職員室の雰囲気は、教室に表れます。
職員室で教職員同士が互いを尊重し、困ったときに支え合っている学校では、教師は比較的落ち着いて子どもと向き合うことができます。
反対に、職員室で人の失敗を責める。
本人のいないところで悪く言う。
困っていても助けを求められない。
そのような状態が続けば、教師は心身の余裕を失います。
その影響が、授業や生徒への接し方に表れることもあります。
だから私は、以前から、
「温かい職員室が、温かい教室を生む」
と考えてきました。
この考えは、今も変わりません。
ただし、以前よりも少し丁寧に考える必要があると思うようになりました。
職員室が温かいとは、全員が仲よくすることではありません。
いつも笑顔でいることでもありません。
異なる意見を言わないことでもありません。
仕事の基準を下げ、失敗を何でも許すことでもありません。
温かい職員室とは、違う考えを持つ人同士が、必要なことを率直に話せる職員室です。
分からないことを尋ねられる。
失敗を早い段階で報告できる。
困っていると助けを求められる。
反対意見を述べても、人格を否定されない。
相談した内容が、必要もないのに広められない。
そのような職員室です。
- 「温かい」と「仲がよい」は同じではない
- 心理的安全性とは何か
- 失敗を話せる職員室
- 先輩や管理職が間違いを認められるか
- 本人のいないところで人を評価しない
- 陰口と業務上の相談を分ける
- 「二人だけの話」が広がるとき
- ただし、絶対に秘密にするとは約束しない
- 守秘と情報共有の境界
- 職員室は、情報を話す場所として安全か
- 人を決めつける言葉を職員室に残さない
- 距離を取ることが必要な場合もある
- 仲間外れを「距離を取る」と呼ばない
- 反対意見を言える職員室
- 正しい意見でも、言い方によって届かなくなる
- 温かい職員室では、助けを求められる
- 助ける側も一人で抱えない
- 管理職の反応が職員室の文化をつくる
- 管理職が守秘の基準を示す
- 職員会議や学年会で人を追い詰めない
- 職員室での雑談をなくす必要はない
- 職員室で使う言葉は、若い先生も聞いている
- 職員室の文化は教室に影響する
- 温かい職員室をつくる小さな行動
- 温かさとは、問題を曖昧にすることではない
- 温かい職員室が温かい教室を生む
- 参考資料
「温かい」と「仲がよい」は同じではない
学校には、さまざまな人が働いています。
考え方も違います。
得意なことも違います。
子どもへの関わり方も、授業の進め方も、仕事の速さも違います。
全員が親しい友人のようになることはできません。
なる必要もありません。
職場は、家族ではありません。
私生活まで共有する必要はありません。
休日に一緒に過ごす必要もありません。
飲み会に参加しなければ、職場の一員として認められないというものでもありません。
親しい関係を無理に求めると、かえって息苦しくなる人がいます。
雑談が得意な人もいれば、静かに仕事をしたい人もいます。
自分のことを話したい人もいれば、仕事と私生活を分けたい人もいます。
温かい職員室は、距離の近い職員室ではありません。
それぞれが自分に合った距離を保ちながら、仕事に必要な対話と協力ができる職員室です。
親しくなくても、挨拶をする。
必要な情報を伝える。
相手の仕事を尊重する。
困っていれば声をかける。
意見が違っても、相手を傷つける言い方をしない。
そのような関係があれば、職場として十分に温かいのだと思います。
心理的安全性とは何か
最近、学校でも「心理的安全性」という言葉を聞くようになりました。
心理的安全性は、単に居心地がよいことではありません。
この概念を提唱したエイミー・エドモンドソンは、心理的安全性を、質問、相談、異論、失敗の報告など、対人関係上の危険を伴う行動を取っても、集団の中で不当に傷つけられないという共通認識として整理しています。
心理的安全性があることで、構成員は分からないことを質問し、助けを求め、失敗を共有し、チームとして学びやすくなります。(Massachusetts Institute of Technology)
文部科学省も、令和4年12月の中央教育審議会答申で、学校管理職のリーダーシップの下、心理的安全性を確保し、多様な教職員に配慮したマネジメントを実現する必要があるとしています。
さらに、学校を心理的安全性が確保できる職場にすることは、教師が学び続け、誇りを持って働くために不可欠だと示しています。(文部科学省)
ここで大切なのは、心理的安全性と、何でも許される状態を混同しないことです。
仕事をしなくても何も言われない。
約束を守らなくても注意されない。
不適切な言動をしても問題にされない。
そのような状態は、心理的安全性が高いのではありません。
