次期学習指導要領の議論で、学校現場への影響が大きい論点の一つが学習評価です。とりわけ、現在の三つの観点のうち「主体的に学習に取り組む態度」をどのように扱うか、学習途中の形成的評価をどう充実させるかが検討されています。
ただし、2026年9月16日現在、次期学習指導要領は告示されていません。8月31日の中央教育審議会・教育課程企画特別部会で示されたものも「審議まとめ(素案)」です。9月25日には次の会合が予定されており、今後の審議や答申、告示によって内容が変わる可能性があります。したがって、学校が現行の評価方法を今すぐ変更する段階ではありません。
それでも、議論の背景を知ることには意味があります。なぜなら、評価を「成績を付けるための材料集め」から「子どもの学習と教師の指導を改善する営み」へ戻すという方向は、現行制度の下でも明日から実践できるからです。
1.いま検討されていること
現行の観点別学習状況の評価は、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の三観点で行われています。各観点を目標に照らして評価し、評定へ総括する仕組みです。
一方、文部科学省の検討資料は、「主体的に学習に取り組む態度」について、目標と評価観点を整合的に理解して評価規準を設定することが、多くの教師にとって難しいという課題を挙げています。その結果、本来の学びに向かう力ではなく、提出期限を守った、ノートを丁寧に書いた、挙手したといった「形式的な勤勉さ」が強調される実態もあると整理しています。
現在の審議では、「知識・技能」と「思考・判断・表現」を目標準拠評価と評定の中心にし、「学びに向かう力・人間性等」は、数値で序列化するよりも、一人一人のよさや進歩を捉える個人内評価として扱う方向が検討されています。ただし、これは現時点の方向性であり、確定した制度ではありません。
大切なのは、「主体的な学びを重視しなくなる」という理解をしないことです。むしろ、提出物や見た目の積極性を点数化するのではなく、興味・関心、初めの問い、自己調整、他者との対話などを、教育課程全体で育て、本人の成長として見取ることが問われています。
2.評価材料を増やすほど評価がよくなるわけではない
初任者や若手教員は、「評価の根拠を残さなければ」と考え、毎時間ワークシートを回収し、発言回数を数え、ノートを点検し、振り返りへ点数を付けることがあります。責任感から生まれる行動ですが、材料が増え過ぎると、記録作業に時間を取られ、子どもの学びを見て次の指導を考える余裕がなくなります。
学習評価の目的は、証拠を大量に保管することではありません。単元の目標に照らして、何を、どの場面で、どの方法で見取るのかを決め、得られた情報を学習改善と指導改善へ生かすことです。
たとえば、考えを根拠とともに説明する力を見るなら、すべてのノートを毎時間採点する必要はありません。単元の途中で一度、考えを短く書かせ、つまずきを把握します。その後の対話や教材提示を調整し、単元末に改めて説明させます。途中の記述は形成的評価、単元末の成果は総括的な評価の材料になります。
「毎時間評価する」のではなく、「毎時間の学びを見ながら、必要な場面で評価する」と考えると、評価のための授業から、学びをよくするための評価へ近づきます。
3.形成的評価は小テストの回数を増やすことではない
形成的評価とは、学習の途中で状況を捉え、子どもの学習や教師の指導を調整するための評価です。点数を付けることだけではありません。
授業の最後に「今日分かったこと」「まだ曖昧なこと」を一行ずつ書かせる。選択肢で理解度を示させる。ペアで説明させ、言葉に詰まる箇所を見る。誤答をいくつか取り上げ、どこで考えが分かれたかを全体で検討する。こうした活動も、次の学びへつなげれば形成的評価になります。
反対に、振り返りを書かせても、教師が読まず、次の授業も変わらず、子ども本人も見返さないなら、評価活動が形骸化します。形成的評価で重要なのは、データを集めることではなく、その結果によって次の一手が変わることです。
「生徒の意欲を高めるフィードバックとは」で扱ったように、フィードバックは人格や才能への評価ではなく、目標と現在地、次に試す行動を具体的に伝えることで機能します。「よく頑張った」だけでなく、「根拠は示せています。次は反対意見への説明を加えよう」と返す方が、学習の調整につながります。
4.提出物と授業態度を学力の代わりにしない
提出物は、学習状況を知る材料になります。しかし、提出したこと自体と、学習目標を達成したことは同じではありません。期限を守る力は大切ですが、それを教科の資質・能力と混同すると、何を評価しているのかが曖昧になります。
また、挙手が多い、前を向いている、ノートがきれいといった外から見えやすい行動だけで主体性を判断すると、不公平が生じます。発言は少なくても深く考えている子、書くことに困難がある子、登校日数が少ない子、日本語の支援が必要な子などの学びを適切に捉えられないからです。
