校長最初の2年間でやっておくこと①|着任100日で「変えないこと」と「変えること」を見極める

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校長として着任すると、周囲の視線が変わります。「新しい校長先生は、どのような学校をつくるのだろう」「前の校長先生と何が違うのだろう」。教職員も、保護者も、地域の方々も、新しい校長の言葉と行動を見ています。

そこで張り切って、着任早々に学校改革を打ち出したくなるかもしれません。職員会議を短くする。校務分掌を見直す。授業改善を進める。学校行事を変える。どれも大切な仕事です。

しかし、私は最初の100日間は「何を変えるか」を決める前に、「何を守るべきか」を見極める期間だと考えています。もちろん、児童生徒の安全や法令に関わる問題を先送りするという意味ではありません。直ちに対応すべきことと、実態を見てから判断すべきことを分けるのです。

この連載では、校長になって最初の2年間に取り組みたいことを考えます。第1回は、着任から100日までの学校経営の基本です。

1.校長は「一番仕事ができる先生」ではない

教諭時代に授業が上手だった人、教頭として事務処理が速かった人が、そのまま優れた校長になるとは限りません。校長の仕事は、目の前の仕事を誰よりも速く片づけることではないからです。

学校教育法は、校長の職務を「校務をつかさどり、所属職員を監督する」と定めています。学校の教育活動、組織、人員、安全、施設、対外的な関係など、学校全体を見渡して責任を果たす立場です。学校教育法(e-Gov法令検索)

「校長なのだから、自分が答えを出さなければ」と思う場面はあります。しかし、すべての答えを自分で持つ必要はありません。現場の情報を集め、異なる意見を受け止め、必要なときに決めることが校長の仕事です。教職員が力を発揮できる環境を整えることも、重要な責務です。

2.最初の30日で「この学校のよさ」を集める

着任してすぐ、課題を探すことばかりに意識が向いていないでしょうか。学校には、前任者と教職員が長い時間をかけて積み重ねてきた実践があります。まずは、それを知ることから始めたいものです。

私は、着任後の30日間に、教室、職員室、保健室、図書室、校門、地域との接点を意識的に見て回ることを勧めます。「よい授業があった」「朝の登校時に自然に声をかける先生がいた」「事務職員が行事の準備を支えていた」。小さな事実を書き留めます。

教職員に尋ねるなら、「この学校の自慢は何ですか」「これだけは残したい取組は何ですか」がよいでしょう。課題を聞くことも必要ですが、よさを尋ねることで、学校が大切にしてきた価値観が見えてきます。最初の学校経営方針は、その蓄積を否定するところから始めないことです。

3.教職員の評判を引き継ぎすぎない

前任者から「この先生は仕事が速い」「あの先生は難しい」と聞くことがあります。引継ぎとして必要な情報もありますが、人物評価をそのまま引き継ぐのは危険です。新しい校長が先入観を持つと、本人の強みを見落とすからです。

例えば、職員会議で発言が少ない先生が、学級では子どもの話を丁寧に聴いているかもしれません。大きな行事が苦手な先生が、個別支援では高い力を発揮しているかもしれません。人の一面だけで、その人を決めつけないことです。

著書『管理職への道を考え始めた先生へ』では、温かい職員室と、教職員一人一人の強みを見ることの大切さを書きました。校長になったら、なおさらこの姿勢が問われます。人事上必要な情報は適切に扱いながら、自分の目と耳でも確かめていきます。

4.教頭と「判断の境界」を先に決める

校長と教頭が互いに忙しく、必要な相談が後回しになることがあります。ところが、判断の境界が曖昧なままだと、教職員は「校長先生に聞くべきか、教頭先生に聞くべきか」と迷います。ときには二人の説明が食い違い、学校の信頼を損ないます。

最初の2週間で、少なくとも「安全・重大事案」「保護者対応」「人事・服務」「学校行事」「教育委員会への報告」の五つについて、誰が一次対応し、誰が最終判断し、どの段階で共有するかを話し合います。

例えば、「通常の保護者連絡は担当者と教頭が調整する。ただし、児童生徒の安全に関わる訴え、重大な権利侵害の疑い、報道につながり得る事案は、校長へ速やかに共有する」といった具合です。事案ごとの法令・設置者の規程を優先し、校長が知るべき情報を遮断しない仕組みにします。

