次期学習指導要領の審議で、「知識及び技能に関する統合的な理解」と「思考力、判断力、表現力等の総合的な発揮」という言葉が繰り返し登場しています。初めて見ると、難しい専門用語が二つ増えたように感じるかもしれません。
しかし、この二つは本来、授業を複雑にするための言葉ではありません。「個々の知識を覚えた先に、何を分かってほしいのか」「身に付けた知識や考え方を、どんな課題で使ってほしいのか」を単元の中で明確にするための整理です。
2026年10月5日に教育課程部会が取りまとめた「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」は、今後の改善の方向性を示したものです。10月6日から11月5日までパブリックコメントが行われており、次期学習指導要領の正式な告示ではありません。用語や具体的な示し方が今後変わる可能性もあります。本記事では、その点を踏まえながら、初任から中堅の先生が明日の単元づくりに生かせる部分を整理します。
主要キーワードは「次期学習指導要領 統合的な理解」です。
1.「統合的な理解」は知識を減らす話ではない
「統合的な理解」とは、個別に学んだ知識や技能が互いに関連付けられ、別の場面でも使える形で理解されている状態を指す方向で検討されています。用語をたくさん知っているだけでも、一つの問題だけ解けるだけでもなく、「なぜそうなるのか」「別の事象とどうつながるのか」を説明できる理解です。
例えば中学校理科の天気の学習で、気圧、風向、湿度、前線、雲の変化を個別に覚えることは必要です。ただし、学習がそこで終わると、知識はばらばらのままです。それらを関連付けて、「大気の状態は相互に関係しながら変化し、その変化には一定の規則性がある」と理解できれば、初めて見た天気図や地域の観測データにも学びを生かせます。
つまり、統合的な理解は、基礎知識を軽視する考え方ではありません。個別の知識がなければ関連付けることはできません。一方、関連付ける学習がなければ、覚えた知識は使える理解になりにくい。この両方を往還させる考え方です。
2.「総合的な発揮」は活動量を増やす話ではない
「総合的な発揮」は、身に付けた複数の思考力、判断力、表現力等を、課題に応じて選び、組み合わせて働かせる姿です。話合い、発表、端末活用を増やせば達成されるという意味ではありません。
先ほどの天気の例なら、観測データを比較する、変化の傾向を見いだす、根拠を基に予測する、複数の可能性を検討する、相手に伝わる形で説明するといった力を組み合わせます。「明日の地域行事を予定どおり実施できるか」という課題に対し、データから天候を予測し、判断の根拠と不確実性を説明する場面が一例です。
大切なのは、複雑そうな課題を与えることではなく、その課題で、これまで学んだ何を使わせたいのかを教師が分かっていることです。活動が盛り上がっても、単元で育てたい資質・能力とつながっていなければ、総合的な発揮を促したとは言いにくくなります。
3.二つを分けず、単元の中で往還させる
統合的な理解と総合的な発揮は、左から右へ一度だけ進む階段ではありません。知識を学び、課題で使い、使った結果から知識の意味を捉え直す。その往還によって理解が深まります。
例えば、最初に地域の天候を予測する課題を示すと、児童生徒は何が分からないかに気付きます。そこで気圧や前線などの知識を学び、観測や実験、資料の分析を行います。再び課題に戻って予測を修正し、根拠を説明します。この過程で、知識の関連が見え、思考する方法も確かになります。
毎時間、完成度の高い課題解決をさせる必要はありません。一時間ごとに目新しい活動を入れる必要もありません。単元全体を見たとき、知識を身に付ける時間、関連付ける時間、使って確かめる時間がつながっていればよいのです。
4.「高次」という言葉を難しい子だけの学びにしない
審議の途中では、統合的な理解と総合的な発揮をまとめて「高次の資質・能力」と呼ぶ整理も行われてきました。一方、文部科学省の会議では、「高次」が単に高度で難しい能力、あるいは一部の学力上位層だけに求めるものと誤解される懸念も示されています。告示段階では別の表現にすることや、この呼称を使わない選択肢も審議されています。
したがって、現時点で「高次の問題を増やす」「できる子だけに発展課題を与える」と理解するのは適切ではありません。全ての児童生徒が、それぞれの学習状況に応じて、知識をつなぎ、使いながら理解を深めることが中心です。
支援が必要な児童生徒には、扱う資料を絞る、比較の観点を示す、考えを表す方法を選べるようにする、途中の考えを教師や仲間と確認するなど、学びへの入り口を整えます。目標を下げるのではなく、目標へ至る経路を柔軟にするという考え方が重要です。
5.明日の単元づくりで変える五つの問い
正式な学習指導要領を待たなくても、単元構想の問いは変えられます。指導案の様式を増やすのではなく、次の五つを短くメモするだけでも授業の焦点が明確になります。
- 単元後に、どんな関係や仕組みを説明できてほしいか
学習事項の一覧ではなく、個別の知識をつなぐ一文を考えます。 - その理解に必要な知識・技能は何か
関連付けるための土台を絞ります。重要事項を飛ばして活動へ進まないようにします。 - どんな課題なら、学んだことを選び直して使うか
一問一答の再生ではなく、根拠を選び、組み合わせる必要のある場面を考えます。 - 途中で何を見取り、どう支援するか
完成した答えだけでなく、関係付け方、根拠の選び方、考えの修正を見ます。 - 単元の最後に何を振り返らせるか
「楽しかった」だけでなく、「最初の考えが何によって変わったか」「別の場面で何が使えそうか」を問います。
この五つは、新しい授業技法の導入ではありません。既に行っている授業から、単元の核と、それを使う場面を見つけ直す作業です。
6.授業を「活動」から逆算しない