責任が曖昧になっているだけです。
心理的安全性がある職員室では、問題となる行動についても率直に話せます。
「その言い方は、相手を傷つけていると思います」
「この対応では、安全上の問題があります」
「この仕事量を一人で担うのは難しいです」
「その判断には、私は賛成できません」
必要なことを、必要なときに言えることが心理的安全性です。
失敗を話せる職員室
学校では、失敗を完全になくすことはできません。
保護者への連絡が遅れた。
生徒への説明が十分ではなかった。
会議の調整を忘れた。
授業で予想した反応が得られなかった。
判断を急ぎすぎた。
教師も人間ですから、間違えることがあります。
問題は、失敗が起きたことだけではありません。
それを隠したり、報告を遅らせたりすることです。
失敗を話したら、
「そんなことも分からないのか」
「教師としてあり得ない」
「去年は問題なくできた」
と責められる職場では、人は失敗を隠すようになります。
問題が小さいうちに相談できず、大きくなってから発覚します。
反対に、
「まず、何が起きたのか確認しましょう」
「子どもへの影響はありますか」
「今からできることを考えましょう」
と受け止めてもらえる職員室では、早い段階で情報が出てきます。
失敗した人を責めないという意味ではありません。
必要な責任は引き受けなければなりません。
保護者や生徒への説明が必要なこともあります。
同じことを繰り返さないための改善も必要です。
しかし、最初から人格を責めても、問題は解決しません。
何が起きたのか。
どの判断に問題があったのか。
本人だけの問題なのか。
仕組みに改善すべき点はないか。
次に同じ場面が起きたら、どうするのか。
そこまで考えることによって、失敗は組織の学びに変わります。
先輩や管理職が間違いを認められるか
若い先生には、
「失敗を隠してはいけない」
「分からなければ聞きなさい」
と伝えます。
しかし、先輩教師や管理職が、自分の間違いを認めない職員室では、その言葉に説得力はありません。
「私の説明が足りませんでした」
「その見方は、私にはありませんでした」
「判断を急ぎすぎました」
「一度決めましたが、状況が変わったので見直します」
経験のある人が、このように言えるかどうかです。
立場のある人が間違いを認めれば、権威が失われると思う人もいます。
私は、逆だと思います。
間違いが明らかなのに認めない人の方が、長い目で見れば信頼を失います。
間違いを認め、必要な修正をする。
それは、弱さではなく、責任の取り方です。
本人のいないところで人を評価しない
職員室では、本人のいないところで、その人について話すことがあります。
「仕事が遅い」
「何を考えているのか分からない」
「また、あの先生です」
「教師に向いていないのではないか」
その場では、共感を得られるかもしれません。
話した人も、少し気持ちが軽くなるかもしれません。
しかし、その言葉が職員室に蓄積すると、人は安心して働けなくなります。
自分も、いないところで同じように言われているのではないか。
失敗すれば、職員室で話題にされるのではないか。
そう考えるようになります。
本人のいないところで、その人の人格を評価する話は、学校をよくしません。
一方で、本人のいないところで一切話してはいけないわけではありません。
学校では、業務上、他の教職員について相談しなければならない場合があります。
若手教師の仕事量が多すぎる。
ある教師の生徒への言い方が強い。
同じミスが繰り返されている。
体調が心配である。
教職員間の関係に問題が生じている。
これらを、適切な人へ相談することは必要です。
陰口と相談の違いは、本人がいるかいないかだけではありません。
何のために話すのか。
誰に話すのか。
何を話すのか。
話した後に、どのような行動につなげるのか。
そこに違いがあります。
陰口と業務上の相談を分ける
陰口は、本人への不満を、問題の解決に責任を持たない人へ広げる行為です。
話す内容も、
「だらしない人だ」
「性格が悪い」
「やる気がない」
など、人格評価になりがちです。
話した後も、何かが改善されるわけではありません。
むしろ、その人に対する否定的な見方が広がります。
業務上の相談は違います。
確認できた事実を扱います。
「今週、保護者への連絡が三件、翌日になっています」
「会議で決まった資料が、期限を過ぎても提出されていません」
「生徒への発言について、二人の生徒から相談がありました」
そして、その問題を解決する役割のある人へ相談します。
学年主任。
校務分掌の主任。
教頭。
校長。
必要に応じて、教育委員会や相談窓口です。
相談の目的は、その人を悪く言うことではありません。
子どもや教職員への影響を確認し、必要な支援や改善を考えることです。
