男性教員が育児休業を取れる職員室へ|担任・学年主任でも休める学校に

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「自分は担任だから、育休は難しい」
「学年主任だから、さすがに休めない」
「3年生を受け持っているから、卒業までは……」
男性教員から、このような言葉を聞くことがあります。
責任感から出てくる言葉なのだと思います。
しかし私は、担任でも、学年主任でも、3年生担当でも、必要であれば育児休業を取得できる学校であってほしいと思っています。
むしろ、責任ある立場の先生が育児休業を取得できる学校でなければ、若い先生が安心して制度を使える職員室にはなりにくいでしょう。
育児休業を取るか、取らないか。
どのくらいの期間取るか。
それは、それぞれの家庭が考えて決めることです。
「男性も必ず育休を取るべきだ」と押し付ける必要もありません。
大切なのは、
取りたい人が、立場や性別を理由に諦めなくてよい職場をつくることです。

1.育児休業は「仕事を放棄する制度」ではない

公立学校の教員は地方公務員であり、育児休業については「地方公務員の育児休業等に関する法律」や、それに基づく自治体の条例等によって制度が整えられています。
育児休業は、特別に配慮してもらって休ませてもらうものではありません。
仕事と育児を両立しながら継続して働くために設けられた制度です。
法律には、育児休業を理由として不利益な取扱いを受けないことも明記されています。
だから、
「取ったら周囲からどう思われるだろう」
「今後の人事に響くのではないか」
「主任なのに無責任と思われないか」
と心配しなければならない職場そのものを見直す必要があります。
制度が存在しているだけでは十分ではありません。
実際に利用できて初めて、制度は機能します。

2.男性教員の育休は、少しずつ「特別なこと」ではなくなっている

男性の育児休業をめぐる状況は大きく変わっています。
文部科学省の公立学校教職員に関する調査では、男性教育職員の育児休業取得割合は平成30年度の2.8%から令和3年度には9.3%へ上昇しました。
さらに地方公務員全体では、その後も男性の取得率が大きく伸びています。
つまり、
「男性が育休を取るのは珍しい」
という時代から、
男性も育児に関わることを前提として組織をつくる時代
へ移っています。
学校だけが以前の価値観のままでよいはずはありません。
子どもたちは、学校で教師の姿も見ています。
男性の先生が子育てをする。
女性の先生が仕事を続ける。
誰かが育児のために休めば、周囲が自然に支える。
そして、戻ってきたらまた一緒に働く。
そのような大人の姿そのものが、子どもたちにとって一つの社会のモデルになると思います。

3.「担任だから取れない」を当たり前にしない

学校で最も出やすいのが、
「担任を持っているから難しい」
という考えです。
確かに、担任が一定期間不在になることで、子どもや保護者への説明、学級運営、成績処理、進路指導など、学校側には準備が必要になります。
だからこそ、準備します。
それが組織です。
一人の教師がずっと存在し続けることを前提にしなければ教育活動が成り立たないのであれば、そちらの方が組織として危うい状態です。
教員には育児休業だけでなく、病気、介護、研修、異動など、さまざまな理由で職場を離れる可能性があります。
「この先生がいなければ回らない」
という状態を減らしていくことは、学校運営そのものの強化にもなります。
担任が育児休業を取得することを、
「困ったことが起きた」
と捉えるのではなく、
学校として引継ぎと支援体制をどうつくるか
と考える方が建設的です。

4.学年主任だからこそ、取得してよい

学年主任になると、さらに休みにくいと感じる人がいます。
「自分が学年をまとめなければ」
「他の先生に迷惑をかける」
「若い先生を残して休めない」
そう考える気持ちは分かります。
しかし、主任がいなければ学年が動かない状態は、良い学年組織とはいえません。
学年主任の役割の一つは、
自分がすべてをすることではなく、自分がいなくても一定程度動くチームをつくること
だと私は考えています。
情報を共有する。
仕事を特定の人だけに集中させない。
副担任や他の学年職員が状況を把握する。
判断の基準を共有する。
資料を整理しておく。
相談できる関係をつくる。
こうした日常の学年経営ができていれば、誰かが一定期間不在になっても支え合えます。
主任自身が育児休業を取ることは、
「主任でも休める」
という文化をつくることにもなります。
後輩の先生が数年後に同じ状況になったとき、
「あのとき主任も取っていたから、自分も相談していい」
と思えるかもしれません。

