問題が小さい段階でどう対応するか~威圧に頼らない生徒指導の初期対応~

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授業中の私語が少し増えた。
生徒同士の言い合いがあった。
廊下で、気になるやり取りを見かけた。
提出物を巡って、教師へ強い言葉を返す生徒がいた。
授業中に、ふざけて危険な行動をする生徒がいた。
学校では、毎日のように小さな問題が起こります。
そのとき、
「これくらいなら、まだ大丈夫だろう」
「今日は忙しいから、次に何かあったときに対応しよう」
「担任の先生が気づいているだろう」
と考え、そのままにしてしまうことがあります。
小さな変化を放置したことによって、後から問題が大きくなる場合があります。
だから、問題が小さい段階で対応することは大切です。
ただし、早く対応することと、強く叱ることは同じではありません。
大きな声を出す。
その場で生徒を問い詰める。
みんなの前で厳しく注意する。
最初に強い態度を見せる。
そのような対応が、いつも適切とは限りません。
早く対応しようとするあまり、事実を十分に確かめず、生徒を決めつけてしまうことがあります。
教師の前では話しにくい事情を、生徒が抱えていることもあります。
一方の話だけを聞いて指導すれば、別の生徒を傷つける可能性もあります。
問題が小さい段階で必要なのは、威圧ではありません。
安全を確保する。
起きている行動を止める。
事実と推測を分ける。
関係する生徒の話を聴く。
一人で抱えず、必要な人と共有する。
記録を残す。
その後の変化を見守る。
この一連の対応です。

「最初の対応で一年が決まる」と考えすぎない

新学年が始まった直後は、教師も生徒も、互いの様子を見ています。
どのような授業なのか。
何を大切にする先生なのか。
どこまで許されるのか。
困ったときに、話を聞いてもらえるのか。
教師の最初の対応が、その後の関係づくりに影響することはあります。
しかし、
「最初の問題行動への対応で、一年間が決まる」
と考えすぎると、教師は必要以上に力が入ります。
最初に厳しい姿を見せなければならない。
ここで押し切られたら、後から指導できなくなる。
生徒になめられてはいけない。
そのような不安から、強い指導をしてしまうことがあります。
学校生活は、一回の指導だけで決まるものではありません。
最初の対応が十分でなかったとしても、後から関係をつくり直すことはできます。
教師の説明が足りなければ、改めて説明できます。
指導が強すぎたと思えば、生徒へ伝え直すこともできます。
必要な情報が後から分かれば、判断を修正できます。
初期対応は重要です。
しかし、「最初の一回で勝負が決まる」と考えなくてもよいのだと思います。
大切なのは、問題を放置しないことと、対応を固定しないことです。

「毅然とした態度」は、大声を出すことではない

生徒指導では、
「毅然とした態度を取る」
という言葉が使われます。
毅然とした態度は、怖い表情をつくることでも、大きな声を出すことでもありません。
私は、次のような態度だと考えています。
危険な行動は、その場で止める。
人を傷つける行為を曖昧にしない。
感情的にならず、確認できた事実を伝える。
生徒によって基準を変えない。
分からないことを、分かったふりで決めない。
必要なときには、周囲へ助けを求める。
指導した後も、生徒との関係を切らない。
声が大きいかどうかではありません。
教師が落ち着き、行動の基準を明確にすることです。
たとえば、授業中に危険なふざけ方をしている生徒がいれば、
「危ないから、今すぐ止めます」
と伝えます。
この場面で、長い説教を始める必要はありません。
まず、行動を止め、安全を確保します。
その後で、何が起きたのかを確認します。
教師が感情的になると、生徒は問題となった行動よりも、
「先生が怒った」
ことに意識を向けます。
落ち着いて対応することは、弱い対応ではありません。
必要な行動を、必要な順序で行うための専門性です。

