国立教育政策研究所が「発達支持的生徒指導」の取組事例集を公表|明日の授業を見直す4つの視点

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「生徒指導」という言葉から、問題行動への対応や、規則を守らせる指導を思い浮かべる先生は少なくありません。しかし、生徒指導は、問題が起きた児童生徒だけに行うものではありません。毎日の授業で、全ての児童生徒が安心して学び、自分で考え、他者と関わりながら成長できるように支えることも、生徒指導の重要な役割です。

国立教育政策研究所は2026年10月21日、第1期「こどもの発達を支える生徒指導に関する調査研究事業」の取組事例集を公表しました。全国11地域の教育委員会と学校が、2023年度から2025年度まで取り組んだ実践をまとめたものです。

これは新しい法令や、全ての学校に一律の取組を求める通知ではありません。『生徒指導提要』に示された「発達支持的生徒指導」を、学校現場でどのように具体化できるかを示した実践資料です。初任者から中堅まで、明日の授業を見直す手掛かりとして読む価値があります。

1.公表された事例集が示すこと

今回の事例集は、9中学校区と2校の高等学校における実践を、解説編と実践編に分けて紹介しています。中心にあるのは、問題が起きてから対応するだけではなく、全ての児童生徒を対象に、日常の教育活動を通して成長と発達を支えるという考え方です。

事例集では、日常的なあいさつや声かけ、励まし、承認、対話、授業や行事における個と集団への働きかけが挙げられています。ただし、単に「たくさん褒めればよい」「明るく声をかければよい」という話ではありません。児童生徒が自分で考え、選び、他者と関係をつくる過程を、教師が意識的に支えることが大切です。

もう一つの特徴は、学習指導と生徒指導を別々に扱っていないことです。学校生活の中で長い時間を占める授業を、誰もが安心して参加できる場にすることが、生徒指導上の課題の未然防止にもつながると整理されています。

2.発達支持的生徒指導は「問題のない子」にも必要

発達支持的生徒指導は、特定の課題を抱えた児童生徒だけを対象にするものではありません。今は目立った困りごとがない児童生徒も含め、全員が対象です。

教室では、発言できる児童生徒や、課題を早く終えた児童生徒に教師の注意が向きやすくなります。一方で、分からなくても黙っている子、集団の中で役割を得にくい子、間違いを恐れて参加を控える子は、見落とされやすくなります。問題行動がないことと、安心して学べていることは同じではありません。

だからこそ、教師は「指示に従っているか」だけでなく、「自分の考えを表せているか」「誰かに認められる場面があるか」「困ったときに助けを求められるか」を見ます。こうした視点を日常の授業に組み込むことが、発達支持的生徒指導の第一歩です。

生徒指導の基本的な考え方を確認したい方は、生徒指導提要(改訂版)との向き合い方も参考にしてください。

3.明日の授業を見直す4つの視点

事例集は、『生徒指導提要』に基づき、生徒指導の実践上の視点を四つに整理しています。特別な授業を新たにつくる前に、普段の授業をこの四つで点検できます。

自己存在感を感じられるか

児童生徒が「自分もこの学級の大切な一員だ」と感じられる授業になっているかを見ます。全員に同じ回数発言させることだけが答えではありません。考えを書いた付箋を取り上げる、途中までの工夫を認める、係や小さな役割を用意するなど、参加の仕方を複数つくることが有効です。

教師の承認は、結果だけでなく、行動や工夫に向けます。「正解です」だけで終わらず、「前の意見と結び付けて考えたね」「根拠を確かめようとしたね」と具体的に返すことで、学びへの参加を認められたと感じやすくなります。詳しくは、生徒の意欲を高めるフィードバックとはでも整理しています。

共感的な人間関係が育つか

話合い活動を入れただけでは、共感的な関係は育ちません。発言力の強い児童生徒だけで進んでいないか、異なる意見を笑ったり否定したりしていないか、教師が注意して見取る必要があります。

例えば、「反対意見を言う前に、相手の考えで理解できた点を一つ伝える」「分からないときは質問してよい」といった対話の約束を共有します。教師自身が、児童生徒の言葉を最後まで聴き、すぐに評価せず、「そう考えた理由をもう少し教えて」と応じることも大切です。

対話の具体的な方法は、生徒との対話の基本30にもまとめています。

自己決定の場があるか

教師の説明を聞き、指示された方法で課題を終えるだけでは、児童生徒が自分で決める機会は限られます。全てを自由にする必要はありません。調べる順序、使う資料、表現方法、話し合う相手など、授業の目標を損なわない範囲で選択肢を設けます。

大切なのは、選ばせた後に「なぜそれを選んだのか」「やってみてどうだったか」を振り返らせることです。選択と振り返りが結び付くと、自己決定は単なる好みの選択ではなく、自分の学びを調整する経験になります。

安全・安心な風土があるか

「間違えても大丈夫」と教師が言っていても、間違いを急いで訂正したり、できない子を比較したりすれば、児童生徒は安心して挑戦できません。「分からない」「助けてほしい」と言えることを、授業の大切な力として扱う必要があります。

