進路指導主事になったら最初に考えること

この記事は約20分で読めます。

進路指導主事の仕事で最も大切なのは、入試事務を間違いなく処理することだけではありません。
一人ひとりの生徒が、自分の生き方を考え、必要な情報を得て、納得して次の進路を選択できるよう、学校全体の進路指導を組織することです。
もちろん、入試に関する手続きには高い正確性が求められます。
締切を間違えない。
書類を間違えない。
必要な情報を確実に伝える。
これは進路指導主事として当然大切です。
しかし、それだけでは進路指導とは言えません。
文部科学省は、キャリア教育について、生徒が「学ぶこと」と自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に必要な資質・能力を身に付ける教育として位置付けています。その中で進路指導は、生徒が自らの生き方を考え、主体的に進路を選択できるよう、学校の教育活動全体を通して組織的・計画的に行うものとされています。(文部科学省)
進路指導主事になったら、まずこの原点から考えたいところです。

1.次期学習指導要領を見据えた進路指導主事の役割

2026年現在、次期学習指導要領に向けた検討が進んでいます。
その中でキャリア教育についても、かなり具体的な議論が始まっています。
2026年6月の文部科学省資料では、キャリア教育について、特別活動を「要」としながら、各教科等が社会や職業とのつながりを意識した学びを担うこと、総合的な学習の時間では実社会との関わりの中で探究することなど、学校教育全体でキャリア教育を進める方向が検討されています。(文部科学省)
これは進路指導主事にとって重要な動きです。
これからの進路指導主事は、
「3年生の高校入試を担当する人」
だけではありません。
1年生から3年生までの学び。
各教科。
特別活動。
総合的な学習の時間。
学校行事。
職場体験。
生徒会活動。
日々の学級活動。
それらが、生徒の自己理解や将来の選択にどうつながっているのかを見る必要があります。
さらに次期学習指導要領の検討では、各教科等で「社会や職業とのつながり」を意識した学びを一層重視する方向も示されています。(文部科学省)
進路指導主事の仕事は、入試情報を集める仕事から、
学校全体の学びと、生徒の未来をつなぐ仕事へ。
この視点を持つことが、これからますます重要になります。
ただし、2026年8月現在、次期学習指導要領はまだ確定していません。
検討中の内容を確定事項として扱わず、現行制度を正確に運用しながら、文部科学省の一次資料で動向を継続して確認する必要があります。(文部科学省)

2.進路指導主事の役割

学校教育法施行規則では、進路指導主事は、校長の監督を受け、生徒の職業選択その他の進路の指導に関する事項を担い、それについて連絡調整及び指導・助言に当たる職として位置付けられています。(文部科学省)
ここで重要なのは、
「連絡調整及び指導・助言」
という部分です。
進路指導主事が、すべての生徒の進路を一人で指導するわけではありません。
担任。
学年主任。
管理職。
各教科担当。
養護教諭。
特別支援教育コーディネーター。
必要に応じてスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、関係機関。
そして保護者。
さまざまな人をつなぎながら、学校全体として進路指導を進めます。
文部科学省も、進路指導に関する学校の方針を校長のリーダーシップの下で組織的に決定し、全教職員で共有すること、進路指導主事等と教員の責任と役割を明確にし、相互に連携して対応することを求めています。(文部科学省)
進路指導主事は「進路を決める人」ではなく、「学校の進路指導を組織する人」です。

3.進路指導を「高校受験指導」だけにしない

中学校で「進路指導」というと、どうしても3年生の高校受験が中心になります。
もちろん、それは重要な仕事です。
しかし、進路指導と高校入試指導は同じではありません。
『生徒指導提要』では、キャリア教育の中に進路指導が包含されていることが明確に整理されています。(文部科学省)
「どの高校を受けるか」
だけではなく、
自分は何に関心があるのか。
何が得意なのか。
何を学びたいのか。
どのような環境で学びたいのか。
何を大切にして生きたいのか。
社会とどのように関わりたいのか。
こうしたことを考えながら、最後に具体的な進路選択へつなげていきます。
高校名を決めることは、進路指導のゴールではありません。
中学校卒業後の選択は、その生徒の長い人生の中の一つの選択です。