5.毎朝10分の打ち合わせを「報告会」にしない

校長と教頭の定例打ち合わせは、長ければよいわけではありません。私は、毎朝10分ほどでも「今日の判断が必要なこと」「先回りしておくこと」「気になっている教職員や児童生徒の状況」を確認する時間を確保したいと考えています。

教頭が報告するだけで終わらせず、校長からも判断の理由や優先順位を伝えます。「今日はこの保護者対応より、まず児童生徒の安全確認を優先しよう」「その件は主任が主体となって進められるようにしよう」と、考え方を共有するのです。

意見が異なることもあります。その場で丁寧に議論し、教職員には整理した方針を伝えます。校長と教頭が同じ人間になる必要はありません。違う視点を持ちながら、学校として一つの判断を示せる関係をつくることです。

6.教職員との対話を「お願いを聞く場」だけにしない

新任校長が面談を始めると、「この業務を減らしてほしい」「あの先生と組むのは難しい」といった要望が集まります。もちろん、切実な声は受け止めなければなりません。ただし、すべての要望をその場で引き受けると、後で約束を守れなくなります。

面談では、「今、大切にしていること」「自分の強みを生かせている場面」「困っていること」「学校全体で変えたいこと」を尋ねます。そして、聴いたこと、確認が必要なこと、判断したことを分けて記録します。

「話を聴きました。実施できるかは、全体の業務量と合わせて判断します。来週までに方向性をお伝えします」。こうした返答は、冷たい対応ではありません。安易な約束をせず、誠実に判断するための言葉です。個人の健康や家庭に関わる情報は、共有範囲を慎重に扱います。

7.「指導」と「支援」を使い分ける

教職員との関係では、対話やコーチングが大切だと言われます。私もその考えに賛成です。しかし、すべてを対話で解決しようとすると、校長として必要な指示が遅れる場合があります。

授業改善の方法を考える場面なら、「子どもに何を考えてほしかったのですか」「次はどこを変えますか」と問いかけることが有効です。一方、児童生徒の安全確保、法令違反の疑い、緊急の危機対応では、役割を明示し、必要な指示を出さなければなりません。

また、疲弊している先生に、いきなり「あなたはどうしたいの」と問い続けるのは負担になることがあります。まず話を聴き、必要な支援につなぐことが先です。組織と個人、指導と支援のどちらを重視すべきかを、その時々の状況から判断する感覚を磨きたいものです。

8.学校経営方針は「三つの重点」まで絞る

学校経営方針に十数項目の重点が並んでいることがあります。どれも大切に見えますが、教職員が日々の判断に使えなければ、方針は掲示物になってしまいます。

私は、最初の1年は「児童生徒の安心と安全」「授業と学びの質」「教職員が力を発揮できる組織」のように、学校の実態に合わせて三つ程度の重点に絞る方法を勧めます。そして、それぞれについて「今年は何をするか」「何をしないか」「どのような変化を確認するか」を示します。

例えば「安心して学べる学校」と掲げるなら、欠席や相談の情報を誰がどのように把握するか、子どもの声をどこで聴くか、いじめを疑う情報をどう組織で共有するかまで落とし込みます。美しい言葉だけでは、学校は動きません。

9.最初の100日で、授業を必ず見る

校長の仕事が忙しくなると、教室から足が遠のきます。会議、電話、来客、文書、地域対応。どれも必要ですが、学校の中心は子どもたちの学びです。私は、着任100日までに、できるだけ多くの学級と教科の授業を見ることを勧めます。

見るのは教師の話し方だけではありません。子どもが何を考え、どこで困り、誰と学んでいるかを見ます。教室で目立たない子の様子、板書とノートのつながり、教師の問いに対する反応など、具体的な事実を集めます。

授業後には「今日の○○の場面で、普段発言しない子が考えを伝えていましたね」と伝えます。すぐに改善点を並べるより、まず見えた事実と強みを共有します。必要な指導はもちろん行いますが、授業を見ることを「欠点探し」にしないことが大切です。

10.保護者と地域には、まず「学校の考え」を伝える

着任直後は、PTAや地域の方々から、さまざまな要望や慣例を教えていただく時期です。前任者との約束がある場合もあります。すべてをその場で受け入れたり、逆に「これからは変えます」と宣言したりする必要はありません。

