学校では、子どもを支えることについて多くのことを学びます。
困っている生徒に気付く。
話を聴く。
一人で抱え込ませない。
必要な人につなぐ。
組織で支援する。
どれも大切なことです。
では、同じ職員室で働く先生についてはどうでしょうか。
授業で困っている。
生徒対応に悩んでいる。
保護者対応を抱えている。
仕事量が多すぎる。
職場の人間関係に苦しんでいる。
体調がよくない。
それでも、
「大丈夫です」
と働き続けている先生がいるかもしれません。
文部科学省は、公立学校教職員のメンタルヘルス対策として、予防や早期発見・対応、相談体制の整備、業務縮減、良好な職場環境の醸成を重視し、教職員が相談しやすく心理的安全性の高い職場環境をつくることを示しています。(文部科学省)
また、現在の教師政策でも、学校管理職のリーダーシップの下で心理的安全性を確保し、多様な教職員が力を発揮できる組織をつくることが重視されています。(文部科学省)
困っている先生を、
「本人が相談してくるまで待つ」
だけにはしたくありません。
子どもを一人にしない学校は、先生も一人にしない学校である必要があります。
- 1.「相談できる」は職員室の重要な機能
- 2.「大丈夫です」をそのまま受け取らない
- 3.普段の雑談を軽視しない
- 4.若手教師を「本人の努力」で育てない
- 5.困っている人に「もっと頑張ろう」と言わない
- 6.「教える」より先に話を聴く
- 7.人前で指導しすぎない
- 8.陰で人を評価する職員室にしない
- 9.ハラスメントを「人間関係の問題」で済ませない
- 10.見ている人にも役割がある
- 11.管理職・主任ほど「分からない」と言う
- 12.相談を受けた人だけに背負わせない
- 13.学校外の相談先も知っておく
- 14.休む人を責めない
- 15.「強い先生」だけが評価される職場にしない
- 16.相談しやすさを「個人の人柄」に頼らない
- 17.一番近くにいる人を大切にする
- 相談できる職員室チェックリスト
- 参考資料
1.「相談できる」は職員室の重要な機能
職員室には、様々な機能があります。
仕事をする。
情報を共有する。
会議をする。
教材を準備する。
電話対応をする。
しかし、それだけではありません。
困ったときに相談できる場所
でもあるはずです。
「この授業、どうしたらいいでしょう」
「この生徒への対応で迷っています」
「保護者への返事を一緒に考えてもらえませんか」
「今、仕事を抱えすぎています」
こうしたことを自然に言える職員室なら、問題が小さいうちに周囲が関われます。
逆に、
「そんなことも分からないのかと思われそう」
「自分で何とかしなければ」
と思わせる職場では、相談が遅れます。
相談は能力不足の証明ではなく、専門職として適切に仕事を進めるための行動
と捉えたいものです。
2.「大丈夫です」をそのまま受け取らない
先生同士で、
「大丈夫?」
と聞くことがあります。
すると、多くの場合、
「大丈夫です」
と返ってきます。
もちろん、本当に大丈夫な場合もあります。
しかし、
「大丈夫?」
という質問は、
「大丈夫です」
と答えやすい質問でもあります。
少し具体的に聞きます。
「授業準備、間に合っていますか」
「保護者対応の件、その後どうなりましたか」
「今、一番時間を取られている仕事は何ですか」
「何か一つ、一緒にできることはありますか」
こうすると、話しやすくなる場合があります。
支援で大切なのは、
「困っていますか」と聞くことだけではなく、困りごとを話せる入口をつくること
です。
3.普段の雑談を軽視しない
相談しやすい関係は、問題が起きたとき突然できるものではありません。
朝の一言。
昼休みの雑談。
授業後の短い会話。
何気ないやり取り。
こうした関係の積み重ねがあります。
2026年に公表された日本学級経営学会の研究では、心理的安全性の高い教職員集団において、教務主任が職務上の困難について相談に乗るだけでなく、教科や校務分掌とは直接関係のない会話が自己開示のきっかけになっていることが報告されています。(J-STAGE)
雑談は無駄な時間とは限りません。
困ったときに声を掛けられる関係の土台
になることがあります。