相談するときには、
「私は腹が立っています」
という感情を認めることも大切です。
ただし、感情と事実を混ぜないようにします。
感情があることと、相手に問題があることは、同じではありません。
「二人だけの話」が広がるとき
職員室で、
「ここだけの話ですが」
「二人だけにしてください」
と話したことが、いつの間にか広まっていることがあります。
自分の家庭のこと。
健康のこと。
人間関係の悩み。
仕事上の迷い。
信頼して話した内容が、別の人に伝わっていると、大きなショックを受けます。
話した側は、
「心配だったから伝えた」
「悪気はなかった」
「みんな知っていた方がよいと思った」
と説明するかもしれません。
しかし、善意であっても、本人の同意なく私的な情報を広げれば、信頼は損なわれます。
一度広がった情報を、元に戻すことはできません。
個人的な相談を受けたときは、まず聴くことです。
すぐに別の人へ話さない。
自分一人で判断せず、必要であれば、
「この内容は、管理職へ相談した方がよいと思います」
「あなたの名前を出してもよいですか」
「どこまでなら共有してよいですか」
と、本人に確認します。
その一手間が大切です。
ただし、絶対に秘密にするとは約束しない
守秘は重要です。
しかし、どのような相談でも、絶対に誰にも話さないと約束することはできません。
子どもの生命や身体に危険がある。
自傷のおそれがある。
虐待が疑われる。
いじめや性被害に関する情報がある。
重大な事故や服務上の問題につながる可能性がある。
このような場合は、必要な人や組織へ情報をつなぐ必要があります。
文部科学省の『生徒指導提要』は、生徒指導や教育相談を一人の教師だけで行うものとはせず、教職員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどが、それぞれの役割に基づいて連携するチーム支援を重視しています。
また、関係者間で必要な情報を共有し、記録を適切に保存し、管理職へ報告・連絡・相談することを求めています。(文部科学省)
相談を受けるときには、
「できる限り、あなたの気持ちを大切に扱います。ただし、安全に関わる場合には、必要な人と相談することがあります」
と、最初に伝える方が誠実です。
秘密を守ることと、問題を一人で抱え込むことは違います。
守秘と情報共有の境界
学校では、情報を共有しなければ、子どもを支援できない場合があります。
一方で、必要以上に広く共有すれば、本人の尊厳やプライバシーを傷つけます。
大切なのは、
「共有するか、しないか」
という二択ではありません。
何の目的で共有するのか。
誰が知る必要があるのか。
どの範囲まで共有するのか。
どのような方法で伝えるのか。
いつまで情報を保持するのか。
を考えることです。
実務上の基本は、支援や安全確保に必要な相手へ、必要な範囲の情報だけを共有することです。
文部科学省の教育データに関する留意事項でも、児童生徒の個人情報は、所掌する業務を遂行するために必要な場合に限って取得・利用し、利用目的を適切に定めて扱うことが示されています。(文部科学省)
職員全員が知っておく必要のあることもあります。
担任と管理職だけで扱うべきこともあります。
養護教諭や専門職を含む支援チームで共有することもあります。
情報の内容に応じて、共有範囲を変える必要があります。
「職員だから、何でも知っていてよい」
というものではありません。
職員室は、情報を話す場所として安全か
職員室は、多くの人が出入りします。
教職員だけでなく、児童生徒、保護者、来校者、業者が入る場合もあります。
そのような場所で、個人名を挙げて詳しい相談をすれば、意図しない人に聞かれる可能性があります。
教室へ向かう生徒が、職員室の前で話を聞いていることもあります。
電話の内容が周囲へ聞こえることもあります。
相談する内容によっては、場所を変える必要があります。
会議室を使う。
管理職席の近くで小声で話す。
時間を決めて別室で話す。
校務支援システムなど、学校が認めた手段を使う。
机の上に記録を置いたままにしない。
職員室の中だから安全だと考えないことです。
また、相談内容を私的なSNSや個人のメッセージアプリで共有してはいけません。
便利であっても、学校や自治体の情報管理のルールに従う必要があります。
人を決めつける言葉を職員室に残さない
「あの子は問題児です」
「あの保護者は難しい人です」
「あの先生には何を言っても無理です」
学校では、このような短い言葉で人を説明してしまうことがあります。
分かりやすい言葉です。
しかし、一度その評価が共有されると、その後の見方に影響します。
何をしても、
「やはり、問題のある人だ」
と解釈されます。
