「個別最適な学び」と聞くと、児童生徒が端末に向かって、それぞれ別々の課題を進める授業を思い浮かべるかもしれません。一方、「協働的な学び」と聞くと、毎時間グループ活動を入れなければならないようにも感じます。
しかし、この二つを別々の授業モデルとして選ぶ必要はありません。大切なのは、一人で考える時間と、他者の考えに触れて自分の考えを更新する時間を、学習の目的に応じて行き来できるようにすることです。
2026年8月31日の中央教育審議会・教育課程企画特別部会では、「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)」が示されました。ただし、これはあくまで審議中の素案です。次期学習指導要領として告示された内容ではありません。本記事では、現行制度で既に重視されている考え方と、素案で示された今後の方向性を分けながら、明日の授業でできることを考えます。
1.個別最適な学びと協働的な学びは二択ではない
文部科学省の現行の参考資料は、授業の中で「個別最適な学び」の成果を「協働的な学び」に生かし、そこで得たものを再び個の学びへ還元することが大切だと説明しています。つまり、「今日は個別」「明日は協働」と機械的に分けるより、同じ単元や一時間の中で往還をつくる発想です。
例えば、社会科で地域の防災を考えるなら、最初に各自が資料を読み、自分なりの課題を見つけます。次に、異なる資料を読んだ友達と考えを交換し、見落としていた視点に気づきます。最後に、自分の提案を修正します。この流れでは、個で考えることと協働することが互いを支えています。
グループ活動を入れただけでは、協働的な学びになりません。また、学習アプリを各自で進めただけでも、個別最適な学びが完成するわけではありません。どちらも、育てたい資質・能力や理解の深まりにつながっているかで判断する必要があります。
2.「個別最適」は一人きりにすることではない
2021年の中央教育審議会答申では、個別最適な学びを「指導の個別化」と「学習の個性化」に整理しています。
「指導の個別化」は、全員が一定の目標へ向かう中で、児童生徒の特性、進度、到達度に応じて、教材、方法、時間、支援の仕方を調整することです。ある子には具体物を用意し、別の子には補助問題を示し、既に理解している子には発展的な問いを渡す、といった工夫が当たります。
「学習の個性化」は、興味・関心や将来とのつながりを踏まえ、児童生徒自身が課題や学び方を選び、調整していくことです。調べる対象、使う資料、表現の方法などに選択肢を設けることが考えられます。
ここで注意したいのは、「自由に選ばせればよい」という話ではないことです。何を身に付けるのかという共通の目標が曖昧なまま選択肢だけを増やすと、活動は広がっても学びが深まらないことがあります。教師には、目標を明確にし、学習状況を見取り、必要なときに支援を届ける役割があります。
一人一人に別の教材を毎時間つくる必要もありません。「全員に共通する問いは一つ、そこへ向かう方法を二つ用意する」だけでも、個に応じる余地は生まれます。無理に完全個別化を目指さないことが、継続できる授業改善につながります。
3.「協働的」は話し合わせること自体が目的ではない
協働的な学びの価値は、自分だけでは得にくい見方や考え方に出会い、考えを確かめたり組み替えたりできることにあります。したがって、席を寄せて話させるだけでは十分ではありません。
「答えを確認しよう」だけでは、早く終わった子の説明を聞いて終わることがあります。「二つの考えの共通点と違いを探そう」「どの根拠が最も説得力を持つか決めよう」「相手の説明を受けて自分の案を一か所直そう」のように、対話の目的を具体化すると、学びの質が変わります。
発言が得意な子だけで進まない設計も必要です。話す前に短く書く、全員の考えを共有画面に並べる、役割を固定しすぎない、考えを変えてもよいと伝える。こうした小さな工夫が、集団の中で個が埋没することを防ぎます。
協働には心理的安全性も欠かせません。「間違いを笑わない」「反対するときは人ではなく考えに向き合う」「分からないと言ってよい」という約束がなければ、形式上は話し合っていても、本音や未完成の考えは出てきません。学級経営と授業づくりは切り離せないのです。
4.次期学習指導要領の審議では何が論点になっているか
8月31日の審議まとめ(素案)は、現場で「主体的・対話的で深い学び」と「個別最適な学びと協働的な学び」の関係が分かりにくいという声があることを整理しています。その上で、今後は類似した用語による混乱を避け、「個に応じた学習過程の充実」として発展的に整理する方向を示しています。
素案が特に戒めているのは、学習形態だけが強調され、深い学びにつながらないことです。孤立的な学びに陥ることと、集団の中で個が埋没することの両方を避け、一斉・グループ・個別を効果的に組み合わせる重要性が記されています。さらに、対話や協働の前提となる集団づくり、心理的安全性、思い込みに基づく指導を避けることにも触れています。