4.最初に3年間を見渡す

進路指導主事になったら、最初に3年生の入試日程を見るだけではなく、中学校3年間のキャリア教育と進路指導を見渡します。
文部科学省の2023年版『中学校・高等学校キャリア教育の手引き』でも、中学校におけるキャリア教育を学校全体で計画的に推進することが整理されています。(文部科学省)
1年生ではどのような自己理解を行っているでしょうか。
2年生ではどのような社会体験や職場体験を行っているでしょうか。
3年生では、それまでの学びをどのように具体的な進路選択へつないでいるでしょうか。
各学年の取組が別々の行事になっていないでしょうか。
例えば職場体験も、
「2年生で毎年実施している行事」
になってしまえば、それだけでは十分ではありません。
その前に何を考えますか。
体験中に何を学びますか。
体験後に何を振り返りますか。
その学びを3年生の進路選択にどうつなげますか。
進路指導主事には、
3年間を一本の線として見る視点
が必要です。

5.前年度の資料を「正解」にしない

前年度の引継ぎ資料は重要です。
年間予定。
進路説明会資料。
進路希望調査。
進路便り。
進路会議資料。
入試関係資料。
奨学金等の資料。
各種様式。
まず全体を確認します。
しかし、
「昨年度もこうしていたから」
だけで進めないことが大切です。
入試制度は変わります。
出願方法も変わります。
高校の学科やコースが変わることもあります。
募集人員も変わります。
授業料支援制度や奨学金制度も変わります。
学校説明会の申込み方法も変化します。
したがって、
前年度資料は仕事の流れを知るために使い、今年度の制度は今年度の一次資料で確認する。
これを徹底します。
過去の入試要項を、そのまま今年度の根拠として使ってはいけません。

6.管理職と進路指導の方針を共有する

年度当初に、校長、教頭、学年主任等と、進路指導の基本方針を確認します。
どのような進路指導を目指すのか。
誰が何を決定するのか。
進路会議をどのように運営するのか。
推薦等に関する判断をどのように行うのか。
重要な情報をどのような手順で生徒・保護者へ伝えるのか。
個別案件をどの段階で管理職へ報告するのか。
ここを曖昧にしないことが重要です。
文部科学省も、推薦の可否などを含む進路指導上の重要な方針について、校長のリーダーシップの下で組織的に決定し、全教職員で共有するよう示しています。(文部科学省)
進路指導主事個人の判断で学校の方針が決まる状態は避けます。
重要な判断ほど、個人ではなく組織で決めます。

7.年間計画は「先手必勝」ではなく「見通し」でつくる

進路指導では、早めの準備が重要です。
しかし、「何でも前倒しすればよい」ということではありません。
大切なのは、
必要なときに、必要な情報を、必要な人へ届けられるよう逆算することです。
年度当初。
1学期。
夏季休業。
2学期前半。
進路希望を具体化する時期。
出願準備期。
入試期。
卒業・進学準備期。
大きな時期ごとに整理します。
そして、
いつ学校説明会の情報を出すのか。
いつ進路希望を確認するのか。
いつ保護者説明会をするのか。
いつ三者面談を行うのか。
いつ入試要項を確認するのか。
いつ校内で情報共有するのか。
を逆算します。
全国向けの記事では、具体的な「○月○日にこれをする」という固定的な日程は示しすぎない方が安全です。
入学者選抜の日程や制度は都道府県等によって異なるからです。
日付を覚えるのではなく、仕事の流れを理解することが大切です。

8.進路指導を一人の記憶力に依存させない

進路指導では、扱う情報が非常に多くなります。
そのため、
「あの件は自分が覚えています」
「この学校のことは○○先生しか分かりません」
という状態をつくらないことが大切です。
情報の保存場所を決めます。
ファイル名の付け方を統一します。
紙資料の保管ルールを決めます。
締切を一覧にします。
問い合わせた内容を記録します。
変更があれば更新日を残します。
誰が確認したのかも分かるようにします。
進路指導主事が不在でも、必要な人が必要な情報へたどり着ける状態にします。
進路指導の安全性は、担当者の注意力ではなく、仕組みで高めます。