最初に守るのは、教師の立場ではなく安全

生徒が教師へ反抗的な言葉を返したとき、教師は自分の立場を否定されたように感じることがあります。
周囲に多くの生徒がいれば、
「ここで何も言わなければ、示しがつかない」
と考えることもあります。
しかし、初期対応で最初に守るべきものは、教師の立場ではありません。
子どもの生命、身体、尊厳、学習する権利です。
暴力が起きている。
物が投げられている。
刃物や危険物がある。
自傷のおそれがある。
強い興奮状態にある。
けが人がいる。
このような場面では、議論や説得より先に、安全を確保します。
周囲の生徒を離す。
危険物を遠ざける。
応援を呼ぶ。
けがの状態を確認する。
必要に応じて、養護教諭、管理職、救急、警察などにつなぐ。
緊急時には、学校の危機管理マニュアルや自治体の手順に従います。
令和4年3月に閣議決定された「第3次学校安全の推進に関する計画」は、子どもが安心して学ぶためには安全の確保が不可欠な前提であり、安全に関する取組を学校全体で総合的に進める必要があるとしています。事故防止と事故発生後の対応を、担当教師一人の注意だけに任せるものではありません。

見て見ぬふりをしないことと、その場で叱ることは違う

廊下で、生徒が別の生徒の持ち物を取り上げている。
教室で、誰かをからかう言葉が聞こえた。
授業中、困っている生徒を周囲が笑っている。
このような場面を見たとき、何もせず通り過ぎてはいけません。
ただし、
「見て見ぬふりをしない」
ことと、
「その場で厳しく叱る」
ことは同じではありません。
まず、
「今の行動は止めます」
「その物を返してください」
「その言葉は、ここでは続けさせません」
と、行動を止めます。
次に、誰に何が起きたのかを確認します。
周囲に生徒が大勢いる場で、すべてを問い詰めない方がよい場合があります。
被害を受けた生徒が、人前では話せないことがあります。
関係する生徒も、周囲の目を気にして、本当のことを話さない可能性があります。
その場では安全を確保し、落ち着いて話せる場所と時間をつくります。
すぐに結論を出さず、
「今見えた範囲では、このようなことが起きていました。これから一人ずつ話を聞きます」
と伝えることもできます。
見過ごさないことは、即座に処分を決めることではありません。
必要な対応を開始することです。

事実と教師の解釈を分ける

生徒指導では、見たことと、そこから考えたことが混ざりやすくなります。
「反抗的な態度を取った」
「わざと授業を妨害した」
「相手を傷つけるつもりだった」
これらは、事実のように見えますが、教師の解釈を含んでいます。
記録や報告では、できる限り、確認できた行動を具体的にします。
「教師が着席するよう伝えた後も、約二分間、教室後方に立っていた」
「説明中に、隣の生徒へ三回話しかけた」
「相手の筆箱を取り、約一メートル離れた机へ置いた」
「教師に対し、『うるさい』と発言した」
事実を具体的にすると、その後の対応を考えやすくなります。
反対に、
「問題のある生徒」
「指導が入らない生徒」
「いつもふざけている」
という言葉だけでは、何が起きたのか分かりません。
教師の見立てが必要な場面はあります。
しかし、まず事実を示し、その後に見立てを加えます。
確認できたこと。
本人が話したこと。
別の生徒が話したこと。
まだ確認できていないこと。
教師の推測。
これらを分けます。
令和6年8月改訂の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」は、記録には「いつ、どこで、誰が、誰に、何を、どうした」などを明記し、確認できた事項と確認できなかった事項を分けることが望ましいとしています。これは重大事態の調査に限らず、日常の初期対応でも参考になる考え方です。

一人ずつ話を聴く

生徒同士のトラブルが起きたとき、
「二人とも、ここで話しなさい」
と、いきなり向き合わせることがあります。
関係が落ち着いており、双方が安心して話せる場合には、対話が有効なこともあります。
しかし、初期の段階では、まず別々に話を聴いた方がよい場合があります。
力関係がある。
一方が相手を怖がっている。
周囲に同調する生徒がいる。
まだ感情が高ぶっている。
いじめの可能性がある。
このような状況で向き合わせると、被害を受けた生徒が話せなくなる可能性があります。
話を聴くときには、
「なぜ、そんなことをしたのですか」
と、最初から責任を追及する質問を重ねないことです。
まず、
「何がありましたか」
「その前には、何がありましたか」
「あなたは、どこにいましたか」
「誰が、どのような言葉を言いましたか」
「そのとき、どうしましたか」
と、出来事の経過を確認します。
生徒の話を、そのまますべて事実と決めるわけではありません。
しかし、最初から疑ってかかるのでもありません。
話を聴き、ほかの情報と照合します。
令和6年8月改訂のガイドラインも、対象となる児童生徒と関係児童生徒の話を聴かずに、一方的な指導を行わないよう求めています。

