20代、30代の先生に「将来、管理職を目指しますか」と尋ねると、多くの方がこう答えます。
「まだ考えたことがありません。」
「管理職なんて、自分には関係ないです。」
「今は目の前の学級や授業で精一杯です。」
その答えは、ごく自然なものです。
20代、30代は、教師として力をつける大切な時期です。
子どもとの関わり方を学び、授業力を高め、学級経営に悩みながら、一歩ずつ成長していく。まずは、そのことに全力を注ぐべき時期でもあります。
だからこそ、「今すぐ管理職を目指しましょう」と言うつもりはありません。
しかし、一つだけ伝えたいことがあります。
管理職になるかどうかは別として、その可能性を視野に入れながら(管理職になろうと思ったときのために必要なキャリアを積みながら)日々を過ごすことは、決して早すぎることではありません。
キャリアは、ある日突然変わるものではない
教頭や校長になった先生方も、ある日突然、管理職になったわけではありません。
ある日突然、管理職としての力量が身に付いたわけでもありません。
それまでに積み重ねてきた、数多くの経験があります。
学年主任として、学年全体の動きを考えた経験。
分掌の中心となり、複数の先生と調整しながら仕事を進めた経験。
若手教員の相談に乗り、ときには支え、ときには助言した経験。
保護者対応で難しい判断を迫られ、管理職と相談しながら解決策を探った経験。
学校行事で、全体を見ながら先を読んで動いた経験。
そうした一つひとつが、後になって管理職としての土台になります。
キャリアという言葉を聞くと、昇任試験や人事異動のような、大きな出来事を思い浮かべるかもしれません。
しかし、実際のキャリアは、もっと小さな選択の積み重ねによって形づくられていきます。
頼まれた仕事を引き受けるか。
難しい役割から逃げるか、挑戦するか。
自分の学級だけを見るか、学校全体にも目を向けるか。
後輩に声をかけるか、見て見ぬふりをするか。
会議で自分の考えを伝えるか、黙ったままでいるか。
その一つひとつは、その場では小さなことに見えます。
しかし、5年、10年と積み重なると、大きな差になります。
周囲の人も、その積み重ねを見ています。
「あの先生は、最後まで責任を持って仕事をする。」
「あの先生に相談すると、丁寧に話を聴いてくれる。」
「あの先生は、自分のことだけでなく、学校全体を考えている。」
そのような信頼が少しずつ蓄積され、やがて主任や主幹、管理職といった役割につながっていきます。
管理職になる人は、最初から管理職を目指していた人ばかりではありません。
目の前の仕事に誠実に取り組み、任された役割を一つずつ果たしてきた結果、周囲から「次はこの役割を任せたい」と思われるようになった人も多くいます。
だからこそ、若いうちから管理職試験の勉強を始めなければならない、という話ではありません。
まず大切なのは、日々の仕事を自分のキャリアにつながる経験として捉えることです。
今担当している校務分掌も、学年の仕事も、保護者対応も、若手への助言も、すべてが将来の自分をつくっています。
目の前の仕事を単なる作業として終わらせるのか。
そこから何を学び、次にどう生かすのか。
その違いが、5年後、10年後の選択肢を変えていきます。
キャリアは、人事発令の日に突然始まるものではありません。
すでに、今日の仕事の中で始まっているのです。
気が付けば、同期が管理職になっていた
管理職という仕事は、遠い未来の話だと思っている先生も多いでしょう。
しかし、時間は思っている以上に早く過ぎていきます。
ある日、久しぶりに同期と会うと、
「実は去年から教頭なんだ。」
と言われる。
「えっ、そんな話、一言も聞いていない。」
そんな経験をする先生もいます。
本人も、大げさに「管理職を目指します」と宣言していたわけではありません。
目の前の仕事を一つひとつ丁寧に積み重ね、その結果として管理職という道を歩んでいたのです。
その姿を見て初めて、
「自分も少し考えておけばよかった。」
と思う人もいます。
管理職になるかどうかは、今決める必要はありません。
ただ、「そんな道もある」と知り、少しずつ準備をしている人と、全く考えずにその時を迎える人とでは、5年後、10年後の選択肢は大きく変わります。
管理職を目指さなくても、必ず役に立つ
「でも、私は管理職になるつもりはありません。」
そう考えている先生もいるでしょう。
それでも構いません。
学校全体を見る視点。
人を育てる視点。
組織として考える視点。
これらは、管理職だけに必要な力ではありません。
主任として仕事をするときにも、後輩を育てるときにも、学年をまとめるときにも必要になります。
