探究の授業を考えるとき、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という四つの言葉を思い浮かべる先生は多いでしょう。この枠組みは、何をすればよいか分かりにくかった探究の学習過程を具体化し、学校現場に共通理解を広げてきました。
しかし、四つの枠を順番に埋めることが授業の目的になってしまうと、子どもの問いや試行錯誤が置き去りになります。2026年9月25日に開催された中央教育審議会・教育課程企画特別部会の「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)」も、四つのプロセスを順に回すこと自体が探究と認識され、目的化している例があると指摘しました。
ただし、これは現時点では「審議まとめ(案)」であり、次期学習指導要領として告示されたものではありません。また、四つのプロセスを廃止するという話でもありません。示されている方向性は、この枠組みを固定的な手順書ではなく、学習者が自分の学びを調整しながらたどる典型的な姿として捉え直すことです。
この記事では、主要キーワードを「探究のプロセス 授業」とし、審議中の方向性と現行制度を区別しながら、初任から中堅の先生が明日の授業で変えられることを整理します。
1.四つのプロセスは今も大切な「地図」
現行の学習指導要領では、探究的な学習の過程として、課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現が示されています。たとえば、地域の防災について調べるなら、疑問を持ち、資料や聞き取りから情報を集め、比較して考え、提案として表現するという見通しを持てます。
この四つは、探究を単なる体験や発表会で終わらせないために有効です。「たくさん調べたが、何が分かったのか」「立派に発表したが、根拠は何か」という問題に気づく物差しにもなります。
一方、地図は歩く順番を一つに決めるものではありません。情報を集めた後に問いを立て直すこともあれば、試作品を作って初めて必要な情報に気づくこともあります。発表相手から質問を受け、もう一度分析へ戻ることもあります。四つのプロセスは、授業の全時間を四分割する工程表ではなく、今どのような学びが必要かを考える地図として使うと力を発揮します。
2.現時点で決まっていることと審議中のこと
2026年9月25日の第18回教育課程企画特別部会では、「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)」が配付されました。資料は、探究のプロセスにはさまざまなバリエーションが生じることを前提とし、プロセスをたどること自体の目的化は望ましくないとしています。また、研究系・行動系・創作系といった探究の形態によって、たどる過程が異なることを参考資料などで示す方向性を挙げています。
ここで重要なのは、まだ審議中だということです。「来年度から四つのプロセスがなくなる」「総合の授業方法が正式に変わった」と断定することはできません。現行の学習指導要領は引き続き有効です。
ただし、審議資料が指摘する課題は、正式決定を待たずに授業改善へ生かせます。四つの欄を埋めさせることより、子どもが何を知りたいのか、どこで考えが変わったのか、どの知識を使ったのかを見ることは、現行制度の趣旨にも沿う改善です。
3.問いは最初に完成させなくてよい
探究の導入で、教師が「よい問い」を完成させてから活動を始めさせようとすると、子どもは問いを教師に提出して許可をもらうだけになりがちです。しかし、実際の探究では、最初の問いは粗くて当然です。
審議まとめ(案)は、興味・関心や問題意識に基づく素朴な問いが、探究の過程で「解明したい問い」「解決したい課題」へと洗練されるイメージを示しています。「地域の祭りを調べたい」という出発点が、話を聞いたり資料を読んだりする中で、「若い世代が参加しやすい広報は何か」へ変わることがあります。この変化は計画不足ではなく、学びが深まった証拠です。
教師は、問いを代わりに作るのではなく、次のように問い返します。
- それは自分の生活や将来と、どのようにつながっていますか
- 誰にとって意味のある問いですか
- 今分かっていることと、まだ分からないことは何ですか
- 調べた結果、問いをどのように変えたいですか
問いを書き直した跡を残すだけでも、教師は子どもの思考の変化を見取りやすくなります。問いの変更を失敗扱いせず、「なぜ変えたか」を短く記録させることが、探究の質を高めます。
4.研究・行動・創作で学び方は変わる
審議まとめ(案)が示す研究系・行動系・創作系という整理は、すべての子どもに同じワークシートを使わせる授業を見直す手がかりになります。
研究系では、問いに対する根拠を集め、比較し、説明を組み立てます。たとえば「校庭の場所によって生き物の種類が違うのはなぜか」なら、観察条件をそろえ、データを整理し、別の説明の可能性も検討します。
行動系では、現実の課題に対して働きかけ、その反応から改善します。「図書館を利用する人を増やす」なら、利用実態を調べ、案を試し、結果を確かめ、次の行動へつなげます。最初から正解を当てることより、小さく試して修正することが重要です。
創作系では、思いやアイデアを作品や仕組みにします。「低学年に防災を伝える教材を作る」なら、相手の理解を想像し、試作品を見てもらい、伝わらなかった点を作り直します。作品を完成させるだけでなく、なぜその形にしたかを説明することが学びになります。
三つを厳密に分類する必要はありません。一つの探究の中で、調査し、行動し、作品を作ることもあります。大切なのは、学びの性質に応じて、必要な情報、試行錯誤の方法、成果の表し方を変えることです。
5.子どもに委ねることと放任は違う
探究では子どもの自己決定が重視されます。しかし、「好きなことを自由に調べてください」と伝え、教師が最後の発表まで待つだけでは、検索結果やAI要約の切り貼りに終わることがあります。審議まとめ(案)も、児童生徒に委ねればよいという認識が「活動あって学びなし」を招かないよう、教師の見取りや形成的評価、指導性を示す必要があるとしています。