行動を止めることと、人格を否定することを分ける

問題となる行動には、明確に対応する必要があります。
暴力。
いじめ。
差別的な発言。
他人の物を壊す行為。
授業を妨げる行為。
危険なふざけ方。
これらを、
「子どもだから仕方がない」
として曖昧にしてはいけません。
一方で、行動への指導を、その生徒の人格評価へ広げないことです。
「その行動は止めます」
と、
「あなたは最低です」
は違います。
「その言葉は、人を傷つけます」
と、
「あなたは人の気持ちが分からない人です」
も違います。
指導するのは、その場で起きた行動です。
生徒の存在そのものではありません。
教師が人格を否定すると、生徒は、
「行動を変える」
のではなく、
「自分はどうせ悪い人間だ」
と受け取ることがあります。
また、教師に対する反発だけが残ることもあります。
行動のどこに問題があったのか。
誰に、どのような影響があったのか。
次に、どのような行動を選べるのか。
そこを具体的に伝えます。

教師の感情を、そのまま指導にしない

教師も感情をもつ人間です。
腹が立つことがあります。
悲しくなることもあります。
何度伝えても同じ行動が続けば、疲れます。
自分が大切にしていることを軽く扱われると、強く反応したくなります。
感情をもつこと自体が問題なのではありません。
問題は、その感情を整理しないまま、生徒への指導に使うことです。
教師が強く怒っているときは、必要最低限の安全確保と行動の制止にとどめ、
「詳しい話は、少し落ち着いてから聞きます」
とすることもできます。
別の教師に一緒に入ってもらう。
その場を少し離れ、呼吸を整える。
事実をメモしてから話す。
自分の感情が強いときほど、手順を守ります。
毅然とした態度とは、感情を見せないことではありません。
感情に任せて、必要以上の言葉や行動を重ねないことです。

指導には手続がある

問題行動があったからといって、教師がその場の感情だけで処分を決めてよいわけではありません。
文部科学省の『生徒指導提要』は、懲戒を行う場合、教育的な配慮の下で、組織的に指導の方向性と役割分担を検討し、本人や関係者の話を聴き、必要な情報を集め、事実関係を確認するなど、適正な手続を取る必要があるとしています。
また、指導後も児童生徒を一人にせず、心身の変化に注意し、保護者の理解と協力を得ることが重要だとしています。
つまり、
問題行動を見つける。
その場で叱る。
反省文を書かせる。
それで終わり。
というものではありません。
何が起きたのか。
誰にどのような影響があったのか。
どのような指導や支援が必要か。
誰が担当するか。
保護者へ何を伝えるか。
その後、どのように見守るか。
組織として考えます。

強い指導ほど効果が高いとは限らない

教師が大きな声で叱ると、その場は静かになることがあります。
生徒が怖さを感じ、行動を止めるからです。
しかし、静かになったことと、行動の意味を理解したことは同じではありません。
教師が見ていないところで、同じ行動を続ける可能性があります。
より見つかりにくい方法へ変わることもあります。
指導の目的は、教師の前で従わせることではありません。
生徒が、自分の行動とその影響を理解し、次に別の行動を選べるようにすることです。
『生徒指導提要』は、体罰では正常な倫理観を養うことはできず、力による解決への志向を助長する可能性があると指摘し、体罰によらず適切な懲戒と粘り強い指導を行うことを求めています。
「厳しく言ったから伝わった」
とは限りません。
生徒が何を理解し、次にどう行動したかを見る必要があります。

同じ基準と、同じ対応は違う

生徒指導では、
「どの生徒にも同じように対応する」
ことが公平だと考えることがあります。
確かに、人によって基準を変えてはいけません。
同じ行動を、ある生徒には許し、別の生徒には厳しく注意すれば、信頼を失います。
ただし、基準を同じにすることと、対応方法を全く同じにすることは違います。
言葉で説明すれば理解できる生徒。
落ち着くまで時間が必要な生徒。
情報を一度に多く伝えると混乱する生徒。
人前で話すことに強い不安がある生徒。
過去の体験から、強い声に過敏に反応する生徒。
それぞれに合った伝え方があります。
守るべき基準は共通です。
しかし、その基準を理解し、行動を変えられるようにする支援は、一人一人異なります。
これは特別扱いではありません。
同じ目的へ向かうために、必要な方法を調整することです。