「これまでの経緯を教えてください」「子どもたちにとって、どのような意味がある取組でしょうか」と尋ねます。そのうえで、学校の教育目標、安全面、教職員の業務量、公平性を踏まえて判断します。

保護者の意見を丁寧に聴くことと、個別の要望をすべて実現することは違います。学校の判断に賛同が得られない場合でも、事実、判断の理由、今後の対応を説明します。校長の言葉は、相手の立場を尊重しながらも、学校としての責任を明確にするものでありたいと思います。

11.危機管理は「マニュアルがある」で終わらせない

学校保健安全法に基づき、学校には危機管理マニュアルの作成が求められています。しかし、棚にファイルがあるだけでは、緊急時に機能しません。文部科学省の手引も、学校の実情に合わせた作成と見直しを求めています。文部科学省「学校の危機管理マニュアル作成の手引」

最初の100日で、教頭、養護教諭、事務職員、関係主任とともに、少なくとも「救急搬送」「不審者」「災害」「児童生徒の所在不明」「重大な生徒指導事案」の連絡経路を確認します。誰が119番通報し、誰が保護者へ連絡し、誰が事実を記録し、誰が設置者に報告するのか。机上で一度たどってみるだけでも、不明点が見つかります。

安全に関わる不備があれば、着任早々でも改善を指示します。「まず信頼関係を築いてから」という理由で先送りしてよいものではありません。平常時の点検が、危機発生時の落ち着いた判断を支えます。

12.教職員の強みを「仕事の集中」に変えない

新しい校長は、頼れる先生を早く見つけたいものです。若手の相談に乗れる先生、行事運営が得意な先生、難しい保護者対応ができる先生。こうした人がいるのは、学校の財産です。

しかし「あなたしかいない」「あなたなら安心だから」と依頼を重ねると、その先生に仕事が集中します。強みを生かすことと、強い人に負担を寄せることは違います。

例えば若手のメンターを依頼するなら、支援する内容、期間、時間、相談先、減らせる既存業務をセットで示します。「週1回の相談をお願いする代わりに、行事資料の取りまとめは別の担当にする」といった調整です。教職員の善意を、学校運営の恒常的な不足を埋める手段にしないことです。

13.「早く帰りなさい」ではなく、仕事を減らす

働き方改革について、校長が「時間を意識しましょう」と呼びかけるだけでは十分ではありません。仕事の総量が変わらなければ、教職員は家で仕事をするか、授業準備を削るしかなくなります。

文部科学省は、教師が授業を磨き、子どもによりよい教育を行うために働き方改革を進めています。令和7年の法改正に関する情報も公表されています。文部科学省「学校における働き方改革」

着任後は、時間外在校等時間だけでなく、どの業務が誰に集中しているかを確認します。会議の回数、提出資料、行事準備、校内の重複入力などを点検し、一つでも実際に減らします。負担を増やす新規施策を始めるなら、同時に何をやめるかを示す。校長自身がその判断を引き受けることです。

14.学校評価は「よい数字」を集めるためではない

学校評価の資料を見ると、前年より数値が上がったかどうかに目が向きます。しかし、数値をよく見せることが目的になれば、実態を見失います。文部科学省は、学校評価を教育活動等の成果を検証し、学校運営の改善につなげる取組と位置づけています。文部科学省「学校評価について」

例えば「授業が分かる」と答えた子どもの割合が上がっても、学習に困難を抱える子の声が拾えていなければ、改善の余地があります。反対に数値が下がったとしても、回答しやすい環境が整い、本音が表れるようになった可能性もあります。

初年度は、調査項目を増やす前に、今ある結果と授業観察、欠席状況、教職員の声を照らし合わせます。「数字は何を示し、何を示していないか」を問い、翌年度の具体的な改善につなげたいものです。

15.「改革」を急ぐ前に、変える理由を共有する

新任校長が「今年からこれを変えます」と宣言すると、教職員が戸惑うことがあります。変化を嫌っているとは限りません。これまでの取組に込めた思いや、現場で起こり得る問題が、十分に理解されていないと感じているのかもしれません。

例えば学校行事を縮小するなら、「忙しいから減らす」だけでなく、行事の教育的な目的、子どもの学び、教職員の負担、代替手段を整理します。そして「この行事で残したい価値は何ですか」と尋ねます。

もちろん、全員の賛成がなければ何も決められないわけではありません。意見を聴く期間を設け、判断の時期を決め、最後は校長が責任を持って決めます。対話は決断を避けるためではなく、よりよい決断をするためにあるのです。