教師の役割は、答えを教えることではなく、学びが止まりそうな場所に足場を置くことです。情報源の確かめ方、比較表の作り方、インタビューの準備、データの読み方、引用の仕方などを、必要な場面で短く教えます。教科で身につけた知識や見方を使えるように促すことも必要です。
探究は知識を軽視する学びではありません。審議まとめ(案)は、確かな知識の習得と質の高い探究的な学びを、相互に補完し合う往還的な関係として整理しています。分からないまま自由に活動させるのではなく、必要な知識を学び、それを使って問いを深め、さらに必要な知識へ戻る授業をつくります。
この往還は、個別最適な学びと協働的な学びの基本で扱った、一人で考える時間と他者と考える時間の組み合わせにもつながります。
6.成果より「課題・プロセス・成果」の三方向を見る
発表資料がきれいか、発表が上手かだけで探究を評価すると、家庭の支援やICT技能の差が評価へ入り込みやすくなります。審議まとめ(案)は、探究の質を、課題の質、プロセスの質、成果の質という三つの視点で整理する方向性を示しています。
- 課題の質:その問いは本人、他者、社会にどのような意味があるか
- プロセスの質:知識や方略を使い、学びを調整し、必要に応じて協働したか
- 成果の質:新しい理解、次の探究への意欲、他者や社会への価値につながったか
この三つを授業中の対話や短い振り返りに使えば、発表会の一回だけで判断せずに済みます。問いの変化、情報を選んだ理由、うまくいかなかった方法、他者の意見で修正した点を残させると、学習過程が見えます。学習評価の考え方は、次期学習指導要領で学習評価はどう変わるのかも参考になります。
7.まとめ・表現は最後の発表会だけではない
考えたことを、書く、話す、図にする、作るなどの形で外に出すと、自分でも曖昧だった点に気づけます。審議まとめ(案)は、レポート、プレゼン、作品制作など、探究の成果を「外化」する機会を設ける方向性を示しています。
外化は単元末だけに行う必要はありません。授業の途中で「今の仮説を一枚にする」「30秒で説明する」「試作品を隣の班に使ってもらう」といった小さな表現を入れると、次に集める情報が明確になります。表現して終わるのではなく、相手の反応から問いや方法を更新するところまでを学びにします。
端末は、情報検索だけでなく、記録、比較、共同編集、試作品づくり、外部との対話にも使えます。ただし、検索やAI利用そのものを探究にしないことが重要です。情報を吟味し、自分の課題解決にどう使うかを考える基盤については、情報活用能力は「PC操作」だけではないで整理しています。
8.明日の授業で変えられる五つのこと
- 四つのプロセスを一直線ではなく、行き来できる図として示す
- 問いを書き直したら、変更した理由を一行残させる
- 研究・行動・創作のどの要素が強い探究かを子どもと確認する
- 授業途中に短い「外化」を入れ、他者の反応から次の行動を決める
- 振り返りでは成果だけでなく、課題・プロセス・成果の三方向を尋ねる
学校全体で探究の時間を見直す際は、時間を増やすことから始める必要はありません。既存の単元で、どの知識を活用するのか、どこで問いを更新できるのか、どの相手に表現するのかを一つ明確にします。教育課程の柔軟化との関係は、調整授業時数制度の全国400校での検証もあわせて確認してください。
探究の四つのプロセスは、なくすべき型ではありません。子どもの学びを支える地図です。その地図に子どもを合わせるのではなく、子どもの問い、試行錯誤、学びの形に応じて地図を使い直すことが、これからの授業改善の要点です。
※2026年9月30日時点で、次期学習指導要領は告示されていません。本記事は、9月25日の教育課程企画特別部会に示された「審議まとめ(案)」を基に、現行制度で可能な授業改善を整理したものです。
参考資料
- 文部科学省「教育課程企画特別部会(第18回)配付資料」(2026年9月25日)
- 文部科学省「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)」
- 文部科学省「総合的な学習(探究)の時間」
- 文部科学省「学習指導要領『生きる力』」
最新の記事
性被害の打ち明けの対応の基本|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published文科省「調整授業時数制度」の全国400校での検証、現段階で分かっていること・まだ決まってないこと
Published管理職になったら家庭との両立はできるのか|受ける前に確認したいこと
PublishedOECD『Digital Education Outlook 2026』と生成AI時代のレポート課題|AI×教育と学校現場
Published Updated児童生徒の家庭事情を職員室の雑談にしない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published第22回 若手の「大丈夫です」の捉え方の基本
Published Updated
個別最適な学びと協働的な学びの基本
Published Updated
いじめ重大事態を視野に入れるときに最初に考えること|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published Updated
こども家庭庁が虐待死亡事例を検証|通告後の対応で大切なこと
Published
引き受けたい仕事に向き合う
Published Updated生成AIで作った教材をどう見直すか|AI×教育と学校現場
Published自傷のサインの受け止め方の基本|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published Updated
第21回 難しい保護者対応を若手一人に背負わせない
Published今からでも遅くない|次期学習指導要領で学習評価はどう変わるのか
Published13/50 校内の不審者を教員一人で確認しに行かない|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published