その人の別の面が見えにくくなります。
『生徒指導提要』は、子どもの問題行動だけを見て一方的に働きかけるのではなく、学習面、心理・社会面、家庭面などの情報を集め、背景を含めて理解する必要性を示しています。
ばらばらな理解による矛盾した対応を避け、共通理解に基づいて組織的に対応することが重要だとしています。(文部科学省)
これは、教職員同士にも通じる考え方です。
人格を一言で決めつけるのではなく、具体的な事実を扱います。
「難しい先生」
ではなく、
「会議で他の人の発言を遮ることが続いている」
「連絡した内容への返答がなく、業務が止まっている」
と捉えます。
具体的に捉えれば、対応も具体的になります。
距離を取ることが必要な場合もある
職員室の温かさを大切にするからといって、誰とでも近い関係を築かなければならないわけではありません。
強い言葉を繰り返す人。
相手の私生活へ過度に入ってくる人。
相談した内容を広める人。
自分の仕事を一方的に押しつける人。
人前で人格を否定する人。
そのような相手とは、一定の距離を取る必要があります。
ただし、職場では完全に関係を断つことが難しい場合があります。
必要な連絡は、簡潔に行う。
口頭だけでなく、記録が残る方法も使う。
二人だけで話すことに不安がある場合は、第三者に同席してもらう。
困った行動が続く場合は、日時、場所、発言、周囲の状況を記録する。
管理職や正式な相談窓口へ相談する。
距離を取ることは、相手を無視したり、集団から排除したりすることではありません。
自分の安全と仕事を守るために、関係の持ち方を調整することです。
仲間外れを「距離を取る」と呼ばない
注意したいのは、職員集団が一人の教職員を避けることです。
誰も話しかけない。
必要な情報を伝えない。
その人が職員室に入ると会話を止める。
仕事上の相談から外す。
これは、個人が自分を守るために距離を取ることとは違います。
集団による排除です。
その人に改善すべき行動があるなら、管理職や担当者が具体的に伝える必要があります。
陰で不満を共有し、集団として避けても、問題は解決しません。
本人は、何を改善すればよいのか分かりません。
必要な指摘を避けながら、雰囲気だけで排除することは、温かい職員室とは正反対です。
反対意見を言える職員室
職員室の温かさは、意見が一致しているときには分かりません。
本当に問われるのは、考えが違うときです。
管理職の提案に疑問を述べられるか。
経験の長い先生へ、若い先生が別の意見を言えるか。
若い先生の提案にも、必要な課題を伝えられるか。
声の大きい人の意見だけで決まっていないか。
反対意見を言った人が、後から人間関係上の不利益を受けないか。
心理的安全性が高い職場では、異論を問題行動として扱いません。
異論は、意思決定の質を高める情報です。
ただし、どのような言い方でもよいわけではありません。
「その案には、このような安全上の懸念があります」
と、
「そんな案を出す人の気が知れません」
は違います。
議論するのは、案や事実です。
人の価値ではありません。
正しい意見でも、言い方によって届かなくなる
学校では、
「正しいことを言っているのだから、言い方は関係ない」
と考えることがあります。
しかし、同じ内容でも、伝え方によって相手の受け取り方は変わります。
人前で強く指摘する。
過去の失敗まで持ち出す。
「いつも」「絶対」「普通は」という言葉を使う。
相手が説明する前に結論を決める。
このような伝え方では、相手は内容よりも攻撃されたことに反応します。
必要なことを伝えるときは、
確認できた事実。
その事実による影響。
改善してほしい行動。
必要な支援。
を分けます。
「提出が遅い」
ではなく、
「締切を二日過ぎており、印刷作業が止まっています。今日の午後3時までに提出できますか。難しい場合は、作業を分担しましょう」
と伝えます。
相手を責めることと、仕事の基準を示すことは違います。
温かい職員室では、助けを求められる
教員は、自分で何とかしようとしがちです。
担任だから。
担当者だから。
自分が引き受けた仕事だから。
周囲も忙しいから。
その結果、問題を一人で抱え込みます。
生徒指導。
保護者対応。
授業づくり。
校務分掌。
人間関係。
どれも、一人で解決できるとは限りません。
温かい職員室では、
「助けてください」
と言えます。
そして、その言葉を、
「能力がない」
「責任感がない」
と受け取らないことです。
助けを求めることは、自分の限界を理解しているということでもあります。
早く助けを求めることによって、子どもや学校への影響を小さくできます。
文部科学省も、生徒指導上の課題について、担任だけで抱えるのではなく、管理職のマネジメント、ミドルリーダーの調整、校内支援チーム、多職種や関係機関との協働によって支える体制を示しています。