4.若手教師を「本人の努力」で育てない
若手教師には、分からないことがたくさんあります。
授業。
生徒指導。
保護者対応。
校務分掌。
学校独自の仕組み。
初めて経験する仕事ばかりです。
それなのに、
「若いうちは苦労した方がよい」
「自分で失敗しながら覚えるものだ」
だけで育成することには限界があります。
中学校の新人教師が直面する生徒指導上の危機と支援について扱った研究でも、危機から回復していく過程における周囲のサポートが検討されています。(J-STAGE)
失敗から学ぶことはあります。
しかし、
必要以上に一人で困らせることと、経験から学ばせることは違います。
最初は一緒に対応する。
終わった後に振り返る。
次は本人に任せる。
そのような支援を考えます。
5.困っている人に「もっと頑張ろう」と言わない
仕事がうまくいかない教師を見ると、
「もう少し頑張って」
「みんな通ってきた道だから」
と言いたくなることがあります。
しかし、その人がすでに限界近くまで頑張っている可能性があります。
そこで確認したいのは、
努力量ではなく、
何がその人を困らせているのか
です。
授業技術なのか。
学級の状況なのか。
仕事量なのか。
情報不足なのか。
役割が曖昧なのか。
相談相手がいないのか。
健康上の問題なのか。
職場環境なのか。
問題によって支援は異なります。
「頑張る」という一つの方法にまとめないことです。
6.「教える」より先に話を聴く
経験がある教師ほど、相談を受けるとすぐに解決策を言いたくなります。
「私ならこうする」
「それはこうすればいい」
もちろん、具体的な助言が必要な場面もあります。
しかし、最初から答えを与えると、
相手が本当に困っていることとずれる場合があります。
まず、
「何に一番困っていますか」
「どうなれば少し楽になりますか」
「今まで何を試しましたか」
と聞きます。
その後で、
「一緒に考えましょう」
とします。
相談とは、正解を与えることだけではなく、その人が問題を整理できるようにすること
でもあります。
7.人前で指導しすぎない
若手の先生に改善してほしいことがある。
その場合でも、
職員室全体。
学年会。
生徒の前。
などで必要以上に指摘しないようにします。
業務上、全体で共有しなければならない内容はあります。
一方、個人に対する具体的な助言まで皆の前で行う必要があるとは限りません。
「あとで少し話しましょう」
と場所と時間を変えることができます。
指導内容が正しくても、
伝え方によって、その後相談しにくくなる
ことがあります。
目的は相手を評価することではなく、次の仕事をよりよくすることです。
8.陰で人を評価する職員室にしない
本人がいないところで、
「あの先生は生徒指導ができない」
「仕事が遅い」
「担任として厳しい」
と話すことがあります。
必要な情報共有と、人物評価は分けなければなりません。
例えば、
「A先生は保護者対応が苦手だ」
ではなく、
「この案件は複数で対応した方がよい」
と考えます。
「あの先生は仕事が遅い」
ではなく、
「この仕事量を一人で処理できる状態なのか」
を確認します。
人を問題にするのではなく、起きている事実と必要な対応を話す。
この習慣は、職員室の安全性を大きく左右します。
9.ハラスメントを「人間関係の問題」で済ませない
職場で、
立場を利用した過度な叱責。
人格を否定する発言。
仲間外し。
必要な情報を意図的に与えない。
過大な要求。
仕事を与えない。
といったことが起きた場合、単なる「相性の問題」で済ませてはいけません。
厚生労働省は、職場のパワーハラスメントについて、優越的な関係を背景とする言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、就業環境を害するものと整理しており、事業主には相談体制の整備など必要な措置が求められています。(厚生労働省)
「本人同士で話し合えばよい」
だけでは適切でないケースがあります。
必要に応じて管理職、教育委員会、人事担当、相談窓口等につなぎます。
10.見ている人にも役割がある
職場の問題は、
「言った人」
と
「言われた人」
だけの問題ではありません。