教師は、発言への反応だけでなく、教室の座席、移動のしやすさ、教材の見え方、グループ編成も点検します。安心は気持ちの問題だけではなく、学びやすい環境によっても支えられます。学校環境と生徒指導も併せて確認してください。

4.「居場所づくり」と「絆づくり」を混同しない

事例集では、「居場所づくり」と「絆づくり」を分けて捉えています。居場所づくりは、教師が中心となって、児童生徒が安心でき、自己存在感や充実感を得られる環境を整えることです。一方、絆づくりは、児童生徒が主体的な活動を通して、互いの関係をつくっていくための場や機会を教師が準備することです。

教師が仲のよい集団を直接つくることはできません。しかし、安心して関われるルールを整え、協力が必要な課題を用意し、関わりを振り返る機会をつくることはできます。

行事で盛り上がったから絆ができたと決めつけるのではなく、参加しにくかった児童生徒はいなかったか、役割が固定されていなかったか、誰の意見が反映されたかを見直します。活動の外側にいた子の声を聴くことが、次の改善につながります。

5.アンケートは集めることより改善に使う

今回の事業では、「学校が楽しい」「みんなで何かをするのは楽しい」「授業に主体的に取り組んでいる」「授業がよく分かる」といった児童生徒の意識を、取組の点検に用いています。また、長期休業前に調査し、休業中に見直し、休業後に改善する「PDCA×3」という考え方も示されています。

ただし、数値だけで学級や教師を順位付けするものではありません。結果を見て、「どの授業場面で参加しにくさがあるのか」「どの児童生徒の声をまだ聴けていないのか」と問い直すための資料です。自由記述や日常の観察、個別の対話と組み合わせて読み取る必要があります。

担任一人で結果を抱えず、学年や教科の教員と共有し、変えることを一つに絞ります。「ペア活動の前に一人で考える時間を取る」「授業の最後に質問を書けるようにする」など、小さく具体的な改善から始めます。

6.明日、一つだけ変えるなら

新しい取組を一度に増やす必要はありません。明日の授業では、終了前の一分間に、児童生徒へ次の二つを尋ねてみてください。

  • 今日、自分の考えや工夫を生かせた場面はあったか
  • 今日、分からないことや困ったことを安心して表せたか

挙手ではなく、紙や端末で全員が短く答えられる方法にします。回答を読んだら、次の授業で変えることを一つ決めます。教師が「皆さんの意見を受けて、今日は考える時間を先に取ります」と伝えれば、児童生徒は自分の声が授業改善につながったことを実感できます。

発達支持的生徒指導は、大きな行事や特別なプログラムだけで進めるものではありません。日常の声かけ、授業の選択肢、話を聴く姿勢、助けを求められる環境を、意識的に整えていく取組です。まずは一つの授業を四つの視点で見直すところから始めてみてください。

7.授業を四つの視点で観察する方法

四つの視点を学校全体で生かすには、研究授業だけでなく、普段の授業を短時間で見合う仕組みが役立ちます。授業者の話し方や板書の上手さを評価するのではなく、児童生徒の姿を事実として観察します。

  • 自己存在感:発言以外にも、考えを書く、選ぶ、役割を担う機会があったか
  • 共感的な人間関係:異なる考えが否定されず、聞き返したりつないだりする姿があったか
  • 自己決定:児童生徒が方法や表現を選び、その理由を振り返る場面があったか
  • 安全・安心:間違い、質問、援助要請が受け止められ、からかいや排除がなかったか

観察後は、「できていた・できていなかった」と教師を採点するのではなく、「どの場面で、どの児童生徒に、どのような姿が見られたか」を共有します。例えば、「話合いでは三人が進行し、二人は一度も発言しなかった」「個人思考の後は、全員が何らかの考えを持って交流に入れた」と事実で伝えます。

その上で、次の授業で試す改善を一つ決めます。グループ人数を変える、発言前に書く時間を取る、質問を匿名でも出せるようにするなど、具体的な手立てにします。一度で完成を求めず、児童生徒の反応を見て修正を続けることが重要です。

8.組織として進めるときの注意点

発達支持的生徒指導を「担任の人柄」や「声かけのセンス」に任せると、取組は続きません。学年や学校で四つの視点を共通言語にし、困った場面やうまくいった工夫を共有します。一方で、全員に同じ言葉や同じ授業形式を強制する必要はありません。教科、学年、児童生徒の実態に応じて方法は変わります。

また、発達支持的生徒指導を進めれば、いじめや不登校などの個別対応が不要になるわけではありません。未然防止の取組と、早期発見、困難課題への組織的対応は並行して行います。気になる変化があれば、日常の声かけだけで済ませず、記録し、管理職や養護教諭、教育相談担当者などと共有してください。

大切なのは、教師個人の善意を増やすことではなく、児童生徒の声と姿を基に授業や学校の仕組みを見直すことです。四つの視点が、授業改善と生徒指導をつなぐ共通の物差しになります。

参考資料

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