4月。
担任や授業の準備だけでも大変な時期に、
「今年度は○○係をお願いします」
「この校務分掌を担当してください」
と言われます。
初めて担当する仕事であれば、
「何をすればいいのだろう」
「いつまでに何をするのだろう」
「去年はどうしていたのだろう」
と不安になることもあります。
しかし、校務分掌の仕事は、最初に1年間の全体像をつかんでおくだけで、かなり進めやすくなります。
反対に、目の前に来た仕事だけを一つずつ処理していると、締切直前になって慌てることになります。
初めて校務分掌を担当するときに大切なのは、
いきなり仕事を始めないことです。
まず、
「何のための仕事か」「1年間で何をするのか」「いつ動くのか」「誰と進めるのか」
を確認します。
この記事では、初めて校務分掌を担当する先生が、4月にしておきたいことから年度末の引継ぎまでを順番に整理します。
1.最初に「この校務分掌は何のためにあるのか」を考える
最初に確認したいのは、仕事内容ではありません。
目的です。
例えば、
「安全担当だから避難訓練をする」
「研修担当だから研修会を開く」
「ICT担当だから端末の管理をする」
だけでは、作業の説明にとどまります。
その仕事は、何のために行っているのでしょうか。
安全担当であれば、
「子どもと教職員の安全を守り、緊急時に適切に行動できる学校をつくる」
ことかもしれません。
研修担当であれば、
「教職員の学びを、子どもの学びにつなげる」
ことが目的かもしれません。
ICT担当なら、
「ICTを管理すること」ではなく、
「ICTを授業や校務で安全かつ有効に使える状態にする」
ことが目的でしょう。
目的が分かれば、
「これは必要だ」
「これは毎年しているが、本当に必要なのだろうか」
を考えられるようになります。
前年度と同じことを繰り返すことが、校務分掌の目的ではありません。
2.前年度の資料を、まず全部見る
次に、前年度の資料を確認します。
ここで大切なのは、一つ一つ細かく読み込むことではありません。
まず1年間分をざっと見ます。
確認するのは、
・年間計画
・職員会議等への提案資料
・保護者への文書
・生徒への説明資料
・実施要項
・アンケート
・名簿
・年度末の反省
などです。
紙のファイルだけでなく、校内共有フォルダや校務支援システムに保存されているデータも確認します。
この段階では、
「何月に、どんな仕事が発生するのか」
をつかめれば十分です。
前年度資料は、答えではありません。
しかし、初めて担当するときの非常に重要な地図になります。
3.1年間の仕事を一枚にする
前年度資料を確認したら、年間の仕事を一覧にします。
例えば、
4月 年間計画の確認・職員への説明
5月 ○○の募集
6月 ○○委員会
7月 1学期の振り返り
9月 ○○の実施準備
10月 ○○実施
1月 次年度に向けた検討
2月 反省
3月 引継ぎ資料作成
という具合です。
きれいな資料を作る必要はありません。
自分が分かれば十分です。
そして、それぞれの仕事について、
①準備を始める日
②提案する日
③実施する日
④締切
を記入します。
特に重要なのは「準備を始める日」です。
仕事は締切日に発生するのではありません。
例えば5月20日の職員会議で提案する資料なら、
5月20日が予定ではなく、
「5月8日 原案作成」
「5月12日 関係者確認」
「5月15日 管理職確認」
「5月20日 提案」
まで予定にします。
これだけで、締切直前の仕事はかなり減ります。
4.前任者に聞くのは「やること」だけではない
前年度の担当者がいるなら、早い段階で話を聞きます。
ただし、
「何をすればいいですか」
だけではもったいありません。
聞きたいのは、例えば次のようなことです。
・年間で一番大変だった仕事は何か
・早めに準備した方がよいものは何か
・例年トラブルになりやすいことは何か
・関係する先生や外部機関はどこか
・管理職への確認が必要なのはどこか
・去年やめた仕事は何か
・今年も本当に必要か検討した方がよい仕事は何か
特に重要なのは、
「毎年しているけれど、なくしても困らない仕事はありますか」
と聞いてみることです。
校務分掌には、理由が分からないまま何年も続いている仕事が残っていることがあります。
引継ぎとは、前年の仕事を全部コピーすることではありません。
必要なものを引き継ぎ、不要なものを見直す機会でもあります。