問題の背景を考える

授業中に話し続ける。
席を離れる。
課題を出さない。
教師へ強く反発する。
その行動だけを見ると、
「やる気がない」
「わがままだ」
「指導に従う気がない」
と思いたくなることがあります。
しかし、行動には背景があります。
授業内容が分からず、参加できない。
課題の量や難易度が合っていない。
周囲からからかわれている。
家庭で大きな変化があった。
睡眠が取れていない。
発達上の特性から、刺激を調整しにくい。
教師の説明を、別の意味に受け取っている。
もちろん、背景があれば、どのような行動も許されるわけではありません。
他人を傷つける行動は止めなければなりません。
その上で、行動だけを止めても、背景が変わらなければ、同じ問題が続くことがあります。
「なぜ、そんなことをした」
と責めるだけでなく、
「何があったのか」
「どこで困っていたのか」
「次に同じ状況になったら、どうすればよいか」
を考えます。

問題を起こした生徒だけを指導して終わらない

授業中に私語をした生徒を指導した。
それで授業が落ち着いた。
しかし、課題が難しすぎて、多くの生徒が取り組めていなかったのかもしれません。
特定の生徒をからかう発言があった。
発言した生徒を指導した。
しかし、学級全体に、そのからかいを笑ってよいという雰囲気があったのかもしれません。
一人の生徒への指導だけでなく、
授業の進め方。
座席や集団の構成。
学級内の人間関係。
学校のルール。
教師間の情報共有。
にも目を向けます。
文部科学省の『生徒指導提要』は、生徒指導を、問題が起きてから特定の児童生徒に対応するものだけではなく、全ての児童生徒を対象とする発達支持、課題の未然防止、早期発見対応、困難課題への対応という重層的な構造で示しています。
個別の問題に対応した後、
「同じ問題が起こりにくい授業や学級にするために、何を変えられるか」
を考えることが、再発防止につながります。

小さい問題ほど、早く共有する

問題がまだ小さい段階では、
「この程度のことで、管理職や学年主任へ言う必要はない」
と思うことがあります。
自分で解決できない教師だと思われたくない。
大げさにしたくない。
忙しい人の時間を取らせたくない。
そのような気持ちもあります。
しかし、小さい問題だからこそ、短く共有できます。
「今のところ、大きな問題ではありませんが、念のため共有します」
「私の授業で、今週このような行動が二回ありました」
「すぐに対応し、現在は落ち着いています。ほかの場面でも同じことがないか確認したいです」
このように伝えます。
共有することと、大きな指導を始めることは同じではありません。
情報が集まることで、
別の授業でも起きている。
休み時間にも同じ関係がある。
家庭からも相談があった。
ということが分かる場合があります。
一人の教師から見れば小さな出来事でも、複数の情報を合わせると、重要な変化が見えることがあります。
『生徒指導提要』も、課題の予兆や初期状態が見られる段階では、担任と生徒指導主事などが協力する機動的な支援チームや、必要に応じて養護教諭、特別支援教育コーディネーター、SC、SSWなどを含むチームによる早期対応を示しています。

いじめの可能性があれば、個人の判断で終わらせない

生徒同士のからかい。
持ち物を隠す行為。
SNS上の言葉。
仲間外れ。
ふざけ合いに見える身体接触。
これらを、
「よくあること」
「本人たちも笑っている」
「けんかだから、どちらも同じ」
と、教師個人の見方だけで終わらせないことです。
いじめの可能性があれば、学校いじめ対策組織へ情報をつなぎます。
令和6年8月改訂のガイドラインは、学校いじめ対策組織を、いじめの防止、早期発見、早期対応を実効的・組織的に行うための中核となる常設組織と位置づけています。
また、重大な被害などの「疑い」の段階から必要な対応へ動き出すこと、学校全体でいじめを重大化させない取組を進めることを求めています。
情報を上げることは、
「いじめだと決めつける」
ことではありません。
組織で確認し、必要な支援を始めるための行動です。