5.中学3年生でも「絶対に卒業まで」は違う

中学校では特に、
「3年生の担任だから卒業までは離れられない」
と考えやすいと思います。
進路があります。
卒業があります。
子どもや保護者との関係も深くなっています。
簡単な話ではありません。
しかし、出産や育児は学校の年間行事予定に合わせて起こるものではありません。
学校の都合に家庭の人生を合わせることを当然にしてはいけないと思います。
必要なのは、
「3年生だから取らない」
ではなく、
「3年生の担任が取得しても、生徒の進路や学習を支えられる体制をどうつくるか」
という発想です。
進路情報を複数の職員で共有する。
保護者対応を学年で支える。
引継ぎ期間を設ける。
必要な資料を整理する。
後任や学年職員との役割を明確にする。
組織として準備すればよいのです。
子どもに必要なのは、一人の教師が自己犠牲を続けることではありません。
必要な教育と支援が継続して受けられることです。

6.「周りに負担がかかる」は、本人だけの問題ではない

育児休業の話になると、
「結局、周りの先生の仕事が増える」
という問題が出てきます。
これは現実として考えなければなりません。
ただし、
だから本人が育児休業を諦める、
という解決方法にしてはいけません。
地方公務員の育児休業制度では、育児休業に伴って業務を処理する必要がある場合に、任期付採用や臨時的任用を行う仕組みも法律上設けられています。
代替職員を確保できない。
人が足りない。
特定の先生へ仕事が集中する。
これは本人の責任ではなく、教育行政と学校組織が向き合うべき課題です。
もちろん、学校現場では代替教員の確保が難しい場合があります。
それでも、
「人がいないから休まないでほしい」
を解決策にしてしまえば、制度は永遠に使いやすくなりません。
人員配置、校務分掌、業務削減、学年体制などを含めて考える必要があります。

7.取得する側にも「引継ぎ」はある

一方で、
「権利なのだから何もしなくてよい」
という話でもありません。
予定が分かる範囲で早めに管理職へ相談する。
担当している仕事を整理する。
学級や学年の情報を必要な人と共有する。
進行中の仕事を一覧にする。
データの保存場所を分かるようにする。
後任の先生が困らないようにする。
これは育児休業に限った話ではなく、組織で仕事をする上で必要なことです。
ただし、引継ぎを完璧にしようとして、
休業直前まで過剰に仕事を抱え込む必要もありません。
休む人ができる準備と、
残る組織が担う仕事を分けます。
育児休業は、本人と職場の共同作業で準備するもの
と考えるとよいと思います。

8.子どもへの説明は「必要な範囲」でよい

担任が育児休業に入る場合、生徒への説明をどうするか迷うことがあります。
これは本人の意向を尊重することが基本です。
家庭の事情を細かく説明する必要はありません。
本人が伝えてよいと考える範囲で、
「家庭で大切な時間を過ごすため、しばらく学校を離れます」
「その間は○○先生を中心に、学年の先生たちが皆さんを支えます」
と伝えれば十分な場合もあります。
ここで大切なのは、
「先生がいなくなって申し訳ない」
という物語にしないことです。
育児をすることも生活の一部です。
子どもたちが、
「大人は仕事もするし、家族も大切にする」
と自然に受け止められる学校であってよいと思います。