その場にいる周囲の人も職場環境をつくっています。
誰かが必要以上に強い言葉で責められている。
特定の人だけが繰り返し否定される。
明らかに相談しにくい雰囲気になっている。
そのとき、
「自分には関係ない」
で終わらせないようにします。
その場で止めることが難しければ、
後から本人に声を掛ける。
管理職へ相談する。
事実を確認する。
複数の人で対応する。
という方法があります。
職員室の文化は、強い発言をする人だけでなく、それを見ている人の行動によってもつくられます。
11.管理職・主任ほど「分からない」と言う
相談しやすい職場をつくるために、
管理職や主任が何でも知っているように振る舞う必要はありません。
「それは私も分からないので確認します」
「この対応は迷いますね」
「一緒に考えましょう」
と言えることも大切です。
上の立場の人が、
失敗できない。
弱みを見せない。
質問しない。
という姿を続けると、周囲も同じ行動を求められているように感じます。
文部科学省は、多様な背景や専門性を持つ教職員が円滑にコミュニケーションを取るための心理的安全性や、教師同士が学び合う文化を学校管理職がつくる重要性を示しています。(文部科学省)
「分からない」と言えるリーダーがいる職場では、周囲も質問しやすくなります。
12.相談を受けた人だけに背負わせない
相談された教師が、
「自分が助けなければ」
と全部背負う必要もありません。
例えば、
深刻な人間関係。
健康上の問題。
ハラスメント。
長時間勤務。
継続的な体調不良。
専門的な対応が必要な問題。
などは、一人の同僚だけで解決できるものではありません。
管理職。
教育委員会。
人事担当。
産業医。
医療機関。
外部相談窓口。
適切な人や機関につなぐことが必要です。
文部科学省も、教職員のメンタルヘルス対策として相談窓口の設置・周知や産業医等による健康管理を求めています。(文部科学省)
支えることと、抱え込むことは違います。
13.学校外の相談先も知っておく
職場内で相談できない場合があります。
上司に相談しにくい。
管理職自身との関係で困っている。
相談したが状況が変わらない。
そのような場合には、学校外の相談先を利用する選択肢もあります。
厚生労働省は、職場のハラスメント等について、都道府県労働局などの総合労働相談コーナーを外部相談窓口として案内しています。(あかるい職場応援団)
公立学校教職員については、自治体・教育委員会・共済組合等にも相談制度が設けられている場合があります。
年度当初に、
「困ったらどこへ相談できるのか」
を教職員全員が知っておくことにも意味があります。
14.休む人を責めない
誰かが休むと、周囲の仕事が増えることがあります。
それは現実です。
しかし、
「また休んだ」
「みんな大変なのに」
という言葉が日常的に出る職場では、体調が悪くても休めなくなります。
必要なのは、
休んだ人を責めることではなく、
一人が休んだときに仕事が回らなくなる仕組みを見直すこと
です。
情報を共有する。
業務を属人化しない。
代理できる体制をつくる。
仕事自体を減らす。
管理職が調整する。
文部科学省も教職員のメンタルヘルスについて、本人のセルフケアだけではなく、適切な校内人事、業務縮減、良好な職場環境の醸成など組織的な取組を求めています。(文部科学省)
15.「強い先生」だけが評価される職場にしない
教師にはいろいろなタイプがあります。
大きな声で学年を動かせる人。
静かに生徒の話を聴ける人。
授業研究を深く続ける人。
ICTに詳しい人。
保護者との関係づくりが丁寧な人。
困っている同僚に自然に声を掛ける人。
学校には多様な専門性が必要です。
文部科学省も、多様な専門性を持つ質の高い教職員集団をつくり、その多様性によって学校組織のレジリエンスを高める方向を示しています。(文部科学省)
目立つ仕事だけを価値ある仕事とせず、
見えにくい支援や関係づくりも学校を支える重要な仕事
として捉えたいものです。
16.相談しやすさを「個人の人柄」に頼らない
「あの先生なら相談できる」
という人がいるのはよいことです。
しかし、一人の優しい先生だけに相談が集中する状態は持続可能ではありません。
