夏休みが終わり、2学期が始まります。
教師にとっては、「さあ、ここからまた頑張ろう」と気持ちを切り替える時期です。
しかし、すべての子どもが同じ気持ちで新学期を迎えているわけではありません。
学校へ行くことを楽しみにしている子もいます。
友達に会いたい子もいます。
一方で、
「学校が始まるのが怖い」
「教室に入りたくない」
「友達に会いたくない」
「勉強についていける気がしない」
「進路のことを考えると苦しい」
そう感じながら、始業式の日を迎える子もいます。
2学期当初に教師が最も大切にしたいのは、学校生活を一気に通常運転へ戻すことではありません。
分かり切っていることを書いてしまうのですが、一人一人の変化を見ること、これが肝となります。
不登校、いじめ、問題行動、心身の不調、自傷、自死。
それぞれは別の問題ですが、その手前にある小さなSOSを学校が受け止められるかどうかは、極めて重要です。
1.2学期当初は、子どもの自死が増える時期である
これは単なる印象ではありません。
文部科学省が2026年7月3日に発出した「児童生徒の自殺予防に係る取組について」では、2025年の小中高生の自殺者数が538人となり、統計開始以降で過去最多となったことが示されています。
さらに、2009年以降の児童生徒の自殺者数を日別に見ると、8月後半から増加し、特に長期休業明けの9月1日に多くなる傾向があります。
2024年、2025年については、いずれも9月の自殺者数がその年で最も多くなっています。
ここで大切なのは、「9月1日が危険な日」とだけ覚えることではありません。
北海道・東北地方では、夏休み明けが全国より早い傾向にあることに対応して、自殺者数が増える時期も約2週間早いことが文部科学省から示されています。
つまり、注意すべきなのは、9月1日という日付そのものではなく、「長期休業が終わり、学校生活へ戻る節目」です。
1974年から2014年までの日本の死亡統計を分析した研究でも、中学生・高校生の自殺は学校が始まる4月と9月付近で増加し、夏季休業中には低くなる傾向が示されています。特に中学生では、夏休み終了・2学期開始時の自殺リスクが7月の基準週と比較して2倍を超え、高校生でも夏休み終了時に約40%増加していました。
だからこそ、2学期当初は「通常の学校生活に戻す期間」であると同時に、子どもの命を守るために、いつも以上に丁寧に見る期間でもあります。
2.学校として2学期前後に確認しておきたいこと
文部科学省の2026年7月通知を踏まえると、学校では少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
・夏休み前から気になっていた児童生徒の状況を確認する
・始業前後にアンケートや教育相談を行う
・一人一台端末等を活用した心の健康観察も必要に応じて利用する
・結果を担任だけが抱えず、管理職や養護教諭等と共有する
・欠席、遅刻、早退、保健室利用などの変化を見る
・いじめに関する情報を改めて確認する
・不登校傾向の児童生徒への支援方針を確認する
・SC、SSW、養護教諭等につなぐルートを確認する
・SOSの出し方に関する教育を行う
・学校内外の相談窓口を子どもに再周知する
・自傷や自死をほのめかした場合の危機対応手順を確認する
相談窓口は、ポスターを貼って終わりではありません。
文部科学省は、子ども自身が一人一台端末などを実際に操作し、どこから、どのように相談できるかを確認しておく方法まで例示しています。
「相談できる場所があります」と知らせるだけではなく、実際に相談できる状態にしておくことが大切です。
3.2学期最初の授業で教師ができること
特別なプログラムだけが生徒指導ではありません。
毎日の授業そのものが予防的な生徒指導になります。
分かる。
参加できる。
質問できる。
失敗しても笑われない。
必要な支援を受けられる。
自分の考えを言える。
教師から名前を呼ばれる。
自分がここにいてよいと感じられる。
そうした小さな経験が積み重なって、学校への安心感につながります。
『生徒指導提要』では、不登校の未然防止において、学校を安全・安心な居場所にすることや、分かりやすい授業づくりが重視されています。
2学期最初の授業から、宿題、提出物、遅れ、忘れ物を一気に取り締まることよりも、
「またここで学べそうだ」
と思える教室をつくることを優先したいものです。
4.「問題行動」だけを見ない。その背景を見る
2学期が始まると、
遅刻が増える。
授業に入らない。
教師に反発する。
友達とトラブルになる。
提出物を出さなくなる。
授業中に寝る。
教室を飛び出す。
こうした行動が現れることがあります。
もちろん、他者を傷つける行為や危険な行為には、その場できちんと対応する必要があります。
しかし、行動を止めるだけでは十分ではありません。
大切なのは、
「なぜ、この行動が今出ているのか」
を見ることです。
夏休み中に何かがあったのかもしれません。
友人関係が変わったのかもしれません。
家庭で大きな出来事があったのかもしれません。
学習への不安が限界に近づいているのかもしれません。
本人自身にも、なぜ苦しいのか分からないことがあります。
問題行動を「指導すべき行動」とだけ捉えるのではなく、困りごとの表れである可能性も考えることが必要です。