9.生徒本人の意思を中心に置く

進路指導で最も大切にしたいことの一つが、
本人の意思です。
教師には経験があります。
保護者にも願いがあります。
しかし、実際にその進路先で学ぶのは生徒本人です。
教師が、
「あなたならこの学校」
「この成績ならここ」
と決めるのではありません。
保護者の希望だけで決めるものでもありません。
必要な情報を伝えます。
選択肢を示します。
メリットもデメリットも説明します。
現在の状況を客観的に伝えます。
そして、
「あなたはどうしたいですか」
と聞きます。
現行学習指導要領が求めているのも、生徒が自らの生き方を考え、主体的に進路を選択することです。(文部科学省)
進路指導は、教師が生徒をどこかへ「振り分ける」仕事ではありません。
生徒が自分で選択する力を支える仕事です。

10.保護者と「一緒に考える」

中学生の進路選択では、保護者との連携が欠かせません。
学費。
通学。
生活時間。
家庭の事情。
本人の希望。
保護者の願い。
さまざまな要素が関係します。
文部科学省のキャリア教育資料でも、家庭・地域等との連携が重要な要素として位置付けられています。(文部科学省)
ただし、
「保護者を説得する」
という発想だけにはしたくありません。
教師も保護者も、生徒の将来を考えているという点では同じです。
意見が違うときほど、
何を心配しているのか。
本人はどう考えているのか。
どの情報を共有できていないのか。
を整理します。
学校対家庭ではなく、生徒を中心に学校と家庭が一緒に考える。
この関係をつくることが重要です。

11.多様な進路を前提にする

中学校卒業後の進路は一つではありません。
全日制高校だけでもありません。
定時制。
通信制。
高等専門学校。
専修学校等。
就職。
その他にも、生徒の状況に応じたさまざまな学びの場があります。
重要なのは、
学校側が特定の進路を「普通」と決めないことです。
「みんな高校へ行くから」
「この成績ならこの学校」
ではなく、
その生徒にとって何が適しているのかを考えます。
現在の学校には、不登校経験のある生徒、障害のある生徒、外国につながる生徒など、多様な背景をもつ生徒がいます。次期学習指導要領に向けた高等学校入学者選抜の検討でも、こうした多様な背景をもつ生徒の個性や特性を踏まえた選抜の充実が論点になっています。(文部科学省)
進路指導主事には、
多様な選択肢を知っていること自体が専門性になります。

12.進路情報は必ず一次資料で確認する

進路指導では、情報の正確性が極めて重要です。
高校のWebサイト。
教育委員会の入学者選抜実施要項。
募集要項。
学校説明会の正式案内。
授業料や奨学金等の公的な案内。
まず一次資料を確認します。
インターネット上には、
「今年からこう変わるらしい」
「この高校はこうらしい」
という情報が大量にあります。
保護者や生徒がSNS等で得た情報を持ってくることもあります。
そのとき、
「それは間違っています」
と感覚で否定するのではなく、
「正式な資料を一緒に確認しましょう」
とします。
進路指導主事自身も、
「毎年そうだったから」
ではなく、
「今年度の実施要項にはどう書かれているか」
を確認します。

13.入試制度は都道府県・年度ごとに確認する

全国向けの進路指導の記事で、最も気を付けたいことの一つです。
公立高等学校の入学者選抜は、全国一律の同じ方法で実施されているわけではありません。
学力検査。
調査書。
面接。
実技。
推薦等。
それらの扱いは地域や選抜制度によって異なります。文部科学省も各都道府県等の高等学校入学者選抜について状況を調査しており、選抜方法には地域差があります。(文部科学省)
したがって、
「公立入試では必ず○○です」
「調査書は必ずこの割合です」
という全国一律の説明は避けます。
当該年度の当該自治体の正式な実施要項を確認する。
これを原則にします。