16.「何でも校長に聞く学校」をつくらない

新任校長は、相談されるとうれしく感じることがあります。ところが、細かな判断まで校長に集まるようになると、学校は校長の不在時に止まってしまいます。教頭や主任の力も育ちません。

そこで、校内の意思決定を整理します。教科や学年で決められること、主任間で調整すること、教頭が整理すること、校長が決めることを明確にします。判断を任せるときは、目的と制約条件、報告が必要な場面も伝えます。

「任せたのだから口を出さない」という放任でも、「任せると言いながら細部まで指示する」という過干渉でもありません。権限と支援をセットにして渡します。必要な報告が上がり、困ったときに相談できる仕組みがあれば、組織は少しずつ自律的に動き始めます。

17.研究が示す「信頼」とリーダーシップの関係

校長のリーダーシップについて、研究からも学べることがあります。西川潔・堀田千絵(2023)は、校長のリーダーシップ行動を検討し、方針を伝えることが重視される一方、教職員の力を引き出して協働する側面が十分に重視されていない傾向を報告しています。論文(J-STAGE)

また、迫田裕子・三沢良・青木多寿子(2025)は、教員へのウェブ調査を通して、校長の変革型・エンパワリング型リーダーシップと教員の集団同一性に正の関連があることを報告しています。ただし、関連があることと、校長の働きかけだけで成果が生じることは同じではありません。論文(J-STAGE)

私は、校長が方針を示すことと、教職員の力を引き出すことを対立させる必要はないと思います。学校の進む方向は明確にする。その方向へ進む方法には、教職員の知恵を生かす。両方が必要です。

18.2年目に向けて、改善を一つに絞る

1年目の終わりには、さまざまな課題が見えてきます。学力、いじめ、不登校、働き方、ICT、行事、地域連携。すべてを同時に改革しようとすると、教職員の負担が増え、結局どれも中途半端になりかねません。

私は、2年目に学校全体で改善することを、まず一つ決める方法を勧めます。例えば「授業で考えを表現する機会を増やす」「支援が必要な子の情報を組織でつなぐ」「会議と提出物を整理して授業準備の時間を確保する」といった、学校の実態に合う課題です。

改善の前に、現状を確認します。誰が何に困っているのか、すでにうまくいっている実践は何か、半年後に何が変われば前進と言えるのかを整理します。校長の思いつきを増やすのではなく、学校全体の学びにつながる改善にしたいものです。

19.着任100日のチェックリスト

最初の100日で、次の十項目を確認してみてください。

  • 学校のよさと、継承したい実践を教職員から聞いたか。
  • 教頭と緊急時の報告基準・判断の分担を確認したか。
  • 校長と教頭の短い定例打ち合わせを設けたか。
  • 先入観に頼らず、教職員の強みを見つけ始めたか。
  • 教職員の声を聴き、返答や判断の期限を示したか。
  • 学校経営の重点を、日常の行動に落とし込んだか。
  • 教室に足を運び、子どもの学びを具体的に見たか。
  • 危機管理マニュアルと実際の連絡経路を点検したか。
  • 業務の集中と、減らせる仕事を確認したか。
  • 2年目に改善したい課題の候補を教職員と共有したか。

すべてに丸が付かなくても構いません。大切なのは、空欄を見つけたときに、誰と何を確かめるかが分かることです。

20.校長の最初の2年間をどう考えるか

1年目は、学校を知り、人を知り、守るべきものと変えるべきものを見極める期間です。2年目は、そこで得た理解をもとに、教職員と一緒に一つずつ改善を形にしていく期間です。もちろん、緊急性の高い課題には1年目から対応しますし、2年目になっても学び続けることは変わりません。

著書『管理職への道を考え始めた先生へ』で、私は「管理職が変われば、学校は変わる」という思いを書きました。ただし、それは校長一人の力で学校を動かすという意味ではありません。学校にいる一人一人が力を発揮できるようにすることで、学校は変わっていくのだと思います。

「温かい職員室が、温かい教室を生む」。この言葉を、私は大切にしています。新任校長の最初の仕事は、立派な改革案を示すことだけではありません。人の話を聴き、授業を見て、必要な判断を引き受ける。その積み重ねから、学校経営が始まります。

参考資料

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