5.教師が気付きたい「いつもと違う」
SOSは、必ず「助けてください」という言葉で出てくるわけではありません。
厚生労働省は、学校で気付き得る子どものSOSとして、次のような変化を挙げています。
・表情や態度が変わった
・授業に集中できなくなった
・仲間から孤立している
・友人とのトラブルが増えた
・遅刻、早退、欠席が増えた
・急に成績が低下した
・自傷や自殺について口にする
などです。
重要なのは、一つの項目に当てはまれば危険だと決めつけることではありません。
見るべきなのは、
「その子のいつもと比べてどうか」
です。
よく話していた子が話さなくなった。
いつも一緒だった友達と離れている。
給食をほとんど食べなくなった。
授業中ずっと伏せている。
以前なら笑っていた場面で笑わない。
急に保健室へ行く回数が増えた。
逆に、普段目立たなかった子が急に荒れ始めた。
こうした小さな変化を、一人の教師の印象だけで終わらせないことが重要です。
教科担任、担任、養護教諭、部活動顧問など、それぞれが見た事実をつなぐことで、その子の状態が見えてくることがあります。
6.「静かな子」を見落とさない
生徒指導というと、どうしても目立つ行動に目が向きます。
授業を妨害する子。
友達とけんかをする子。
教師に反発する子。
遅刻する子。
しかし、本当にしんどい子が、必ず目立つとは限りません。
授業を静かに受ける。
提出物も出す。
教師の指示にも従う。
周囲に迷惑をかけない。
それでも心の中では限界に近づいていることがあります。
「問題を起こしていないから大丈夫」ではありません。
文部科学省の自殺予防に関する議論でも、外見上は元気で活動的だった子どもが、周囲が原因を把握できないまま自殺行動に至る事例があり得ることから、ICTによる健康観察だけに頼らず、子どもの負担に気付く教師の力が重要だと指摘されています。
困っている子を探すだけではなく、一人一人を見る。
これが2学期当初には特に重要です。
7.始業式の日に学校全体で見る
2学期初日は、担任だけが子どもを見る日ではありません。
校門。
昇降口。
廊下。
教室。
保健室。
部活動。
さまざまな場所にいる教職員が子どもを見ることができます。
「あれ、少し元気がないな」
「一人でいるな」
「表情が違うな」
「今日はずいぶん遅かったな」
その小さな気付きを、
「気のせいかな」
で終わらせず、必要に応じて共有します。
ただし、
「〇〇は危ない子だ」
とレッテルを貼るのではありません。
「朝、声をかけたが返事がなかった」
「昼食をほとんど食べていなかった」
「休み時間を一人で過ごしていた」
というように、まず事実で共有することが大切です。
8.欠席した子を「来なかった」で終わらせない
2学期初日の欠席は、それだけで自死の危険を意味するものではありません。
一方で、長期休業明けは特に丁寧な確認が必要な時期です。
文部科学省は、長期休業前からアンケート、教育相談、一人一人との面談などを実施して悩みを早期に把握すること、さらに不登校やいじめ、悩みを抱えている児童生徒については長期休業中も継続的に様子を確認するよう求めています。
始業式の日に来なかった。
翌日も来なかった。
そのとき、
「不登校になった」
と早急に判断する必要はありません。
本人や保護者との関係性、これまでの経過、学校で決めた連絡体制などを踏まえながら、安全と状態を確認します。
そして、登校だけを迫るのではなく、
「今、どう過ごしているか」
「困っていることはないか」
「学校としてできることは何か」
を考えます。
9.学業・進路への不安も軽く見ない
2025年の児童生徒の自殺について、文部科学省は、警察統計上把握された「学校問題」に関する原因・動機のうち、約6割が学業不振、入試、進路に関する悩みだったとしています。
ここで注意したいのは、自死を一つの原因だけで説明しないことです。
自死の背景には複数の要因が重なっていることが多く、「勉強が原因だった」「家庭が原因だった」「いじめが原因だった」と単純に決められるものではありません。
それでも、2学期は受験や進路選択が具体化し、学習への不安が大きくなりやすい時期です。
「この成績では無理」
「もっと頑張らないと」
「このままでは高校に行けない」
教師にとって何気ない言葉でも、追い詰められている子どもには大きな負担になる場合があります。
進路指導は、危機感を持たせることではなく、
次の選択肢を一緒に考えられる状態をつくること
から始めたいものです。
10.不登校を「問題行動」と一緒に扱わない
最初に整理しておきたいことがあります。
不登校は問題行動ではありません。
学校へ行けない、あるいは学校へ行かない状態には、学習、人間関係、心身の不調、発達特性、家庭環境、生活リズム、学校との関係など、多様な背景があります。
『生徒指導提要』も、不登校支援について、「学校に登校する」という結果だけを目標とするのではなく、本人が自らの進路を主体的に捉え、社会的自立を目指すことを重視しています。
したがって、2学期初日に登校できなかった子どもに対して、
「明日は絶対来よう」
「休んだらもっと来にくくなる」
「みんな待っているよ」
と登校だけを目標にする必要はありません。
まず確認したいのは、
「今、この子はどういう状態なのか」
ということです。
