参画を検討すべき業務に含まれます。ICT機器の保守管理なども、担当者一人に任せ続けるのではなく、適切な支援体制を考える対象です。

ただし、指針の分類を見ただけで、個々の学校の担当や権限が自動的に決まるわけではありません。教育委員会の方針、職務規程、実際の人員配置を確認し、責任体制を明確にして進めます。

「これは誰の仕事か」という問いを、「どうすれば学校として適切に担えるか」という問いに変えていきます。

16.働き方改革を退勤時刻だけで判断しない

同じ指針では、教育委員会と学校管理職が業務分担の見直しや適正化、必要な環境整備に取り組み、教育職員の健康を守る必要性が示されています。

時間外在校等時間の上限の原則も示されていますが、上限まで働くことを勧めるものではありません。

「早く帰りましょう」と呼びかけるだけで、提出物や会議が減らなければ、仕事が持ち帰りになるだけかもしれません。

教頭自身の勤務状況も同様です。毎日遅くまで残ることを、学校を支える当然の姿にしてはいけません。

時間の記録とともに、どの仕事が増えているのか、どこで判断待ちが起きているのか、どの人に負担が偏っているのかを確認します。

働き方改革は、個人の頑張り方を変えるだけではなく、仕事の設計を変えることでもあります。

17.研究から学ぶ「担当の隙間」

石川勝久・棚野勝文(2026)の研究では、高等学校の組織開発の実践を通じて、担当が曖昧な「機能の隙間」に着目し、協働体制を整える試みが報告されています。

特定の学校での実践研究であり、すべての学校に同じ方法が有効だと証明したものではありません。

それでも、「担当が決まっていない仕事が、結果として特定の人に集まる」という問題を考える手がかりになります。

学校では、正式な校務分掌表に載っていない仕事も生まれます。外部との連絡、年度途中の調整、複数の分掌にまたがる課題などです。

そのたびに教頭が引き取るのではなく、どの機能が不足しているのかを確かめ、必要なら校務分掌や連絡経路を見直します。

新しい会議を増やす前に、既存の組織で対応できないか考えることも必要です。

18.教頭が休んでも止まらない仕組みをつくる

教頭しか知らないパスワード、教頭の机にしかない資料、教頭だけが把握している外部との約束。

こうした状態では、教頭が休んだときに学校の仕事が止まります。

必要な情報は、設置者の情報セキュリティ方針に従って、適切な権限のある人が確認できる場所に保管します。個人のパスワードを共有するという意味ではありません。

連絡先、年間の提出予定、承認経路、代行時の連絡方法などを整理します。

特に、急な欠勤や災害時に誰が一次対応するかは、校長と確認しておきます。

「自分がいなければ学校が回らない」という状態は、責任感の証明ではありません。学校として改善すべきリスクです。

最初の1年で仕事の流れを把握し、2年目には引き継げる形にしていきます。

19.最初の一か月にできる小さな改善

いきなり校務分掌を全面的に作り替える必要はありません。

最初の週は、教頭のところに入ってきた依頼を、個人情報に配慮しながら簡単に記録します。何の仕事か、誰から来たか、期限はいつか、どこで止まったかを振り返ります。

次の週は、繰り返し発生する依頼を三つ選び、担当や確認の手順を整理します。

三週目には、校長と「教頭が判断する仕事」「校長が判断する仕事」「担当者が原案を作る仕事」を確認します。

四週目には、教職員へ必要な範囲で伝え、運用してみます。

一か月で成果を決めつける必要はありません。記録や打ち合わせにかかる時間が増えすぎていないかも確かめます。

少しずつ改善を重ね、2年目に学校の仕組みとして定着させることを目指します。

20.仕事の量だけでなく、教職員との関係も守る

仕事の整理を始めると、教頭が効率ばかりを考えているように見えることがあります。

「その話は担当者へ」と繰り返すだけでは、相談した人が突き放されたと感じるかもしれません。

大切なのは、話を聴くことと、仕事を全部引き受けることを分けることです。

「困っていることは分かりました。一緒に進め方を考えましょう。ただ、この仕事を私一人で抱えるより、担当者と役割を分けた方が確実だと思います」と伝えられます。

拙著『管理職への道を考え始めた先生へ』では、教頭と校長の関係性、対話の大切さ、教頭の仕事の幅広さを取り上げました。教頭は人と人をつなぎ、学校を動かす立場でもあります。

仕事の入口を整えることは、対話を減らすためではありません。必要な対話に時間を使えるようにするためです。

おわりに

教頭になって最初の頃は、仕事を任されるたびに、期待に応えようと頑張るものです。

その姿勢は大切です。しかし、教頭一人が何でも処理する学校をつくってしまうと、次の教頭も、教職員も、同じ苦しさを引き継ぐことになります。

仕事の目的を確認する。期限と担当を明確にする。校長と優先順位をそろえる。必要な仕事を残し、不要な仕事を減らす。そして、教職員が相談しやすい関係を守る。

最初の2年間に、そうした小さな仕組みを一つずつ整えていきたいものです。

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※本記事の仕事の整理方法や会話例は筆者による実務上の提案であり、法令上の統一的な手続を示すものではありません。具体的な決裁権限、職務分担、情報管理は設置者の規程を優先してください。

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