助ける側も一人で抱えない
相談を受けた人が、今度は一人ですべて背負うことがあります。
「自分を信頼して話してくれたから」
「ほかの人には知られたくないと言われたから」
その気持ちは理解できます。
しかし、重い相談を一人で抱えると、相談を受けた側も疲弊します。
判断を誤る可能性もあります。
相談者の意向を尊重しながら、
「この部分は、私一人では判断できません」
「あなたを守るためにも、管理職と相談したいです」
と伝えます。
必要に応じて、相談者と一緒に管理職へ話す方法もあります。
本人の知らないところで情報を広げるのではなく、できる限り、共有の目的と範囲を説明します。
管理職の反応が職員室の文化をつくる
教職員が相談や報告をできるかどうかは、管理職の最初の反応に大きく左右されます。
教職員が、
「実は、対応が遅れてしまいました」
と報告したときに、
「なぜ、もっと早く言わなかったのですか」
と強く責めれば、次の報告はさらに遅れます。
もちろん、報告が遅れた理由を確認する必要はあります。
しかし、最初にすることは、
「現在、子どもや保護者にどのような影響がありますか」
「今から必要な対応は何ですか」
と、問題への対応を始めることです。
落ち着いた後で、
なぜ報告が遅れたのか。
相談しにくい状況がなかったか。
連絡経路が分かりにくくなかったか。
を確認します。
管理職が感情的に反応すれば、職員室は情報を隠すようになります。
管理職が事実を整理し、必要な対応を一緒に考えれば、情報が早く集まるようになります。
管理職が守秘の基準を示す
管理職には、何でも秘密にするのでも、何でも全職員へ伝えるのでもなく、情報の扱いを判断する責任があります。
相談を受けた内容のうち、
誰に共有する必要があるのか。
本人へ、どこまで伝えるのか。
記録を残す必要があるのか。
外部の相談窓口や教育委員会へつなぐ必要があるのか。
を判断します。
また、相談した人に対して、
「この内容は、教頭と共有します」
「この部分については、本人へ事実確認をします」
「あなたの名前は出さず、職員全体の課題として扱います」
など、今後の扱いを説明することが重要です。
相談した後、何が起きているのか分からなければ、相談者は不安になります。
守秘とは、秘密の箱に入れて終わることではありません。
適切に扱い、必要な対応へつなげることです。
職員会議や学年会で人を追い詰めない
会議で問題を扱うとき、本人がいる前で突然指摘することがあります。
「この件について、説明してください」
と、その場で求められれば、本人は防御的になります。
事実関係が十分に確認されていない場合、誤った情報が全員に広がる危険もあります。
個人の行動について扱う必要がある場合は、まず個別に事実を確認します。
会議では、個人を責めるのではなく、組織として必要な改善を扱います。
誰が悪かったか。
ではなく、
どの手順に問題があったか。
情報共有は適切だったか。
仕事の配分に無理はなかったか。
再発を防ぐために何を変えるか。
を話し合います。
個人への指導と、組織の改善を分けることが必要です。
職員室での雑談をなくす必要はない
職員室の雑談には意味があります。
授業で起きたこと。
生徒の成長。
教材の情報。
休日の出来事。
何げない会話から、人間関係がつくられます。
困ったときに相談しやすくなることもあります。
雑談をすべて業務連絡だけにすれば、職員室は冷たい場所になります。
ただし、雑談の中で、個人の秘密や人への評価が広がることがあります。
冗談のつもりでも、誰かを笑いものにすることがあります。
その場にいない人について、話が大きくなることもあります。
話す前に、
本人がこの場にいても、同じ言い方ができるか。
この話を広める必要があるか。
子どもや保護者が聞いても問題はないか。
を少し考えるだけでも、職員室の言葉は変わります。
職員室で使う言葉は、若い先生も聞いている
若い先生は、先輩教師の言葉から、学校の価値観を学びます。
ある生徒について、
「あの子は、家庭があれだから」
と話していれば、家庭環境で子どもを判断することを学びます。
保護者について、
「また、あの親です」
と話していれば、相談を面倒なものとして扱うことを学びます。
同僚の失敗を笑っていれば、失敗は隠すべきものだと学びます。
反対に、
「まず、本人の話を聴きましょう」
「私たちの対応にも改善できるところがあります」
「この情報は、必要な人だけで扱いましょう」
という言葉を聞けば、その考え方が次の世代へ引き継がれます。
職員室は、教職員が学ぶ場所でもあります。
職員室の文化は教室に影響する
職員室と教室の間に、単純な因果関係があるわけではありません。