登校できたかどうかだけではなく、本人の安全、心身の状態、学習、人間関係、家庭での様子、本人の希望などを丁寧に把握しながら支援を考えます。
『生徒指導提要』では、不登校への対応として、安全・安心な学校づくり、分かりやすい授業、SOSを出す力の育成、教職員が変化に気付きSOSを受け止める力、休み始めの段階でのアセスメント、SC・SSW・保護者との連携などを重層的に行うことが示されています。
11.「死にたい」「消えたい」と言われたら
子どもから、
「死にたい」
「消えたい」
「いなくなりたい」
と聞いたとき、教師一人で何とかしようとしてはいけません。
また、
「そんなこと言うな」
「命を大切にしなさい」
「もっと大変な人もいる」
「頑張れば何とかなる」
とすぐに励ましたり、説得したりすることも避けます。
まず、
「そこまでつらかったんだね」
「話してくれてよかった」
「あなたのことが心配です」
と、話を受け止めます。
厚生労働省も、自殺をほのめかされた場合には落ち着いて心配していることを伝え、話を真剣に聞いた上で、できるだけ早く保護者や心の専門家につなぐことを示しています。また、子どもには「誰にも言わない」と約束するのではなく、安全のために必要な人と共有することを伝える必要があります。
自傷行為についても、「気を引きたいだけ」などと軽く扱ってはいけません。厚生労働省は、自傷行為が強い苦痛への対処として行われることがあり、将来の自殺リスクとも関連することを示しています。
危険性が疑われる場合は、本人の安全確保を最優先し、速やかに管理職、養護教諭、生徒指導、教育相談、SC等につなぎ、学校の危機対応手順に従って対応します。
12.一教員で抱え込まない
自死の危険が疑われる子どもへの対応は、一人の教師の力量で解決する仕事ではありません。
文部科学省は、自殺への対応について、専門家であっても一人で抱えられないほど重く困難な問題であり、校内の教育相談体制を基盤として、SC、SSW、関係機関と連携しながら学校全体で取り組む必要があるとしています。
自殺をほのめかす、深刻な自傷があるなど重大な危険が疑われる場合には、校長をリーダーとする「校内連携型危機対応チーム」を組織し、危険度に応じて対応することも示されています。
担任ができる最も重要なことの一つは、
自分だけで解決しようとしないこと
です。
「私が何とかしなければ」
ではなく、
「学校として、この子を支える」
と考えます。
13.「学校に来させる」より、「学校を安心できる場所にする」
学校に行かないという選択を、単純に否定する必要はありません。
それでも教師にはできることがあります。
学校に行くという選択をする子どもが少しでも増えるように、
授業を分かりやすくする。
安心できる人間関係をつくる。
いじめを見逃さない。
失敗しても大丈夫な教室にする。
困ったときに相談できる大人になる。
別室、SC、教育支援センターなど、教室以外の選択肢も用意する。
そして、学校に来られないときにも、学びや人とのつながりを切らない。
それが、学校にできる予防的な生徒指導だと考えます。
2学期の始まりに必要なのは、子どもたちを一斉に同じ速度へ戻すことではありません。
一人一人の現在地を確かめることです。
いつもと違う。
少し気になる。
何となく引っかかる。
その教師の小さな気付きを、そこで終わらせず、誰かにつなぐ。
SOSを出す力と同じくらい、SOSを受け取る学校の力が問われています。
参考資料
・文部科学省「令和8年7月3日 児童生徒の自殺予防に係る取組について(通知)」
2025年の児童生徒の自殺者数、長期休業明けの傾向、学業・進路、いじめ、学校の早期発見体制などについてまとめられた、この記事で最も重要な一次資料です。
・文部科学省『生徒指導提要(改訂版)』
発達支持的生徒指導、課題予防的生徒指導、不登校、自殺、いじめ、チーム学校など、学校の生徒指導全体を理解するための基本資料です。
・文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について」
不登校支援を「登校するという結果のみ」を目標にしないこと、社会的自立を目指した組織的な支援の考え方が示されています。
・厚生労働省「学校だから気づける『いつもと違う』サイン」
教職員が学校生活の中で気付くことのできるSOSの具体例が整理されています。
・厚生労働省「教師だからできること」
子どもの異変に気付いたときの声のかけ方、自傷や自死をほのめかされた場合の対応、専門家へつなぐ考え方が示されています。
・厚生労働省「『自傷』というサイン」
自傷を軽く扱わず、その背景にある苦しさを理解するための資料です。
・厚生労働省「『消えてしまいたい』と考えるとき」
自死を考えている可能性がある場合に見られるサインについて整理されています。
・Matsubayashi T, Ueda M, Yoshikawa K. “School and seasonality in youth suicide: evidence from Japan”
日本の学校暦と若年層の自死の季節性との関連を分析した査読論文です。中学生・高校生では、学校が始まる4月・9月付近に自死が増える傾向が報告されています。
・同論文 PubMed掲載ページ
論文の書誌情報と要旨を確認できます。