端末を使う、グループで話し合う、新聞にまとめるといった活動から単元を考え始めると、何を深く理解させたいのかが薄くなりがちです。活動は、統合的な理解や総合的な発揮を生むための手段です。
まず「この単元を通して分かってほしいこと」を一文で置きます。次に、児童生徒がその理解を使わなければ答えに近づけない課題を考えます。その後で、個人で考えるのか、対話するのか、実験するのか、端末を使うのかを選びます。
これは、個別最適な学びと協働的な学びを二択にしない考え方ともつながります。学習の目的に応じて、一斉、個別、協働を組み合わせます。
7.評価の観点を勝手に増やさない
「統合的な理解」「総合的な発揮」という言葉が示されたからといって、学校がすぐに新しい評定項目を設けるわけではありません。現行制度では、各教科の学習評価は「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の三観点が基本です。
次期学習指導要領に向けた学習評価の見直しは審議中です。統合的な理解や総合的な発揮を、毎時間の細かなチェック項目に分解したり、独自の観点として評定へ加えたりすることを先取りしてはいけません。
今できるのは、単元の途中で児童生徒の理解や考え方を見取り、次の指導に生かすことです。単元末には、知識の関連付けや、複数の情報を使った判断が表れる課題を用意します。評価制度の動向については、次期学習指導要領で学習評価はどう変わるのかも参照してください。
8.構造化・表形式化・デジタル化を目的にしない
審議まとめでは、学習指導要領を構造化し、表形式化し、デジタル化する方向性も示されています。これは、教師が目標や内容の関係をつかみやすくし、単元づくりに使いやすくするためのものです。表を埋める仕事やデジタル教材を増やすこと自体が目的ではありません。
デジタル化によって、学校段階を越えた学びのつながりや、関連する内容を参照しやすくなることが期待されています。ただし、具体的な仕様や運用は今後の検討です。「生成AIが自動で指導案を作る制度になる」などと決まったわけではありません。
全体の位置付けは、次期学習指導要領等に向けた審議まとめの7つのポイント、教育課程の「余白」との関係は、次期学習指導要領「余白」の捉え方で整理しています。
校内研修でも、すべての教科を一度に見直す必要はありません。同じ単元を担当する教員同士で、「この単元で残したい理解は何か」「最後の課題では何を組み合わせて使わせるか」を十五分話すだけでも、教材研究の焦点がそろいます。完成した様式を提出することより、授業後の児童生徒の姿を持ち寄り、単元の核と課題が適切だったかを確かめることが大切です。
9.今から始めるなら、単元の核を一文にする
次期学習指導要領の正式決定前に、年間指導計画や評価規準を全面改訂する必要はありません。まず一つの単元を選び、「個々の知識を学んだ先に、どんな関係や仕組みを理解してほしいか」を一文にしてください。
次に、その理解を使う課題を一つ置きます。そして、課題に向かうために必要な知識をいつ学び、どこで関連付け、いつ使って確かめるかを並べます。これだけでも、教科書の順番をこなす授業から、学びの深まりを設計する授業へ近づきます。
「統合的な理解」と「総合的な発揮」は、現場に新しい書類を増やす言葉ではなく、教師が単元の本質を見失わないための地図として使うべきです。正式な制度や用語は今後変わり得ますが、知識をつなぎ、使い、捉え直す授業は、明日から始められます。
参考資料
- 文部科学省「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」
- 文部科学省「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(第1・2部)」
- 文部科学省「審議まとめに関するパブリック・コメント」
- 文部科学省「総則・評価特別部会(第9回)配付資料」
- 文部科学省「教育課程企画特別部会(第14回)議事録」
※本記事は2026年10月14日時点の公表資料に基づいています。今後の中央教育審議会の審議、答申、学習指導要領の告示により、用語や制度の内容が変更される可能性があります。
最新の記事
管理職にならない選択をしたら、その後の教員人生をどう考えるか
Published
これからの管理職試験対策①|面接・論文で「教師としての経験」を「学校を動かす視点」に変える
Published生成AIと児童生徒の個人情報|AI×教育と学校現場
Published Updated
こまかな授業技術の基本①|「指示したのに動かない」を減らす、伝わる指示の出し方
Published児童生徒の性的な画像が広がったときの対応の基本
Published復職した教職員の対応の基本
Published
校長最初の2年間でやっておくこと①|着任100日で「変えないこと」と「変えること」を見極める
Published文科省・虐待対応の手引き(令和8年5月改訂版)より|虐待が疑われるときの担任の対応の基本
Publishedこども家庭庁が学校外のいじめ相談体制を整理|教員が明日確認したいこと
Published管理職試験を勧められたら、返事の前に聞いておきたい7つのこと
Published2026年10月1日、カスハラ対策が義務化|学校・教師・管理職は何を変えるべきか
Published生成AIを使うほど学力は下がるのか|AI×教育と学校現場
Published教員の性暴力が疑われるときの対応の基本|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと
Published第24回 欠員問題と学校運営と働き方のバランス
Published Updated今からでも遅くない|次期学習指導要領「余白」の捉え方
Published