記録は、責任逃れのためではない

生徒指導の記録というと、
「何かあったときに、自分を守るため」
と考えることがあります。
記録には説明責任を支える面があります。
しかし、それだけではありません。
記録は、次の支援を適切につなぐために必要です。
いつ起きたのか。
どこで起きたのか。
誰が見たのか。
何が確認できたのか。
誰に話を聴いたのか。
どのように対応したのか。
本人の様子はどうだったか。
保護者へ、誰が、いつ、何を伝えたのか。
次に何を確認するのか。
これらを残します。
記憶だけに頼ると、時間がたつにつれて内容が変化します。
複数の教師が関わる場合、同じ説明を生徒へ何度も求めることにもなります。
必要な情報を、必要な人が確認できる形にします。
ただし、個人情報です。
私的なメモを机の上に置く。
個人端末へ保存する。
私的なクラウドサービスへ入力する。
生成AIへ個人が特定できる情報を入れる。
そのような扱いは避け、自治体と学校の情報管理規定に従います。

保護者への連絡は、結論が出てからとは限らない

保護者へ連絡するとき、
「すべての事実を確認してから、正確に伝えたい」
と考えることがあります。
一方で、確認に時間をかけすぎると、
「学校は、なぜすぐに知らせなかったのか」
という不信につながります。
事故や重大なトラブルでは、事実確認の途中でも、現時点で分かっていることを伝える必要があります。
その際、
「原因は、この生徒です」
「こちらに責任はありません」
など、確認できていない結論を伝えません。
「本日、授業中にこのような出来事がありました」
「現在、ここまで確認できています」
「お子様の状態は、このようになっています」
「引き続き、関係する生徒から話を聴きます」
「確認後、改めて連絡します」
と伝えます。
保護者への連絡は、学校の正しさを主張する場ではありません。
子どもの安全と支援のために、情報と今後の対応を共有する場です。
誰が連絡するかも重要です。
担任、教科担当、学年主任、管理職の誰が話すかを、事案に応じて決めます。

教師が授業に遅れたとき

教師が授業開始に遅れることがあります。
休み時間に緊急の生徒対応があった。
保護者から重要な連絡が入った。
前の授業で事故があった。
体調が急に悪くなった。
やむを得ない事情はあります。
そのときに避けたいのは、生徒の責任にすることです。
「あなたたちの対応をしていたから遅れた」
「前のクラスが悪かった」
という言い方をすれば、生徒に責任を転嫁することになります。
まず、可能であれば、近くの教師や職員室へ連絡し、教室が無人にならないようにします。
授業へ入ったら、
「遅れて申し訳ありません。必要な対応がありました」
と、簡潔に伝えます。
生徒へ詳しく話せない内容であれば、無理に説明する必要はありません。
授業後は、
なぜ連絡できなかったのか。
代わりに教室へ入る仕組みはあったか。
教材や準備物の配置に問題はなかったか。
同じことが起きた場合、どうするか。
を振り返ります。
教師が謝ることは、権威を失うことではありません。
自分の行動に責任をもつ姿を示すことです。

授業中、安易に教室を離れない

授業中にプリントを忘れた。
教材を職員室に置いてきた。
コピーが足りない。
そのために、教師が教室を離れることがあります。
しかし、教師がいない間に、生徒同士のトラブルや事故が起きる可能性があります。
特に、実験、実習、運動、刃物や工具を扱う活動では、監督者がいない状態をつくってはいけません。
だからといって、
「どのような事情があっても、絶対に教室を離れてはいけない」
と単純に決めることもできません。
生徒が急に倒れた。
別の場所で重大な危険が起きた。
緊急に応援を呼ぶ必要がある。
そのような場面があります。
重要なのは、やむを得ず離れる場合の方法を、学校で決めておくことです。
近くの教室の教師へ応援を求める。
内線や連絡手段を使う。
職員室から人を呼ぶ。
活動を一度止める。
危険物を置いたままにしない。
生徒だけの状態をつくらない。
個人の判断だけにせず、学校の危機管理マニュアルや安全管理のルールを確認します。