9.管理職の一言が、職員室の文化を決める

育児休業を取得しやすい職員室をつくる上で、管理職の役割は大きいものがあります。
職員から、
「育児休業を考えています」
と相談を受けたとき、
最初に何を言うか。
ここが重要です。
「その時期は厳しいな」
「来年度まで待てないか」
「主任なのに大丈夫?」
という言葉を最初に受ければ、本人は制度を利用することそのものに罪悪感を持ってしまいます。
まず、
「分かりました。必要な手続と学校の体制を一緒に考えましょう」
と受け止める。
その上で、
いつから取得する予定なのか。
必要な手続は何か。
引継ぎをどうするか。
校務分掌をどうするか。
代替職員について教育委員会とどう調整するか。
順番に考えていけばよいのです。
文部科学省も、男性教職員の育児休業や育児に伴う休暇の取得促進に向けた環境整備を教育委員会に求めています。
さらに、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止措置も必要です。
「制度はあるけれど、言い出せない」
では不十分です。
安心して相談できるところまでが、管理職のマネジメントです。

10.周囲の職員には「助け合い」だけを求めない

温かい職員室というと、
「みんなで助け合おう」
となりがちです。
もちろん、支え合うことは大切です。
しかし、それだけでは続きません。
誰かが育休を取るたびに、
残った先生が長時間働いて穴を埋める。
善意のある先生に仕事が集中する。
若手が断れず引き受ける。
これでは、別の誰かが疲弊します。
だから管理職は、
何を誰に引き継ぐかだけでなく、何をやめるか
まで考える必要があります。
会議を減らせないか。
行事の仕事を整理できないか。
校務分掌の一部を止められないか。
学年内だけで抱えず学校全体で支援できないか。
育児休業をきっかけとして仕事を見直すことは、学校全体の働き方改革にもつながります。
人が一人減ったのに、同じ仕事量を残った人数ですべて維持しようとすれば、負担が増えるのは当然です。
「助け合い」と「業務削減」はセットです。

11.育休を取ることと、仕事への責任感は両立する

責任感の強い先生ほど、
「生徒に申し訳ない」
と考えます。
しかし、責任感とは、いつでも学校にいることだけではありません。
必要な引継ぎをする。
周囲に仕事を託す。
家庭で果たすべき役割を果たす。
そして、復帰したときには、今度は誰かを支える。
こうした生き方も責任ある働き方だと思います。
教師も一人の生活者です。
結婚する人もいます。
子どもを育てる人もいます。
介護をする人もいます。
病気になることもあります。
自分自身の時間を大切にしたい人もいます。
学校は、そうした人たちが長く働き続けられる職場でなければなりません。

12.「誰が休んでも回る学校」は、弱い学校ではない

これからの学校に必要なのは、
休まない教師を増やすことではありません。
誰かが休んでも支えられる学校をつくることです。
担任でも休める。
主任でも休める。
男性でも女性でも休める。
管理職にも家庭があります。
そして、休んだ人が戻ってきたときには、自然に迎える。
そんな職員室にしていきたいと思います。
教師が家庭を大切にすることと、子どもを大切にすることは対立するものではありません。
教師自身の生活が尊重される職場だからこそ、他者の事情も尊重できる文化が育つのではないでしょうか。
育児休業を取得した一人の先生を、
「迷惑をかけた人」
にしない。
「特別扱いされた人」
にもしない。
ただ、
今はこの人が休む時期だから、学校として支える。
次は、自分かもしれません。
介護かもしれません。
病気かもしれません。
別の事情かもしれません。
互いの人生を尊重しながら、それでも子どもたちへの教育を止めない。
そのために組織があります。
温かい職員室とは、誰も休まない職員室ではありません。
必要なときに安心して休め、残った人だけにも無理をさせない職員室です。
そんな職員室が、長く働き続けられる学校をつくっていくのだと思います。

参考資料

e-Gov法令検索「地方公務員の育児休業等に関する法律」
文部科学省「令和3年度公立学校教職員の人事行政状況調査」
文部科学省「令和3年度公立学校教職員の人事行政状況調査結果等に係る留意事項について」
厚生労働省「育児休業制度特設サイト」

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