5.「昨年と同じ」を出発点にしてよい
初めて担当すると、
「自分なりの新しいことをしなければ」
と思う人がいます。
その必要はありません。
特に初年度は、
前年度の仕組みを理解することを優先してよい
と思います。
まず昨年度の資料を土台にする。
その上で、
「この部分は分かりにくい」
「この作業は重複している」
「このアンケートは使われていない」
「この会議は別の会議とまとめられそうだ」
と気づいたところだけ改善します。
変えること自体に価値があるわけではありません。
逆に、
「去年と同じだから」
という理由だけで続ける必要もありません。
判断の基準は、
子どもや学校にとって必要か、仕事量に見合う意味があるか
です。
6.4月に少し先まで準備する
校務分掌は、4月に少し先まで仕事を進めておくと楽になります。
4月は忙しい時期ですが、年間計画が見えた段階で、
・5月に使う文書のひな形
・年間を通して使う名簿
・アンケート
・年間予定
・会議資料の基本フォーマット
など、作れるものは準備しておきます。
目的は「仕事が早い人に見せる」ことではありません。
未来の自分の時間をつくるためです。
学校の仕事には、突然の生徒対応、保護者対応、欠席者への対応など、予定できない仕事があります。
予定できる仕事を早めに終えておけば、予定できない仕事が起きたときに余裕ができます。
「前倒し」は、仕事を増やす方法ではありません。
余白をつくる方法です。
7.一人で完成させてから見せない
初めての仕事ほど、
「きちんと完成させてから見てもらおう」
と思いがちです。
しかし、これは逆です。
方向が違っていた場合、作り直すことになります。
例えば資料なら、
タイトル
目的
実施日
対象
大まかな流れ
だけを書いた段階で、
「この方向で考えていますが、大丈夫でしょうか」
と確認します。
特に、
・校長や教頭の判断が必要なもの
・全教職員が関わるもの
・保護者へ通知するもの
・外部機関と調整するもの
・予算を使うもの
・児童生徒の個人情報を扱うもの
については、早めの確認が大切です。
完成度20%で方向を確認し、80%で最終確認する。
くらいの感覚でよいと思います。
8.会議資料は「読めば分かる」を目指す
校務分掌を担当すると、職員会議や分掌会議などで提案する機会が出てきます。
資料づくりで大切なのは、豪華な資料を作ることではありません。
読んだ人が、
「私は何をすればよいのか」
を理解できることです。
最低限、
・目的
・日時
・対象
・誰が何をするか
・締切
・昨年度から変わった点
が分かれば、かなり伝わりやすくなります。
会議で長く説明しなければ理解できない資料は、もう一度整理した方がよいかもしれません。
また、資料を作った後は、
「この説明、本当に必要だろうか」
と削ってみます。
情報を追加することより、不要な情報を減らすことの方が、分かりやすさにつながることがあります。
9.「自分の仕事」にしすぎない
校務分掌を担当すると、
「これは自分の仕事だ」
と抱え込んでしまうことがあります。
しかし、校務分掌は学校の仕事です。
担当者は、その仕事を中心になって進める人であって、すべてを一人でする人ではありません。
分からなければ聞く。
判断できなければ相談する。
他の分掌に関係するなら連携する。
必要なら管理職に判断を求める。
複数の先生が関わる仕事であれば、情報を共有します。
文部科学省も、学校における働き方改革を、教師個人の努力だけではなく、業務の適正化や学校組織全体の見直しとして進めています。
「自分が頑張れば何とかなる」
を続けると、その人が異動した瞬間に仕事が分からなくなります。
担当者が替わっても回る仕事にしておく。
これも校務分掌を担当する大切な視点です。
10.忙しくなったら「速くする」より「減らせないか」を考える
仕事が増えると、
「もっと速く処理しなければ」
と考えます。
しかし、どれだけ速く仕事をしても、仕事そのものが増え続ければ限界があります。
そこで、
やめられないか
減らせないか
まとめられないか
誰かと分担できないか
デジタル化できないか
を考えます。
文部科学省は、学校の働き方改革について、教師が自らの授業を磨き、人間性や創造性を高めながら子どもへの教育活動を行えるよう、従来の働き方を見直すことを目的としています。