次期改訂の議論を待たず、現在でも「この課題で見たい力は何か」「提出の有無と内容を分けて考えられているか」を点検できます。評価規準を子どもにも分かる言葉で示し、どの成果物や発言から何を見取るのかをそろえることが必要です。
定期考査についても、点数を付けて返すだけで終わらせず、誤答の傾向から指導を修正します。「中学校の定期テスト『問題作成・採点・返却』のポイント」も、授業改善へつなぐ視点で参照してください。
5.次期改訂を待たずにできる単元設計
制度が確定していなくても、評価を単元設計へ組み込むことはできます。まず単元末に子どもが何をできるようになるかを、一文で置きます。次に、その姿が表れる課題を決めます。そして、単元途中のどこでつまずきを確認し、どんな支援を行うかを考えます。
この順序にすると、「授業をしてから評価材料を探す」のではなく、「目標、学習活動、評価がつながった授業」になります。すべての活動を評価対象にしないことも重要です。安心して試し、間違い、助言を受けて修正する練習場面まで評定の材料にすると、子どもは失敗を避けるようになります。
「初任者が最初の授業で大切にしたいこと」で述べたように、授業の目標と活動の関係を明確にすることが出発点です。端末やクラウドを使う場合も、記録を増やすことが目的ではありません。前回の記事「情報活用能力は『PC操作』だけではない」と同様、何の力を育てるために使うのかを先に考えます。
6.評価は一人で細かく決め過ぎない
評価の公平性を高めようとして、教師が一人で極端に細かな点数表を作ると、かえって判断が不安定になることがあります。四点と三点の違いを説明できない基準や、提出物ごとに異なる配点は、子どもにも保護者にも分かりにくく、教員の処理負担も増やします。
まず教科や学年で、単元の目標、中心となる評価課題、おおむね満足できる姿を共有します。実際の成果物を数点持ち寄り、「この記述のどこを評価するか」を話すと、文章だけの評価規準よりも認識をそろえやすくなります。すべてを完全に統一するのではなく、重要な判断基準をそろえることが目的です。
また、評価を細分化し過ぎると、子どもは点を取るための行動に集中します。途中で考えを変える、失敗を認める、他者の意見から学び直すといった過程が不利にならないよう、練習場面と総括する場面を分けます。試行錯誤できる時間を保障することも、評価設計の一部です。
保護者へ説明する際は、観点名だけでなく、「この単元では何ができるようになることを目指し、どの課題で確認したか」を伝えます。評価方法を説明できることは、評価材料を大量に残すこととは違います。目標と課題のつながりを明確にする方が、説明責任を果たしやすくなります。
7.明日の授業で変える五つのこと
①単元末の姿を一文で書く
「○○を覚える」だけでなく、「学んだ知識を使って、根拠とともに説明できる」のように、子どもの姿で書きます。
②今日の活動で見取るものを一つに絞る
知識、説明、対話、振り返りをすべて一度に評価しません。今日の授業で特に確認する学びを一つ決めます。
③授業途中に二分間の確認を入れる
一問だけ解かせる、一文で説明させる、理解度を選ばせるなど、短い確認を行います。その結果で、説明や課題の難易度を調整します。
④提出の有無と学習内容を分ける
期限や提出状況の記録と、教科の目標に照らした評価を混同していないか確認します。ノートの美しさを学力の代わりにしません。
⑤返却時に「次の一手」を一つ伝える
丸や点数だけでなく、何ができていて、次に何を直すかを短く返します。全員へ長文を書くのではなく、共通する課題は授業でまとめて扱います。
8.まだ変えてはいけないこと
審議資料を読んで、「主体的に学習に取り組む態度はもう評定に入れなくてよい」と判断してはいけません。現在の学校では、現行学習指導要領、評価通知、教育委員会や学校の評価規程に従う必要があります。
今できるのは、制度を先取りして勝手に成績処理を変えることではなく、形式的な勤勉さに偏っていないかを点検し、形成的評価を授業改善へ生かし、不要な評価材料集めを減らすことです。正式な答申・告示・通知が出た後に、学校全体で評価規程や運用を見直します。
9.まとめ
次期学習指導要領に向けて、学習評価は大きな論点になっています。現在示されているのは、あくまで審議中の方向性です。しかし、「評価は成績を付けるためだけではなく、学習と指導を改善するためにある」という原点は、今から実践できます。
評価材料を増やす前に、目標を明確にする。学習途中でつまずきを捉え、次の指導を変える。見た目の積極性や提出物の量を、学力の代わりにしない。制度の確定を待ちながらも、この三つは明日の授業で始められます。
参考資料
- 文部科学省「教育課程企画特別部会(第17回)配付資料」
- 文部科学省「総則・評価特別部会取りまとめ(案)※会議後修正」
- 文部科学省「学習評価の在り方について」
- 国立教育政策研究所「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料
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