職員室が温かければ、すべての教室が必ず温かくなるとは言えません。
教室の状態には、子どもの状況、授業、家庭や地域、教師個人の専門性など、さまざまな要因があります。
それでも、職員室の文化は、教師の行動に影響します。
教職員同士が人の失敗を責める職員室では、教師も教室で間違いに厳しくなりやすいかもしれません。
声の大きい人の意見だけが通る職員室では、教室でも発言の多い生徒だけが中心になりやすいかもしれません。
困ったときに相談できる職員室では、教師は生徒の問題を一人で抱え込まず、早く支援につなげられます。
教職員が互いの違いを尊重する学校では、子どもの違いについても考えやすくなります。
教職員が自分の間違いを認める学校では、子どもにも学び直す機会を与えやすくなります。
職員室の在り方が、そのまま教室へ移るわけではありません。
しかし、教師が毎日過ごす職場の文化が、教師の考え方や行動に影響しないはずはありません。
温かい職員室をつくる小さな行動
温かい職員室は、大きな研修を一度行えば完成するものではありません。
毎日の小さな行動でつくられます。
挨拶を返す。
質問されたときに、相手を笑わない。
忙しいときには、
「今は難しいので、15時に話しましょう」
と伝える。
相談内容を勝手に広めない。
共有が必要な場合は、本人へ説明する。
人の失敗を、職員室の話題にしない。
違う意見を言った人を避けない。
分からないことを、分からないと言う。
自分の間違いを認める。
困っている人へ声をかける。
自分が困ったときにも助けを求める。
問題となる言動を見たときには、見て見ぬふりをしない。
一つ一つは、小さなことです。
しかし、その積み重ねによって、
「ここでは、安心して話せる」
「失敗を隠さなくてよい」
「自分も、この職員室の一員である」
という感覚がつくられます。
温かさとは、問題を曖昧にすることではない
職員室の人間関係を壊したくないために、問題を指摘しないことがあります。
「あの人も悪気はないから」
「今さら言っても仕方がない」
「雰囲気が悪くなるから」
しかし、問題を曖昧にした結果、別の人が傷つき続けるのであれば、それは温かさではありません。
不適切な言動には、必要な対応をする。
守るべき人を守る。
改善を求める。
必要であれば、正式な相談や調査につなぐ。
その上で、本人の人格を否定せず、行動と改善を扱います。
心理的安全性は、問題を口にしない静かな職場ではありません。
問題を安全に口にできる職場です。
温かい職員室が温かい教室を生む
子どもに、
「困ったときには相談してください」
と伝えるのであれば、教師自身も相談できる職場でなければなりません。
子どもに、
「人の失敗を笑ってはいけません」
と伝えるのであれば、職員室でも同僚の失敗を笑わないことです。
子どもに、
「違う意見も大切にしましょう」
と伝えるのであれば、教職員の異論も大切にすることです。
子どもに、
「秘密を勝手に広めてはいけません」
と伝えるのであれば、職員室でも人の私的な話を丁寧に扱うことです。
教師が子どもへ教えることと、職員室で行っていることが大きく違えば、言葉は弱くなります。
温かい職員室とは、いつも楽しい職員室ではありません。
難しい問題についても話せる。
必要な指摘もできる。
それでも、人としての尊厳は傷つけない。
守るべき情報を守り、共有すべき情報は適切につなぐ。
一人で抱え込まず、組織として考える。
そのような職員室です。
温かい教室をつくるために、教師は授業や学級経営を学びます。
それと同じくらい、教師が安心して働き、学び、対話できる職員室をつくることも大切です。
職員室の中で、今日、どのような言葉を使っただろう。
困っている人に、どのような反応をしただろう。
相談された内容を、丁寧に扱っただろうか。
反対意見を言った人を、遠ざけていないだろうか。
そこから、温かい職員室づくりは始まるのだと思います。
参考資料
・中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」(令和4年12月19日)(文部科学省)
・文部科学省『生徒指導提要』(令和4年12月)(文部科学省)
・文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)(文部科学省)
・文部科学省「教育データの利活用に係る留意事項」(文部科学省)
・Amy C. Edmondson, “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams,” Administrative Science Quarterly, 1999. (Massachusetts Institute of Technology)