つまり、管理職を見据えて身に付けた力は、教師として働き続ける上でも必ず役立つのです。
管理職を目指さないから、学校経営について知らなくてよいということではありません。
学校がどのような考えで動いているのか。
校長や教頭が何を判断し、何に責任を負っているのか。
その視点を持つだけでも、自分の仕事の見え方は変わります。
自分の担当だけでなく、学校全体の中で自分の仕事がどのような意味を持つのかが見えてくるからです。
年下であっても最後に判断するのは管理職です
もう一つ、若いうちから知っておいてほしい現実があります。
学校では、どれだけ経験を積み、専門性を高めても、最終的な判断をするのは管理職です。
職員会議では様々な意見が出されます。
経験豊富な先生の考えも、新任の先生の考えも大切にされます。
しかし、学校として進む方向を決め、その判断に責任を負うのは校長や教頭です。
気が付けば、自分より年下の先生が管理職になっていることもあります。
その管理職と学校運営について意見を交わし、議論する。
意見の違う年下管理職が、自分の意見と反対の方向で学校運営することもあり得ます。
もちろん、年齢が上だから正しい、年齢が下だから未熟という話ではありません。
しかし、管理職になった人には、「最終判断をする」という役割があります。
意見を述べる立場と、最後に決断して責任を負う立場は違います。
その現実を目の当たりにしたとき、
「もっと早く学校経営という視点を学んでおけばよかった。」
と感じる先生もいます。
だからこそ、若いうちから学校全体を見る視点を少しずつ養っていくことには、大きな意味があります。
5年後、10年後の自分を想像してみる
毎日の仕事に追われていると、目の前のことで精一杯になります。
それは当然のことです。
しかし、ときには立ち止まって考えてみてください。
5年後、自分はどのような教師になっていたいだろう。
10年後、学校の中でどのような役割を担っていたいだろう。
学級担任として専門性を極める道もあります。
教科指導を深める道もあります。
教育相談や特別支援教育など、自分の専門分野を磨く道もあります。
教育委員会や教育センターなど、学校とは異なる立場から教育に関わる道もあります。
そして、その一つとして管理職という道もあります。
大切なのは、今すぐ進む道を一つに決めることではありません。
将来、どの道にも進めるように、自分の可能性を狭めないことです。
「管理職にはならない」と早い段階で決めつけてしまうと、本来なら得られたはずの経験や学びから距離を置いてしまうことがあります。
反対に、「将来、管理職という選択もあるかもしれない」と考えていれば、同じ仕事から得られる学びも変わります。
校長や教頭がどのように判断しているのか。
なぜこの方針を示したのか。
学校全体を動かすために、どのような調整をしているのか。
そうした視点で日々の学校を見ることが、将来の自分の選択肢を増やします。
若いうちに意識しておきたいこと
管理職になるために、若いうちから特別な肩書や実績を求める必要はありません。
むしろ、大切なのは日々の仕事への向き合い方です。
例えば、
・任された仕事を最後までやり切る。
・困っている先生がいたら声をかける。
・自分の学年だけでなく学校全体を見る習慣を持つ。
・様々な年代や立場の先生と信頼関係を築く。
・新しいことにも前向きに挑戦する。
・失敗したときに、他人のせいにせず振り返る。
・管理職がどのような視点で判断しているかを考える。
こうした経験は、将来どのような道を選んでも、自分の大きな財産になります。
特に大切なのは、目の前の役割を「自分には関係のない仕事」と切り離さないことです。
学校の仕事には、すべて何らかの意味があります。
その意味を考え、自分なりの学びを見つけていく姿勢が、将来のキャリアをつくります。
このシリーズで伝えたいこと
この管理職シリーズでは、「管理職になる方法」だけをお伝えしたいわけではありません。
私が伝えたいのは、管理職という仕事の実際や、その魅力、難しさ、そして若いうちから準備しておくと役立つ考え方です。
将来、管理職を目指す人にも。
現場で教え続けたい人にも。
どちらの先生にも読んでいただける内容を目指しています。
5年後、10年後の自分がどのような道を歩むのかは、今はまだ分からなくても構いません。
ただ、そのときに「選べる自分」でいてほしい。
管理職になることを決める必要はありません。
しかし、管理職という道を最初から閉ざす必要もありません。
今日の仕事が、将来の自分につながっている。
そのことを少し意識しながら、管理職という選択肢も含めて、自分のキャリアについて考えてみませんか。