相談しやすさを学校の仕組みにします。
例えば、
・学年会で困りごとを共有する時間をつくる
・若手と定期的に話す機会を設ける
・管理職が短時間でも個別に話を聞く
・相談担当者を明確にする
・校内外の相談窓口を周知する
・会議で個人を責める話し方をしない
・一人の問題を組織の課題として検討する
などです。
教師のメンタルヘルス研究でも、ストレスへの対応は個人のスキルだけでなく、学校組織の再構成を含む、個人と組織の双方からのアプローチが重要とされています。(J-STAGE)
温かい職員室を、温かい人の善意だけに依存させない。
これが大切です。
17.一番近くにいる人を大切にする
教師は、人を支える仕事です。
生徒を支える。
保護者を支える。
家庭と関係機関をつなぐ。
そのために専門性を高めます。
しかし、同じ職員室で働いている人が苦しんでいるとき、
「自分の仕事ではない」
と考える学校でよいでしょうか。
大きなことをする必要はありません。
「最近どうですか」
と聞く。
一緒に教材を見る。
保護者対応に同席する。
一つ仕事を引き受ける。
管理職につなぐ。
必要なら外部へ相談するよう勧める。
できることは違います。
そして、できないことまで一人で背負う必要もありません。
大切なのは、
「困っていることに気付いているのに、誰も何もしない状態」を当たり前にしないこと
です。
心理的安全性の高い職員室における日常的なコミュニケーションの研究では、職務上の困難について相談できることに加え、日常の雑談や対話が同僚との関係形成に関わる可能性が示されています。(J-STAGE)
職員室の空気は、大きな改革だけで変わるものではありません。
日々の言葉。
会議での話し方。
困っている人への声掛け。
失敗した人への接し方。
休んだ人への反応。
そうした小さな行動の積み重ねでつくられます。
温かい職員室が、温かい教室を生む。
その出発点の一つは、
一番近くで働いている人を、一人にしないこと
だと思います。
相談できる職員室チェックリスト
□ 「分からない」と言える
□ 若手が質問しても嫌な顔をされない
□ 困っている人へ周囲から声を掛けている
□ 人前で必要以上に個人を責めない
□ 本人のいない場所で人物評価を繰り返さない
□ 管理職・主任も迷いや失敗を話せる
□ 日常的な雑談や対話がある
□ 相談内容を必要以上に広めない
□ ハラスメントを個人間の相性で片付けない
□ 誰かが休んでも責めない
□ 一人に仕事が集中していない
□ 一人の「面倒見のよい先生」だけに若手支援を任せていない
□ 校内の相談先が分かる
□ 校外の相談先も周知されている
□ 必要に応じて専門職・関係機関につなげられる
□ 教師同士がお互いの強みを認めている
□ 「助けてください」と言うことを弱さと考えていない
すべてに○が付く学校は少ないと思います。
重要なのは、
「どの先生が弱いのか」を探すことではなく、「この職員室には、相談を難しくしているものがないか」と考えること
です。
参考資料
・文部科学省「公立学校教職員のメンタルヘルス対策」関連資料。教職員が相談しやすく心理的安全性の高い職場環境、相談体制、業務縮減等の重要性を示しています。(文部科学省)
・文部科学省「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」関連資料。心理的安全性、多様な専門性を有する教職員集団、学校組織のレジリエンス等を位置付けています。(文部科学省)
・厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」。職場のパワーハラスメント防止措置や相談体制等について整理しています。(厚生労働省)
・厚生労働省「あかるい職場応援団 相談窓口のご案内」。職場外で利用できる相談先を案内しています。(あかるい職場応援団)
・日本学級経営学会「心理的安全性の高い教職員集団におけるインフォーマル・コミュニケーションの在り方」。2026年公表の研究です。(J-STAGE)
・田上不二夫「教師のメンタルヘルスに関する研究とその課題」『教育心理学年報』。個人と学校組織の双方からのアプローチを論じています。(J-STAGE)