また、現在の国の指針でも、単に時間外勤務の上限を守らせるだけではなく、在校等時間そのものの長時間化を防ぐ取組を管理職・教育委員会が進めることが求められています。
教師の仕事についても、「子供のためなら長時間勤務でもよい」という考え方では、教師が疲弊し、結果として子どものためにもならないことが中央教育審議会で明確に指摘されています。
校務分掌でも同じです。
去年10時間かかった仕事を今年8時間でするだけではなく、
そもそも、この仕事を8時間かけてする必要があるのか
を考えてみてください。
11.年度途中に一度、小さく見直す
年度末までそのまま進める必要はありません。
1学期末や大きな行事が終わった段階で、
「次はここを変えよう」
とメモしておきます。
例えば、
「案内を2週間早く出す」
「アンケート項目を半分にする」
「紙ではなく共有フォームにする」
「担当者を2人にする」
「この会議はなくてもよい」
「この資料は1枚にまとめる」
などです。
年度末になって1年間を振り返ろうとしても、4月や5月の細かな問題は忘れています。
気づいた瞬間に一言残しておく。
これだけで、翌年度への引継ぎの質が大きく変わります。
12.最後の仕事は「次の人を楽にすること」
校務分掌の仕事は、行事や取組が終わったら終了ではありません。
最後に、
次年度の担当者が困らない状態にする
ところまでが仕事です。
年度末には、
・年間の仕事内容
・いつ何を始めたか
・必要なデータの保存場所
・関係者、外部機関
・注意した方がよいこと
・今年変更したこと
・来年度見直した方がよいこと
を簡潔に残します。
立派な引継ぎ冊子を作る必要はありません。
「このファイルを開けば1年間が分かる」
状態になっていれば十分です。
そして、不要になった古いデータや重複資料も、学校の情報管理ルールに従い整理します。
引継ぎで大切なのは情報量ではなく、
次の人が迷わず仕事を始められることです。
13.初めてだからこそ、見えることがある
初めて校務分掌を担当すると、分からないことがたくさんあります。
しかし、
「初めてだから分からない」
ことは弱点だけではありません。
初めて見たからこそ、
「なぜ、この作業が必要なのだろう」
「なぜ同じ情報を二回入力するのだろう」
「この資料は誰が使っているのだろう」
と疑問を持つことができます。
長く続けていると、
「毎年こうしているから」
で見えなくなることがあります。
最初の1年間は、
前年度を尊重しながら、疑問は残しておく。
そして、目的を理解してから、小さく改善する。
それくらいで十分です。
14.校務分掌より大切な仕事を忘れない
教師の仕事には限りがありません。
資料をきれいにすることもできます。
行事をもっと豪華にすることもできます。
会議を増やすこともできます。
新しい企画を始めることもできます。
しかし、教師の時間も有限です。
授業を考える時間。
子どもの話を聞く時間。
同僚と相談する時間。
自分自身が休む時間。
それらも必要です。
教師の長時間労働については長年研究・政策の双方で課題とされており、教師の多忙は単なる労働時間だけでなく、仕事の範囲や役割分担など複数の要因を含む問題として論じられています。
だからこそ、校務分掌では、
「どこまで丁寧にするか」だけでなく、「どこまでで十分か」
を考えることが必要です。
初めて担当する校務分掌で、最初から完璧を目指す必要はありません。
まず1年間の地図をつくる。
前年度の資料を読む。
前任者に聞く。
早めに予定を入れる。
一人で抱えない。
必要なものは残し、必要のないものは見直す。
そして、次の担当者が少し楽になる形で仕事を渡す。
校務分掌の仕事ができる人とは、たくさん仕事をする人ではありません。
必要な仕事を見極め、周囲とつながりながら、学校の仕事を持続可能な形で進められる人
なのだと思います。
参考資料
・文部科学省「学校における働き方改革について」
・文部科学省「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」
・中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」関係資料
・油布佐和子「教師の多忙化―教育〈労働〉の視点から―」日本教育行政学会年報
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