14.出願事務は「注意する」より「仕組みにする」

進路指導では、出願や必要書類に関する事務が発生します。
ここはミスが許されにくい仕事です。
だからこそ、
「絶対に間違えないように気を付ける」
だけでは不十分です。
複数で確認します。
チェック項目を統一します。
確認した人を記録します。
締切を一覧化します。
生徒・保護者から提出されたものと学校が確認したものを区別します。
変更があった場合の記録を残します。
口頭だけで重要事項を処理しません。
人は間違えるという前提で、間違いを止める仕組みをつくります。
進路指導主事一人が最後まで責任を背負う体制ではなく、管理職や学年と役割を分担しながら組織的に確認します。これは、文部科学省が求める組織的な進路指導の考え方とも一致します。(文部科学省)

15.デジタル化を前提に仕事を見直す

入試や学校説明会等の手続きでは、Web申込みやデジタルでの情報提供が広がっています。
そのため進路指導も、
「紙を配れば伝わる」
という前提だけでは進めにくくなっています。
学校Webサイトの確認方法。
申込み方法。
IDやパスワード等の管理。
期限。
保護者が操作する部分。
生徒が操作する部分。
学校が確認する部分。
これらを分けて説明します。
デジタル化によって便利になる一方、
端末環境。
通信環境。
保護者のデジタル利用環境。
日本語での情報取得に困難がある家庭。
などへの配慮も必要です。
デジタル化することと、誰もが手続きできることは同じではありません。
困ったときに学校へ相談できる窓口を残しておくことも重要です。

16.進路会議を「合格可能性を判定する場」だけにしない

進路会議では、学力や成績に目が向きます。
もちろん、受験校を検討するためには重要な情報です。
しかし、
「この点数だからこの高校」
だけで生徒を見るべきではありません。
本人の希望。
学びたい内容。
学校の特色。
通学。
生活リズム。
卒業後の進路。
必要な支援。
家庭の状況。
さまざまな要素があります。
進路会議は、
「その生徒が、なぜその進路を希望しているのか」を教職員が理解する場
でもあります。
教師が進路を決めるのではありません。
生徒と保護者がよりよく判断するために、学校として何を伝え、何を支援するかを考える会議にします。

17.数字は「判断材料」であって「結論」ではない

テストの点数。
評定。
模擬試験。
過去の入試結果。
これらは重要な資料です。
しかし、一つの数字だけで生徒の可能性を決めないことが大切です。
例えば、
「この点数だから無理です」
で終わるのではなく、
現在の状況を正確に伝えた上で、
「あと何が必要でしょう」
「残された期間に何ができますか」
「別の選択肢にはどのようなものがありますか」
と考えます。
反対に、
根拠なく、
「大丈夫です」
と言うことも適切ではありません。
進路指導で必要なのは、悲観させることでも楽観させることでもありません。
事実を伝え、その事実をもとに本人が判断できるよう支えることです。

18.進路説明会は情報を並べるだけにしない

進路説明会では、どうしても情報量が多くなります。
入試制度。
学校種。
日程。
提出物。
学費。
奨学金。
学校説明会。
注意事項。
すべて説明しようとすると、聞く側は整理できなくなります。
そこで、
「今日、必ず理解してほしいこと」
を絞ります。
詳細は進路冊子やWeb等で確認できるようにします。
そして、
今、何をする時期なのか。
次に何をするのか。
どこで最新情報を確認するのか。
困ったときに誰へ聞くのか。
を明確にします。
説明したことと、相手に伝わったことは同じではありません。
生徒・保護者が行動できる説明会にします。

19.進路便りは「学校からの正式な情報」にする

進路便りは非常に重要です。
高校説明会。
体験入学。
進路行事。
提出物。
入試制度。
奨学金。
進路選択について考える材料。
必要な情報を計画的に届けます。
ただし、
「頑張れ」
「絶対に負けるな」
といった精神論だけにしないことが大切です。
進路について不安を感じる生徒もいます。
家庭事情を抱える生徒もいます。
志望校を変更する生徒もいます。
結果が思いどおりにならない生徒もいます。
そのため、
誰が読んでも傷つきにくく、事実に基づき、次の行動が分かる文章
を心掛けます。
また、入試制度や日程などは、発行時点の一次資料で必ず確認します。