これは「一斉授業をやめる」「端末学習を増やす」という単純な変更ではありません。どの形態がよいかを先に決めるのではなく、何を理解させ、どんな力を働かせたいかから授業を考える方向です。
なお、これらは現時点で審議中の方向性です。学校独自の判断で新しい評価規準や履修ルールを先取りする段階ではありません。正式な答申や告示、解説を待ちながらも、現行学習指導要領の範囲で、個と協働の往還を丁寧につくることはできます。
5.一時間ではなく単元で往還を設計する
毎時間、個別学習とグループ活動の両方を盛り込むと、かえって慌ただしくなります。おすすめは、単元全体を「共有する問い」「個で取り組む」「他者とつなぐ」「自分の学びを更新する」の四つで捉えることです。
共有する問い
まず、全員が向かう問いや目標を共有します。学習方法が異なっても、最後に何を説明できればよいかを揃えます。黒板や学習支援システムに残し、途中で立ち返れるようにします。
個で取り組む
資料、取り組む順序、表現方法などに、小さな選択肢を設けます。ただし、選択に迷う子には教師が提案します。選ばせることと放任することは違います。
他者とつなぐ
全員一斉の話合いだけでなく、途中参照、ペアでの説明、共有ボードへの投稿などを使います。「違う視点を一つ持ち帰る」と目的を明確にすると、交流が自分の学びにつながります。
自分の学びを更新する
交流後に、最初の考えへ戻る時間を確保します。色を変えて追記する、根拠を一つ増やす、説明を短く書き直すなど、変化が見える形にします。協働で終わらず、再び個へ戻すことが重要です。
6.明日の授業で試す六つのこと
- 共通のゴールを一文で示す。「今日は何ができればよいか」を、児童生徒が言い換えられる長さにします。
- 選択肢を一つだけ増やす。紙か端末、文章か図、二つの資料のどちらから読むかなど、準備負担の小さい選択から始めます。
- 交流前に個人思考を置く。二、三分でも、自分の考えや疑問を持ってから対話へ進みます。
- 交流の仕事を具体化する。「話し合おう」ではなく、「違いを一つ見つける」「相手の根拠を要約する」と伝えます。
- 交流後に修正時間を置く。友達の考えを写すのではなく、自分の考えをどう変えたかを残します。
- 一人だけを見取って記録する。全員を細かく記録しようとせず、明日は気になる一人の選び方、つまずき、対話後の変化を短く残します。
これらを全部行う必要はありません。一つ選んで試し、児童生徒の反応を見て次の授業を調整します。授業改善もまた、一度で完成させるものではなく、教師が試し、見取り、修正する過程です。
つまずいている子に対しては、すぐに正解を教えるだけでなく、「どの資料を見直すか」「誰の考えを参考にするか」「図に置き換えるか」といった次の一手を示します。早く進んだ子には単に問題数を増やすのではなく、別の解き方を比べる、根拠を説明する、例外を探すなど、理解を深める問いを渡します。学ぶ速さの違いを、待つ子と急かされる子に分けないことも、個に応じた支援です。
7.端末を使うかどうかより学びが動いたかを見る
端末は、資料を選ぶ、進度を確かめる、考えを共有する、履歴を残すといった場面で有効です。しかし、端末を使ったこと自体は学びの成果ではありません。紙、具体物、対面の対話の方が目的に合う場面もあります。
授業後に確かめたいのは、「自分に合う方法を選べたか」「他者の考えで見方が増えたか」「最初より説明がよくなったか」です。活動の形ではなく、児童生徒の理解や考えの変化を見ます。
授業設計をさらに考える際は、情報活用能力は「PC操作」だけではない、次期学習指導要領で学習評価はどう変わるのか、文科省が「学びの可視化」実践を公開、初任者が最初の授業で大切にしたいことも参考になります。
8.まとめ
個別最適な学びと協働的な学びは、どちらか一方を選ぶものではありません。自分の問いや考えを持ち、他者との対話で広げ、もう一度自分の学びへ戻す。その往還をつくることが中心です。
次期学習指導要領の審議では、用語や学習形態を増やすことより、全ての子供の深い学びにつながるよう整理し直す方向が示されています。まだ素案の段階だからこそ、流行の形を先取りするのではなく、目標、選択、対話、更新という授業の基本を確かめたいところです。
明日の授業では、まず「交流後に自分の考えを一か所直す時間」を設けてみてください。それだけでも、個で学ぶことと協働することが一本の学習過程としてつながり始めます。
参考資料
- 文部科学省「教育課程部会 教育課程企画特別部会(第17回)配付資料」(2026年8月31日)
- 文部科学省「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)(1/4)」
- 文部科学省「『個別最適な学び』と『協働的な学び』の一体的な充実」
- 中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して(答申)」(2021年1月26日)
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