教科指導中の事故を防ぐ

理科の実験。
技術科の工具。
美術科の刃物や塗料。
保健体育科の運動。
家庭科の火や調理器具。
事故が起こり得る活動では、事前の指導が必要です。
ただし、
「危ないから気をつけなさい」
と伝えるだけでは不十分です。
何が危険なのか。
どのような行動が事故につながるのか。
器具をどのように使うのか。
どこに立つのか。
事故が起きたら、誰へ知らせるのか。
活動を中止する合図は何か。
具体的に示します。
活動前には、
設備や器具の状態。
動線。
人数。
生徒の理解。
保護具。
緊急時の連絡手段。
を確認します。
文部科学省は、令和6年3月に「学校における安全点検要領」を公表し、質の高い実効性のある安全点検を進めるための考え方を示しています。
同時に改訂された「学校事故対応に関する指針」は、事故の未然防止に加え、事故発生後の初期対応、保護者対応、情報整理、再発防止などを学校と設置者が組織的に進めることを求めています。
安全指導は、教科通信を一度配布すれば完了するものではありません。
活動の直前に、必要な内容を確認する。
生徒が理解できているか確かめる。
危険な状態があれば、活動を始めない。
この判断が必要です。

事故が起きたら、原因追及より先に対応する

授業中に生徒がけがをした。
そのとき教師は、
「誰が悪かったのか」
「なぜ指示を守らなかったのか」
を確認したくなります。
しかし、最初にすることは、原因追及ではありません。
活動を止める。
周囲の安全を確保する。
けがの状態を確認する。
必要な応急手当を行う。
養護教諭や管理職へ連絡する。
緊急性があれば救急要請を行う。
ほかの生徒を安全な場所へ移す。
この順序です。
その後、事故の状況を確認します。
事故直後に、負傷した生徒を強く問い詰めれば、心身の負担を増やします。
また、教師が自分の責任を恐れ、
「本人がふざけていた」
「指示はしていた」
と先に説明し始めると、必要な情報が偏ります。
まず、子どもの安全と治療です。
次に、確認できた事実を整理します。
学校の対応に改善すべき点があれば、隠さず向き合います。

指導後に生徒を一人にしない

生徒を指導した後、
「反省したようだから、これで終わり」
とすることがあります。
しかし、強い指導を受けた生徒が、その後、どのような状態になるかは分かりません。
落ち込んでいる。
強い怒りを抱えている。
周囲から責められている。
教室へ戻りにくくなっている。
家庭で不安を話している。
指導後の様子を見る必要があります。
また、被害を受けた生徒についても、
「相手を指導したから解決した」
とは限りません。
教室で安心して過ごせているか。
再び接触が起きていないか。
周囲から何か言われていないか。
学習への影響がないか。
継続して確認します。
初期対応とは、最初の一回の指導だけを指すのではありません。
問題が再び起きない状態をつくり、関係する生徒が安心して学校生活を送れるようになるまでの出発点です。

謝らせることを急がない

生徒同士のトラブルが起きると、
「お互いに謝りなさい」
と早く終わらせたくなることがあります。
謝罪によって関係が回復する場合はあります。
しかし、事実関係が十分に確認できていない段階や、一方が強い恐怖を感じている段階で、対面の謝罪を求めることには注意が必要です。
形式的に、
「ごめんなさい」
と言わせても、行動が変わらないことがあります。
被害を受けた生徒が、
「自分も謝らなければならない」
と感じ、さらに傷つく場合もあります。
まず、
何が起きたのか。
どのような影響があったのか。
今後、何を止めなければならないのか。
安全をどう確保するのか。
を確認します。
その上で、本人の理解や被害を受けた生徒の意向を踏まえ、関係を修復する方法を考えます。
対面の謝罪だけが、修復ではありません。
距離を取る。
壊した物を弁償する。
同じ行動を繰り返さない計画を立てる。
必要な支援を受ける。
安心できる環境を整える。
具体的な行動によって責任を果たす方法もあります。