20.高校説明会・体験入学を「学校選び」の学習にする

学校説明会や体験入学は、単に高校へ行って雰囲気を見るだけの活動ではありません。
生徒が、
自分は何を学びたいのか。
学校に何を求めているのか。
何を比較すればよいのか。
を考える機会です。
「有名だから」
「友達が行くから」
「近いから」
だけではなく、
教育内容。
学校生活。
通学。
学科・コース。
卒業後の進路。
支援体制。
部活動。
学校の特色。
などを本人なりに比較します。
そのうえで、
「自分には何が合っているでしょう」
と考えます。
高校を調べることは、自分自身を調べることでもあります。

21.1年生・2年生から進路指導を始める

3年生になって、
「さあ、進路を考えましょう」
では遅すぎます。
文部科学省のキャリア教育の手引きでは、小学校から高等学校までの発達段階を踏まえ、体系的にキャリア教育を進めることが重視されています。中学校でも3年間を見通した取組が示されています。(文部科学省)
1年生では、
自分について考える。
学校で何を学んでいるのかを考える。
社会にはどのような仕事や役割があるかを知る。
2年生では、
社会との接点を広げる。
職場体験等を通して働くことを考える。
自分の興味・関心を深める。
3年生では、
これまでの経験を振り返りながら、具体的な進路を選択する。
このようにつなぎます。
進路指導主事は、
3年生の進路担当ではなく、3年間のキャリア教育をつなぐ役割
を意識したいところです。

22.「学ぶ意味」と進路をつなぐ

次期学習指導要領に向けた2026年の検討では、各教科等において、学ぶ意味や社会・キャリアとのつながりを意識した指導を一層重視する方向が示されています。(文部科学省)
これは非常に大切な視点です。
生徒から、
「この勉強は将来何の役に立つのですか」
と聞かれることがあります。
その答えを、
「高校入試に出るから」
だけにしないことです。
数学的に考えること。
文章を読み、根拠をもって説明すること。
科学的に検証すること。
社会の仕組みを理解すること。
外国語で他者とつながること。
ものをつくること。
表現すること。
学校で学ぶことは、その後の社会や人生とさまざまな形でつながっています。
進路指導主事だけがキャリア教育をするのではありません。
日々の授業そのものがキャリア教育につながります。

23.キャリア・パスポートを「書かせる作業」にしない

現行学習指導要領では、児童生徒が学習や生活を見通し、振り返り、将来の生き方を考える際に、活動を記録し蓄積する教材等を活用することが示され、「キャリア・パスポート」が活用されています。(文部科学省)
しかし、
「年度末だから書かせる」
「決められた紙をファイルに入れる」
だけでは、本来の目的から離れてしまいます。
実際、次期学習指導要領に向けた2026年の検討では、キャリア・パスポートについて、ワークシート作成や蓄積そのものが目的化しているという課題が示されています。その上で、特定の様式に限定せず、本来の「見通す・振り返る」という目的に立ち返ることや、デジタル学習基盤を活用した形への見直しが検討されています。(文部科学省)
さらに、例示資料の廃止や、蓄積をクラウド上などで個人管理することを基本とし、学校間での引継ぎを求めない方向まで議論されています。ただし、これらは2026年8月現在、次期学習指導要領に向けた検討段階の内容です。(文部科学省)
進路指導主事として考えたいのは、
「キャリア・パスポートを提出させたか」
ではなく、
「生徒が自分の成長を振り返り、次の選択につなげられたか」
です。

24.次期学習指導要領と高校入試の変化を見ておく

次期学習指導要領の議論では、高等学校入学者選抜そのものについても検討されています。
2025年9月の教育課程企画特別部会「論点整理」では、個別の知識を単純に問う問題が残っていること、入試を意識するあまり教科書を網羅的に指導しなければならないという認識につながっているとの指摘などを踏まえ、高校入試の改善が論点になっています。(文部科学省)
具体的には、思考力・判断力・表現力等を問う出題の充実、中学校の授業改善につながる出題方針や分析結果の共有、高校のスクール・ミッションやスクール・ポリシーを踏まえた多様な選抜、不登校経験や障害など多様な背景をもつ生徒への配慮などが検討されています。(文部科学省)
ここで重要なのは、
次期学習指導要領の変更と高校入試は無関係ではない
ということです。
学校の授業が変わろうとしているのに、入試だけが知識の再生を中心とするままでは、授業改善との間に矛盾が生じます。
一方で、具体的な入学者選抜の実施方法は、各教育委員会等の責任で決定されることが前提とされています。(文部科学省)
したがって進路指導主事は、
国の方向性を見る。
自治体の制度変更を見る。
高校ごとの情報を見る。
その三つを区別しながら確認する必要があります。

25.不安を抱える生徒に「正解」を押し付けない

進路選択は、中学生にとって大きな出来事です。
なかなか決められない生徒もいます。
途中で希望が変わる生徒もいます。
保護者と意見が合わない生徒もいます。
自信を失う生徒もいます。
教師から見ると、
「こちらの方がよいのに」
と思うこともあるでしょう。
しかし、迷うこと自体を悪いことと考えないことです。
自分の人生について真剣に考えるからこそ迷います。
教師が必要以上に答えを急がせるより、
何で迷っているのか。
何が不安なのか。
何をまだ知らないのか。
を整理します。
進路相談とは、教師が正解を教える時間ではなく、生徒自身が考えを整理する時間でもあります。

26.困難を抱える生徒ほど早く支援につなぐ

進路選択には、学力だけではない課題が関係します。
経済的な事情。
家庭環境。
不登校。
障害。
外国につながる背景。
心身の状態。
学習上の困難。
進学後に必要となる支援。
こうした課題がある場合、3年生の冬になって初めて対応するのでは遅いことがあります。
早い段階から本人と話します。
保護者と相談します。
校内で情報を共有します。
必要に応じて関係機関と連携します。
『生徒指導提要』も、児童生徒への支援について、学校内外の専門職や関係機関との連携・協働を重視しています。(文部科学省)
困難があるから選択肢を狭めるのではなく、必要な支援を探して選択肢を広げます。

27.合格・不合格だけで生徒を評価しない

入試の結果は、生徒にとって大きな出来事です。
第一希望に合格する生徒もいます。
思いどおりにならない生徒もいます。
そこで教師が気を付けたいのは、
「合格=成功」
「不合格=失敗」
という構図をつくらないことです。
もちろん、本人が残念に感じているときに、
「どこでも同じです」
と言う必要はありません。
悔しさは悔しさとして受け止めます。
その上で、
「では、ここからどうしますか」
と次につなげます。
中学校の進路指導の目的は、
第一志望校への合格者数を最大化することではありません。
一人ひとりが自分の人生を考え、選択し、結果を受け止めながら次へ進んでいく力を育てることです。

28.進路が決まった生徒への指導も続く

進路先が決まる時期には個人差があります。
早く決まる生徒もいれば、卒業間際まで進路選択が続く生徒もいます。
そのため、
「自分はもう決まったから終わり」
という雰囲気をつくらないことも大切です。
進路が決まった生徒も、中学校での学習は続きます。
次の学校で必要になる力もあります。
また、まだ進路が決まっていない仲間への配慮も必要です。
ただし、
「あなたは決まったのだから、他の人のために我慢しなさい」
と押し付ける必要はありません。
それぞれがそれぞれの状況を尊重しながら卒業まで過ごす学年にします。
進路指導は合格通知を受け取った時点で終わるものではありません。
卒業し、次の学びへつなぐところまでが中学校の役割です。