初期対応の基本となる七つの手順

全ての場面に同じ手順を機械的に当てはめることはできません。
緊急性や事案の性質によって、順番は変わります。
その上で、日常の生徒指導では、次の七つを基本として考えることができます。
一つ目は、
「安全を確保する」
ことです。
危険な行動を止め、負傷者や被害を受けた生徒を守ります。
二つ目は、
「その場を落ち着かせる」
ことです。
関係する生徒を離し、必要に応じて別の教師へ応援を求めます。
三つ目は、
「事実を確認する」
ことです。
見たこと、聞いたこと、本人の話、周囲の話を分けます。
四つ目は、
「組織へつなぐ」
ことです。
担任、学年主任、生徒指導主事、管理職など、必要な人へ早く共有します。
五つ目は、
「記録する」
ことです。
確認できた事実、対応、連絡内容、今後の確認事項を残します。
六つ目は、
「必要な指導と支援を行う」
ことです。
行動の問題点を具体的に伝え、背景に応じた支援を考えます。
七つ目は、
「その後を確認する」
ことです。
生徒の心身、教室での関係、再発の有無を継続して見ます。
この七つを一人で全て行う必要はありません。
むしろ、事案が大きいほど役割を分けます。

初期対応を個人技にしない

経験のある教師は、問題が起きたときに素早く動けることがあります。
生徒を落ち着かせる。
必要な人を呼ぶ。
保護者へ連絡する。
記録を残す。
その力は大切です。
しかし、
「あの先生なら対応できる」
と、特定の教師へ任せ続けてはいけません。
その教師が不在であれば、対応できなくなります。
若い教師が、いつまでも経験を積めません。
一人の教師へ負担と責任が集中します。
学校として、
授業中の事故が起きたとき。
生徒が暴れたとき。
いじめの情報を得たとき。
自傷のおそれがあるとき。
教師が教室を離れなければならないとき。
誰へ連絡し、誰が何をするのかを確認しておく必要があります。
年度当初の研修で扱う。
短い事例でシミュレーションする。
連絡先を見える場所に示す。
危機管理マニュアルを、実際に使える形にする。
問題が起きた後だけでなく、平時から準備します。
令和6年8月改訂のいじめ重大事態ガイドラインも、重大事態が起きた際に迅速かつ適切に対応できるよう、平時から全教職員が手順を理解し、校長のリーダーシップの下で役割分担を行う体制を整えることを求めています。

問題を小さい段階で扱える学校にする

問題が小さい段階で対応するためには、教師がよく見ていることが必要です。
しかし、それだけではありません。
生徒が、
「先生に言ってもよい」
と思えることが必要です。
困ったことを話しても、
「それくらい我慢しなさい」
と返されない。
自分にも悪いところがあったと決めつけられない。
すぐに大勢の前で話されない。
相談したことによって、状況がさらに悪くならない。
そのような信頼がなければ、生徒は問題が大きくなるまで話しません。
教師同士も同じです。
授業で困っていると相談できる。
対応に迷ったと言える。
自分の指導が十分でなかったと報告できる。
事故やトラブルを隠さず共有できる。
初期対応の力は、個人の厳しさではなく、学校の心理的安全性にも支えられています。

威圧ではなく、落ち着いた一貫性を

生徒指導では、ときに、明確に止めなければならない行動があります。
教師が曖昧な態度を取れば、被害を受ける生徒が増えることもあります。
だから、必要な指導から逃げてはいけません。
一方で、強く叱ることを、指導力だと考えすぎないことです。
問題を見つけたら、動く。
安全を守る。
事実を確かめる。
必要な人へつなぐ。
生徒の話を聴く。
行動の問題点を明確にする。
次の行動を一緒に考える。
その後も見守る。
これが、生徒指導の初期対応です。
教師が勝つことが目的ではありません。
生徒を言い負かすことでもありません。
問題となる行動を止め、傷ついた人を守り、同じことが繰り返されない状態をつくることです。
大きな声を出さなくても、必要なことは伝えられます。
すぐに結論を出さなくても、問題を放置せずに動くことはできます。
一人で解決できなくても、組織へつなぐことができます。
毅然とした態度とは、怖い教師になることではありません。
子どもの安全と尊厳を守るために、落ち着いて、必要な対応を続けることだと思います。

参考資料

文部科学省『生徒指導提要』令和4年12月
文部科学省「生徒指導提要(改訂版)」掲載ページ
文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」令和6年8月改訂版
文部科学省「いじめの問題に対する施策」
文部科学省「第3次学校安全の推進に関する計画」令和4年3月25日
文部科学省「学校における安全点検要領」の活用について・令和6年3月26日
文部科学省「学校事故対応に関する指針」の改訂について・令和6年3月26日

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