29.進路指導主事自身がすべてを背負わない

進路指導主事をすると、
「間違えてはいけない」
という緊張感が強くなります。
実際、重要な書類や期限を扱います。
だからこそ、一人で背負わないことが重要です。
分からなければ確認します。
判断に迷えば管理職へ相談します。
制度について不明な点があれば教育委員会等へ確認します。
担任だけでは対応が難しい生徒については、学年や校内支援体制につなぎます。
進路指導主事が、
すべての高校を知っている。
すべての制度を知っている。
すべての生徒の相談に一人で対応できる。
必要はありません。
むしろ、
分からないことを正確に確認できることの方が重要です。
進路指導主事の専門性は、すべてを知っていることではありません。
必要な情報と人をつなぎ、学校全体として適切に判断できる状態をつくることにあります。

30.初めての進路指導主事が確認したい15項目

□1 進路指導主事の法令上の役割を確認していますか。
□2 進路指導を「3年生の高校受験指導」だけと捉えていませんか。
□3 中学校3年間のキャリア教育と進路指導の全体像を把握していますか。
□4 前年度資料を確認しながら、今年度の制度は今年度の一次資料で確認していますか。
□5 管理職、学年主任、担任等との役割分担が明確になっていますか。
□6 年間の大きな流れと締切を見える化していますか。
□7 重要な情報が進路指導主事一人に集中していませんか。
□8 生徒本人の意思を進路選択の中心に置いていますか。
□9 保護者と学校が、生徒を中心に情報を共有できていますか。
□10 多様な進路先や学び方について情報を持っていますか。
□11 出願等の重要な手続きについて複数で確認する仕組みがありますか。
□12 進路便りや説明会資料の情報を発行時点の一次資料で確認していますか。
□13 困難を抱える生徒を早期に校内外の支援につないでいますか。
□14 キャリア・パスポートを「書かせること」自体が目的になっていませんか。
□15 次期学習指導要領と高校入試に関する検討状況を、文部科学省等の一次資料で継続して確認していますか。
すべてを最初から完璧にする必要はありません。
しかし、この15項目を意識しておくことで、
「入試事務をこなす進路指導主事」から、
「生徒の未来を学校全体で支える進路指導主事」
へ仕事の見え方が変わります。

31.進路指導主事は生徒の未来を決める人ではない

進路指導主事の仕事には、大きな責任があります。
入試制度を確認します。
資料を作ります。
進路説明会を行います。
進路会議を運営します。
生徒や保護者から相談を受けます。
出願等の手続きを支えます。
しかし、その仕事の中心にあるのは書類ではありません。
一人ひとりの生徒です。
教師には経験があります。
学校にはデータがあります。
保護者には願いがあります。
しかし、生徒の人生を代わりに生きることはできません。
だからこそ、進路指導では、
情報を与えます。
一緒に考えます。
迷う時間を保障します。
必要なときには助言します。
現実も正確に伝えます。
そして、最後には本人が選びます。
次期学習指導要領に向けたキャリア教育の議論でも、「好き」や「得意」の発見・伸長、社会や職業とのつながりを意識した学び、豊かな人生やよりよい社会に向けたキャリアの主体的な形成といった方向が検討されています。(文部科学省)
進路指導主事がするべきことは、生徒を最も合格しやすい学校へ送り込むことではありません。
その生徒が、自分の人生について考え、自分で選び、その選択の先を歩いていけるよう支えることです。
進路指導主事は、生徒の未来を決める人ではありません。
生徒が自分の未来を決めることができるよう、学校全体をつなぐ人です。

参考資料

文部科学省「中学校・高等学校キャリア教育の手引き(2023年3月)」 (文部科学省)
文部科学省「児童生徒の発達の支援―キャリア教育の充実」 (文部科学省)
文部科学省「生徒指導提要(改訂版)」 (文部科学省)
文部科学省「学校に置かれる担当者・組織関係法令」 (文部科学省)
文部科学省「学校において作成する計画等(一覧)」 (文部科学省)
文部科学省「キャリア・パスポート」 (文部科学省)
文部科学省「教育課程企画特別部会 論点整理」 (文部科学省)
文部科学省「関係WG等の議論を踏まえた総則の在り方について②」 (文部科学省)

タイトルとURLをコピーしました